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【推しマンガ】“地面師”を目指す双子姉妹による、新機軸のクライム・サスペンス!!

オッドスピン
オッドスピン 菅野カラン

不動産業界の大敵である「地面師」についてご存じでしょうか。不動産の所有者になりすまし、購入者から大金を騙し取る詐欺師のことです。

地面師による詐欺事件は、大小様々な規模のものがあり、個人を対象にした犯罪から対企業の事件まで、多くの被害が発生しています。犯罪グループの組織化によって、近年は事件の規模も巨大化。大企業や不動産取り引きのプロも標的となって、世間を驚かせているのです。

『オッドスピン』は、地面師が主役のクライム・サスペンス。著者は、『かけ足が波に乗りたるかもしれぬ』で第80回ちばてつや賞一般部門佳作を受賞した気鋭のマンガ家・菅野カランです。主人公となるのは、うら若き双子の姉妹。二人の乙女が地面師として成長し、日本社会にはびこる土地神話の盲点に切り込みます。“誰のものでもない土地”をめぐり、繰り広げられるスリリングなマネーゲームは必見です!

主人公は一卵性双生児の姉妹

石谷 英(えい)と蛍(けい)は双子の姉妹。ある日、英はカフェに突然呼び出されて、蛍と久しぶりに再会します。英と蛍は、同じ遺伝子を共有する一卵性双生児のため、姿かたちはほとんど一緒ですが、性格は全く違います。

これまで、まともに自立したことのない蛍ですが、最近一人暮らしを始めました。やっと働く気になったようですが、英に仕事を手伝って欲しいと言うのです。

蛍には人任せなところがあって、英はそれを嫌というほど知っています。一体彼女は、どんな仕事を始めようというのでしょうか。英は、蛍を警戒します。

一方の石谷 蛍も、双子の片割れのことは全てお見通し。石谷 英は現実的な性格で、クリニックに勤めて身を立てていました。しかし、彼女が“人の命に係わる仕事”には向いているとは言えません。

英が病院勤めに嫌気が差すことを見通して、蛍は新しい仕事に誘ったのです。心の内を見透かされた英は、「…なんでわかるのよ」と疑問を呈します。「だって同じなんだもん」「遺伝子が」と言う相方に、英は言い返すことができません。

英は蛍の誘いに応じて、そのままカフェを後にします。英が連れて行かれたのは、とあるビルの屋上でした――。

不動産を持つことの意義

石谷 蛍は双子の片割れである英を、ビルの屋上へ連れていきました。そこで双眼鏡を英に渡して、近所の空き地を指さします。

この土地は登記がきちんとされておらず、持ち主が分からなくなっていると蛍は説明。さらに驚くべき言葉を続けます。なんと蛍は、この土地の所有者になりすまして土地を売却し、代金を騙し取ろうと言うのです。

それは人を欺く詐欺行為。英が慌てて「詐欺師になろうとしてる?」と聞くと、蛍は顔色一つ変えずにそれを認めました。

英と蛍の母親である友理は、土地持ちの男性との結婚を望んで、大地主・石谷家の後妻に収まりました。しかし友理は地面師に言葉巧みに騙されて、所有する土地のほとんどを奪われてしまったのです。

蛍は疑問に思っていました。「土地を『持ってる』」という表現に、違和感があるというのです。狩猟生活を行っていた頃の人類には、土地を私有するという発想がなかったと考えられています。農耕や牧畜の開始によって、定住生活が営まれるようになり、土地を管理する支配層が誕生。それ以来、土地に価値が見出されるようになったと考えられています。

しかしながら、私たちが住んでいるのは“地球”であって誰の持ち物でもないはずです。高度経済成長期以降、日本には歪んだ土地神話が定着してきました。蛍は、母を騙した詐欺師に怒るべきなのかもしれません。しかし土地所有制度の抜け穴を利用する彼らを、「面白い」と思ってしまったのです。

地面師の物件リストを入手して

地面師に興味を持った石谷 蛍は、母を騙した男に会いにいきました。池田という名前の地面師ですが、彼は警察の捜査に追い詰められていました。

蛍は事件被害者の娘ですが、加害者の池田に“恨み言”を言いにきたわけではありません。池田は、地面師を「面白い」と語る彼女の着眼点に注目します。

池田は一冊のファイルを蛍に譲渡。その中身は、池田が地面師として集めた物件のリストでした。逮捕を間近に控えた今、彼が持っていても仕方ないので、蛍にあげると言うのです。池田は蛍が興味を持った物件を見て、「初めてやるには最適」だと評します。その道のプロフェッショナルから「ヒキがいい」と褒められて、蛍は地面師になる決意を固めます。

言うは易く行うは難し――。石谷 蛍は地面師稼業を簡単に考えていますが、まだ“なりすまし”の方法さえ分かっていません。蛍が用意したのは、ターゲットとなる人物のパスポートに印鑑証明、登記識別番号通知、測量図など。これだけ書類が揃っていたら「なんとかなりそう」だと語りますが、双子の片割れである石谷 英は、不安で仕方ありません。

パスポートの持ち主になり代わるのは大変なこと。蛍は堂々と他人の目を見て、嘘をつくことができるのでしょうか。

ビルの屋上から、目的の空き地を観察していた双子の姉妹。蛍は英を屋上に残したまま、空き地に移動します。しかし隣家に住む老女から、「私有地だから勝手に入っちゃダメ」だと注意を受けました。思わず尻込みをした蛍ですが、英が電話でこっそりアドバイスを授けます。「蛍ちゃん 堂々としてよ」「あんたの土地なんでしょ はっきり言ってやんなさいよ」。

地面師をあらゆる角度から描く

石谷 蛍は「私の土地」だと隣人に返答。自らの立場を、空き地の相続人として釈明します。すると彼女は「こんなの もらっても大変ね」と言うのです。この土地は道路に接していない「無道路地」。建築基準法を満たす建物を建てられないため、市場価値が低くなるリスクがありました。

下調べをしていなかった蛍は、土地の子細を聞いて慌てます。その様子を見ていた相方の石谷 英は、蛍に示唆します。道路に面していないなら、隣接する土地の所有者に買い上げてもらえばいいと言うのです。

双子の姉妹は詐欺事件の“被害者”ですが、やがて“加害者”となる存在でもあります。彼女たちを主人公とする本作は、被害者と加害者など、あらゆる立場の視点から不動産詐欺を検証しています。善悪のボーダーラインを軽々と越える乙女たち。その姿は恐ろしくもありますが、金と欲にまみれた大人社会の矛盾を暴いて、読者の共感を呼んでいます。双子の姉妹の案内で、現代社会に潜む闇を覗いてみませんか――。

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 *文中一部敬称略

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