【推しマンガ】調理も科学だ! ヤンキーと教師による美味しい実験マンガ!!
理科教師の猫村蘭は、クラスの問題児・犬飼千秋のためマンツーマンで補習をすることになりました。興味ゼロの千秋に化学基礎を学んでもらうため、彼が講義したのは“料理の作り方”でした。
今回紹介するのは、理系の視点で描かれる学園グルメマンガ。最凶のヤンキーと地味な教師という正反対の二人が、家庭科室で料理作りに挑みます。
オムライスやからあげ、プリンなどなど――。みんなが大好きな人気メニューを、科学の力で美味しく仕上げます。読めば料理が作りたくなる、『ヤンキー君と科学ごはん』の魅力を紹介します。

「となりのヤングジャンプ」の注目作
『ヤンキー君と科学ごはん』は、『だんしんち』『ケンランバンカラ』(原作:夏目純白)などのマンガを手掛けている岡叶(おか かなと)先生による作品です。2022(令和4)年より、Webマンガサイト「となりのヤングジャンプ」(集英社)で連載され、大きな注目を集めています。
舞台となるのは、創設6年目の惺明(せいめい)高校。まだ留年者がいないことが自慢の新しい高校に、訳アリの生徒・犬飼千秋が入学したことで騒動が持ち上がります。担任である猫村蘭は、学校の上層部から千秋の面倒をみるように命じられますが、猫村には問題児を請け負った経験がありません。
校内一の不良に手を焼いた猫村は、とある奇策を思いつきます。「食べることは生きること」と言いますが、食事は人間の根源的なニーズ。猫村は、料理で千秋の興味を引こうとしますが、彼の目論見は成功するのでしょうか。

『ヤンキー君と科学ごはん』©岡叶/集英社 1巻P006_007より
犬飼千秋は、惺明高校1年3組に在籍する男子生徒。遅刻欠席早退の常連で、定期試験では赤点を連発。さらに度重なる指導も受け付けないことから、「ヤンキー」「筋金入りの悪(ワル)」と評価されていました。
1年生の夏を前にして、早くも留年者候補となった千秋。学校側は、創設以来初めての留年生の誕生を阻止するため、担任教師の猫村蘭に彼の教育を押しつけます。
必修科目の化学基礎を落としそうになった千秋に、補習を受けさせようとする猫村。しかし、千秋は机の上に足を乗せて飽き飽きした様子です。あまりの態度の悪さに、猫村は閉口してしまいます。
犬飼千秋は本当に悪いヤツなのか!?
耳のピアスや金髪のヘアスタイルのためか、千秋はヤンキーとして恐れられています。さらに母親が刑務所にいるという噂もあって、彼は他の生徒から距離を置かれていました。
ところが猫村は、周囲の千秋への反応に疑問を抱いていました。校長と教頭は、彼の留年の心配をしていますが、まだ夏前にもかかわらず神経質過ぎるのではないでしょうか――。
著者は、猫村というキャラクターを論理的な思考の持ち主として描いています。いかにも理系教科の先生らしい人物ですが、彼に学校の内部事情を推察させることで問題提起をしているのです。読者は、千秋が一筋縄ではいかない生徒であること、さらに彼が抱えている問題の存在を感じ取り、物語に引き込まれていきます。

『ヤンキー君と科学ごはん』©岡叶/集英社 1巻P016_017より
その鋭い眼光から、学校一の不良として恐れられている千秋ですが、家に帰ると見せる“別の顔”がありました。両親不在の家で、幼い弟や妹の親代わりとなっていたのです。可愛い子どもたちの顔を見れば、彼の険しい表情も和らぎます。
今日の晩ごはんはオムライス。妹の司(つかさ)によるリクエストに応えたものです。千秋はボールに卵を割り、牛乳を加えて溶き合わせます。
「なんで 卵に牛乳入れるの?」。弟の渚の質問に、千秋は答えることができません。手慣れた様子で卵液をフライパンに流し入れますが、卵はフライパンにくっついてしまいました。子どもたちが望んでいたのは、半熟でフワフワのオムライス。しかし、でき上がったのは紙のようにペラペラの卵焼きでした。千秋のオムライスは、10点中4点と酷評されてしまいます。
調理も科学だ! 家庭科室で繰り広げられる美味しい実験!!
明くる日、千秋は浮かない表情で登校します。彼は、弟や妹の親代わりにはなれないのでしょうか。思い悩む彼のもとに、弟妹から電話がかかってきました。“ペラペラじゃない半熟のオムライス”が食べたいと電話口で繰り返されて、千秋はほとほと困ってしまいます。
千秋は、化学を始めとする科学全般を役に立たない学問だと思っていました。専門性が強い分野のため、学校を卒業したらほとんどの人が使わなくなるという言い分でした。科学の学習を「時間の無駄」という千秋に、猫村は手をこまねいてしまいます。
しかし千秋の悩みを聞いて、猫村は名案を思いつきます。上手くできない料理は、科学を学べば解決できると千秋を説得したのです。猫村は「なぜなら…」「調理も科学だからだ!」と言い放ちますが、千秋は信じられない様子です。

『ヤンキー君と科学ごはん』©岡叶/集英社 1巻P046_047より
調理の全ての行程には、科学的根拠があると語る猫村。しかし千秋から「コンビニパン食ってる教師に 何がわかんだバカ」と切り返されてしまいます。猫村は持論が正しいことを証明するために、千秋と勝負をすることになりました。科学的根拠に基づいて半熟オムライスを作ることができたら、千秋は猫村に従って補習を受けなければなりません。
家庭科室で美味しい実験が始まりました。猫村は卵を2個、バターを大さじ1/2、牛乳を大さじ1、塩を小さじ1/16を混ぜた卵液を作ります。彼は次にフライパンを取り出しましたが、フライパンを使って卵を焼くのではなく、お湯を沸かし始めたのです。
猫村は、卵液をボールごとお湯につけて10分ほど混ぜながら湯煎(ゆせん)にかけます。やがて前代未聞の“焼かないオムライス”が完成しました。お店のオムライスのように半熟トロトロの卵がかかっていますが、どんな味がするのでしょうか。
読んだら作ってみたくなる“科学ごはん”
「いただきます!」。千秋はでき上ったオムライスを頬張り、その美味しさに驚愕します。湯煎した卵はなめらかで、その味はチーズを感じさせるほど濃厚だったのです。
猫村は科学的な見地から解説をします。卵はフライパンで焼くと、火が入りやすいのが難点。湯煎によって、こげつく失敗を避けることができます。卵液に牛乳とバターを加えれば、卵のタンパク質が希釈されるため柔らかく仕上がります。さらに卵液をゆっくり加熱すれば、水分が蒸発して濃厚な味になると言うのです。千秋は敗北を認め、猫村の補習を受けることにしました。
『ヤンキー君と科学ごはん』は、グルメと科学というテーマの掛け合わせが楽しい作品です。主人公は、家族のため料理に励む健気な高校生と、彼を応援する高校教師のコンビ。学園青春マンガとしても楽しめます。一作で、二度も三度も美味しいマンガなので、ぜひ読んでみてください。読んだら、あなたも“科学ごはん”を作ってみたくなるはずです。
執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 ※文中一部敬称略