飼い主との絆を描く、感動の猫マンガ特集!!

猫は古くから人間と生活をともにしてきた動物です。その愛らしい姿は、人間の創作活動に多大なインスピレーションを与えてきました。マンガのテーマとしても採用され、猫がストーリーの鍵となる“猫マンガ”のジャンルが誕生しています。
猫の面白いエピソードや、それに翻弄される人間を描いたコメディ、猫に癒しを求める作品など、猫マンガにも様々な種類があります。今回は飼い主との絆を描く、感動の猫マンガを集めてみました。
いずれもストーリー重視の作品なので、猫好きはもちろん、そうでない方にも楽しんでいただけると思います。猫の魅力を余すところなく伝える、感動の猫マンガの世界を紹介しましょう。
おじさまと猫の心温まる日常
長い人生では、大切な人との別れを経験することもあるでしょう。その喪失感や悲しみは、どのように乗り越えれば良いのでしょうか。
このお話は、誰かに愛されたかった一匹の猫と、妻を失った男性による心温まる日々を紡いだ物語です。猫と人間、孤独を知る者同士が出会ったことで、かけがえのない絆が育まれていきます。
猫を好きな人も、そうでない人も、この作品を読めば共感すること間違いなし。涙腺崩壊必死のハートフル猫マンガを紹介します。

「お前に出会えたことが幸福だから」「ふくまるだよ」。一人の男性がペットショップから売れ残りの猫を引き取って、“ふくまる”という名前を付けました。こうして猫と人間の幸福な生活が始まったのです。
『おじさまと猫』は、桜井海によるマンガ作品。2017(平成29)年にSNSで公開された本作は、翌年よりWEB雑誌「ガンガンpixiv」(スクウェア・エニックス・ピクシブ)にて連載開始。 2019(平成31)年より、「月刊少年ガンガン」(スクウェア・エニックス)で連載されています。
2018(平成30)年に、KADOKAWAとブックウォーカー主催の「次にくるマンガ大賞 2018」Webマンガ部門で第2位を受賞したほか、書店主催のアワードでも賞を総なめして注目を呼んだ本作。 2021(令和3)年にはテレビドラマ化されるなど話題が尽きません。その冒頭シーンから、おじさまと猫の感動の出会いを紹介します。

『おじさまと猫』©Umi Sakurai/SQUARE ENIX 1巻P008より
とあるペットショップに、一匹の売れ残り猫がいました。器量の悪い“ブサ猫”であるため買い手がつかず、そのまま成猫となってしまったのです。日に日に値段が下げられて、今や9万円の格安価格。隣で販売されているスコティッシュフォールドの子猫が27万円であるのに対し、 3分の1の価格となってしまいました。
買い手が付くことを諦めていた猫の前に、ある日一人の男性が現れます。「プレゼントですか?」と問う店員に対し、男性は「私が欲しくなったのです」「とても可愛くて」と告げました。猫はその目に涙を滲ませながら、男性に引き取られていったのです。
男性の名前は神田冬樹。世界的なピアニストでしたが、妻を亡くしてピアノへの情熱を失っていました。妻は猫が欲しいと言っていましたが、その思いを叶えることができないまま彼女は逝きました。そんな妻の面影を追って、猫を飼い始めた神田ですが、ふくまると暮らし始めたことで、忘れていた笑顔を取り戻していきます。読者に生きる喜びを教えてくれる名作です。
少女と猫の思い出物語
この物語は、まだ人々が白黒テレビに興奮し、新幹線に乗ることに憧れていた頃のこと。房総の鴨川で暮らす小学生・しーちゃんと猫のお話です。
しーちゃんは、両親や隣人たちの温かい眼差しに包まれて伸び伸びと成長。その傍らにはいつも猫がいたのです。
マンガ家・たかなししずえが、自らの半生をもとに描いた半自伝シリーズの一作。しーちゃんと猫が織りなす、和やかで心温まる日常をのぞいてみましょう。

たかなししずえは、千葉県鴨川市出身のマンガ家です。1978(昭和53)年から1982(昭和57)年まで、「なかよし」(講談社)に連載した『おはよう! スパンク』(原作:雪室俊一)で一躍人気となりました。少女と野良犬・スパンクの交流物語は、テレビアニメ化、劇場アニメ化されたほか、 1981年(昭和56年)に第5回講談社漫画賞少女部門を受賞しています。
たかなししずえは、動物と人間の交流をハートフルに描く名手。そんな彼女の原点にあるのが、猫と一緒に暮らした少女時代です。
『しーちゃんとねこ』は、たかなししずえの半自伝エッセイコミック。2008(平成20)年から「ねこぱんち」(少年画報社)で『ちこちゃん、あーそぼ』のタイトルで連載され、その後同誌で『しーちゃんとねこ』と改題して連載をする猫マンガ。懐かしい昭和を舞台に、鴨川で暮らす小学生の女の子・しーちゃんと飼い猫のチコ、チビとの日常が展開されます。

