【推しマンガ】東村アキコの小学生時代が舞台! 南国・宮崎が舞台の昭和コメディ!!New

1985(昭和60)年の宮崎県へようこそ! この物語の舞台は、東国原英夫知事の誕生も、マンゴーブームもまだ起きていない時代の宮崎です。
『かくかくしかじか』以来8年ぶりに、東村アキコが半自伝作品に挑戦! 今回は著者の小学生時代を題材に、宮崎に暮らす小学4年生・林アキコと彼女を取り巻く人々の日常を描いています。
笑って泣いて、転んで膝すりむいて――アッコこと林アキコの毎日は、大事件の連続です。アッコ選手、今日はなんしよっと!? 南国の太陽の下で繰り広げられる、抱腹絶倒の昭和コメディを紹介します。
今注目の東村アキコ半自伝コメディ
『海月姫(くらげひめ)』『東京タラレバ娘』で人気のマンガ家・東村アキコは、南九州の宮崎県出身。その小学生時代を題材にしたマンガが、 2023(令和5)年から「ビッグコミックオリジナル」で連載されている『まるさんかくしかく』です。
著者はこれまでにも、大学卒業後の生活を題材にした『ひまわりっ ~健一レジェンド~』を「モーニング」(講談社)に連載。そのほか、絵画教室の思い出からマンガ家になるまでを描いた『かくかくしかじか』を「Cocohana」(集英社)に連載しています。
『かくかくしかじか』は、2015(平成27)年に書店員やマンガファンの選考による「マンガ大賞2015」を受賞したほか、第19回文化庁メディア芸術祭マンガ部門大賞を受賞。 2025(令和7)年5月に実写映画の公開が決まり、大きな話題となっています。

『まるさんかくしかく』©東村アキコ / 小学館 1巻P006より
東村アキコの半生に注目が集まる中、お薦めしたいのが『まるさんかくしかく』という作品です。宮崎の穏やかな風土で、のびのびと育った東村アキコ。その小学生時代を題材にした作品をのぞいてみましょう。
アッコこと林アキコは、宮崎県に暮らす小学生。やがて宮崎は、東国原英夫知事の誕生や、マンゴーのブームで沸き立つことになりますが、そんな未来を露知らずアッコは平和な日々を過ごしていたのです。まだ 10歳のアッコにとって、宮崎は世界の中心でした。
学校の帰り道、アッコは4年3組の宮本さんと一緒に学校の噂話を始めます。アッコの4年4組は、特に事件も起こらず平和な1日を過ごしました。しかし宮本さんのクラスでは、黒木さんが泣いてしまったと言うのです。
チキン南蛮は宮崎のソウルフード!
事件は給食の時間に起こりました。当時、テレビの人気バラエティ番組の影響で、竹山道雄の小説『ビルマの竪琴』を題材にしたコントが流行していました。男子がそれを真似したことで、黒木さんが牛乳を噴き出してしまったと言うのです。彼女が恥ずかしがって泣いたことから、先生が怒って大騒ぎに発展しました。
小学生にとっては、給食中のハプニングも一大事なのです。アッコは給食の話をしているうちに、なんだかお腹がすいてきました。宮本さんに食事の話題を振ると、なんと彼女は今晩“おぐら”に連れていってもらうと言います。
“おぐら”は宮崎県民が愛してやまない超老舗洋食レストラン。宮崎のソウルフードである「チキン南蛮」の元祖と言われる名店です。宮崎市内には本店と瀬頭(せがしら)店という旗艦店がありますが、そのほか各地に“味のおぐらチェーン”に加盟する店があり、“コック帽のおじさん”のイラストがトレードマークとなっていました。

