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【推しマンガ】人類の弱点は植物にある! 今話題の最先端科学クライムサスペンス!!

植物病理学は明日の君を願う 著者:竹良実

人類の摂取カロリーの約8割を、たった14種類の植物性食物が占めています。もし農作物が植物病に感染したら、我々の命はあっけなく危機にさらされてしまうのです。

人類の歴史は、植物病との闘いの連続でありました。現代社会では、農業テロの脅威が懸念されています。病の原因となる細菌やカビ、ウイルスは、この世の中にあふれていますが、植物病理学者の叶木(かのうぎ)は科学の力で闘って、その裏に潜む真実を暴きます。

グローバル化が進んで、植物病の脅威が増した今だからこそ読みたい、クライムサスペンスの巨編を紹介します。

ミカン樹の枯死、20億円の損害を防げ!

竹良実(たけよし みのる)は、2013(平成25)年に第265回スピリッツ賞の最高賞「スピリッツ賞」(小学館)を受賞してデビュー。受賞作の『地の底の天上』は、小学館によるマンガ情報サイト「コミスン」などで無料公開されたことがありますが、アクセス過多によるサーバーダウンが起きるほど、大きな反響を呼んでいます。

デビュー後の竹良は、歴史大作『辺獄のシュヴェスタ』、SFロボットアクション『バトルグラウンドワーカーズ』などの話題作を続々連載。『植物病理学は明日の君を願う』は、そんな実力派が手掛ける期待作なのです。

「週刊ビッグコミックスピリッツ」(小学館)で、2022(令和4)年から連載している本作は、植物病理学者を主人公としています。植物の病害を診断し、治療する植物病理学者は“植物のお医者さん”と言うべき存在。本作は、私たちの食生活を支えてくれる職業にスポットライトを当てて各界の注目を浴びているのです。

「怪奇事件です!!」。東京にある帝央大学に、緊急の電話が入りました。千両久磨子(せんりょうくまこ)は、植物病理学者・叶木准教授の新米秘書。事件のあらましを伝えるため、植物病理学実験室に駆け込もうとしましたが、叶木に締め出されてしまいます。

「君が頭にツツジ類褐斑病菌(かっぱんびょうきん)をのせているのが見えたからだ」「どうせ、大学西側の生け垣でも突っ切ったんだろう」。叶木は推理を展開します。彼の言葉は的確で、久磨子の頭に付いていた葉には、褐色の病斑が現れていました。

この実験室では、植物を病気から守るための研究が行われています。たとえ枯れ葉一枚であっても、そこに付いている雑菌が持ち込まれることを避けなければなりません。しかし事態は急を要していました。久磨子はドア越しに叫びます。「静岡でミカンの木が謎の大量死…」「このままじゃ 20億円以上の被害が出るそうです!」。

植物病は人類を死に追いやる死神

千両久磨子の訴えを聞いて、叶木准教授は実験室の扉を開けました。そして、19世紀アイルランドで起きた「ジャガイモ疫病」の話を始めます。

当時イングランドの植民地だったこの地では、ジャガイモは人々の命をつなぐ唯一の糧(かて)でした。しかし 1845年、その“命の畑”は目に見えない軍勢の手に落ちてしまったのです。ジャガイモを襲った病の元凶となったのは卵菌の一種。 100分の1mmにも満たない微生物ですが、島中の畑を枯らして、アイルランドを餓死者で埋め尽くした、悪魔のような菌でした。

人間と植物病との闘いは、今もまだ終わっていません。叶木は、現在も4千種を超す植物病が農作物の 3分の1を収奪していると解説します。人類は、捕食者として生態系の頂点に立ちましたが、食料を奪い合う競合者がいることを忘れてはならないのです。疫病は、スキップの速さで拡大します。死神のスキップを追い抜くため、叶木と久磨子は静岡に急ぎます。

叶木准教授と千両久磨子の二人は、静岡県の黒羽村に到着。地元有力者が営む金丸農園を訪れると、ミカンの生産者たちが集まって騒然としていました。農園主の金丸隆貴が、事情を説明します。全ては、この農園で働いていた男性の遺品から、木箱と手紙が見つかったことで始まりました。