『しーちゃんとねこ』©たかなししずえ/少年画報社 1巻P012_013より
ここは、潮の香りに包まれた海辺の町。高梨商店では、猫のチコが飼われていました。チコは今では珍しくなった日本猫で、丸顔に短いしっぽと足が可愛い“店の看板娘”。店番のほかにネズミ退治をするという働きぶりで、豆腐屋のおばさんから褒められています。
高梨商店は醤油や酢、かんぴょうなどの食料品を中心に扱う雑貨店。この時代の猫は、ペットというよりネズミ対策のために飼われることが多く、チコもその役目を果たしていたのです。そしてチコの場合、もう一つ大切な役目がありました。それは高梨家の一人娘・しーちゃんの遊び相手となること――。
ある日、しーちゃんはお腹を空かせたチコに鰹節をあげようとして、削り器で指を切ってしまいました。そこにお母ちゃんが帰ってきて、しーちゃんはもちろんのこと、子守役のチコまで叱られてしまいます。そんな小さな事件を体験しながら、しーちゃんは健やかに成長していきます。和やかに楽しめる、日常系猫マンガの名作です。
デキる猫との共同生活を描く
山田ヒツジの『デキる猫は今日も憂鬱』は、一人の女性会社員と一匹の猫との同居生活を描く人気作品です。
福澤幸来(サク)が拾った猫の諭吉(ゆきち)は、熊のように大きな体に成長しました。さらに驚くべきことに、諭吉は人間のように二足歩行で生活し、驚異の家事スキルで幸来の生活を助けるようになったのです。
料理洗濯掃除、なんでもござれ。デキる猫となった諭吉と、生活能力ゼロの飼い主・幸来が織りなす、笑いと感動の物語を紹介します。

山田ヒツジの『デキる猫は今日も憂鬱』は、2018(平成30)年に講談社の「水曜日のシリウス」で連載スタート。その後、同社の「月刊少年シリウス」に発表の場を移しています。
2023(令和5)年には、テレビアニメ化されて大きな話題となりました。メディアミックスの効果もあって、 2024(令和6)年8月時点でコミックス累計発行部数(電子版を含む)210万部を突破。驚異のヒットを記録しています。
28歳の会社員・福澤幸来は、雪の降る日に仔猫を拾って“諭吉”と名づけました。仔猫時代の諭吉は一般的な猫と同じ姿でしたが、成猫になると人間のように立ち上がって、家事万端をこなすようになりました。諭吉が人間のような振舞いを見せるため、周囲の人は彼を見ても“巨大な猫の着ぐるみを着た人間”だと信じるようになったのです。

『デキる猫は今日も憂鬱』©山田ヒツジ/講談社 1巻P017より
諭吉が空前絶後の“デキる猫”となった理由は、諭吉自身にもよく分かりません。もしかすると飼い主の福澤幸来が生活能力皆無のダメ人間だったことが、結果として諭吉を”デキる猫”に成長させたのかもしれません。ともあれ、大好きな幸来を助けるために、はたまた大好きなネコ缶にありつくために、諭吉は今日も家事に全力を注ぐのです。
AM6:45、諭吉は飼い主の幸来より早く起床して、手際よく朝食と弁当を作ります。弁当には卵や野菜を使った料理など、栄養バランスを考えたおかずが詰められています。諭吉は自分が作った弁当の出来栄えに「上出来。」と心の内でつぶやき、ドヤ顔を見せています。 AM7:55、諭吉はまだ夢の中にいる幸来の体に覆いかぶさって、彼女を起こします。
AM8:50、出社をしぶる幸来をなだめて会社に送り出しますが、諭吉はその後も家事に追われています。昼時にはテレビ鑑賞を楽しみますが、彼が観るのは料理レシピの特集番組。飼い主のズボラっぷりを腹立たしく思う時もありますが、諭吉は愛情を注いでくれる幸来に感謝の気持ちでいっぱいです。幸来の生活をサポートするため、諭吉の努力は続きます。
心に染み入る実録猫マンガ
これは本当にあった猫と男の物語。男はボクシングで世界を目指していましたが、思いがけず不愛想な猫2匹の世話をすることになりました。
男は猫がキライでしたが、ボクシングの夢が断たれたときに、このちっぽけな猫たちだけが彼に寄り添ってくれたのです。
猫マンガは、根っからの猫好きが描くことがほとんどです。しかし『猫なんかよんでもこない。』は、元・猫ギライの作者が手掛けた異色作。人間が猫を飼う意味を、読者に問い掛けます。命の大切さを教えてくれる実録猫マンガを紹介します。

『猫なんかよんでもこない。』は、元プロボクシング選手の杉作によるマンガ作品です。2015(平成27)年にはテレビアニメ化され、その翌年には実写映画が公開されて大きな話題となりました。
『クロ號』は、2000(平成12)年より「週刊モーニング」(講談社)で連載された彼のデビュー作。クロという捨て猫の一生を、猫の視点から描いて人気となりました。本作はそのモデルとなった 2匹の猫を題材に、著者の目線から描いたエッセイ作品となっています。
“オレ”こと杉田ミツオは、プロボクサー志望の男です。これまでボクシングに人生を捧げてきましたが、 30歳を前にして夢を叶えられずにいました。しかしミツオの兄が兄弟の猫を拾ってきたことで、ミツオの人生が大きく変わり始めます。

