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【推しマンガ】小学5年生が織りなす友情未満物語! 『どくだみの花咲くころ』の不穏な魅力!!

春先から初夏にかけて、白い花を咲かせる“どくだみ”。その花は可憐ですが、あらゆるところに繁殖し、独特の臭気を放つことから厄介者扱いされています。しかし花や葉、茎などを、食用や薬用に利用できる有用な植物でもあるのです。

今回紹介するのは、正反対の小学生2人が織りなす不穏で愉快な友情物語。信楽(しがらき)くんは、癇癪(かんしゃく)持ちで予測不能な行動をとることから、クラスで厄介者扱いされています。清水(きよみず)くんは優等生ですが、ある日を境に信楽くんが作る不思議なアートの魅力にハマってしまいました。

ページをめくるたび“世界の見え方”が変わる、感動のマンガ体験をしてみませんか。「アフタヌーン」(講談社)で連載され、大きな注目を浴びている『どくだみの花咲くころ』の魅力を紹介します。

どくだみの花咲くころ
どくだみの花咲くころ 城戸志保

「アフタヌーン」で大反響の注目作!

『どくだみの花咲くころ』は、期待の大型新人・城戸志保先生による商業誌デビュー作です。コミックス第1巻の「あとがき」には、そのデビュー秘話が記されています。

本作は、もともと同人誌の展示即売会・コミティアのために描かれました。2022(令和4)年5月開催のコミティア140の会場で、編集者に声を掛けられたことを契機に「アフタヌーン」のマンガ新人賞である四季賞に本作の読み切り版を投稿。同年秋のコンテストで大賞を受賞しています。

受賞作がX(旧Twitter)で公開されると、大きな反響を得て話題となりました。「アフタヌーン」2024(令和6)年1月号より本格連載をスタート。少年たちの不思議な友情を描いて、多くの読者の共感を呼んでいます。

信楽くんは小学5年生の男の子。落ち着きがなく、ちょっとしたことで怒り出す問題児です。校庭の至るところに何かの“骨”を埋めていて、その不審な振る舞いから様々な憶測を呼んでいました。

その一つが、「飼っているハムスターが死ぬたび 校庭のどこかに埋めている」という噂です。信楽くんが埋めた骨は、雨の日などに校庭に浮かび上がって、児童たちを驚かせるため “信楽式不発弾”と揶揄されていました。その出現頻度の高さから、信楽くんがハムスターをわざと殺して埋めていると言う者まで現れる始末です。

信楽くんには、もう一つ恐ろしい噂がありました。上級生にからかわれて激怒した彼が、相手の口をホチキスで留めたというのです。物語は、信楽くんの不気味な噂とともに開幕。読者は主人公の衝撃的な登場に圧倒され、不思議な世界に引きずり込まれます。

優等生の清水くんに訪れた転機

本作のもう一人の主人公が、信楽くんのクラスメイト・清水くんです。彼は経済的に恵まれた家庭の子どもで、勉強もスポーツもソツなくこなす優等生でした。

清水くんは小学5年生の割に大人びたところがあり、日ごろから学校生活に退屈さを感じていました。しかし彼はそれを思ってはいても、口にすることはありません。人から妬まれたり、嫌われることを一番恐れていたのです。

勉強ができるのにも関わらず、「たまに わざと間違える」という清水くん。クラスで浮いてしまうことがないように、心を砕く毎日でした。そんな彼にとって、予測不能な行動を繰り返す信楽くんは、理解しがたい存在だったかもしれません。清水くんは、クラスの異端児である信楽くんと距離を置くようにしていました。

小学5年生にして、早くも人生を持て余すようになっていた清水くん。しかし図工の授業中に、彼を変える事件が起こります。

紙粘土を使った自由工作で、清水くんが作ったのは木の枝にとまる小鳥です。彼の家の庭に来るめじろをモチーフにした作品は、見事な出来栄えで友人たちを感心させました。ここでも優等生ぶりを発揮した清水くんですが、作品を作り終えるとすぐに退屈してしまいます。

清水くんがクラスを見回すと、信楽くんが作品作りに没頭しているのが目に入りました。彼が作っていたのはなんとも独創的な作品。生物の骨格を連想させる大胆なもので、異彩を放っていたのです。しかし図工の先生は、清水くんを含め3人の児童の作品をコンクールに出品すると決定。信楽くんの作品は選外となってしまいました。

小学5年生ならではの瑞々しい感性が炸裂!

図工の先生が選んだのは無難な作品ばかり。信楽くんの作品が評価の対象とならなかったことに、清水くんは強い憤りを覚えます。しかし信楽くん本人は、そんなことなど意に介さない様子――作品を持ち帰るため袋に押し込み、壊してしまいました。目の前で作品が壊されたことで、清水くんの落胆ぶりに拍車がかかります。

著者の城戸志保先生は、過去のインタビューで“アール・ブリュット”への興味を語っています。「アール・ブリュット(Art Brut)」とは、フランス語で「生の芸術」を意味する言葉。芸術に関する専門教育を受けていない人による作品のことですが、独創的かつ力強い作品は近年“芸術作品”として評価の対象となっています。

本作には“アール・ブリュット”という言葉が登場することはありません。創作に心を動かされた小学生の姿をつぶさに描写することで、言語化が難しい芸術の魅力を読者に伝えることに成功しています。子どもから大人へ――小学5年生は、思春期の入り口に立ったばかりの存在です。その瑞々しい感性が作品中にあふれています。

信楽くんの不思議なアートにハマった清水くん。それ以来、遠くから信楽くんを観察するようになりました。しかし信楽くんの日常は、原因不明の怒りや自滅的な振る舞いの繰り返しで、なかなか作品を作ってくれません。

ある日のこと、清水くんは家の近所にある空き地で信楽くんの姿を見つけます。信楽くんは、どくだみが生い茂る草むらで、雑草を材料にした人形を作っていました。彼には人を凝視するクセがありましたが、クラスメイトを草人形のモデルにしていたのです。

後日、清水くんは熱い視線を浴びていることに気づきました。どうやら信楽くんは、清水くんをモデルに草人形を作ろうと考えているようです。清水くんは静かな興奮とともに、双眼鏡で空き地をのぞきます。

どくだみの園で花開く友情物語

住宅地の一角で忘れ去られ、雑草に覆い尽くされた空き地――。私たちが気づかないところで、草花はたくましく育っています。子どもたちも同じように、日々すくすくと成長しているのです。

双眼鏡で空き地をのぞくなど、優等生らしからぬ行動を始めた清水くん。信楽くんに夢中になるあまり、ストーカーめいた行動をとる姿は微笑ましくもあります。

二人が“沼落ち”したのは、流行のアイドルでも二次元キャラでもない創作の世界。果たして信楽くんは、清水くんの思いを受け入れて友だちになってくれるのでしょうか。フツーの友情とはちょっと違う“友情未満”の関係を、暖かく見守りましょう。

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 文中一部敬称略

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