その手紙には、農園宛てに届いた差出人不明の木箱から、恐ろしい勢いで虫が飛び出してきた経緯が書かれていました。金丸は、この木箱こそ村に災厄をもたらした“パンドラの箱”だと言いますが、叶木は舌鋒鋭く反論します。正体不明の物を持ち込むべきではないのはもちろん、この農園は不衛生で、殺虫剤散布も杜撰だと言うのです。

人類は植物を食料とするため、数千年にわたり品種改良を進めてきました。叶木は、「栽培とは、植物と人類の契約だ!!」と持論を展開します。この騒動の被害者は農園主ではなく、劣悪な環境に置かれたミカン樹の方だと憤るのです。著者の竹良実は、叶木に力強い言葉を語らせることで、彼の植物病理学に懸ける熱意を読者に伝えています。

ミカン樹をめぐるクライムサスペンス

叶木准教授は非情にも見えますが、生産者の苦しみも深く理解しています。彼は黒羽村のミカン農園を一か所ずつ回り、地道な検査を続けました。広範囲にわたって調査することで、感染の広がり方や時間の経過が分かってくると言うのです。

その晩、黒羽村のミカン生産者が集められて、叶木の説明が行われました。サンプルのゲノム解析はこれからですが、「カンキツグリーニング病」という見立てが下されたのです。叶木は、この村のミカン樹は全て伐採、焼却しなければならないと宣言し、生産者を悲嘆にくれさせました。

この病は、葉を黄色く枯死させる激烈な病状が特徴で、ブラジルでは4年間で80万本の木が失われたことがありました。アメリカ政府が、農業テロへの使用を警戒している病原体の一つ。日本では南西諸島でのみ発生しますが、静岡でなぜ被害が出たのでしょうか。“例の木箱”が原因かは分かりませんが、叶木は人為的に持ち込まれたものと見て間違いないと判断しました。

カンキツグリーニング病を媒介するのは、「ミカンキジラミ」という昆虫です。12℃付近で活動を停止する虫のため、静岡で越冬することができないはず。叶木准教授は、何者かがミカンキジラミを毎年定期的に持ち込んでいる可能性に言及します。話は、恐ろしいクライムサスペンスの様相を呈してきました。

しかし今は犯人探しより、ミカンキジラミの発見を急がねばなりません。台風の進路が変更し、東海地方を直撃することになりました。暴風雨がミカンキジラミを拡大してからでは遅いのです。急ぎミカン樹を伐採するためには、ゲノム検査の結果を待たず、ほかの証拠を提示しなければなりません。

叶木と千両久磨子は、深夜に昆虫採集を始めます。二人は夜が明けてきた頃にやっと、お目当ての虫を見つけることができました。叶木は捕虫網でミカンキジラミを捕らえましたが、勢い余って崖に飛び出してします。彼を助けるため、目一杯手を伸ばした久磨子。叶木の命を救うべきか、ミカンキジラミの確保に努めるべきか逡巡します。

この学問は、まさに献身に値する!!

叶木准教授の命運やいかに!? 物語の続きは、コミックスでお楽しみください。ミカン樹を大量死させた意外な犯人の姿、そして事件の裏に隠された悲しいドラマに、衝撃を覚えるはずです。

植物病理学の研究は地道なものですが、私たちの食生活に大きく関わっています。叶木のセリフの中に、「この学問は まさに献身に値する!!」という言葉がありますが、植物病理学は人類の未来に貢献するダイナミックな学問なのです。

本作は、植物病理学者を題材にした“職業マンガ”とも言える作品。同時に、最先端の科学で謎を解き明かす“クライムサスペンス”でもあります。頭脳明晰で、名探偵ばりの推理を展開する叶木准教授。素直で可愛らしい千両久磨子。愛すべき植物探偵コンビの活躍を見守りましょう。

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 *文中一部敬称略

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