心揺さぶるマンガの名言 Vol.9 失敗を恐るべからず! 勇気をくれる励ましの言葉

マンガは、至言・名言の宝庫です。マンガのキャラクターが放つセリフには、人生のハードルを越えるためのヒントがあります。
この特集では、全てのマンガ好きの人に届けたい名セリフを紹介します。今回は、人に勇気をくれる励ましの言葉がテーマです。
人はうまく行かないことがあると、失敗を恐れてしまいがち。しかし、失敗を恐れず前に進むことが大切です。マンガの名場面から、あなたの背中を後押しする情熱のセリフを紹介します。
不正解は無意味を意味しない。
「それでも地球は動いている」。天文学者であったガリレオ・ガリレイが残したとされる言葉です。天動説から地動説への転換は、人類史上最も大きなパラダイムシフトの一つと言われています。その歴史は、信念に命をかけた人々が築いたものです。
命を捨てても曲げられない信念があるか、世界を敵に回しても貫きたい美学はあるか――。『チ。―地球の運動について―』は、真理の証明に情熱を燃やした人々の一大叙事詩。
舞台は15世紀のヨーロッパ某所。異端思想に触れた者は苛烈な拷問を受け、火刑に処せられていました。神童・ラファウは、神学の専攻を期待されていましたが、ある男と出会ったことで宇宙の美しさに気づいてしまいました。失敗することへの恐怖に向き合う、強い信念の言葉を紹介します。

『チ。―地球の運動について―』は、地動説の探求に命をかける人々を描いたマンガ作品。「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で、 2020(令和2)年から2022(令和4)年まで連載されて大きな話題となりました。
著者の魚豊は、陸上競技100m走の世界を描いた青春マンガ『ひゃくえむ。』が、Webコミック配信サイト「マガジンポケット」(講談社)に連載されてデビュー。熱量あふれるセリフと抜群の構成力で、熱狂的なファンを獲得しています。『チ。―地球の運動について―』では、第 26回手塚治虫文化賞マンガ大賞を史上最年少の24歳で受賞。そのほか第54回星雲賞コミック部門に輝くなど各界の賞を席巻しています。
『チ。―地球の運動について―』は、単行本の累計発行部数350万部を突破。 2024(令和6)年秋にはテレビアニメが放映されるなど、連載終了後も話題が尽きない作品なのです。

『チ。―地球の運動について―』©魚豊 / 小学館 1巻P052より
15世紀前期P王国では、C教という宗教が大きな影響力を持っていました。ラファウは12歳ですが、飛び級で大学への進学を認められた神童です。周囲の期待に応えて、最も重要な学問とされていた神学の専攻を志望します。一方で、彼は天文学に情熱を感じていました。しかし彼の師であり、育ての親でもあるポトツキから、天体観測を禁じられてしまいます。
ある日、ラファウに運命の出会いが訪れます。ポトツキの願いで、彼の知人であるフベルトを引き取ることになったのです。彼は“禁じられた研究”を行ったことで、異端者として捕まっていた人物。このたび改心したことで釈放されたのです。フベルトは、ラファウの才能と六等星まで視認できる鋭眼を見込んで、宇宙の真理について伝授します。
フベルトが教えたのは、C教では異端の「地動説」。命取りになりかねない危険な思想ですが、間違っていたらどうするのでしょうか。そんなラファウの疑問に、フベルトは「不正解は無意味を意味しない。」と答えます。信念に殉じることができれば、彼の人生にも意味が生まれると言うのです。地動説を信じる信念は、ラファウと彼に次ぐ者たちによって引き継がれていきます。
あなたの凸凹にぴったりハマる生き方が 必ずあるはずです
『リエゾン―こどものこころ診療所―』は、児童精神科の病院を舞台にした医療マンガです。現在、日本で発達障害と診断されている人はおよそ 48万人。そして子どもの10人に1人は、何らかの障害を抱えているとされています。
人知れず学校や家庭でトラブルを抱え、孤独や苦痛を抱えながら生きる子どもたち。児童精神科医は、そうした子と親に向き合う心強い存在ですが、その人材は圧倒的に不足していると言われています。
『リエゾン―こどものこころ診療所―』では、もともと小児科を志望していた遠野志保が、児童精神科医を志すようになる姿が描かれています。医療現場にスポットライトを当てた本作から、励ましの名言を紹介します。

