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あなたの読書欲をかき立てる、文豪が主役のマンガ特集!!

現在、私たちが当たり前のように読み書きしている日本語。その形式ができ上がるまでには、文筆家たちによる創意と工夫の歴史がありました。

西洋の文学に影響されて、文筆家たちは新しい文体を模索します。その過程で、さまざまな文学作品の名作が誕生していきました。近代日本文学の礎となった大家を、人は尊敬の念を込めて“文豪”と呼んでいます。

それまでの通例を破り、名作を残した文豪たち。作品を生む苦しみもあってか、酒や女性問題、借金、自殺など、私生活で破天荒な逸話を残した作家も少なくありません。その破格の生き方にインスパイアされた、マンガ作品を紹介しましょう!

イケメン文豪、異能力で事件を解決!

孤児院を追われた青年・中島 敦は、とある自殺志願の男を助けます。男の名前は太宰 治。異能力集団「武装探偵社」の探偵で、“人食い虎事件”を調査していたのです。

福沢諭吉が主宰する武装探偵社が、軍や警察にも頼れない危険な依頼を解決します。所属するのは、国木田独歩、与謝野晶子、江戸川乱歩、宮沢賢治、谷崎潤一郎ら能力者たち。敵対するのは、横浜の港を縄張りにするポートマフィアの芥川龍之介で――!?

現代人にとって少しハードルが高くなりがちな純文学を、バトル・アクションコミックとして新生させた人気作。『文豪ストレイドッグス』の魅力を紹介します! 

文豪ストレイドッグス
文豪ストレイドッグス 原作:朝霧カフカ 著者:春河35

『文豪ストレイドッグス』は、「ヤングエース」(KADOKAWA)が誇るヒット作。2013(平成25)年に連載開始した本作は、2024(令和6)年時点でコミックス25巻を刊行、テレビアニメは第5シーズンまで放送されている人気シリーズです。

ノベライズ版の刊行や劇場版アニメの製作もなされ、メディアミックス効果もあって大きな話題を呼んでいます。

朝霧カフカが手掛けるストーリーは、文豪が残した逸話や文学作品の魅力を盛り込みながら異能力バトルとして展開。それをマンガ家でありイラストレーターの春河35が、スタイリッシュで華麗なアクションとして描き出しています。

孤児院を追放された少年・中島 敦は、食べるものも寝る所もなく横浜を放浪していました。鶴見川を臨みながら「生きたければ 盗むか奪うしかない――」と考えた敦。しかし彼の前に現われたのは、盗みの標的となる人物ではありませんでした。

ふいに男が現れて、鶴見川に飛び込んだのです。敦は急ぎ川に入って男を救出。しかし男は「――助かったか」「……ちぇっ」と不満げです。男の名は太宰 治。彼に同行していた国木田独歩という人物は、太宰が“自殺嗜癖(マニア)”であること、さらに仕事中に突然川に飛び込んでしまったことを説明します。

太宰と国木田は異能集団「武装探偵社」の探偵で、街を荒らす“人食い虎”の捜索をしていました。敦は、太宰と国木田の虎探しを手伝うことになりますが――!? 本作の主人公は、名作『山月記』を残した中島 敦をモチーフにしています。唐代を舞台に夢に破れた男を描く物語。その数奇な運命をストーリーに盛り込んで、衝撃的な展開を繰り広げます。

菊池 寛の銅像が語る衝撃のエピソード

とある老舗の出版社では、創業者・菊池 寛の銅像が夜な夜な動き出しては若い編集者を捕まえて、文豪のエピソードを聞かせてくるとかこないとか――。

文芸雑誌「文學界」(文藝春秋)で連載された人気コミックを紹介します。国語の教科書に載るような文豪たちは、作品の通り素晴らしい人間だったのでしょうか。

良くも悪くも人間味あふれる文豪たちの人間像に、「有名すぎる文学作品をだいたい10ページくらいの漫画で読む。」シリーズで知られるマンガ家・ドリヤス工場が迫る一作。その中から太宰 治のエピソードをのぞいてみましょう。

