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【推しマンガ】北国に響く愛憎のセレナード! 共犯者となった少女の絆を描くサスペンス!!

最果てのセレナード 著者:ひの宙子

小田嶋 律の生家は、ピアノ教室を営んでいます。しかし律はピアノを弾くよりも、聴く方が好きだと言います。そんな彼女が出会ったのは、東京からの転校生で、ピアニスト志望の美少女・白石小夜。

小夜が律の家でピアノを習うようになったことで、二人の仲は急速に深まっていきます。しかし音楽室で小夜が口にした一言が、律を激情の螺旋へと引きずり込むのです。

それから10年後――。北海道で一体の白骨死体が発見されたことで、物語は大きく動き始めます。注目の新鋭作家・ひの宙子が紡ぐ、美しくも残酷な音楽サスペンスを紹介します。

愛憎の小夜曲の幕開け

「セレナード」は楽曲の種類の一つ。穏やかで、聞き心地の良い曲調が特徴です。古くは恋慕う相手を想い、夜に窓下で奏でるものであったことから、「夜曲」「小夜曲」とも呼ばれています。そんな由来から、今もセレナードは“愛の歌”の異名として使われているのです。

『最果てのセレナード』は、2022(令和4)年から「アフタヌーン」(講談社)で連載されているサスペンス作品。オムニバス短編集『グッド・バイ・プロミネンス』(祥伝社)で読者の心を揺さぶり、『やがて明日に至る蝉』で 「このマンガがすごい! 2024」(宝島社)オンナ編の第21位にランクインした、ひの宙子による初めての長編連載作品です。
北海道を舞台に、ピアノを巡る愛憎の世界に引きずり込まれた二人の少女を描き、読者の注目を集めています。

小田嶋 律は、東京の出版社で働く編集者。週刊誌の編集部で忙しく働く彼女に、1本の電話が舞い込みます。

それは律の郷里である北海道の友人からの電話。卒業10周年を記念して、中学校の同窓会を開くと言うのです。友人から、お盆休みに帰省しないかと誘われた律ですが、航空券が高額であることを理由に断ろうとします。

しかし友人が口にした一言が、律の心を強く揺さぶりました。それは、同級生・白石小夜の名前。友人は同窓会の連絡をするため、小夜の連絡先を探していると言うのです。久々に小夜の名前を聞いた律は、心の奥底にしまい込んだ記憶をたどり始めます。

ピアノが繋げた二人の出会い

小田嶋 律は、北海道のとある田舎町の出身です。母親がピアノ教室を営んでいるにもかかわらず、娘の律はピアノを弾きませんでした。律は小説家になることを夢見ており、密かにノートに文章を書き連ねていたのです。

中学3年生のある日、律の運命を変える出会いが訪れます。東京から来た転入生の白石小夜はピアノ少女で、律の実家であるピアノ教室に通うと言うのです。律は、小夜を家まで案内することになりました。

律は小夜と意気投合しますが、小夜の母親は娘が体育の授業に参加することを嫌がると聞いて驚きます。小夜は、ピアニストになるための英才教育を受けていました。小夜の夢を実現する上で、リスクとなりうる事は全て、母親の判断で止められていたのです。

一方の白石小夜は、小田嶋 律がピアノ教室の子どもでありながらピアノを弾かないことに驚きを覚えたようです。

「弾けなくていいの?」と問う小夜に対し、律は「ピアノは聴く方が好きかな!」と答えます。同じように弾いていても、同じにならないのがピアノの面白さだと語る律。演奏には、弾く人の個性が出るのだと語ります。

律は小夜のピアノに興味を示し、「こんど聴きたいな…」と伝えます。小夜は顔を赤らめて、「聴きたい」と人から言われたのは初めてだと告白。彼女は真剣な眼差しで、律のためにピアノを弾くことを約束するのです。

二人の運命を変えた演奏会

やがてピアノの演奏会の日がやって来ました。小田嶋 律は、壇上でピアノを弾く白石小夜の姿に釘付けとなります。

小夜の演奏は、他の人とは全く違うものでした。どうやら小夜は、律のためだけにピアノを弾いているようなのです。

その音色には、小夜の全てが詰まっていました。「きれいできれいじゃない」「楽しくて悲しい」「怒ってないけど怒ってる」。ピアノの音を通じて、小夜のさまざまな感情が伝わってきます。

ふだんの小夜は、従順でおとなしい少女です。そんな姿からは想像できない剥き出しの感情が、律に向かって迫ってきます。

小田嶋 律は白石小夜の演奏を聴きたいと言いましたが、とんでもないことを頼んでしまったのかもしれません。「返せる? なにか 白石さんのために――」。小夜の演奏に感激した律は、彼女のために何ができるだろうかと自問します。

後日、小夜と母親が律の家にやって来ました。驚くべきことに、小夜の母親は娘が演奏会で弾いたピアノが気に入らない様子。小夜のピアノの指導をしている律の母に対し、「本当に申し訳ありません」「あんなピアノを弾かせてしまって――」と言うのです。

律は小夜を近所の公園に連れ出して、思いの丈を伝えます。「白石さんのピアノ」「あたしは」「ちゃんと聴いたから!」。小夜の母親は、娘の心の叫びに耳を傾けていないと言うのです。律の目に涙があふれます。

律と小夜が犯した罪とは――

次第に明らかになっていく、小夜と母親のいびつな関係。小夜の母親は、律を邪魔者とみなしたのでしょうか。律に対し、「無能の憧れで 私たちの足を引っ張らないでちょうだいね」と残酷な言葉を放ちます。

小夜は本当にピアニストになりたいのでしょうか。小夜にとっては、学校の音楽室だけが自分に正直でいられる場所です。音楽室で小夜の胸の内を聞いた律は、彼女のためにできることを探して、ノートに文章を書き留めます。それは“ミステリー小説”の体裁を取った秘密のノート。人を殺す方法を綴ったものでした――。

それから10年の時が経ち、北海道に帰った律が小夜と再会したことで、止まっていた時計の針が動き始めます。最果ての地に鳴り響く、残酷で悲しいセレナード。犯した罪の共有によって、二人の絆は固いものとなっていきます。究極の愛の物語の行く末を、見届けてください。

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 *文中一部敬称略

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