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【推しマンガ】祟り神と令和キッズの交流が楽しい! 話題のホラーコメディ!!

ある嵐の晩、二人の子どもが山奥に封じられた怪異に出会ってしまいました。家屋を跨ぐほど長大な蛇の体をもつ異形の女。その名は、屋跨斑(ヤマタギマダラ)――。

世にも恐ろしい祟り神との対面ですが、令和を生きる現代っ子はちっとも動じません。むしろ彼女を“ダラさん”と呼んで、なついてしまったのです。

怖そうだけど怖くない! オカルトだけどハートフルな新感覚のホラーコメディ!! 一度読んだらヤミツキになる、令和の怪異伝説を紹介します。

令和のダラさん 著者:ともつか治臣

ホラータッチで描かれる新感覚コメディ

『令和のダラさん』はマンガ家であり、ニコニコ動画などで動画投稿者としても活躍している、ともつか治臣(はるおみ)先生によるマンガ作品です。ウェブコミックサービス「カドコミ」と「ニコニコ漫画」(KADOKAWA)で、2022(令和4)年から連載しています。

2024(令和6)年には、「みんなで決める!第1回・マンガ総選挙」(ニコニコ漫画)のホラー部門で1位を、「#でらコミ! 5」(三洋堂書店)で準大賞を受賞。今最も大きな注目を浴びている作品の一つです。

作品の舞台は、山あいの集落に古くから伝わる禁足地。いかにもホラーマンガらしい設定ですが、おどろおどろしいイントロダクション始まる物語は、やがてテンポの良いコメディに変わっていきます。緊張と弛緩の落差が、読者を笑いの渦に巻き込むのです。

見れば障(さわ)り、穢(けが)せば祟る――。とある山間の集落には、古い土着の伝承が残っていました。山奥の神域にまつられている祠(ほこら)には、触れてはならない“何か”が存在していると言うのです。

荒神、山神、妖怪の類なのかはわかりません。詳しい文献も残っていませんが、この地で長く山守を務める三十木谷(みそぎや)家には、代々家長に授けられてきた口伝(くでん)がありました。

「絶対に お山の柵には近づいちゃあいかんぞ」。三十木谷兵吾は、二人の孫に言い含めます。彼は禁足地に人が立ち入ることを防ぐため、私有地として柵を建てていました。それでも彼の孫である日向(ひなた)と薫は、山を恐れず遊び場としていました。彼らの身を案じていた兵吾ですが、彼の不安は的中してしまいます。

豪雨の中で、姉弟が見たものは!?

三十木谷日向は中学二年生で、薫は小学5年生です。ある嵐の晩、二人は子どもだけで留守番をしていました。しかし集中豪雨の影響で電車が運行停止となり、両親は帰宅できなくなってしまったのです。

祖父の兵吾は、山の様子を見にいったまま帰ってきません。祖父を案じた日向と薫は、嵐の晩にもかかわらず山に入ることにしました。雨着を身にまとい、山道を進む子どもたち。山の夜は闇に包まれていて、懐中電灯の明かりだけが頼りです。子どもたちは祖父が建てた柵を見つけましたが、柵は倒木によりなぎ倒されていました。

日向と薫は、祖父に禁じられている場所に足を踏み入れてしまいました。雨が「ザァ」と音を立ててあたりを叩きつけていましたが、その中に「しゃん…」「しゃりんっ」という鈴の音が混じり始めます。

崩壊した柵の向こうに潜む、何者かの気配――。日向は勇気を振り絞って「…誰や!?」と問いかけます。

懐中電灯の明かりに浮かび上がったのは、家屋を跨ぐほど大きな女。その下半身は蛇の姿をしています。一糸まとわぬ姿で雨に打たれ、首に巻いた鈴の音を不気味に響かせていました。

女は静かに答えます。「オマタギサマ マダラサマ マダラゴゼン… お前ら人の呼ぶ名は数多あれど」「古くはそう 屋跨斑(ヤマタギマダラ)」「そう呼ぶ…」と――。

天真爛漫な子どもたちの振る舞いが笑いを誘う

本作の主人公、“ダラさん”こと屋跨斑のお出ましです。真打ちの登場により、見る者の緊張も頂点に達しますが、ここで著者の真骨頂が発揮されます。物語はジェットコースターのように急降下し、ホラーからコメディに変わってしまうのです。

「あー 山田サン…?」。薫がボケをかまします。子どもにとって、“屋跨斑”という名前は難しかったのでしょうか。“山田”という姓だと誤解したようです。「それじゃ下の名前 ギマダラになるだろ 何人だよ」と、屋跨斑はすかさずツッコミを入れています。

屋跨斑の姿は異様ですが、子どもたちは素直に受け入れてしまったようです。それどころか薫は、「エッチやん…」と言って顔を赤らめる始末。屋跨斑は、自分の姿を見ても動じない子どもたちに、拍子抜けしてしまいます。

見事な天然ぶりを発揮した日向と薫ですが、それでも二人は山守の家系です。祖父から屋跨斑の恐ろしさは聞き及んでいるため、二度と柵に近寄ることはないでしょう。しかし、そんな屋跨斑の予想とは裏腹に、日向と薫は彼女に会いにくるようになりました。

大雨の影響で、禁足地はもちろん山全体に地滑りのリスクが残っています。祖父の兵吾は、「安全だとわかるまで 山自体に近寄っちゃならん」と忠告しますが、子どもたちは聞く耳を持たず山に入ってきたのです。

「お前 大人の言うこと聞けよ…」。屋跨斑は、日向と薫の身を案じます。屋跨斑は恐ろしい祟り神ですが、時折のぞかせる優しさが読者に彼女への共感をもたらします。

ホラーとしてもコメディとしても秀逸な注目作!

著者は、祟り神である屋跨斑を人間味あふれるキャラクターとして描いています。屋跨斑はかつて人間の巫女でしたが、はるか昔に山のヌシだった大蛇を取り込んで怨霊と化したと言います。屋跨斑は、人間としての記憶をわずかに残しているという設定です。

屋跨斑がなぜ蛇を取り込まねばならなかったのか、何故怨霊と化してしまったのかについては、ぜひマンガで読んでみてください。彼女の悲しい過去が、本作のホラーとしての魅力を裏打ちしています。

数百年間も山に封じられたことで、人間時代の名前を忘れてしまった屋跨斑。日向と薫は、彼女を“ダラさん”と呼んで慕うようになります。新しい名前を得たことで、彼女の生活も一新しそうな気配です。子どもと屋跨斑が織りなすハートフルなホラーコメディ、どうぞ温かく見守ってください!

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 *文中一部敬称略

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