心揺さぶるマンガの名言 Vol.6 自信を失った人を励ますマンガのセリフ
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マンガは、至言・名言の宝庫です。マンガのキャラクターが放つセリフは、時に私たち読者が困難を乗り越えるヒントを与えてくれます。
この特集では、マンガ好きの全ての人に届けたい、名セリフを紹介します。今回は何かに失敗して、自信を失った人に届けたい励ましの言葉がテーマです。
「失敗は成功のもと」と言いますが、失意の時こそ気持ちを改めて前向きになりたいものです。自信を持って新たな一歩を踏み出すための、応援の言葉を紹介します。
アーニャさん言ってたじゃないですか 100点満点だって ロイドさんは アーニャさんにとって立派な父親です!
世界が東西で熾烈な情報戦を繰り広げていた時代のこと。西国・ウェスタリスの凄腕スパイ〈黄昏(たそがれ)〉が命じられたのは、“家族”を作ることでした。しかし彼が“娘”として迎えたのは、心を読む超能力者。さらに“妻”は暗殺者で――!?
『SPY×FAMILY(スパイファミリー)』は、互いの正体を隠して家族となった3人が、世界の危機に立ち向かうホームコメディ。仮初めの家族が一つ屋根の下で暮らす様が読者の共感を呼んでいます。
父親としてはまだ“駆け出し”の〈黄昏〉。彼が妻からもらった励ましの言葉を紹介します。
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ドノバン・デズモンドは、東国・オスタニアの政治家、国家統一党の総裁です。西国・ウェスタリスに対し強硬派路線を取る彼を、危険人物とみなした西国組織「WISE(ワイズ)」は、諜報員(エージェント)〈黄昏〉にある命令を下します。それは東国・オスタニアに潜入し、家族を持つこと。良家子女が通学するイーデン校に子どもを入学させて、デズモンドに接触を図ろうというのです。
作戦の名は「オペレーション梟(ストリクス)」。〈黄昏〉は百の顔を使い分ける敏腕諜報員で、精神科医ロイド・フォージャーに扮して、孤児院からアーニャという少女を引き取ります。さらに市役所事務員ヨル・ブライアと結婚。東国・オスタニアでは、妙齢の女性が独身でいるのは不自然であり、それを気かけていたヨルは〈黄昏〉との偽りの結婚に同意しました。
しかし彼は知りません。アーニャが “超能力者”で、ヨルが〈いばら姫〉の暗号名を持つ“殺し屋”だということを――。互いに正体を隠したまま、3人は一つ屋根の下で暮らし始めます。イーデンは、国内トップクラスの難関校。アーニャは受験に苦戦しますが、補欠合格という形でイーデンに入学することになります。
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『SPY×FAMILY』©遠藤達哉/集英社 2巻P120より
ロイド・フォージャーこと〈黄昏〉は、ドノバン・デズモンドの次男であるダミアンと、アーニャが仲良くなれるようクラス編成を改ざん。しかしアーニャは、ダミアンの横暴な振る舞いに耐えかねて、母から教わった「ひっさつぱんち」を繰り出してしまいます。
デズモンド家と家族ぐるみで懇意になるという、ロイドの目論見はついえてしまいました。ロイドは次なる手段として、イーデン校の懇親会に列席しようと考えます。そのためにはアーニャが「星(ステラ)」と呼ばれる褒章を8つ獲得し、特待生「皇帝の学徒(インペリアル・スカラー)」とならねばなりません。ロイドはアーニャに勉強を教えますが、勉強嫌いの彼女は拒んで部屋に閉じこもってしまいます。
そんな彼女の姿を見て「まず俺が理想の父たるべきであった」と落ち込むロイド。そんな彼に、ヨルは励ましの言葉を掛けます。「アーニャさん言ってたじゃないですか 100点満点だって」「ロイドさんは アーニャさんにとって立派な父親です!」。ロイドは、自分の及ばない所を助けてくれる仮初めの妻に感謝します。
さあお行き! 出番です マヤ!