『まるさんかくしかく』©東村アキコ / 小学館 1巻P008_009より
しかし当の宮崎県民も、“味のおぐらチェーン”の実態や、“コック帽のおじさん”が何者なのかを知らない人がほとんどです。何十年もの間、それを追求しない大らかさが、宮崎の県民性なのだと著者は解説しています。東村アキコの地元愛あふれる解説に、宮崎県を訪れたことのない読者も思わずニンマリしてしまうことでしょう。
いまや全国的に有名になったチキン南蛮。鶏肉を小麦粉、溶き卵の順に絡めて油で揚げたものを、南蛮甘酢ダレに浸して、タルタルソースをかけた料理です。“おぐら”のチキン南蛮は、カリカリの揚げ衣に絡んだ甘酸っぱいタレと、卵たっぷりのタルタルソースが病みつきとなる一皿。“おぐら”の話を聞いたアッコは、チキン南蛮が食べたくなってしまいました。
アッコは、お母さんにチキン南蛮を作ってほしいと頼みますが、お母さんは鹿児島の出身です。さらに熊本のとんかつ屋で働いていたため、その店のチキン南蛮は作れると言います。母が知るレシピはタルタルではなく、マヨネーズとケチャップを混ぜたソースをかけると聞いて、アッコは「そんなの チキン南蛮じゃない~っっ」と叫びます。
さらに拡大するチキン南蛮騒動!!
お母さんは、晩ご飯の献立を“きびなご揚げ”と“さつま汁”に決めていました。チキン南蛮を諦めきれないアッコに対し、お父さんのケンイチが贅沢を言ってはならないと諭します。「うちのお母さんの料理は 『ああ無情』のジャン・バルジャンが牢獄で食べてた ジャン・バルジャンスープに比べたら 大変なごちそうですよ」と言うのです。
東村アキコの父親である健一氏は、『ひまわりっ ~健一レジェンド~』にも描かれていますが、かなりユニークな方のご様子。本作でも天然ぶりを発揮して、お母さんが作ったお味噌汁を“ジャン・バルジャンスープ”と呼んでその逆鱗に触れています。“おぐら”のチキン南蛮をきっかけに、お母さんを怒らせてしまいました。この騒動、どこまで拡大するのでしょうか!?

『まるさんかくしかく』©東村アキコ / 小学館 1巻P016より
その晩のこと。同じクラスの斉藤くんから、アッコに電話がかかってきました。斉藤くんは、「宮本さんが おぐら瀬頭店に行ったらしいね。」と、わざわざ電話してきたのです。
斉藤くんのお父さんが、“おぐら”にキュウリを配達した時に、宮本一家がチキン南蛮を食べているのを目撃。その話を聞いた斉藤くんは、ベロがチキン南蛮の味になってしまったとアッコに訴えます。“いやしんごろ”とは、南九州地方の方言で“食いしん坊”のことを言います。斉藤くんの“いやしんごろ”っぷりが、チキン南蛮騒動に拍車をかけてしまいました。
斉藤くんの家は、地元でも有名な豪農です。彼のお父さんは、キュウリはお金を生む“緑のダイヤ”と呼んでいると言います。そんなお金持ちなら、“おぐら”に連れていってもらえるはず。しかし斉藤くんは、どうしても今すぐにチキン南蛮を食べたいと言うのです。斉藤くんの訴えに、アッコは「私だって今食べたいよ!!」と涙ながらに応えます。
読者の好奇心をくすぐる宮崎ネタ満載!!!
アッコは布団に入りましたが、チキン南蛮を思い浮かべるとなかなか寝付けません。宮本さんとその家族は、あの甘酢とタルタルでびしゃびしゃのチキン南蛮を、ナイフで切って食べたのでしょうか。斉藤くんの家は、明日にでも“おぐら”に行くかもしれません。
アッコが“おぐら”に連れていってもらえるのは、いつのことになるやら――。しかしこのチキン南蛮騒動は、思わぬかたちで終幕を迎えることになります。お話の続きはぜひコミックスでお楽しみください。
宮崎のローカル情報と、懐かしい昭和の思い出満載の本作ですが、元ネタが分からない方にも楽しめる作品です。食べ物では今回紹介した「チキン南蛮」のほか、「青島のういろう」「鯨ようかん」など、他県出身者にとっては未知の宮崎グルメが登場します。読者の好奇心をくすぐる愉快な小学生日記。アッコと一緒に笑って泣いて、楽しみながら読んでくださいね!
執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 *文中一部敬称略