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【推しマンガ】新時代を拓いた規格外の少女――山岸凉子が挑んだジャンヌ・ダルク伝

「オルレアンの乙女」と呼ばれる、フランスの国民的ヒロイン、ジャンヌ・ダルクをご存じでしょうか――。

ジャンヌ・ダルクが生きたのは、イギリスとフランスによる百年戦争(1337~1453年)の末期。ジャンヌは、祖国フランスのため果敢にイギリスと戦いますが、コンピエーニュの戦闘で囚われの身となり、異端審問の末に火あぶりに処せられています。

『レベレーション(啓示)』は、19歳の若さで命を散らしたジャンヌ・ダルクの、短くも数奇な人生を描いた作品です。作者は、『日出処の天子』でセンセーショナルな歴史ロマンを手掛けた山岸凉子。フランス救国の少女を動かした天啓とは何なのか――独自の視点で、謎多きジャンヌ・ダルクの人生に切り込んでいます。

レベレーション(啓示) 1巻
レベレーション(啓示) 山岸凉子

ラ・ピュセル(乙女)ジャンヌの誕生

1431年5月30日、ルーアンの広場で一人の少女が火刑に処されようとしていました。人々は、心無い言葉で彼女をさげすみます。「見ろ! あれがフランスの魔女ジャンヌだ!」と。彼女はひたすら奇蹟を祈りますが、神は何も答えてはくれません。これまで神から受けた啓示とは何だったのでしょうか。ジャンヌの脳裏に、これまでの記憶が蘇ります――。

ジャンヌ・ダルクは、フランス・ロレーヌ地方の農村ドンレミで育ちました。幼いころはジャネットと呼ばれ、家の畑仕事や羊の世話を手伝っていましたが、あるとき不思議な光を浴びたことを契機に、神秘的な体験を繰り返すようになります。

当時のフランスは、敵対するイギリスに領土の半分近くを占領されていました。さらに、英国王の血を引くヘンリー6世を担ぐ、親英国のブルゴーニュ派が台頭。王太子シャルルを推すアルマニャック派と、フランスの王位継承権をめぐって内乱状態となっていました。

ジャンヌの神秘体験は、徐々に鮮明なものとなっていきます。ある日、フランスの守護天使ミカエルから、「ラ・ピュセル(乙女)」と呼ばれたジャンヌ・ダルク。「フランスへ行け 王を助けよ」というお告げに従い、ヴォークルールの街に向かいます。そこで、代官ボードリクールへの目通りを願い出て、兵を貸してくれるように頼むのです。

フランスを救う乙女の伝説

中世ヨーロッパでは、女性が自立して生きることが許されず、男性に従うのが常識でした。ジャンヌの「兵を貸してくれ」という要請が、容易に取り合ってもらえなかったことは言うまでもありません。しかし、この辺りには「ロレーヌの乙女がフランスを救う」という言い伝えがありました。連日、ボードリクールに面会を求めるジャンヌの姿を見て、人々は彼女こそが「伝説の乙女」だとささやきます。

ジャンヌの熱意に根負けしたボードリクールは、兵と馬を提供することを約束します。しかし、王太子のいるシノン城への道は、敵中を突破する厳しいもの。ジャンヌは髪を短く切り、男装して覚悟を示します。

そのころフランス中部の都・オルレアンは、イギリス軍に包囲されて陥落寸前となっていました。ジャンヌは、「オルレアンを解放し、王太子シャルルをランスで戴冠させる」という内容の書状を、シノン城の王太子に向けて送っています。

フランス歴代の王は、ランスの大聖堂で聖油を受けて即位するのが習わしでした。この儀式を行うことで、シャルルが正統な統治者であると世にしらしめよう――ジャンヌの書状はそう指摘するものだったのです。この戦略性に長けた提言に、王太子のシャルルと義母ヨランドは「一介の羊飼いとは思えぬ」と驚かされます。

国王を見出したジャンヌ・ダルクの奇蹟

ジャンヌは、真に伝説の乙女なのか――。王太子シャルルは、彼女を試すことにしました。シノン城に到着したジャンヌは大広間に通されますが、玉座には王太子の姿がありません。広間は、「神の声を聞く少女」を一目見ようと集まった人であふれていましたが、王太子はその中に紛れていたのです。

しかし、ジャンヌは群衆の中から王太子を見出し、「あなたさまは国王の御子で フランス国王の正統なる後継者であらせられます」とひざまずきます。政争に巻き込まれ、自信を喪失していたシャルルでしたが、ジャンヌの一言で王者としての自覚を取り戻しています。

王太子シャルルはジャンヌを認めて、天下に号令を発します。アランソン公ジャンや武将ラ・イール、王国元帥ジル・ド・レなど、各地の諸侯や騎士たちがシノン城に集結。その数4千人とも5千人とも伝えられる兵士たちが、ジャンヌに率いられて神軍のごとく一路オルレアンを目指しました。

しかし、オルレアンはロワール河に守られた天然の要塞。さらに城の西側と砦の大部分が敵の手に落ちていることから、その解放も容易ではありません。武将たちは喧々諤々と戦略を議論しますが、ジャンヌは一時も早く攻め込むべきだと主張します。

組織のなかで序列や規律に縛られる男たちに対し、若き乙女・ジャンヌの発想はあくまで自由。奇襲を畳みかけて戦況に風穴をあけ、イギリスの手から都を取り戻しています。オルレアンの民に囲まれて凱歌をあげたジャンヌ・ダルク。このとき人生の絶頂にありました。

中世の終焉とともに散ったジャンヌ・ダルク

ジャンヌは勝利の美酒に酔う間もなく、急ぎ王太子シャルルのもとへ帰ってランスで戴冠させています。しかし、このころから彼女に逆風が吹き始めました。イギリスとブルゴーニュ派にとって、自軍の戦意をくじく聖女は邪魔者でしかありません。一方、ジャンヌのおかげで戴冠したシャルルにとっても、王を上まわるカリスマ性をもつ彼女が目障りな存在になりつつありました。教義と規律を重んじる教会にとっても、神の声を聞いたというジャンヌの存在は認められるものではありません。

山岸凉子は、コミックス巻末の特別対談で「女の役割から逸脱した規格外の存在」とジャンヌを評しています。若い女性ならではの自由さと使命感によって、卓越した手腕を発揮したジャンヌ・ダルク。しかし同時に、封建的な中世社会では脅威の存在でもあったのです。

ジャンヌは教会の権威に従わず火刑台に送られましたが、彼女がまいたタネは宗教改革をはじめとする新しいヨーロッパの時代に花開いていきます。どこにでもいる少女が起こした歴史のダイナミズムは、やはり神がなせる業だったのでしょうか。答えのない問いを抱きながら、繰り返し読みたい1冊です。

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美

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