読めば世界の見え方が変わる数学マンガ特集!!

勉強で苦手な教科を問われると、“数学”がトップにランクインすると言います。一度勉強につまずくと、その苦手意識はなかなか直らないもの。かく言う筆者も、大人になった今でも数学に大きな抵抗があります。
そんな数学嫌いの人におススメしたい、数学マンガを集めてみました。どんなに難しい内容でも、分かりやすく絵解きしてくれるのがマンガの魅力です。マンガを通して、もう一度数学にチャレンジしてみませんか。
これから紹介する作品には、数学好きのキャラクターが多く登場します。彼らが見ている世界を覗けば、数学の奥深さと美しさを知ることができるでしょう。数学マンガの奥深い世界を紹介します。
クスっと笑える数学キャンパスコメディ!
横辺建己(よこべたてき)は、京都の名門・吉田大学理学部に合格した秀才です。周囲の期待を背負って故郷を後にしましたが、極限(リミット)は突然やって来ました。
彼の数学の勉強は、暗記に頼ったもの。しかし大学では考える力が求められるため、横辺は講義を理解できず引きこもりになってしまったのです。
頭はいいけど奇人変人ばかり! マイペースな友人たちや教授に囲まれて、横辺の前途多難な大学生活が始まります。読めば数学が好きになる、抱腹絶倒の大学青春コメディを紹介します!!

絹田村子は、『読経しちゃうぞ!』『さんすくみ』『重要参考人探偵』などの作品で人気のマンガ家です。2008(平成20)年、「月刊flowers」(小学館)主催のコミックオーディションに応募した『道行き』が、銀の花賞を受賞してデビューしました。
『数字であそぼ。』は、同誌で2018(平成30)年より連載スタートした作品。2024(令和6)年に、第69回小学館漫画賞を受賞しています。専門的な知識を扱う数学マンガですが、落第生の主人公・横辺建己の視点から描くことで親しみやすい作品となっています。
主人公の設定がユニークな本作ですが、他にもスロット中毒の北方創介や、定期試験の過去問で商売をする猫田賢、天才肌の女学生・夏目まふゆなど、個性豊かな学友たちが登場し、ストーリーを盛り上げていきます。軽妙な語り口のキャンパスコメディのため、数学が苦手な人も楽しんで読むことができるはずです。

『数字であそぼ。』©絹田村子 / 小学館 1巻P054より
横辺建己18歳は、驚異の記憶力で“神童”と呼ばれてきました。しかしそれも高校までの話。微分積分学が全く理解できず、大学の講義初日に早くも挫折してしまったのです。同じ講義を受けていた夏目まふゆから「数学は 理解する学問だもの」と言われ、横辺は大きく落ち込みます。自身が数学を理解できていないことに気づかされたのです。
横辺はそのまま2年間大学を休学してしまいました。復学を意識し始めたある日のこと、横辺は数学教授の早乙女から「お友達を作りなさい!!」と言われます。学問の苦楽をともにする友人を作るべきだとアドバイスされたのです。「類は友を呼ぶ」と言いますが、横辺が大学で初めて仲良くなったのは、同じく2回留年している北方創介でした。
北方は数学的センスの持ち主ですが、スロットの“確率の世界”にハマって単位を落としていました。北方は「ひたすら考えて理解し続けていく」「それが大学の数学!」だと、横辺に助言します。思考することが苦手な横辺にとって、数学の道のりは険しいものになりそうです。不器用ながらも、数学に青春を傾ける大学生たちを応援しましょう!
マンガを読んで、数の神秘に触れる
世界は実に美しく創られています。その成り立ちを、数という体系で表現するのが数学です。数が語る声に耳を澄ませば、誰も見たことのない世界の姿を教えてくれるはず――。
関口ハジメは隠れた天才少年。たった一人で数と戯れ、世界を解き明かそうとしていました。そんな彼が老数学者の内田豊と出会ったことで、類稀なる才能を花開かせていきます。
世界の見え方が変わる数学マンガをのぞいてみませんか。雲の動きや木の枝の分かれ方、トンボの翅脈(しみゃく)、自動車ナンバーなど――少年の自由奔放な心が、世界にあふれる数の神秘を教えてくれます。ハジメと一緒に、探求の冒険に出掛けましょう。

『はじめアルゴリズム』は、三原和人の連載デビュー作。「週刊モーニング」(講談社)で2017(平成29)年から2019(令和元)年にかけて連載されて人気を博しました。
本作には、“フェルマーの最終定理”のような難解な数学テーマも登場します。一見近寄りがたい作品に思えるかもしれませんが、主人公のハジメはどこにでもいる小学生の男の子です。
少年が目を輝かせながら、数学的な法則を見つけようとする姿は愛らしく、数学を身近なものに感じさせてくれます。数学を勉強するのではなく、遊ぶように楽しんでいるハジメ。その自由な姿が、読者に爽やかな感動を与えてくれます。