『リエゾン―こどものこころ診療所―』は、竹村優作とヨンチャンのコンビによるマンガ作品。「モーニング」(講談社)で、2020(令和2)年から連載開始しています。
2023(令和5)年には、テレビドラマ化されて、多くの人の共感を呼びました。メディアミックスの効果もあって、 2024(令和6)年11月時点で単行本の累計発行部数220万部を突破(電子版含む)。
タイトルにある「リエゾン(liaison)」は、もともとフランス語で“連携”を意味する言葉。医療現場では、精神医療と身体医療をつなぎ、患者が安心して医療を受けるための活動のことを言います。心と体をつなぎ、人と人との“かけ橋”となる「リエゾン」を題名に冠した本作は、感動の名作として多くの人に読まれています。

『リエゾン―こどものこころ診療所―』©ヨンチャン・竹村優作/講談社 1巻P054より
遠野志保は小児科の研修医。ドジで早とちりな彼女は、研修先の病院で失敗を繰り返していました。ある日、患者に規定の10倍量の薬を処方した志保は、山崎教授から「小児科はあきらめろ」と強く叱責されてしまいます。小児科の研修は終了しましたが、志保の臨床研修の続きを引き受ける病院はありません。
唯一決まった研修先は、地方にある児童精神科の佐山クリニック。院長の佐山卓は、志保が自分のミスで患者を殺しそうになったことを知っていました。挫折を挫折とも思わない志保は発達障害だと言うのです。研修の過程で、志保は親から虐待を受けた子どもを目撃。自分が幼少期に受けた育児放棄(ネグレクト)を思い出して、体調を崩してしまいます。
佐山は、志保に語りかけます。不得意なことがあっても、彼女にしかできないことがあるはず。痛みを知っているからこそ、人に寄り添うことができると言うのです。人には良いところも悪いところもあるから、発達障害を“凸凹”と呼んでいると言う佐山。「あなたの凸凹にぴったりハマる生き方が」「必ずあるはずです」。その言葉に勇気づけられて、志保は児童精神科医を目指し始めます。
やればわかる!! やらなければ、一生わからん!!
炎尾燃(ホノオ モユル)は熱血マンガ家。日夜、心熱きアシスタントとともに、命がけで原稿用紙に向き合っています。しかし次から次に予想外の難敵が現れて、彼の仕事を阻むのです。
敵は銀行強盗、宇宙人、ニセ炎尾燃、プロレスラー、アイドル、そして天敵の仮面編集デスク!! しかし炎尾燃は決して負けません。不屈のマンガ家魂で、原稿をアップさせるのです。
たかがマンガと侮ることなかれ! 原稿用紙やセリフからほとばしる魂の叫びを聞け!! 嵐を呼ぶマンガ家・炎尾燃による、激励の言葉を紹介します。

島本和彦は、大阪芸術大学在学中の1982(昭和57)年に「週刊少年サンデー」(小学館)2月増刊号に発表した『必殺の転校生』でデビュー。この時期の体験をもとに、半自伝コメディ『アオイホノオ』を連載して、 2015(平成27)年に第60回小学館漫画賞一般向け部門を受賞しています。
島本和彦は、それまでにもマンガ家を主役にした作品として、『燃えよペン』『吼えろペン』を描いています。今回紹介する『吼えろペン』は「月刊サンデージェネックス」(小学館)で 2000(平成12)年から2004(平成16)年に連載された作品です。『燃えよペン』の設定を引き継いで、熱量を倍増したドラマが展開されます。
東京近郊の本・レンタルビデオ・CD店「メビウス」インター店の2階には、(株)炎プロダクションがありました。そこでは一人の熱血マンガ家が、命がけで原稿と格闘していたのです。男の名は炎尾燃。これまで彼は、弱音を吐いたことは一度もありません。たとえ締切りまで時間がなく、 24ページの原稿が真っ白のまま残っていたとしても――。