1975(昭和50)年に「花とゆめ」(白泉社)で連載を開始してからおよそ50年――。美内すずえの『ガラスの仮面』は、ファンから絶大な人気を誇る演劇大河ロマンとなりました。
“千の仮面を持つ”と評される天才演劇少女・北島マヤと、彼女の才能を見抜いた往年の名女優・月影千草の出会い。幻の舞台『紅天女』主役の座をめぐって、演劇界のサラブレッド・姫川亜弓と繰り広げられる熾烈な競争など、波乱万丈の展開が読者を魅了してやみません。
月影が主宰する「劇団つきかげ」に入るため、家を飛び出したマヤ。劇団の旗揚げ公演『若草物語』でいきなり大役に抜擢されますが、40度の高熱に掛かってしまいます。そんな彼女を舞台に奮い立たせた、月影の名言を紹介します。
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母とともに中華料理店に住み込んで、店を手伝っていた北島マヤ。一見平凡な少女ですが、出前先で盗み見る映画に時間を忘れてしまうほど、芝居への情熱を秘めていました。
さらにドラマを一度見ただけで、完璧に再現できる才能の持ち主。名優として名高い月影千草は、幻の名作『紅天女』の再演を実現するため、マヤを女優として育てる決意をします。
学園祭の出し物である『国一番の花嫁』で、初舞台を踏んだマヤ。演劇に目覚めて、「劇団つきかげ」に入るため家を出ることにしました。『紅天女』の上演権を狙う大都芸能の御曹司・速水真澄、さらに容姿端麗な天才女優・姫川亜弓と出会ったことで、マヤの演劇人生は大きく動き始めます。
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『ガラスの仮面』©Suzue Miuchi 3巻P018_019より
北島マヤは、奨学生として「劇団つきかげ」に入団。特別待遇をやっかむ団員もいましたが、劇団オンディーヌの女優・姫川亜弓を圧倒する演技を見せて、一目を置かれるようになります。
「劇団つきかげ」は、『紅天女』の上演権を持つ月影千草が、主演女優を育てる目的で立ち上げた劇団です。記念すべき旗揚げ公演の演目は、オルコット原作『若草物語』に決定。舞台は19世紀のアメリカで、南北戦争の時代を支え合って生きたマーチ家の四人姉妹が主役の児童文学。マヤは芝居の初心者でしたが、四人姉妹の三女ベス役に抜擢されます。
ベスが猩紅(しょうこう)熱で苦しむ演技ができず悩んだマヤ。役になりきるため、一晩中雨に打たれて40度の高熱を出します。マヤは舞台に立ちましたが、ライトに目がくらんでセリフが出遅れてしまいます。月影はマヤにバケツの水を浴びせて、役者としての心得を伝授。「さあお行き! 出番です マヤ!」。非情な言葉で舞台に送り出されたマヤですが、見事に月影の期待に応えます。
甲子園つれてって
上杉達也と和也は双子の兄弟。兄の達也は楽天的な性格で、努力という言葉に無縁の人です。一方、弟の和也は文武両道の優等生で、明青学園野球部のエースをしていました。隣家の一人娘・浅倉 南は明るくてかわいい同級生。
この3人は、幼い頃からいつも一緒。元気な子どもたちに手を焼いた親たちは、両家の間に共同出費で小さな家を建てました。ところが最初遊び場だったこの部屋も、子どもたちの成長とともに勉強部屋となって、3人の関係も微妙に変化していきます。3人の中の一人が“女”だということに気づいてしまったのです――。
あだち充の『タッチ』は、1981(昭和56)年から1986(昭和61)年に「週刊少年サンデー」(小学館)に連載された野球マンガの金字塔。テレビアニメと劇場版アニメが製作されて、80年代を代表する国民的人気作品となりました。不朽の名作から、超有名な南の名言を振り返りましょう!
