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【推しマンガ】男二人が日本の原風景を歩く 温泉愛あふれる『ゆげたつらん』の魅力!

金、女、名声――。大黒宇大(おおぐろ うだい)は、若くして全てを手に入れました。それでも彼の心が満たされることはありません。

そんな宇大が見つけたのは、地図アプリの温泉レビュー。それは全国の名湯・秘湯への招待状でした。孤高の温泉レビュアー「癒(いや)しん坊」と出会った宇大は、彼を「先生」と呼んで弟子入りを願います。

風変りな師匠とちょっと暑苦しい弟子が、全国津々浦々の温泉を巡ります。それは懐かしい日本の原風景を訪ねる旅でもありました。読めば心まで温まる、温泉周遊コミックを紹介します。

ゆげたつらん 著者:遠浅よるべ

地図アプリにより結び付けられた二人

『ゆげたつらん』は、遠浅よるべ先生によるマンガ作品です。2024(令和6)年より「月刊コミックビーム」(KADOKAWA)で連載され、大きな注目を集めています。

作品の舞台となるのは日本各地の名湯・秘湯です。それも昔ながらの旅館や共同浴場など、メジャーな観光地とは無縁の所ばかり。

主人公は20代の若者・大黒宇大と、癒しん坊というハンドルネームのアラフォー男性です。年齢も性格も異なる二人は、本来なら出会うことはなかったかもしれません。ところが癒しん坊が地図アプリに残したレビューが、二人に思わぬ出会いをもたらしたのです。

大黒宇大は、いわゆる勝ち組の青年でした。彼がデートで訪れる宿は最高級。その部屋から見える景色は絶景で、食事も温泉もパーフェクトなものだったのです。

それほどリッチな生活を送りながら、彼の心は空っぽでした。昼はトップ営業マン、夜はナンバーワンホストとして働く宇大。お金を稼いで父親を見返すため、5年間がむしゃらに働いてきましたが、食うか食われるかの非情な世界に身を置くことに、疑問を感じるようになっていたのです。

浮かない顔の宇大を見かねて、恋人がちょっとした提案を持ちかけます。旅行の帰り道で、新しい温泉スポットを開拓しようと言うのです。彼女がネットでリサーチした「やまびこ温泉」は、地図アプリのレビューで「星4.5」の高評価を獲得していました。

野天風呂で見た絶景が人生を変える

宇大と恋人がやまびこ温泉を訪れると、そこには地元のお年寄りが足しげく通っていることが分かりました。鄙(ひな)びた共同浴場でしたが、宇大は地図アプリに投稿された1件のレビューに興味を持っています。

そのレビューは癒しん坊という投稿者のもので、温泉の概要が簡潔にまとめられていました。彼が注目したのはラストを締めくくる「眺めは絶景」という言葉。彼がレビューの言葉に従って歩いてみると、400メートルほど続く林道を抜けた所に温泉が現れます。

それは「絶景」という言葉にふさわしい、大自然に包まれた野天風呂。著者は圧倒的な画力で、山の清々しい空気や昇り立つ湯けむりを臨場感たっぷりに描いています。宇大は一糸まとわぬ姿で湯に浸かり、大自然と一体になりました。読者も主人公の感動を共有し、温泉気分を味わうことができるもの本作の魅力です。

それから2年が経ちました。長い髪を頭上にまとめた、野武士のような出で立ちで現れた宇大。彼が1両編成の列車で降り立ったのは、北海道のとある田舎の駅です。

宇大は野天風呂で感動の体験をして以来、それまでの生活を捨ててしまいました。自分の人生観を変えた地図アプリのレビュアーのように、山を歩き、野湯を巡る――そんな素朴な生き方をしてみたいと思ったのです。癒しん坊に憧れを抱いた宇大は、彼が早春の北海道を訪れていることを知り、先回りしてこの地を訪れたのです。

駅に降り立ったのは、宇大と中年男の二人だけ。駅舎は「鄙(ひな)びた趣(おもむき)のある」「木造の無人駅」というレビュー通りで、宇大を感動させています。そんな宇大とは対照的に、もう一人の男は駅舎に目もくれず、どこかに行ってしまいました。

凸凹コンビの運命の出会い

タクシーでお目当ての温泉宿にやって来た宇大。早速大浴場に向かって、癒しん坊のレビューを思い返しながら湯を楽しんでいます。

同じ頃、宿に一人の客が到着しています。それは、宇大が駅で一緒になった中年男でした。どうやら彼はタクシーを使わず、駅から2時間も歩いてきたようなのです。この男は一体に何者なのでしょうか。

宇大と中年男の因縁はこの後も続きます。宿名物の貸し切り野天風呂「トチニの湯」を楽しみにしていた宇大ですが、先客がいることを理由に入湯を断られてしまいます。その先客とは件(くだん)の中年男――。行く先々で一緒になる男を、面白くない顔で見つめる宇大の姿が描かれています。

しかしその中年男こそが、宇大が憧れていた人物でした。男が宿を発つ間際に残した雑記帳。宇大はその内容を見て、彼こそが癒しん坊だと気づいたのです。

宇大は急いで男の後を追って、「癒しん坊ォォ」「せんせぇぇ!!」と叫びます。そして涙ながらに「弟子にしてください!」と懇願。見ている読者もビックリするほどの熱量で訴えたのですが、癒しん坊は特に驚くこともなく彼を受け入れています。

癒しん坊は、情熱的な宇大とは正反対の飄々としたキャラクター。男二人が温泉巡りに勤しむ姿を描く本作。その展開はややもすると単調になりかねませんが、正反対の二人がコンビを組んだことでストーリーの面白さを倍増させています。二人の性格のギャップが、読者の笑いを誘うのです。

日本の原風景を巡る温泉周遊記

癒しん坊が地図アプリに投稿するレビューは、温泉に関する話題だけではありません。湯巡りの旅で出会った「田んぼの腰掛松」や「詠み人知らずの句碑」など、現代人が見過ごしてきた“ささやかなもの”の魅力を記録していたのです。

押しかけ女房ならぬ、押しかけ弟子となった宇大。「路傍に佇むもの」の価値を理解したことから、彼の存在は癒しん坊に認められるものとなりました。二人の温泉巡りの旅は、縄文時代の土偶や茅葺屋根の民家など、日本の原風景を訪ねる旅となっていきます。

いぶりがっこに山芋鍋、きのこ、山菜など――二人が旅先で味わうご当地グルメも、本作の魅力の一つ。コミックス第1巻では北海道・東北二県・徳島を、第2巻では長野・九州二県・栃木の名湯が紹介されています。温泉愛・旅行愛あふれる『ゆげたつらん』、ぜひお楽しみください!

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 文中一部敬称略

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