『はじめアルゴリズム』©三原和人/講談社 1巻P024_025より
「数学は若者の学問と言われている」。内田豊は数学者としての功績を評価され、出身地・米作島(よねさくじま)の講演会に招かれました。しかし久しぶりに故郷の土を踏んだにもかかわらず、彼の胸に虚しい思いが去来します。肉体と精神の衰えを感じながら、数学者として“発見の喜び”を忘れられずにいたのです。
内田は無意識のうちに母校に立ち寄り、そこで数と楽しく遊ぶ少年に出会います。小学5年生の関口ハジメが、地面に独自の数式を書いて世界を紐解こうとしていたのです。内田は、数学にとって重要なのは“情緒”だと考えていました。ハジメの情緒や数学的センスを、米作島の大自然が育んでいたのです。
たった一人で、独自の道を拓いてきたハジメ。しかし、彼がもっと広い世界に行くためには、先人たちが築いてきた数学を学ばねばなりません。内田は、ハジメに数学者としてのすべてを授けることを決意。彼を海の向こうへと誘います。米作島を出た二人が向かったのは、数学の聖地・京都――。新たな伝説が幕を開けます。
数学をテーマにした学園ラブコメ
シリーズ累計発行部数58万部突破(2023年時点)! 「数学ガール」は、結城浩による人気小説シリーズです。高校生の“僕”が、“数学ガール”たちと数学に取り組む物語を、マンガ版で読んでみませんか。
読み物形式でありながら、取り扱う数学的内容は本格的。題材は“素数”“ベクトル”などの基本的なものから、“フィボナッチ数列”など数学の神秘に触れるものまで多岐にわたっています。
一般読者から、理系の大学生、社会人まで幅広く楽しめる数学物語。そのコミカライズ版では、分かりやすいビジュアルとともに、数学の奥深い世界を楽しむことができます。

結城浩の小説「数学ガール」シリーズは、数学を題材にした学園ラブコメ作品です。第1作の『数学ガール』は2007(平成19)年に刊行。その好評を受けて、第2作『数学ガール フェルマーの最終定理』、第3作『数学ガール ゲーデルの不完全性定理』など、全6作が刊行されています。
そんな人気小説シリーズを、恋愛マンガを描いてきた経験をもつ日坂水柯がコミカライズしています。本作上巻のあとがきには、「将棋や囲碁や麻雀などの原作ものの漫画を執筆されている作家さんの中には ルールを知らないで漫画制作に取り組んでる方々がいらっしゃるそうですが」「やはり私も例にもれることなく……」と記されています。
作品に登場する数式が分からないこともあるという著者ですが、恋愛マンガならではの繊細な心理描写を加えたことで、原作の“学園もの”としての魅力を倍増させています。

『数学ガール』©Hiroshi Yuuki・Mika Hisaka P010_011より
“僕”は無類の数学好き。中でも数式の展開を一番に好んでいます。中学までは、一人放課後の図書室に残り、数式を展開するのが習わしでした。しかしその日常は、高校に入って大きく変わってしまいます。“僕”は高校に入学すると、同じく数学好きの少女・ミルカと出会い、図書館で彼女が出題する数式クイズの謎解きをすることになったのです。
ミルカは、「数列クイズに正解なし」と言います。「1、2、3、4」に続く数を問われると、「5」と答えたくなるのが人情です。しかしミルカは、「1、2、3、4、10、20、30、40、100、200、300、400」という数列があっても良いはずだと指摘します。数列の中には、パターンが突然大きく変わるものもあります。人間関係も同じで、次の瞬間には何が起こるか分かりません。
“僕”は後輩の女子・テトラにも数学を教えることになりました。“僕”はミルカとテトラとの間で揺れ動きますが、この三角関係にも急展開が訪れるのでしょうか。胸キュンの数学ラブコメから目が離せません。
目指せ金メダル! 情熱の数学×スポ根マンガ!!
小野田春一(はるいち)は、ある目標のために青春のすべてを捧げる覚悟です。これから始まる高校生活で、無駄な時間を過ごすつもりはありません。彼の目標、それは“数学オリンピック”の日本代表となること――。
小野田に必要なのは、静かで集中できる時間と環境。しかし同じく数学を愛する少女・七瀬マミから声を掛けられ、心が大きくざわつきます。
孤独な少年の日常が、数学によって鮮やかに色づきはじめます。他人から無謀と言われても、夢に向かって突き進む数学少年・少女たち! 天才たちの祭典に挑む、熱き数学×スポ根マンガを紹介します!!