『猫なんかよんでもこない。』©杉作/実業之日本社 1巻P001より
1月のある寒い夜のこと。ミツオの兄は、捨て猫を見かねて拾ってきました。拾われたのは2匹の猫で、1匹は黒いからクロ、もう1匹はちんこい(新潟の方言で「小さい」)ことからチン子と名づけられました。しかし猫を拾った張本人の兄は、猫をミツオに託して、彼女と結婚するため田舎に引き上げていったのです。
兄が残してくれた預金残高はわずか7万円程度。猫缶はミツオのサバ缶より高値のため、ミツオは仕方なしに猫缶を食べようとしています。思い返せば彼は、子どもの頃から猫より犬が好きでした。しかしボクシングの試合でボロボロになった彼を、出迎えてくれたのはクロとチン子の 2匹だけ。ミツオの猫へのわだかまりも、少しずつ氷解していきます。
しかしそんなミツオを不幸が襲います。目の負傷によって、選手生命を断たれてしまったのです。夢に破れ、さらに兄に捨てられたミツオは「猫なんて いなくなったら」と考えますが、彼が 2匹の猫を追い出すことはありませんでした。人生も、猫を飼うことも、楽しいことばかりではありません。それでも生きる理由を、猫を飼う理由を考えながら、読んでみたい作品です。
松本零士が描く、ハートフルな猫物語
『銀河鉄道999』『宇宙海賊キャプテンハーロック』など、数多くの人気SF作品を手掛けた松本零士。『男おいどん』など“四畳半もの”のコメディや、戦争を題材にした「戦場まんがシリーズ」など、様々なジャンルの作品を手掛けています。
そんなマンガ界の巨匠が、愛猫家であったことをご存じでしょうか。トラジマ模様の猫に“ミーくん”と名づけて可愛がっていたのです。
松本零士は、自らの作品の中にもミーくんを登場させています。雪の日に家に迷い込んできたトラジマ猫・ミーと、飼い主の少女との交流を描く感動作を紹介します。

ミーくんは、数多くの松本零士作品に登場している猫のキャラクター。松本が飼っていた同名の猫がモデルと言われています。
『トラジマのミーめ』は、少女マンガ誌「月刊プリンセス」(秋田書店)で発表された表題作5編を中心に、ミーくんにまつわる読み切り作品を集めた1冊です。
本書の収録作品の中から、「トラジマのミーめ PART1」のあらすじを紹介します。ここは、のどかな住宅街。かつてはミーくんのナワ張りだった場所です。耳をすませば今も、ミーくんの鳴き声や、屋根の上を走る足音が聞こえてきませんか――。

『トラジマのミーめ』©松本零士/零時社 P009より
あつ子の家にミーくんが来たのは、雪降るクリスマスイブの夜のこと。一匹の子猫が、庭先で凍えていたのです。お父さんが拾い上げて名前を問うと、子猫は「ミー」と鳴いて応じました。メス猫ではありましたが、トラジマ模様の顔がオスのようなので、“ミーくん”と呼ばれるようになりました。
ミーくんは器量良しの“ネコ美人”。あつ子の家の周りは、彼女を慕うオスのドラ猫たちに囲まれてしまいます。あつ子のお父さんは、可愛いミーくんを守ろうと、屋根の上や天井裏でドラ猫たちと格闘する毎日です。こうしてミーくんを中心に、騒がしくも幸せな日々が過ぎていきました。しかしある時、家族はミーくんの体に固いふくらみがあることに気づきます。
お父さんとあつ子は、断腸の思いでミーくんを病院に預けますが、その時のミーくんの悲しい鳴き声は忘れられないものとなりました。今生の別れとなることが、ミーくんにも分かっていたのです。「トラジマのミーめ PART1」は26ページの小品ですが、14年間を自由に生きたミーくんの思い出が見事に凝縮されています。涙なしには読めない名作です。
人間と猫の間に生まれる固い絆
愛らしい猫、すました猫、気性の激しい猫など、猫の性格にも様々あります。猫の数だけ、猫マンガのバリエーションがあると言っても過言ではないでしょう。今回は沢山ある猫マンガの中から、猫と飼い主の絆を描くハートフルな作品を集めてみました。
『おじさまと猫』は、孤独な猫と飼い主の間に生まれた愛情を描く感動物語。『しーちゃんと猫』は小学生のしーちゃんが、両親や飼い猫たちに囲まれて、健やかに成長する姿を描いて読者の共感を呼んでいます。
『デキる猫は今日も憂鬱』は、猫が飼い主の面倒をみる“立場逆転”の設定がユニークな作品です。猫の諭吉と飼い主・幸来の固い絆が人気の秘訣。『猫なんかよんでもこない。』『トラジマのミーめ』は、著者の体験をもとに描かれた作品です。猫が人生の喜びや悲しみを分かち合う、大切なパートナーであることを教えてくれます。ぜひ一読をオススメします。
執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 *文中一部敬称略