【推しマンガ】ロシアによる北海道侵攻を描く! 元自衛官の芥川賞作家による衝撃作コミカライズ版!!
「読みながらウクライナの戦禍に思いを馳せた。これは私たちが生きる時代を描いた21世紀の漫画だ」。東京大学先端科学技術研究センター准教授・小泉悠氏推薦、元自衛官の芥川賞作家による小説『小隊』が、マンガ化されて大ヒットしています。
宣戦布告のないまま、ロシア軍が北海道に上陸。自衛隊は住民を避難させ、防御態勢を固めようとします。両国の部隊がにらみ合いを続ける中で、一個小隊約30人を率いる安達3尉は、釧路郊外に設けられた中隊指揮所から呼び出しを受けます。
2025(令和7)年夏、太平洋戦争終戦から80年の節目を迎えます。戦争を知らない世代が大半となる中で、この作品は架空の戦争をリアルに描いて、読者に平和の重みを突きつけています。禁断の話題作に迫るマンガを紹介します。
異色の経歴を持つ芥川賞作家の話題作
砂川文次(すなかわ ぶんじ)先生は、元陸上自衛官という異色の経歴を持つ小説家です。2016(平成28)年に第121回文學界新人賞(文藝春秋)を受賞。自衛官時代に手がけた『市街戦』で作家デビューを果たしました。
2018(平成30)年には『戦場のレビヤタン』が第160回芥川賞候補作に、2020(令和2)には『小隊』が第164回芥川賞候補作にノミネート。2022(令和4)年、自転車メッセンジャーの日常を描いた『ブラックボックス』により、第166回芥川賞の受賞に至りました。
今回は芥川賞候補作となった『小隊』のコミカライズ版を紹介します。作画を担当したのは、北海道出身のマンガ家・柏葉比呂樹先生です。その卓越した画力により、戦車や銃火器などの装備を精緻に描写しています。
『小隊』©砂川文次・柏葉比呂樹/文藝春秋 P004_005より
それは突然始まりました。スーツケースを手にした家族連れや、記念撮影をする若者で賑わう空港で、人々の笑顔が一瞬でふき飛ぶ事件が勃発。札幌市の空の玄関である新千歳空港が、ミサイル攻撃を受けたのです。それはロシア軍による、北海道侵攻の始まりでもありました。
新千歳空港は千歳飛行場(航空自衛隊 千歳基地)を隣設する軍民共用空港です。千歳基地には北日本の防空の要として、戦闘機部隊を擁する第2航空団が置かれています。ところが高性能の戦闘機も、滑走路が被害を受けては任務を果たすことができません。
本作の冒頭では、観光客の幸せそうな姿から一転、ミサイル攻撃により滑走路が破損する様子が描かれています。その描写の落差により、私たちの平和な日常が薄氷の上に成り立っていることを認識させられます。
読者の五感に訴える自衛隊のリアル
この攻撃は、これから起きる戦争の序章に過ぎませんでした。ロシア軍は空港や通信関連施設を始めとする重要施設を攻撃した後、道北と道東の二方面から北海道に上陸。侵攻を開始したのです。
1か月後、陸上自衛隊の若手幹部・安達3尉が率いる小隊は、第5戦車大隊第1中隊の配属を受けた第27戦闘団として、武田中隊長の指揮のもと北海道釧路町の一帯に陣地を展開していました。
ロシア軍の侵攻以降、長らく休息の時間が取れない自衛官たち。安達3尉は、彼が率いる小隊の通信手・立松士長を相手にため息をつきます。
『小隊』©砂川文次・柏葉比呂樹/文藝春秋 P011より
安達3尉が率いる隊員たちが、最後にフロに入ったのは10日前のことだったでしょうか。雨に濡れながらの任務は、彼らに強いストレスを与えていました。
入浴できないことで起きた体の痒(かゆ)みが、蓄積した疲労に追い討ちをかけていたのです。陸上自衛隊のヘリパイロットとして、任務に当たった経験を持つ砂川文次先生。その体験に基づく描写が、本作にリアリティをもたらしています。
今日、戦中・戦後の苦難を体験した方々が高齢となり、記憶の継承が難しくなってきています。痒さや疲労などの体感は、誰もが日常的に感じるものであり、戦争を知らない世代の読者にも分かってもらえます。本作では、安達が感じた不快感を描写することで、読者に共感を抱かせるとともに、未知の戦場に引きずり込むのに成功しています。
ホンモノの戦闘は誰も知らない
安達3尉は立松士長と組んで、民間人の避難誘導をしていました。ロシア軍の攻撃から1か月を経ても、まだ避難をすることができない人々がいたのです。
安達と立松は、リストに上がっていたカナムラアキコという女性を訪問。彼女は女手一つで小さい子どもを育てていましたが、頼るべき身寄りもなく、どこにも生活の拠点がないと言います。
安達はカナムラに避難所行きのバスに乗るよう勧告しますが、彼女から反論されてしまいます。避難所に行った後の生活を、どうすればいいのかと言うのです。「仕事は?」「お金は?」「子供は?」と、畳み掛けるように質問するカナムラ。戦闘体験のない安達の心を見透かしたように、「あんたら ほんとうに戦うの?」と問いかけます。
『小隊』©砂川文次・柏葉比呂樹/文藝春秋 P047より
答えに窮した安達は、辛うじて答えます。「どうでしょう…」「命じられれば」と――。自衛官として厳しい訓練を重ねてきましたが、まだホンモノの戦闘を体験したことがないため、自信を持つことができません。
本作では、年若き自衛官・安達の視点でストーリーが展開されます。避難したくても、できない理由がある人々。実感が湧かないまま始まった戦争に、とまどう自衛官たち。安達が見聞きしたものは他人事ではなく、日本人全体のリアルな問題として読者に突きつけられます。
避難誘導の任務で、安達の疲労感は高まります。そんな折、中隊CP(指揮所)が各部隊の小隊長クラスを招集。武田中隊長は、集まった小隊長らを前に「最短で明朝5時――」「ここにロシア軍が到達する可能性がある」と宣告。いよいよ “ホンモノの戦闘” が始まるのです。
日本人に問う覚悟のコミック
本書の刊行にあたり、原作者・砂川文次先生からコメントが寄せられています。「陸上自衛隊 一個小隊 約30名。彼らは圧倒的なロシア地上軍を前にどう戦うのか。この作品は、『ホンモノの戦闘』を知らない日本人が、唯一、イメージだけを武器にして現実に肉薄した、覚悟の記念碑だ」。
釧路に迫り来る敵は、増強MR(機械化連隊)――戦車や装甲車両などを中心とする部隊だと想定されていました。ところが安達の属する中隊には、対抗できる火力が割り当てられる予定がないと言います。安達は小隊長として、配下の隊員たちに任務遂行の覚悟を持たせることができるのでしょうか。
柏葉比呂樹先生の作画により、不利な状況の中で戦闘を強いられる自衛官たちの心中が活写されます。マンガならではのイメージという武器を用いて、戦争のリアルに肉薄した力作。ぜひご一読ください。
執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 *文中一部敬称略