文豪春秋
文豪春秋 ドリヤス工場

小説家、劇作家、ジャーナリストなど、幅広い活躍をしたことで知られる菊地 寛。1923(大正12)年には文藝春秋社を創設。芥川龍之介賞、直木三十五賞、菊池 寛賞を創設し、作家の育成と文芸の普及に努めました。

本作は、文藝春秋社に飾られている菊地 寛像が語る昔話を、オムニバス形式に紡いでいます。登場するのは、太宰 治、中原中也、川端康成、檀 一雄、坂口安吾、谷崎潤一郎など、総勢30名の文豪たちで、いずれも日本の文壇史を飾った大家ばかり。文芸専門雑誌の連載作品ならではの選出となっています。

描くのは、水木しげる風の絵柄で知られるマンガ家・ドリヤス工場。一般読者から見ると奇人変人と思われても仕方のない文豪の素顔を、ユーモラスかつシニカルな筆致で描いています。

舞台は、とある老舗の出版社。調べものをしていた編集者は、部屋に飾られた菊池 寛の銅像に話し掛けられます。彼女が太宰 治と芥川賞について調べていることを告げると、社の創設者はじきじきに事の子細を教えてくれたのです。それは歴史の目撃者が語る、太宰 治の意外な姿――。

1935(昭和10)年、太宰 治はまだ駆け出しの作家でしたが、自殺を図ったり、入院中に鎮痛剤の中毒になるなど、乱れた私生活が問題となっていました。その年の8月、第一回芥川賞に太宰の『逆行』が候補として選出されますが落選。「作者目下の生活に厭(いや)な雲ありて 才能の素直に発せざる憾(うら)みあった」という川端康成の選評にショックを受けます。

以前、佐藤春夫に評価されたことを喜んでいた太宰 治。芥川賞欲しさのあまり、佐藤に長さ4mもの手紙を書いてしまいます。本作では菊地 寛の銅像の弁を借りて、芥川賞に固執する太宰 治の姿を描出。芥川龍之介のファンだったことから、“受賞沼”にハマってしまった太宰 治。ドリヤス工場はその人間じみた姿を描き、読者に共感させています。

吾輩ハ夏目漱石デアル

文豪、夏目漱石没から100年――漱石は現代日本に転生し、かわいい女子高生になっていました。

前世の記憶を受け継ぎながら、朝日奈璃音(あさひな りおん)として生まれ変わった漱石は、今生では健康を愛し、ストレスフリーな人生を生きようと決意します。

しかしそう願っても、漱石の才覚と輝くオーラは今世でも健在です。何かと目立つ漱石はひっそり生きるのも難しくて――!? 個性豊かな高校生に囲まれて、元・文豪が織り成す知的なスクール・コメディを紹介します。

JK漱石
JK漱石 著者:香日ゆら

夏目漱石、本名・夏目金之助は1867(慶応3)年生まれ。明治から大正時代にかけて活躍した小説家、英文学者です。雅号の漱石は、負け惜しみの強いことを表す「漱石枕流」という言葉が由来です。

第一高等中学校時代に正岡子規と出会い、俳句の手ほどきを受けた漱石。帝国大学(現・東京大学)大学院卒業後は松山、熊本で教鞭を振るいました。2年間の英国留学を経たのち、小説『吾輩は猫である』を執筆。作家としての道を歩み始めます。

西洋文学の影響を受けた漱石は、「言文一致体」と呼ばれる日常的な話し言葉を用いた文体を模索。その功績から、日本近代文学の父と呼ばれています。代表作として、教員時代の体験をもとに書かれたと言われる『坊っちゃん』のほか、『三四郎』『それから』『こゝろ』などが知られています。

