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【推しマンガ】変わり者の地理学者と奴隷の少女による、グルメな世界旅行記!

バットゥータ先生のグルメアンナイト 著者:亀

ここは14世紀のダマスクス。ギリシャ系奴隷の少女・リタは、“歯が丈夫”という理由で地理学者のバットゥータ先生に買われました。

弱者も暮らしやすい大都市・ダマスクスで、安定生活確定と期待したのも束の間――。リタはバットゥータ先生に連れられて、命がけの旅に出ることになります。

バットゥータ先生はメッカに巡礼後、インドを目指すと言うのです。美味しいスイーツからトカゲ肉にダチョウ、ガゼルなどの珍味まで、世界のグルメを満喫します。『バットゥータ先生のグルメアンナイト』、いざ開幕です。

14世紀の世界を教えてくれる旅行記

『バットゥータ先生のグルメアンナイト』は、モロッコ生まれの地理学者、イブン・バットゥータが主役のグルメ旅行記。「ミステリーボニータ」(秋田書店)で2022(令和4)年から連載されているマンガ作品です。

著者の亀は、世界史をマンガで紹介するWebサイト「歴史系倉庫」を書籍化した『歴史系倉庫世界史の問題児(クズ)たち』(PHP研究所)で、2016(平成28)年にデビュー。『レキアイ! 歴史と愛』(星海社)、『まんが 偉人たちの科学講義―天才科学者も人の子』(技術評論社)など、世界史がテーマの作品を手がけています。

イブン・バットゥータは、1325年にイスラムの聖地・メッカの巡礼に出発。以後約30年間の月日をかけて、世界を周遊しました。彼が訪れたのは北アフリカから、西アジア、南ロシア、中央アジア、インド、中国まで。故郷に帰還した後も、イベリア半島と西アフリカを巡る旅行を行っています。彼が記した『三大陸周遊記』は、 14世紀の世界の様子を知る貴重な資料です。

ここは、キャラバン・ルートを結ぶ交通の要衝地・ダマスクス。奴隷の少女・リタは、地理学者のイブン・バットゥータに買われました。彼は変わり者で、歯が丈夫なリタを気に入ったと言います。バットゥータ先生は、ギリシャ系でありながらアラビア語に堪能なリタに興味津々。リタに、どこで勉強したのかと問いかけます。

「勉強なんてするのは…」「学者さまだけです…」と答えるリタ。彼女は奴隷として命を繋ぐため、アラビア語を覚えたと言うのです。それを聞いたバットゥータ先生は、「コミュ力 たっか!」と感心しています。

隊商交易が盛んだったこの地では、様々な人種の奴隷が集められ、高度な都市文明を支えていました。歴史には、現代の価値観で善悪の判断ができないこともありますが、奴隷制度もその一つ。本作著者の亀は歴史の文脈を大切にしながら、マンガというエンターテインメントに取り入れています。キャラクター造形の妙もあって、読者は未知の領域である 14世紀イスラム世界に共感を抱くことができるのです。

ダマスクスのお洒落なスイーツが登場!

バットゥータ先生は、リタを祭りに誘ってくれました。リタを見習って、コミュ力を磨きたいと言うのです。リタは「学者って 変わってる…!」と、心の内でつぶやきます。学者でありながら奴隷を見習いたいと言うバットゥータ先生が不思議で仕方ないのです。

ダマスクスでは、毎年夏にナツメヤシ祭が開かれていました。市街地に連れ出されたリタは、大都市の喧騒に圧倒されてしまいます。

そんな彼女に、バットゥータ先生が何か買ってきてくれました。差し出されたのは、ディブスという名前のお菓子。ピーナッツとアーモンドが入った素朴な甘さのお菓子で、“もっちもち”な触感がリタを虜にしています。本作には、 14世紀世界各地のグルメが続々登場。リタによる可愛い食レポも見どころの一つです。

「都会のスイーツは オシャレだなぁ…!」。ディブスの美味しさに魅了されたリタは、店主に作り方を聞きました。店主は、ブドウの汁にナッツを入れるところまでは教えてくれましたが、あとは秘密だと言って笑います。

バットゥータ先生は、そのアクのない味から判断して、石灰石と煮詰めて酸味を飛ばしているのだと推測します。さらに、使っている粉は小麦粉ではないと講釈を垂れるのです。

店主は小さい声で「うざ」とつぶやきます。バットゥータ先生は優しい人ですが、ちょっぴり無神経。さらに学者ならではの好奇心を持ち合わせています。リタはまだ知りません。この後、彼の世界見聞の旅に連れ回されることを――。

世界周遊の旅の始まり

バットゥータ先生とリタがディブス談義に花を咲かせていると、店の表で騒ぎが起こりました。奴隷の少年が、誤って主人の皿を割ってしまったのです。

これは大変なことになりました。少年は主人からの暴力や、食事を与えられないなどの罰を受けるのでしょうか。リタはその身を案じています。

しかし一人の男性が現れて、少年に知恵を授けます。割れた皿の破片を寄進財団(ワクフ)に持ち込めば、新しい皿を買う金をくれるはずだと言うのです。イスラム社会には「ワクフ」と言う寄進制度があり、その基金の利益は慈善事業に役立てられていました。

奴隷の少年は、男性に付き添われて寄進財団に行くことになりました。その様子を見ていたリタは、「ダマスクス最高かよ…」と感動します。これからリタは、弱者に優しいこの町で暮らすことになるのでしょうか。期待に胸が膨らみます。

ダマスクスの気風に感心したのは、彼女一人ではありませんでした。バットゥータ先生はモロッコ人で、旅の途中で立ち寄ったダマスクスを気に入った様子。しかし、彼はこの地に定住するつもりはなく、メッカに巡礼してからインドへ行くと言います。

「オレ…」「命がけで旅したいんだ」。バットゥータ先生の言葉を聞いて、リタは青ざめます。リタはバットゥータ先生に連れられて、命がけの旅に出ることになったのです。

グルメな歴史旅に出かけませんか

旅は道連れ、世は情け!? こうして、バットゥータ先生と奴隷のリタによる珍道中が始まりました。アナトリアの王族アラエディンや、同じく奴隷のアリくんと連れ立って、世界の果てを目指します。

読者の中には、イスラム圏の文化や歴史になじみがない人もいることでしょう。しかし、主人公の一人であるリタは、非イスラム圏のギリシャで育った少女。イスラム世界に詳しくない者がガイド役となっているため、読者は親しみやすさを感じることができます。

本作は“グルメアンナイト”というタイトルの通り、バットゥータ先生一行が各地で出会ったグルメが見どころです。ナツメヤシのドライフルーツ「デーツ」や、近年日本でも人気の「タジン」など、美味しそうな食べ物が沢山登場します。バットゥータ先生とリタと一緒に、グルメな歴史旅に出かけてみませんか。

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 *文中一部敬称略

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