自然をゆるやかに楽しむ、女子アウトドア・マンガ

息をのむ絶景、心躍る発見――大自然は感動のドラマで満ちあふれています。その魅力の一端に触れるため、人は海や山、川、湖などに出かけてアウトドア・スポーツを楽しむのです。
一方、自然の中でアクティビティを楽しむためには、予備知識や安全への配慮が必要となります。中でもキャンプや登山は、専門の用具が求められることもあって、初心者にはハードルが高いものとなりがちです。
近年では、女性を主人公にしたアウトドア・マンガが多く誕生しています。女性ならではの視点で、手軽に楽しむ工夫が凝らされたアウトドアの世界。女性はもちろん男性読者も大歓迎! ゆるやかアウトドア・マンガの名作をご紹介します!!
ソロキャンプ人気の火付け役的作品
富士山が見える湖畔で、一人キャンプを楽しむ志摩リン。自転車に乗って、富士山を見にきた各務原なでしこ。二人の女の子が、ラーメンを食べた後に見た景色は絶景でした。
読めばキャンプに行きたくなる、行かなくても行った気分になる――『ゆるキャン△』は、読む者にアウトドアの醍醐味を教えてくれるキャンプ・マンガの人気作です。
ひとり気ままに大自然を楽しむ“ソロキャンプ”。そのブームの火付け役となったと言われるのが本作なのです。キャンパーもそうでない人も楽しめる、ゆるやかキャンプ・マンガの魅力を紹介します。

「まんがタイムきららフォワード」(芳文社)で連載をスタートし、同社のマンガ配信サービス「COMIC FUZ」に活躍の場を移した本作品。女子高生がマイペースに自然を楽しむ姿を描いて、多くの読者の共感を呼んでいます。
本作は、これまで三度にわたってテレビアニメ化。さらに2022(令和4)年には劇場アニメが公開されています。
1990年代に起きた第一次キャンプブームに続き、2020年頃には第二次キャンプブームが盛り上がりました。二回目のブームを語るうえで欠かせないのが本作の存在です。メディアミックス効果で人気を伸ばし、作品の舞台となった富士山周辺の “聖地巡礼”を行うファンが急増。経済効果が話題となって大きな注目を浴びています。

『ゆるキャン△』©あfろ/芳文社 1巻P028_029より
志摩リンは本栖(もとす)高校に通う高校一年生の女の子。一人静かな時間を過ごすため、シーズン・オフのキャンプ場に出かけてはソロキャンプをしています。ある冬の日、貸し切り状態のキャンプ場に来たリンは、ベンチで爆睡する少女・各務原なでしこを見かけます。
なでしこは山梨県に引っ越してきたばかり。富士山見たさに自転車をこいで来ましたが、キャンプ場で休んでいるうちに寝過ごしてしまったのです。夜の山道を引き返すこともできず困惑するなでしこ。リンはそんな彼女のため即席の“カレーめん”を作ってあげます。
なでしこの目的は千円札の裏面に描かれた“ふじさん(富士山)”を見ること。この絵は富士五湖の一つ、本栖湖越しに見た富士山がモデルです。日中は雲に隠れていた富士山ですが、夜になるとその姿が月明かりに照らし出されます。“夜のふじさん”と“カレーめん”に心を満たされたなでしこ。転校先の本栖高校の野外活動サークルに入って、魅惑のゆるキャンライフを始めます。
高尾山の魅力にハマったハイヒール女子
彼氏にフラれた御岳(みたけ)ノリコが、傷心プチ旅行で向かった先は年間登山者数世界一を誇る高尾山! 無謀にもハイヒールで登山して、遭難しかけてしまいます。
そこで出会った子天狗に懐かれて、ノリコはいつの間にか高尾山の魅力にハマってしまいます。高尾山には美味しいグルメにビール、四季折々の自然が待っていたのです。
山登りに興味がない、階段を上るだけで息切れをしてしまう――そんなあなたにおススメの登山マンガを紹介します。OLと子天狗が織りなす、清く正しい初心者向け登山ストーリー。捧腹絶倒の4コママンガ開幕です!!