『吼えろペン』©島本和彦 / 小学館 9巻P087より
マンガとアニメーションの専門学校から舞い込んだ臨時講師の依頼。炎プロダクションは多忙を極めていましたが、炎尾燃は無謀にも講師を引き受けることになりました。燃にはある企みがありました。マンガのアシスタントを求人するにも、手間がかかります。それならば専門学校の生徒を、アシスタントとして育成しようと言うのです。
しかし燃の目論見は、すぐについえてしまいます。専門学校の生徒は頑張る気力もなく、全員目が死んでいたのです。このままでは、出版社で担当編集がつくどころか、マンガ家のアシスタントになる者も現れないでしょう。燃はプロダクションの人員を、自らの替え玉として専門学校に送り込みますが、全員敗れて帰ってきました。いざ熱血マンガ家・炎尾燃本人の出番です。
燃はマンガ家になるための心得を生徒たちに伝授。しかし一人の生徒が反論します。もっと有意義で具体的な技術(テク)を教わりたいと言うのです。燃は、マンガ家になるためには技術よりも“なりたい”という情熱が大切だと教えます。「やればわかる !!」「やらなければ、一生わからん!!」。失敗を恐れるよりも、自分の可能性を信じて夢に飛び込むべきだと訴えたのです。
“今日の主人公は”、“私”。そう思ってりゃいいのよ
東島旭(とうじま あさひ)15歳は、二ツ坂高校に入学。新しい学校生活への期待に胸を膨らませていました。
中学まで文化部だった旭は、高校では運動部を志望。彼女が入部したのは薙刀(なぎなた)部でした。薙刀は高校部活界の“アメリカンドリーム”、スポーツに縁のなかった人間でも、全国にその名を轟かすことができるという謳い文句に感激したのです。
憧れの先輩・宮路真春(みやじ まはる)、同じ1年生で剣道経験者の八十村将子(やそむらしょうこ)、長身が悩みの紺野さくらなど、個性豊かな部員たちとともに“なぎなたガールズ”の青春物語が始まります。

『あさひなぐ』は、こざき亜衣のマンガ作品。「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で2011(平成23)年から2020(令和2)年まで連載された人気作品です。
高校生の部活動としてはマイナーである薙刀(なぎなた)を題材にした作品で、2015(平成27)年には第60回小学館漫画賞一般向け部門を受賞しています。 2017(平成29)年には舞台化・実写映画化されて、大きな話題となりました。
二ツ坂高校薙刀部は、インターハイ出場を賭けた予選で団体2位に入賞。しかし國陵高校のダークホース・一堂寧々の登場で、誰一人インターハイの切符を手にすることができませんでした。 3年生は引退し、本格的に新入部員たちの指導がスタート。夏休みには、白滝院で鬼の尼僧・寿慶による強化合宿が行われました。

『あさひなぐ』©こざき亜衣 / 小学館 6巻P052_053より
合宿の初期には、道場にすら入れてもらえなかった東島旭。しかし寿慶のしごきに耐えたことで、足腰の強さを手に入れることができました。合宿後に行われた昇級昇段審査では、最低級の 4級になりましたが、自分なりの手応えを感じた旭。満を持して、東京都高等学校薙刀秋季大会に臨みます。
この大会に参加するのは36チーム、総勢100人以上の選手が集合。その中には、二ツ坂高校薙刀部の因縁の相手、國陵高校の部員と一堂寧々の姿もありました。東島旭、八十村将子、紺野さくらの 1年生チームは、強豪・桜秀館大附属高校との対戦が決まります。
1年生にとって記念すべき新人戦ですが、初めての大舞台で3人とも緊張の色が隠せません。2年生の宮路真春は、「組み合わせなんて大した問題じゃないわ」と 3人の緊張をほぐします。「“今日の主人公は”、」「“私”」「そう思ってりゃいいのよ」。大事なのは誰と闘うかではなくて、どのように闘うか――試合の主人公になった気分で楽しめばいいと、励ますのです。
本番が一番楽しいぜ びびってちゃもったいねーぞ
高校1年生の姫川美月は、勉強漬けの日々に耐えかねて家を飛び出しました。高校の春休みを使って、秋田県で喫茶店を営む叔母のユキを訪ねたのです。
口うるさい母親から離れ、勉強のない日々は最高なものになるはずでしたが、やっぱりどこか退屈で――!? 叔母の配達に付き添って地元の高校へ行った美月は、そこで自分の心を躍らせるものを見つけます。
それは音楽と動く隊列で作られるマーチングバンド。“8分間の総合芸術”と呼ばれる世界を目の当たりにして、美月の世界が大きく動き始めます。音楽青春マンガの名作から、勇気をくれる言葉を紹介します。