朝日奈璃音は、聖菫女子高等学校の一年生。図書委員を務める彼女は、同じ高校に通う少女・早乙女 真からある相談を受けます。早乙女は、夏目漱石の作品を読んでみたいと言うのです。彼女の幼馴染みであるゆうちゃんは、漱石文学の愛好家。早乙女は彼とうまく話しができなくなったため、共通の話題を持ちたいと言うのです。

朝日奈璃音は、夏目漱石のことならお手のもの。得意満面で早乙女の相談を引き受けます。「なぜなら 私が夏目漱石だからである」と、心の内でつぶやくのです。当世に生まれて早や15年、余人には理解され難いことですが、璃音は夏目漱石としての記憶を引き継いで生きています。璃音は漱石譲りの慧眼の持ち主。ゆうちゃんの本音を見抜きます。

ゆうちゃんは早乙女に好意を寄せており、彼女を女性として意識するあまり、話しができなくなっていたのです。璃音は、ゆうちゃんを“代助(だいすけ)”のようだと評し、彼にアドバイスを授けます。代助は漱石の小説『それから』の主人公で、優柔不断な性格が災いして好きな女性を親友に譲った男。女子高生となった漱石が、洒脱な語り口とともに男子高生に説教する様は、読者をクスっと笑わせてくれます。

宮沢賢治が食したグルメを描く

郷里の岩手県で理想郷・イーハトーヴを追求し、家族や農学校の教え子をこよなく愛した宮沢賢治。その波乱万丈な人生についてご存じでしょうか。

宮沢賢治が残したのは、『銀河鉄道の夜』『風の又三郎』などの童話や、『春と修羅』などの詩集の数々。名作にインスパイアされたエピソードを、グルメ・マンガの名手・魚乃目三太が美味しい食卓風景とともにお届けします。

ハヤシライスにアイスクリーム、サイダーに天ぷらそば――宮沢賢治が愛した大正グルメを紹介しましょう。感動の伝記グルメ・ロマン開幕です。

宮沢賢治の食卓
宮沢賢治の食卓 魚乃目三太

食べることは生きること――魚乃目三太は、人の営みの根源である“食”をテーマに感動の物語を紡ぐ名手です。2015(平成27)年より「ヤングチャンピオン烈」(秋田書店)などで連載中の『戦争めし』では、戦時下の食事情を描いて大きな反響を得ています。

『宮沢賢治の食卓』は、グルメ専門マンガ誌「思い出食堂」(少年画報社)で2014(平成26)年から2020(令和2)年に連載した作品です。懐かしい日本の“めしの記憶”と、宮沢賢治の生涯を紹介する伝記グルメ・マンガに仕上がっています。

大正から昭和初期にかけて活躍した宮沢賢治。『雨ニモ負ケズ』に「一日ニ玄米四合ト味噌ト少シノ野菜ヲタベ」という一節を残したことから、“病弱で質素”“我慢の人”などのイメージを持たれています。しかし実際の彼は、いかなるものを食していたのでしょうか。魚乃目三太は “食”にまつわる逸話を集めて、新たな宮沢賢治像を編み出しています。

1921(大正10)年、妹・トシの病気の知らせで、下宿先の東京から故郷の岩手県花巻へと舞い戻った宮沢賢治。稗貫(ひえぬき)農学校(後の花巻農学校)で教職に就いています。賢治は仕事を終えるとトシの見舞いに行って、自らが創作した話を彼女に語り聞かせるようになりました。

ある日、賢治の教え子・沼田少年が、学校を辞めて東京に働きに行くことになりました。それを聞いた賢治は、そば屋でかしわ南蛮そばをふるまって彼を励まします。

数日後に同じそば屋を訪れた賢治は、東京から来た二人の狩人がかしわ南蛮そばを食い散らかしているのを見かけます。その傲慢さは、彼が妹のトシに語り聞かせていた『注文の多い料理店』に登場する狩人たちにそっくりでした。病気の妹や農学校の教え子を愛した宮沢賢治。魚乃目三太は彼の人間像を、かしわ南蛮そばの逸話を描いて浮かび上がらせています。

泉 鏡花が怪異な事件に挑戦!

