【推しマンガ】憧れの小説家はド屑だった!? シギサワカヤ真骨頂の翻弄系恋愛マンガ!

出版社の女性社員・坂田 新(あらた)が任せられたのは、ド屑な小説家の担当でした。ところが彼が紡ぎ出す小説は、至高の内容だったのです。
新の心は、彼の才能に魅入られてしまいました。湧き上がる感情に逆らうことができず、ただ流されていくことしかできません。
屑オトコに翻弄される恋愛を描かせたら、当代屈指のシギサワカヤによる真骨頂! 先の展開が読めない、スリリングな恋愛マンガを紹介します!!
シギサワカヤ本領発揮の恋愛マンガ
『女神の疵痕(きずあと)』は、白泉社の恋愛系コミック雑誌「楽園 Le Paradis(ル パラディ)」の連載作品。2009(平成21)年の創刊時から、同誌に執筆している人気マンガ家・シギサワカヤによる作品です。
本作のコミックス第1巻のあとがきには、「セックス&ド屑が本来のシギサワカヤ…」と編集者から言われたことが、執筆のきっかけとなったと紹介されています。
人気小説家と、彼を担当する編集者の間に吹き荒れる感情の嵐――。二人のカラダとココロの揺らぎを描く『女神の疵痕』は、恋愛マンガの名手たる著者の面目躍如と言える一作なのです。

『女神の疵痕』©シギサワカヤ/「楽園」/白泉社 1巻P007より
坂田 新は、出版社の枸橘(からたち)書店に入社以来、営業の仕事をこなしてきました。月刊少女マンガ誌の編集部に勤める同僚と付き合って3年目――。このまま交際が順調に進めば、結婚することになるだろうと考えていました。
仕事は順調で、心身ともに健康な毎日。新は、自分が理想通りの人生を歩むことを信じて疑いませんでした。
ところが平凡な日々は、ある日を境に急変してしまいます。部長に呼び出された新は、文芸編集部への異動を命じられてしまったのです。営業の仕事にやりがいを感じていた新ですが、これからは編集業務につかなければなりません。さらに驚くべきことに、彼女が編集を任せられたのは人気恋愛小説家・伊佐坂かをるだったのです。
憧れの小説家の正体とは!?
伊佐坂かをるは、“顔出しNGの美女”と名高い恋愛小説家。出版される作品の全てが、大当たりとなるヒットメーカーなのです。
長年の伊佐坂ファンだった坂田 新。彼女がこの会社に入ったのも、伊佐坂作品が好き過ぎるためだったのです。憧れの伊佐坂のため、熱意を込めて書籍の宣材を作った新。その宣材が伊佐坂の目に止まり、担当編集者に抜擢されたと言うのです。
なんとも嬉しい話ですが、新は一つの矛盾に気づきます。伊佐坂は担当編集者の桶田と“名コンビ”のはず。しかし桶田は胃潰瘍で入院し、「これ以上 伊佐坂担は無理です」という言葉とともに退職していました。さらに、その一代前の担当者も適応障害になって入院したと言います。伊佐坂は少なくとも2回の“病院送り歴”を持つ、訳アリ作家だったのです。

『女神の疵痕』©シギサワカヤ/「楽園」/白泉社 1巻P019より
伊佐坂かをるの情報は謎に包まれていて、会社でも担当編集者と上層部の一部のみが知る“極秘扱い”。さらに伊佐坂作品の装丁が、「ホリ」というイラストレーターに一任されていることも、ミステリー感を深めていました。
いよいよ伊佐坂と対面をすることになった坂田 新――。緊張の面持ちで、高級レストランでの会食に臨みますが、肝心の伊佐坂はなかなか現れません。約束の時間に遅れてきた伊佐坂ですが、驚くべきことに新が想像していたような女性ではありませんでした。
会食に同席していた専務の橘 光子が説明します。37歳になっても遅刻を詫びることもできない、すっとこどっこいな男こそが“伊佐坂かをる”だと言うのです。彼の本名は橘 馨と言って、専務の甥でもありました。顔出しNGという設定のため、美女だと誤解されてきた伊佐坂かをる。しかしその正体は“男性”だったのです。
グルメでド屑な恋愛小説家
牛丼屋でポテサラにソースをかけたものを肴に、ビールを飲み始めたら止まらなくなったと語る伊佐坂かをる。後任の編集者との顔合わせがあるのにもかかわらず、そんな理由で遅刻したと言うのです。坂田 新が担当編集者として挨拶すると、彼女の名前をもじって「ニュー(New)」と呼んでからかいます。「これが 私の長年憧れてきた作家先生だというの――!!?」。新はショックを隠せません。
その瞬間、伊佐坂が連れていた謎の美女が名刺を出して、新に挨拶を始めます。彼女の名前は早坂弦乃(つるの)。伊佐坂の秘書であり、イラストレーター「ホリ」のマネージャーだと言います。
伊佐坂は、弦乃を“義理の妹”として紹介しますが、その言葉を聞いた弦乃は寂しそうな笑みを浮かべます。伊佐坂と弦乃は、一体どんな関係なのでしょうか。伊佐坂の正体が判明したにもかかわらず、その掴みどころのない性格のせいで、謎は深まるばかりです。

『女神の疵痕』©シギサワカヤ/「楽園」/白泉社 1巻P020_021より
伊佐坂かをるは、料理の美味しそうな様子を小説に書く名手です。実際に美食家である彼は、会食で提供された料理に舌鼓を打ちます。
伊佐坂が気に入ったのは、カリフラワーのムースと金柑のピュレをあしらった一品。しかし彼は、味の決め手となる“爽やかな青い香り”の正体が分かりません。そこで坂田 新は、東南アジア原産のコブミカンを香りづけに使っていると言い当てて、伊佐坂を喜ばせます。
新は調子に乗って、八王子に中古のマンションを買ったことを告白。すると伊佐坂は、「八王子 東京じゃねえよ!!」「自分の事 東京だと思い込んでる甲信越の一員なんだよ」と問題発言を連発します。しかし強気な言動を繰り返す伊佐坂ですが、「個人的には 因縁の深い土地なんだよ」とポツリ――。伊佐坂の寂しげな横顔に、新は“不自然な揺らぎ”のようなものを感じます。
忍び寄り高まる恋の気配
「あんなクソなのに 書いてる話は最高ってのが またムカつく」。伊佐坂かをるとの初対面は無事終わりましたが、坂田 新は彼との仕事に一抹の不安を覚えます。
彼女が心配した通り、〆切が来ても伊佐坂の原稿が仕上がる気配はありません。仕方なしに伊佐坂邸に原稿を取りにいった新は、そこで思いも寄らぬハプニングに遭遇し、彼のド屑っぷりを再確認させられます。しかし受け取った原稿は至高の出来で、新は彼の才能に惚れ込んだことを認めざるを得ないのです。
訳アリな天才小説家の担当となったことで、平穏な暮らしを破壊されていく新。やがて、伊佐坂が心に抱える“疵痕”を、見せつけられることになります。彼の“疵痕”とは何なのか――興味を持ってもらえたとしたら、あなたはもう恋愛小説家・伊佐坂かをるの虜になっているのかもしれません。
執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 文中一部敬称略