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カッちゃんこと上杉和也は成績優秀な努力の人。上杉家の隣にある喫茶店「南風」の看板娘・浅倉 南と連れ立つ姿を見て、周囲は“お似合い”の仲だと認めていました。タッちゃんこと上杉達也は、言わば和也の“出がらし”。それでも南は、そんなタッちゃんのことが気になって仕方ありません。
3人はそろって明青学園高等部に進学。和也は野球部のエースとして期待され、南は野球部のマネージャーとなりました。一方の達也は、悪友の原田正平とともに、なぜかボクシング部へと入ります。
夏の甲子園予選大会を勝ち進む明青学園。和也は“甲子園へ行きたい”という南の夢を叶えるために投げ続けます。そして、ついに迎えた運命の決勝戦――。関係者が明青学園の活躍を見守る中、和也が球場に現れることはありませんでした。
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『タッチ』©あだち充 / 小学館 14巻P010より
甲子園を目指して、燃え尽きた明青学園野球部。浅倉 南の夢を叶えられぬまま、上杉和也は交通事故で逝きました。部員たちの心の傷も癒えぬまま、和也に替わって兄の達也がマウンドに立つことになります。
強打者・新田明男がいる須見工業高校との練習試合。0対0で迎えた6回裏、明青学園が1点を先取します。しかし達也がマウンドに立った7回表、新田の本塁打で1点を返されてしまいます。落胆する達也に対し、南は和也が果たせなかった“甲子園への夢”を託します。「一生懸命投げて 南を甲子園につれていくこと」と激励するのです。
在りし日の和也も、同じ言葉を聞いて力をもらっていたのでしょうか。弟に負けない活躍ができるのか、達也は今一つ自信が持てずにいました。それでも最終回、南は笑顔とともに彼をグラウンドに送り出します。「甲子園 つれてって」の言葉とともに――。
It's a piece of cake
2025年、NASA(アメリカ航空宇宙局)は第1次月面長期滞在計画のクルーを発表。その中には、日本人宇宙飛行士・南波日々人(ひびと)が含まれていました。時を同じくして日本では、日々人の兄である南波六太(むった)が会社をクビになってしまいます。
かけ離れた人生を歩んでいた二人の兄弟ですが、幼少時に交わした約束を思い出したことで、運命の歯車が回り始めます。
小山宙哉の『宇宙兄弟』は、2011(平成23)年に小学館漫画賞一般向け部門と、講談社漫画賞一般部門をW受賞。そのほか数々の賞を総なめした名作です。読者を感動させた名セリフの一つを紹介します。
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南波六太と日々人の兄弟は、幼少時に星空の下である誓いを立てていました。弟の日々人は、宇宙飛行士になって“月”に行きたいと言うのです。兄の六太は、弟に先を越されたような思いを覚えながら、「お前が月に行くんなら」「兄ちゃんはその先へ行くに決まってる」と言います。そして、自分は“火星”に行くと宣言したのです。
そんな約束をして何十年――。会社をクビになり、失意の底にあった六太の下に、JAXA(宇宙航空研究開発機構)から書類審査通過の通知が届きました。それは、日々人が“ともに宇宙を目指す”という夢を叶えるため、母に頼んで応募してもらったものでした。
1次試験、2次試験を通過した六太ですが、3次試験は落選。しかし追加合格者として、なんとか最終審査にたどり着きます。2026年3月8日、日々人は日本人初の月面着陸に成功。宇宙へ行くという幼少時代の約束を、弟が先に果たしたのです。
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『宇宙兄弟』©小山宙哉/講談社 13巻P022より
JAXAから合格を告げられた南波六太は、渡米してNASAの訓練に参加します。やがて南波日々人が月から帰還。兄弟は、幼い頃から世話になっている金子シャロン博士と再会を果たします。しかし彼女は、人知れず難病のALS(筋萎縮性側索硬化症)を患っていたのです。
シャロンは有名な天文学者。少年時代の南波兄弟が観測所を訪れるたび、宇宙や音楽などの知識、教養を授けてくれた恩人です。六太は彼女の病状が気になって、ジェット練習機T-38を用いた音速飛行訓練に集中できなくなってしまいます。しかし困難にぶつかった時にこそ役に立つのが、昔シャロンに授けてもらった魔法の言葉。