高尾山は東京都八王子市にある標高599mの山です。登山口である京王線高尾山口駅まで新宿から最短43分という好アクセスで、連日多くの観光客が訪れています。「ミシュランガイド」で最高ランクの三ツ星を獲得。ピーク時には年間約300万人が訪れたこともある、世界一登山者数が多い山なのです。
初心者も登りやすい低山で、ケーブルカーやリフトで中腹まで行くことができます。さらに豊かな自然や、アドベンチャー感ある登山コースなどもあり、レベルに応じた登山が可能なことも多くの人に愛される理由の一つ。
さらに茶屋や蕎麦屋の名店や、絶景を楽しめるビアマウントなど絶品グルメを楽しむこともできます。そんな高尾山の魅力を紹介する脱力系・登山マンガが本作なのです。登山はおろか階段を上ることもしなかったOLが、“高尾山”という沼にハマっていく様子とともに、四季折々の山の魅力を描いています。

『高尾の天狗と脱・ハイヒール』©氷堂リョージ/竹書房 1巻P011より
「寿退社&旦那の稼ぎでラクに暮らそうと思っていたのにぃ~!」。御岳ノリコ32歳は究極の自己中キャラ。そのワガママぶりに愛想がつきたのか、交際相手から別れを切り出されてしまいました。傷心旅行に出掛けようと、観光パンフレットを集めたノリコ。行き先はバリ島か、ヨーロッパか――と思いを巡らせますが、金欠のため遠方に行けそうもありません。
ノリコが訪れたのは、会社からアクセス便利な高尾山。彼女は無謀にも10cmのハイヒールで登山を始めますが、その様子を静かに見つめる男たちがいました。それは山に住まう天狗たち。子天狗の聖(ひじり)は、ノリコに「その高下駄を脱ぐとよい」とアドバイス、“高下駄”ことハイヒールを脱がせて山頂まで連れていってくれました。
帰宅後、地獄の筋肉痛に悩まされたノリコですが、山頂で見た景色が忘れられません。さらに山にサイフを落としたことも分かって、再び高尾山に向かうことになります。こうしてノリコは高尾山の常連となっていくのです。
単独登山女子の密やかな楽しみ
日々野鮎美は、山ガールと呼ばれたくない自称「単独登山女子」。美味しい食材をリュックにつめて、今日も一人山を登ります。
鮎美が山で食すのは「欲張りウィンナ~麺」に「雲上の楽園コーヒー」「魅惑のブルスケッタ」などなど――。山で食べる食事は、どうしてこんなにおいしいのでしょうか。
WEBマンガサイト「くらげバンチ」(新潮社)で、最速100万アクセスを突破したアウトドア・マンガの決定版! 読むとお腹がすいてくる&山に登りたくなること請け合いのマンガを紹介します。

日々野鮎美は27歳の会社員。登山道でオジサンたちから「山ガール」と声を掛けられますが、彼女は「『山ガール』って呼ばないで…」と切り返します。
2010(平成22)年、「山ガール」という言葉がユーキャン新語・流行語大賞の候補60語に選出。登山を愛好する女性たちは山ガールと呼ばれ、マスコミにもてはやされた時期がありました。このブームの最中に登山を始めた鮎美は、確かに山ガールだったかもしれません。
しかし彼女の山への愛情は、一過性のブームで終わりませんでした。今は「単独登山女子」を自称して、登山の更なる高みを目指しているのです。登山はジョギングや水泳と同じ有酸素運動。歩き始めの15分は苦しいですが、全身の隅々に酸素を行きわたらせることができれば身体が軽くなっていくのです。

『山と食欲と私』©信濃川日出雄/新潮社 1巻P018_019より
日々野鮎美は山道を歩きながら、貯えてきたカロリーをエネルギーに変えて燃やしていきます。夜空が白み始めた頃、その場に立ったまま10分間の小休止。アクティブモードを切らさずに、炭水化物でガソリン補給を始めます。
「山歩き 梅干し出づる 夜明けかな」。鮎美は手に持った梅干しおにぎりを、昇ってきた朝日に重ねて一句を詠み上げます。その様子を見ていたイケメンが彼女に声を掛けますが、鮎美は自分のペースを貫いて単独行動を続けます。鮎美のストイックぶりには驚かされるものがありますが、全てが山上で美味しいグルメを楽しむためのこと。
別の山では、鮎美が登山客の渋滞に巻き込まれてしまいます。そこで彼女は登山用クッカーを取り出して、インスタントラーメンを茹で始めます。仕上げに高級ウィンナーを投入すれば「欲張りウィンナ~麺」の完成です。肉汁たっぷりのウィンナーに、大口でかぶりつく鮎美。その天晴れな姿に、見る者の目も釘付けになってしまいます。
ハイジの山小屋修業
ハイジこと高原羽衣路は、会社から派遣の契約を切られてしまいました。無職となった彼女は、亡き祖父が遺した山小屋に興味を持ちます。
ハイジの祖父は一族の変わり者。しかし祖父の山小屋から来た霧島朝日は、ハイジが祖父に抱いていた“山男”のイメージを覆す爽やかな好青年でした。彼の優しさに触れたハイジは、安易な気持ちで山小屋に向かうことを決めてしまいます。
山でハイジを待っていたのは、彼女の想像を遥かに超える世界。厳しくも優しい山に抱かれて、ハイジの山小屋修業が始まります。

