【推しマンガ】荒波を越えて人命を救え!! 感動の救難飛行艇開発プロジェクト
「US-2」という航空機をご存じでしょうか。日本は、四方を海に囲まれた海洋国家。その大海原を舞台に、海上自衛隊が運用する最新鋭の「救難飛行艇」がUS-2なのです。
遭難者の捜索や救助、離島住民の輸送など、過酷な状況下での任務を日々遂行しています。多くの人命を救う最新鋭の救難飛行艇ではありますが、その完成までには苦難の連続がありました……。
この世界には、誰にも知られず輝く人々がいます。危険にさらされた人命を救うため、飛行艇の開発に全てを賭けた人々の物語がここに開幕します。
世界一の性能を誇る飛行艇
海上自衛隊 第71航空隊所属 救難飛行艇US-2。US-1Aの後継機として、新明和工業が中心となって開発し、2007年より運用を開始した飛行艇です。
飛行艇とは、「飛行機」と「船」の特徴を併せ持ち、水面に着水できる航空機のこと。US-2は3万フィートの高高度を巡航でき、気圧に左右されず目的地まで最短距離で急行。そして、波高3メートルの荒波の中でも、着水できる世界で唯一の飛行艇なのです。
本作の著者は、『前科者』で感動の物語を描いた月島冬二。ヒューマンドラマの名手が、救難飛行艇の開発物語に挑んでいます。
『US-2 救難飛行艇開発物語』©月島冬二/小学館 1巻P006_007より
――物語は1990年に遡ります。防衛庁では、新明和工業の航空事業部社員である難波義和と摂津康徳の二人を招いて、議論が交わされていました。議題は、それまで活躍してきた救難飛行艇・US-1Aに代わる後継機についてです。
1976年に、海上自衛隊で運用が始まってから早20年……。US-1Aには、これまで何度も改良が加えられてきましたが、機体・装備ともに運用に耐えられなくなっていました。
防衛庁 海上幕僚幹部の対馬一等海佐は、US-1Aのアナログ操縦系統がパイロットに負担を掛けていると指摘。操縦系統をデジタル化した、アメリカのV-22、通称オスプレイの導入を検討しているというのです。
「これは、危機やのうて好機なんでっせ?」
約20年の長きに渡って、洋上救難に出動してきたUS-1A。その間に、出動回数317回、救助人員312名(1990年12月時点)の功績を上げてきました。
その出動回数は、時の流れとともに増加。新明和工業の摂津は、「日本の海には 飛行艇が絶対必要ですね」と、後継機への想いを新たにします。
兵庫県西宮市にある新明和工業の本社で、US-1Aの後継機開発について話し合いが始まります。しかし、飛行艇製造部門は収益が不安定。さらに、本格的な研究となれば10億円近い予算が必要となるというのです……。
『US-2 救難飛行艇開発物語』©月島冬二/小学館 1巻P022_023より
「もし回収できんかったら えらい事やぞ?」。難波と摂津の提案は、会議で猛反対を受けます。しかし、難波はこう切り返すのです。「これは 危機やのうて好機なんでっせ?」と……。
今の新明和工業に、自力で大型飛行艇を開発できる体力はありません。国が動かす事業だからこそ、動かすことができるというのです。新明和工業の前身は川西航空機で、第二次世界大戦中の名機・二式飛行艇を開発しています。US-1Aは、その流れを汲んでいるのです。
しかし、技術の継承は難しいもの。開発サイクルが20年を越えてしまうと、飛行艇開発が途絶えてしまうのです。世界に誇る技術を後世に残すためにも、このプロジェクトは実現させなければなりません。
あなたが遭難者なら、どちらを選びますか
「航空機製造こそが新明和のルーツ」。社員の情熱が社長の心を動かし、後継機開発プロジェクトが始動することになりました。営業担当の難波と摂津は、防衛庁を再訪問。対馬一佐に面会します。
そして、国産量産大型機として初の「フライ・バイ・ワイヤ(デジタル操縦システム)」を採用した後継機のアイディアを説明します。しかし、それでも防衛庁のオスプレイ採用の方針に変わりはないというのです。
『US-2 救難飛行艇開発物語』©月島冬二/小学館 1巻P038_39より
しかし、難波は諦めません。オスプレイのホバリングには、大きな風の吹き下ろしが伴います。この強風が、洋上の救難者にとって脅威となるはずだと訴えるのです。
海上での救難活動は、天候によって大きく左右されます。様々な救難方法がありますが、一番確実に人命を救うことができるのが、飛行艇で海面に着水。ボートを出して、救助する方法です。「もしあなたが…大海原を漂う遭難者なら……救難飛行艇とV-22…いったいどちらの救助を望まれますかな?」。難波の問い掛けに、対馬一佐の心が揺らぎます。
――高知沖に出動したUS-1Aが2名の重傷患者を救助。高度医療を擁する小笠原の患者を輸送。和歌山の漁船で、かじきマグロに刺された漁師を救助。父島で高熱を出した赤ん坊を輸送――。この近年だけでも、US-1Aが救った人命は枚挙にいとまがありません。
名もなき人々の活躍で、社会は支えられている
防衛庁の対馬一佐は、US-1Aの活躍を認めて、後継機の開発に協力してくれることになりました。しかし、プロジェクトはまだスタートしたばかり。後継機・US-2の開発までには、これから数々の荒波が待ち受けているのです。
人々の生活に役立つ新製品の開発や、歴史に残る巨大プロジェクトには、そこに関わった「名もなき人々」の挑戦があります。その成功の陰には、周囲の反対を受けながらも負けずに戦った人たちがいたのです。
航空機の開発物語というと、難しそうに思えるかもしれません。しかし、知られざる人間ドラマは、読む人に勇気を与えてくれるはず。学業や研究、仕事など、何かに挑戦しているあなたにオススメしたい作品です。
執筆:メモリーバンク / 柿原麻美