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【推しマンガ】尾守つみきと紡ぐ、普通じゃない日常 人狼と人間によるボーイミーツガール物語

尾守つみきと奇日常。 著者:森下みゆ

この物語は、人ならざるものと人間が共生する世界で紡がれる、ニューノーマルな青春グラフィティです。

幻人と人間が通う景希高校を舞台に、ウェアウルフの少女・尾守(おがみ)つみきさんと、人間の少年・真層友孝(しんそう ゆたか)くんの普通じゃない日常が描かれます。

彼女と一緒にいると、なんだか心がいつもより騒がしい!? 多様性の時代と言われる今こそ読みたい、幻人と人間のボーイミーツガールな物語を紹介します。

幻人と人間が共生するニューノーマル時代

『尾守つみきと奇日常。』は、新進気鋭のマンガ家・森下みゆのデビュー作。「週刊少年サンデー」(小学館)で、2023(令和5)年から連載スタートしています。

2024(令和6)年、KADOKAWAとブックウォーカーの主催による「次にくるマンガ大賞 2024」コミックス部門で第3位を受賞。ブレイクが期待される作品として、大きな注目を浴びています。

本作の主人公の一人は、ウェアウルフこと人狼です。半狼の獣人の伝説は世界中で見られますが、中でもヨーロッパには変身譚が伝わっています。人の姿で社会に潜み、月や丸い物を見ると狼に変身する物語です。小説や映画では、恐怖の対象として描かれてきた人狼ですが、本作にはモフモフの耳としっぽを持つ可愛い女子高生として登場します。

人ならざるもの。彼らが伝説とされ、幻想とされた時代も昔のこととなりました。インターネットに投稿された動画をきっかけに、人間は彼らの存在を認知し、“幻人”と呼ぶようになったのです。

幻人は人間社会に交わるようになって、学校にも姿を見せるようになりました。私立景希高校は、幻人が最も多く通う学校。真層友孝くんは、この高校に入学した人間の少年ですが、彼が通学に 2時間かかるこの高校を選んだのには、ちょっとした理由がありました。

友孝くんは優しい性格で、周りの空気を読むのが得意。しかし人間関係に気を遣い過ぎて、自滅してしまった苦い経験があるのです。友だちに合わせ過ぎたことで、自分の気持ちが分からなくなってしまった友孝くん。幻人のいるこの高校で、うまく友だちを作ることができるのでしょうか。

尾守さんと友孝くんの出会い

期待と不安を胸に登校した友孝くん。靴箱のロッカーの前で、一人の少女を見かけます。それは、彼と同じクラスに在籍するウェアウルフの尾守つみきさんです。

ウェアウルフと言えば怪力で、満月の夜には狼に変身すると言います。「…きっと特異な体質は 人間社会では生き辛いはず」「ボクなんかよりも ずっと…」。友孝くんは、心の内でつぶやきます。まだ出会ったばかりの尾守さんですが、心配になってしまったのです。

尾守さんは不思議なことに、ロッカーの扉を捻じ曲げようとしていました。金属製のものですが、ウェアウルフの怪力で歪んでしまいます。尾守さんの靴は大きくて、人間仕様のロッカーに収まり切らないことが分かりました。彼女の足は、狼独特の鋭い爪も含めると 30センチ。人間にとっては規格外のサイズですが、尾守さんは人の目など意に介さないようです。

友孝くんは、ロッカーと格闘する尾守さんを見かねてアドバイスをしました。尾守さんの靴は、ロッカーの上に置き場所を作り、教師にそれを伝えておけば大丈夫だと教えたのです。

尾守さんは、「キミ 賢いねぇ!」と友孝くんの肩を叩こうとしましたが、彼は動揺してビクッとしてしまいます。友孝くんは、ウェアウルフの怪力を恐れていたわけではありませんが、尾守さんに不快な思いをさせてしまったのでしょうか。友孝くんは慌てて口を開いて、尾守さんに「たたいてくれない!?」と頼みます。

唐突過ぎる頼みに、尾守さんはビックリ。友孝くんは、自分が他人との距離を測りかねて悩んでいることを告白します。尾守さんを怖がったわけではない証明として、肩をたたいてほしいと言うのです。尾守さんは力加減をして、友孝くんをたたいてくれました。友孝くんは、肩にじんじんとした痛みを感じながら、まんざらでもない様子。二人の出会いが、読者をホッコリさせます。

気さくでマイペースな尾守さん

尾守さんは天真爛漫でパワフル。モフモフの耳としっぽが可愛い美少女として、入学早々クラスの人気ものとなっています。彼女は気さくな性格で、ウェアウルフならではの困りごとを人間の友だちに話してくれました。

尾守さんの爪は鋭いため、靴下はすぐに破けてしまうと言います。景希高校の制服には、しっぽのある獣人用のスカートがありますが、尾守さんは人間用のスカートが好み。その代わり、通販サイトで“しっぽ固定ベルト”を買って対策していると言うのです。

尾守さんはサービス精神旺盛で、穴の開いた靴下や、しっぽ固定ベルトまで見せてくれました。友孝くんは、自分の性質や体質を気にしない彼女の強さに感心します。

獣人の実態を教えてくれる尾守さん。彼女に興味津々の生徒が、次々と質問を浴びせます。「やっぱ 満月の夜は狼になっちゃうの?」「人間の肉食べるとかは? さすがにデマ?」。

かなり踏み込んだ質問が飛び出して、友孝くんは心配になってしまいました。しかし尾守さんは「今は食べないよ!」「お肉は大好きだけど!」と、どこまでも天真爛漫です。

しかし、ある生徒が不意打ちで満月の写真を見せたところ、尾守さんの様子が急変します。しばらくの間、何かをこらえていた尾守さん。しかし、我慢しきれずに「あおーん…」と遠吠えしてしまったのです。満月を見ると吠えてしまう彼女の噂は、他のクラスにも拡大。尾守さんは、学校中の人気ものとなったのです。

人との違いが、喜びを与えてくれる

『尾守つみきと奇日常。』は、天真爛漫な尾守さんと、人間関係に迷える友孝くんの凸凹コンビが主役です。二人には、幻人と人間という違いがあるだけではなく、性格も真逆なところに注目しながら読んでみてください。

人は、みんな違って当たり前。自分にとって当たり前の日常も、他者にとっては奇妙なものかもしれません。しかしそのギャップが、時に笑いや喜びを与えてくれるのです。

他人に合わせようとして、自分の気持ちが分からなくなってしまった友孝くん。尾守さんは、彼の気持ち探しを手伝ってくれることになりました。こうして正反対な二人による、胸が騒ぎ、心が躍る日々が始まったのです。尾守さんと友孝くんの普通じゃない日常を、ドキドキしながら見守りましょう!

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 *文中一部敬称略

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