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【推しマンガ】道満清明が描く、夏休み冒険譚! 少し不思議で、少し不穏なSFファンタジー!!

もうすぐ史上最高の夏休みが始まります。木花(コノハナ)ヨキ、多児(タジ)ミコト、櫛田キクリら仲良し3人組は、街の“七不思議”を求めて冒険を始めます。

最初の“不思議”は、最近ちまたで話題の大男“ノッポマン”。彼に遭遇したことで、ヨキは秘密の扉を開けていくことになります。

稀代のストーリーテラー・道満晴明先生による注目作! 小学校最後の夏に、少女が体験した少し不思議で少し不穏なSFの世界を紹介します。

ビバリウムで朝食を 著者:道満晴明

今注目の寓話的SFファンタジー

道満晴明(どうまん せいまん)先生は、2020(令和2)年に『バビロンまでは何光年?』で第51回星雲賞のコミック部門を受賞。日本で最も長い歴史を誇るSF賞を獲得したことで、マンガ界のみならずSF界からも大きな注目を浴びています。

今回紹介するのは、道満先生ならではの寓話的SFファンタジー。『ビバリウムで朝食を』は、「月刊チャンピオンRED」(秋田書店)で2021(令和3)年より連載スタートした作品です。

 “ビバリウム”とは、生物の生息環境を再現した飼育用容器のこと。本作は、示唆とユーモアに富んだストーリーとなっています。タイトルに込められた意図を考えながら読むと、楽しさが倍増するかもしれません。

青空に入道雲が立ちのぼり、楽しい夏がやって来ました。少女たちは、廃車置き場の片隅にあるプレハブ小屋に集まって、話し合いを始めます。雲雀(ヒバリ)小学校6年生のヨキ、ミコト、キクリです。

地図を相手ににらめっこをする3人。これから始まる夏休みに、自由課題として雲雀市の“七不思議”を調べようと言うのです。しかし3人は、“不思議”を6つしか見つけられずにいました。

ミコトは、“不思議”が6つでも充分だと主張しますが、ヨキは7つ目の発見にこだわります。一方のキクリは、これまで集めた6つの“不思議”の中から“ノッポマン”という言葉に注目します。“ノッポマン”とは、最近目撃されている謎の大男のこと。なんでも、子どもをさらって路地裏に消えていくと言うのです。

積み重なる小さな違和感

“七不思議”について、あれこれと考える少女たち。しかし、夏のプレハブ小屋は暑過ぎて考え事には向きません。秘密基地での会議はここまで。明日また会う約束をして、3人は帰途につきます。

ところがヨキは、帰り道で思わぬものを見つけたのです。薄暗い路地でたたずんでいたのは、白い布で全身を覆った“何か”――。それはおもむろにヨキに近寄って、鍵を手渡してきたのです。

帰宅したヨキは、母親から今日の出来事を尋ねられて「オバケ 見た」と答えます。母親は一瞬驚いた顔を見せますが、落ち着いた表情で「しばらく あの辺通っちゃダメだかんね」とヨキに忠告しています。「さわったり 何か受け取ったりしてないわよね?」と母から問われて、ヨキはオバケから鍵をもらったことを隠してしまいました。

小学生は、“七不思議”のようなウワサ話が大好きです。特に夏には、背筋も凍る怖い話が求められるもの。しかし都市伝説は、往々にして不明瞭です。“七不思議”と言いながらも、7つ目まで数えられないのは“よくある話”かもしれません。

著者は、一般にありがちな話を導入とすることで読者の共感を呼んでいます。しかしヨキがオバケのような“何か”から鍵を渡されたことで、物語は急展開を迎えます。このオバケは一体何者なのか、どうして母親はオバケと聞いてもそれほど動じなかったのか――小さな違和感が積み重なることで、読者は少しずつ非日常の世界に引き込まれていくのです。

オバケと遭遇したことで、ヨキの悲しい記憶が甦ります。降りしきる雪の中、冷たい水面に浮かぶ少女の遺体が見つかりました。それはヨキの友人・ノドカだったのです。ヨキは、オバケの正体はノドカで、鍵は彼女からのメッセージなのだと考えます。ヨキはオバケに“Q(キュー)”と名づけて、鍵を7つ目の“不思議”にしようと意気込みます。

鍵を入手してから、不思議の扉が開いていく

明くる日、オバケの“Q”が出没した路地は、規制線が張られて通行止めとなっていました。ヨキの母親が市役所に通報したのです。ヨキ、ミコト、キクリの3人組は、路地を避けて登校します。

学校では、驚くべきニュースが待っていました。1学期も残すところわずかとなりましたが、季節外れの転入生がやって来たと言うのです。

転入生の名前は海馬フタハ。ツインテールの髪型が可愛い少女ですが、このままでは友だちを作る前に夏休みに突入してしまいます。ヨキはそんなフタハを憐れみますが、ミコトは彼女を「怪奇 謎の転校生」と呼んで7つ目の不思議にしようと言います。

不運な転入生とは対照的に、ヨキの運気は絶好調。棒アイスが当たったのに続き、珍しい“ツチネコ”という生物を見つけたのです。

“ツチネコ”の後を追いかけたヨキは、見知らぬ男にぶつかってしまいました。路地裏で出会った男は高身長で、ヨキは彼こそが“ノッポマン”であると確信します。いきなり“七不思議”の一つに出会えるなんて、ヨキはなんてツイているのでしょうか。

“ノッポマン”は、子どもたちのウワサ通り路地裏に消えてしまいました。しかしヨキは、ブロック塀に貼られた不思議な紙の存在に気づきます。ヨキがこの紙に触れると、彼女はそのまま不思議な世界に吸い込まれてしまったのです。

忘れられない夏の物語

ルイス・キャロルの児童向け小説『不思議の国のアリス』では、アリスという少女が白ウサギを追いかけて不思議の国に迷い込みます。ヨキも“ノッポマン”を追いかけて、非日常の世界に入り込んでしまいました。

“ノッポマン”の本名はライモン。彼は遠い場所から来た探偵で、4人の人物を探していると言います。ライモンの捜索が行き詰っていると聞いて、ヨキは彼の助手となることにしました。好奇心旺盛なヨキですが、彼女が助手を引き受けたのにはもう一つ理由があります。ライモンが探している4人の写真の中に、謎の転入生・フタハの姿があったのです――。

本作は、夏を舞台にしたワクワクドキドキの冒険譚。一方で、ヨキの友人であるノドカの死がストーリーに陰影をもたらしています。ライモンとは一体何者なのか、彼が探している転入生・フタハの秘密とは!? 伏線に次ぐ伏線が見逃せないSFファンタジーを読んで、ヨキたちと一緒に忘れられない夏を体験してみませんか。

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 *文中一部敬称略

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