藏丸竜彦は、九州大学理学部数学科を卒業。マンガ家を目指しながら、塾や私立高校の数学講師として勤務した経歴の持ち主です。
『数学ゴールデン』は藏丸竜彦による初めての連載作品で、2019(平成31)年より「ヤングアニマルZERO」(白泉社)でスタート。数学に情熱を懸ける若者の青春ストーリーを描いて大きな注目を集めています。
数学オリンピックこと国際数学オリンピックは、中等教育課程にある少年少女を対象にした数学の競技大会です。国際的な大会で、日本代表は日本数学オリンピックによって選抜されます。本作の主人公・小野田春一は日本代表となることを目標に、数学の勉強に励んでいるのです。数学青春マンガの熱い世界をのぞいてみましょう。

『数学ゴールデン』©藏丸竜彦/白泉社 1巻P040_041より
小野田春一は、地元のエリート校である私立ロイヤル高校を目指していましたが、受験に失敗してしまいます。しかし彼がたどり着きたい場所は、元よりここではありません。春一は、福岡県立加治森高校に首席で合格。入学式の新入生代表挨拶で驚くべき宣言をします。
「目標は 数学オリンピックの日本代表」。世界レベルの大会への出場に言及した春一は、入学早々学校中の噂の的となりました。“数学オリンピック”という言葉を聞いてクラスメイトのほとんどが春一を敬遠しますが、女子生徒の七瀬マミは彼に興味を持った様子。マミも数学が好きだと言うのです。
春一はマミを遠ざけるため、一つの課題を出します。ラムゼーの定理を使う難題を明朝までに解けなかったら、春一への接近を禁ずると言うのです。しかしマミは一生懸命課題に取り組んで、春一の心を動かします。難題の答えが思いついた瞬間は「すげぇ 気持ちいいんだよ」と言う春一。マミが同じ思いを抱いていることに気づいたのです。二人は金色に輝くメダル獲得を目指し挑戦を始めます。
読めば数学が楽しくなるナゾ解き冒険物語!
次々に現れる“ナゾ”を解き、死の空間から脱出せよ! 命懸けの数学バトルロイヤル・マンガが開幕します。
すべての記憶を失った少年・数真(カズマ)は、気がつくと謎の空間に閉じ込められていました。この空間では、次々に現れる“ナゾ”に命を賭けて挑戦することが求められます。生き残る唯一の方法、それは限られた時間の中で正解を導きだすことだったのです。
数真とともに謎の空間に閉じ込められた5人の少年少女の運命はいかに!? あなたの頭脳の限界に挑む、超次元・数学サスペンスを紹介します!

『Yの箱船』は、『金田一少年の事件簿』(作画:さとうふみや)の原作者・天樹征丸が、気鋭のマンガ家・石蕗永地とタッグを組んだ作品です。
「コロコロアニキ」(小学館)で、2015(平成27)年から6年にわたって連載された本作。同社の児童向けコミック誌「月刊コロコロコミック」を卒業した大人も楽しめる、知的サスペンス作品として人気を博しました。
青年コミック誌の連載作品ではありますが、“コロコロ”らしい魅力は健在です。明快でスタイリッシュなキャラクター造形や、テンポの良いストーリー運びが魅力のエンターテインメント。ゲームのようにスリリングな、数学の世界を楽しみましょう。

『Yの箱船』©天樹征丸・石蕗永地 / 小学館 1巻P038_039より
数真は、奇妙な部屋に閉じ込められてしまいました。この不思議な空間には、彼と同じような少年少女4人が集められており、さらに弓月悟という年長の少年が姿を現します。悟は数週間前からここに閉じ込められている“ベテラン”で、ここに集まった者は命を懸けたサバイバルゲームに巻き込まれたのだと説明します。
この“セカイ”から脱出するためには、何者かが出題する数学クイズを制限時間内に解かなければなりません。いくつか用意された扉から、正しい答えが記されたものを選択。そこから次の部屋に移動することだけが、生き残る唯一の道だと言うのです。悟は、誤った扉を選んで落命した者を見てきたと言います。
最初の問題は「黒と白は太陽である 日食が教えてくれるだろう イカロスのように墜ちたくなき者は 月を目指すべきであると」というもの。各扉の奥に待ち受ける、部屋の床に描かれた幾何学模様の面積を計算する課題でした。数真は、文字をはじめとする記憶を失っていたことから「足手まとい」と言われますが、タイムリミット直前に1枚の扉を叩いて示します。スリル満点の展開をコミックでお楽しみください。
数学に親近感を感じさせるマンガ作品
数学が苦手な人でも楽しく読める、数学マンガを紹介しました。『数字であそぼ。』は、数学で挫折した学生の視点で描かれる作品です。勉学に思い悩む主人公の姿に、共感を覚える人も多いことでしょう。
『はじめアルゴリズム』『数学ガール』には、より高度な数学を求める主人公たちが登場します。しかし、作中で紹介される数学の内容が分からなくても問題ありません。数の世界に秘められた“不思議”や“神秘”に気づくことができれば、数学を楽しむ端緒となるはずです。
『数学ゴールデン』『Yの箱舟』では、数学マンガに“格闘(バトル)”の要素を持ち込んでいます。自分の限界と闘うキャラクターたちに、エールを贈りながら読みましょう。マンガはあくまでエンターテインメント。読むことで数学を好きになれれば幸いですが、いずれも読者を夢中にさせる魅力的な作品です。まずは楽しんで読んでくださいね!
執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 *文中一部敬称略