世紀末に揺れる明治日本の文壇に、一人の幻想作家が登場しました。『高野聖』『天守物語』などで知られる泉 鏡花です。彼の耽美でロマンティックな作風は、谷崎潤一郎、川端康成、三島由紀夫ら多くの作家に影響を与えたと言われています。

泉 鏡花を謎解き役に仕立てて、怪異な事件の解決に挑む「鏡花あやかし秘帖」シリーズ。橘みれいによる人気ライトノベルを、『百鬼夜行抄』の今 市子がコミカライズしています。

雑誌「幻想倶楽部」の編集者・香月真澄が、天才小説家・泉 鏡花の力を借りて怪奇事件の謎解きに挑戦! 今 市子が描く、美しくも恐ろしい帝都東京にあなたをご案内します。

鏡花あやかし秘帖
鏡花あやかし秘帖 今市子/橘みれい

1882(明治15)年、泉 鏡太郎――後の鏡花は、幼くして母を失いました。亡母への思慕は、後の彼の作風に強い影響を与えたと言われています。

1891(明治24)年、尾崎紅葉に入門した鏡花は『夜行巡査』『外科室』などの作品を発表し、一躍脚光を浴びました。『照葉狂言』以降は浪漫主義的な作風に転じ、幻想的な作品を発表するようになります。

『高野聖』は、鏡花が作家としての地歩を築いた代表作。妖艶な美女が住まう孤家で僧侶が体験した幽玄世界が描かれています。そんな幻想文学の大家・泉 鏡花をモデルにしたミステリーが「鏡花あやかし秘帖」シリーズです。橘みれいのライトノベルとして発表された本作は、今 市子の美麗な作画によって新しい命を吹き込まれています。

舞台は明治時代の帝都東京──。雑誌「幻想倶楽部」編集部に入社した新人・香月真澄は、憧れの作家・泉 鏡花の担当を任されることになりました。幻想的な作風で人気の鏡花は容姿端麗で、不思議な力を携えた人物。

ある日、香月は平安時代を代表する陰陽師・安倍晴明の末裔である安倍時成の屋敷を訪れます。この家にあるのは、900年間守られてきた宝物の数々。しかし娘の春江は、父の時成に隠れて門外不出の家宝の一つを持ち出します。その家宝は、木の小箱の中で生き物のようにうごめいていました。香月は、恐怖に震える春江を連れて鏡花に助けを求めます。

小箱の中にあったのは美しい琥珀で、何者かの魂が封じられていました。霊感に長けた鏡花は、この魂が記憶を失って苦しんでいることを見抜きます。果たして、この石は安倍晴明が残した“魔物を封じる石”なのでしょうか。迷える魂と向き合う泉 鏡花の姿が、幻想的な筆致で描かれます。

文豪に親近感を感じさせるマンガ作品

「メロスは激怒した」「吾輩は猫である。名前はまだ無い」――名作文学の一節は、読む者の心の奥底に残って輝きを放ち続けます。不朽の作品を残した文豪ですが、時に普通の人と変わらぬ素顔を覗かせて、私たちに親近感を感じさせてくれるのも魅力の一つ。

『文豪ストレイドッグス』『文豪春秋』は、常識を超えた文豪たちのエピソードを、マンガのキャラクター作りに役立てています。鋭い観察眼で、近代的自我の在り方を模索した夏目漱石。『JK漱石』では、現代に転生した漱石が現代高校生に指南する様が、ユーモラスに描かれています。

『宮沢賢治の食卓』『鏡花あやかし秘帖』は、宮沢賢治と泉 鏡花の作風を生かしながら、その創作世界にアプローチしています。実際の文豪たちも、こんな感じだったのかもしれない――と想像しながら読んでみてください。あなたの読書欲をかき立ててくれる文豪マンガ、おススメです!

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 文中一部敬称略

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