本作著者の山田はまちは、秋田県出身のマンガ家です。2017(平成29)年、「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)に山口まさる名義で『夢みる力』を発表してデビュー。 2019(平成31)年には、『あいつは空色の車で』で第16回カミカゼ賞(双葉社)の奨励作を受賞しています。
『みかづきマーチ』は、山田はまちにとって初めての連載作品。2020(令和2)年から2022(令和4)年まで、「漫画アクション」(双葉社)で連載されました。連載中はコロナ禍の影響で、全国の吹奏楽部、マーチング部の活動が難しくなった時期でした。本作は、吹奏楽が好きな人はもちろん、多くの読者を勇気づける作品として話題になりました。
アメリカンフットボールのハーフタイムショーや、パレードでお馴染みのマーチング。軍楽隊の行進演奏をルーツとしたもので、金管楽器や木管楽器、打楽器による演奏とともに、歩きながら隊形を変えるなどのパフォーマンスが展開されます。山田はまちは、中学生時代に吹奏楽部に所属し、高校でマーチングを体験した経歴の持ち主。その経験を生かして、マンガの中に“ 8分間の総合芸術”を再現しています。

『みかづきマーチ』©山田はまち/双葉社 1巻P172より
叔母の喫茶店を手伝うアルバイト・星野アキラは、千秋高校マーチング部の部員でした。彼の紹介でマーチング部の練習を見た姫川美月は、マーチングに魅せられてこの高校に転校することを決意します。親に猛反対されましたが、初めてやりたい事を見つけたのです。
マーチング部に入った美月は、金管楽器の花形・トランペットを吹くことになりました。目指すはゴールデンウィークに開催予定の「秋田マーチングフェスティバル」。わずか 1か月の準備期間ですが、楽曲を暗譜しなければならないうえに、隊形を記したドリルシートを覚えなければなりません。 8分のショーに対し、50枚のドリルシートが用意されていました。
覚えることが山積みで、初心者の美月は大苦戦。やがてフェスティバルの日がやって来ましたが、全国大会常連の山王高校のリハーサルを見て、美月の緊張は頂点に達します。そんな彼女に、アキラがアドバイスを授けます。「本番が一番楽しいぜ」「びびってちゃもったいねーぞ」。ステージに立った美月は、勇気を出して一歩を踏み出します。
失敗を恐れることが“最大の失敗”
ここまで、勇気をくれる励ましの言葉を紹介してきました。『チ。―地球の運動について―』『吼えろペン』で紹介したセリフは、失敗を恐れることこそが“最大の失敗”だと教えてくれます。信念を貫くマンガの登場人物たちの姿が、読者に勇気を与えてくれます。
『あさひなぐ』『みかづきマーチ』では、大舞台に臨む主人公を励ましたセリフを紹介。いずれのセリフも、これまでの努力を信じて楽しむ気持ちが大切だと教えてくれています。
『リエゾン―こどものこころ診療所―』は、それぞれの人が持っている才能と可能性を教えてくれる作品です。何かに挑戦する時、勇気をもらいたい時には、マンガの名セリフを思い出してくださいね!
執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 *文中一部敬称略