“It’s a piece of cake”――直訳すると「ケーキ一切れ分」ですが、「楽勝だよ」という意味もある言葉です。シャロンは、自らを案じてくれる六太のため、月面天測望遠鏡計画についての前向きなメールを送ります。六太はその優しさに応えるべく、“It’s a piece of cake”と返信。それはシャロンを元気づけるとともに、落胆した自身を奮い立たせる言葉でした。
君達が弱いということは 伸びしろがあるということ こんな楽しみな事無いでしょう
春高バレーこと、全日本バレーボール高等学校選手権大会――。190cm近い選手がひしめくコートの中で、小柄でありながら他を圧倒する選手がいました。この“小さな巨人”は、地元・宮城県立烏野(からすの)高校のエース。テレビ中継を見ていた、幼い日の日向翔陽(ひなたしょうよう)を魅了しています。
しかし日向は、中学校最初で最後のバレーボール公式戦で惨敗。挽回のため、憧れの烏野高校に進学して排球(バレーボール)部の門を叩きます。しかしそこで待っていたのは、中学時代のライバルで「コート上の王様」の異名を持つ影山飛雄でした。
古舘春一の『ハイキュー!!』は、「週刊少年ジャンプ」(集英社)で2012(平成24)年から2020(令和2)年に連載。高校男子バレーボールの競技人口の回復に貢献したと言われる、人気スポーツマンガです。選手に自信を持たせて、その能力を引き出す言葉を紹介します。
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日向翔陽と影山飛雄は、烏野高校排球部に入って早々反目し合います。しかし日向の高い運動能力と、影山の正確無比なトスの連係プレーで“最強の味方”として生まれ変わりました。
そこに、烏野の“守護神”と呼ばれる2年生のリベロ・西谷 夕(にしのや ゆう)、3年生のウイングスパイカー・東峰 旭(あずまね あさひ)が復帰。さらに排球部顧問・武田一鉄の説得によって、前監督の孫でありOBでもある烏養繋心(うかい けいしん)がコーチに就任。新生・烏野排球部が始動します。
しかし因縁のライバル校・都立音駒(ねこま)高校との練習試合で惜敗。全国大会での再戦を誓い、烏野排球部はインターハイ予選に挑戦します。
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『ハイキュー!!』©古舘春一/集英社 10巻P011より
インターハイ予選で、“速攻”を武器に流れを掴んだ日向翔陽と影山飛雄。しかし烏野高校は私立青葉城西高校に敗れて、3回戦で予選を敗退してしまいます。
日向と影山の速攻が警戒され始めた烏野排球部。日向が放った「今のままじゃダメだ」いう一言で、チームに緊張が走ります。顧問の武田一鉄は、弱腰になったチームメイトにズバッと言い放ちます。「君達が弱いということは 伸びしろがあるということ」「こんな楽しみな事無いでしょう」。
武田は顧問に就任したばかりでなく、バレーボールは未経験。それでも“飛べない烏”と言われるまでに落ちた強豪校を立て直すため、人一倍勉強を重ねて部員たちの信頼を得ています。今は弱くても、排球部の可能性を信じている――。顧問の厳しくも温かい言葉は、自信を失った部員たちの背中を強く後押しするのでした。
自信を付けて立ち上がるマンガのキャラたち
努力して結果が出せると、それは次のステップに進む自信となります。『タッチ』や『ハイキュー!!』などのスポーツマンガでは、選手に「甲子園」や「伸びしろ」など具体的な目標を掲げて、結果が出せるよう応援しています。
『ガラスの仮面』で紹介した北島マヤは、高熱のため舞台に立つのもやっとという状況。しかし師匠の月影千草は、彼女の不断の努力を知っているからこそ、厳しい言葉を浴びせています。スランプに悩んでいたマヤですが、月影の言葉が自信となって“ベスの演技”を体得することができました。他方、『SPY×FAMILY』『宇宙兄弟』の紹介場面では、愛情のこもった言葉で相手に寄り添っています。
マンガのセリフには、作品の内容に合わせて様々な表現があります。登場人物に自信を付けさせるセリフは、同時に読者を励ます言葉でもあります。何かに自信が持てなくなった時には、お気に入りのマンガを思い出してみてくださいね。
執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 *文中一部敬称略