親族のはみ出し者だった祖父が急逝しました。その納骨のため、派遣社員のハイジは忌引き休暇の取得を会社に願い出ます。しかし月末で期限が切れることを言い訳に、ハイジは契約の更新がないことを告げられます。
仕事を失ったハイジは、友人から「いっそのこと 継いじゃえばいいじゃん」「おじいちゃんの山小屋!」と言われてしまいます。ところが彼女は山について何も知らない上に、不愛想な祖父が苦手で20年も会ったことがなかったのです。
祖父は亡くなる直前に、ハイジに「山に来ないか?」と声をかけてくれたことがありました。大切な肉親でありながら、なぜ「うん」と言えなかったのでしょうか――ハイジは、強い後悔の念に駆られます。

『ハイジと山男』©安藤なつみ/講談社 1巻P040_041より
そんなハイジのもとに、祖父の山小屋で働く青年・霧島朝日がやって来ました。霧島は祖父の形見をハイジに届けにきたのです。ハイジはその遺品の中に「HAIZI」と刻まれた鈴を発見。祖父の思いに心打たれたハイジは、霧島に山小屋への案内を頼みます。
山小屋で働く人のためにお土産を用意したハイジ。しかし霧島は、「山をなめるな」という言葉とともにお土産を捨ててしまいます。初心者のハイジを待っていたのは険しい山道。ハイジは、霧島の忠告が正しかったことを理解します。
標高2315m。奥穂高岳の頂上まで目と鼻の先という場所に、祖父の「みどり小屋」はありました。そこでハイジは、祖父の鈴が大切な“お守り”だったことを思い出します。ハイジの祖父は山のような人で、厳しさとともに優しさにあふれていたのです。祖父の記憶に導かれながら、ハイジは山小屋修業を始めます。
初心者歓迎の登山コミックエッセイ
体力ナシ、友達ナシ、山知識ナシの人でも大歓迎。知識ゼロから始める、登山初心者のためのコミックエッセイを紹介します。
変化のない毎日よサラバ! 無趣味で無気力な干物女の主人公が“ゆる登山”にハマって抜け出せなくなりました。
著者の体験談を描くマンガと解説コラムで、初心者必見の山登り知識を紹介します。ゆるく山登りを始めてみたい人に、手取り足取り教えてくれる実践的コミックエッセイをのぞいてみましょう。

このお話は、知識ゼロから登山を始めた著者の体験談がもとになっています。著者が看護師として勤めて6年目のこと。仕事は忙しくも充実していましたが、休日は家でダラダラ過ごすだけ。まるで“干物”のような自分の在り方に嫌気が差していたと言います。
そうは言っても特に趣味もないため、やりたいことが思い付きません。マンガを借りるため、レンタルショップに向かった著者は本棚で運命の一冊と出会います。
それは登山がテーマのマンガ作品。会社員の主人公が、休日を利用して山登りを楽しむ姿が描かれていたと言います。山で美味しいグルメを楽しんだり、自然に癒されたり、とてもワクワクする内容に刺激を受けて、著者は登山への憧れを抱くことになったのです。

『ゼロから山女子始めてみました』©Ariwo P020_021より
マンガをきっかけに、登山関連の書籍を読むようになった著者。ページをめくるたび、山の景色や登山用品の写真に胸が躍るようになりました。一人で遠出をしたこともない著者でしたが、ゼロから山登りを始めることを決意。
登山をするなら、まずは山道具を集めなければなりません。まずは“登山三種の神器”として、登山靴、レインウェア、ザックを購入することになりました。意気揚々とショッピングに出かけた著者ですが、種類が豊富にあることを知って困惑してしまいます。
さらに相場5~10万円と言われる初期費用も、著者にショックを与えたと言います。本作は山道具を買う前に下調べをしておくこと、専門店の店員からアドバイスを得ることの大切さを紹介。明るく楽しいコミックエッセイとともに、実践的な登山の知識を伝授してくれます。
マンガを通して自然と触れ合う疑似体験をする
『ゆるキャン△』では、一人キャンプを楽しむ志摩リンの姿が印象的です。同時に、各務原なでしこが入部する「野クル」こと野外活動サークルの物語も展開していきます。人それぞれのキャンプの過ごし方があることを教えてくれる作品です。
『高尾の天狗と脱・ハイヒール』『ゼロから山女子始めてみました』はアウトドア知識ゼロでも楽しめるコメディ作品。初心者が登山に踏み出すきっかけをくれる作品です。一方、『山と食欲と私』『ハイジと山男』は本格登山がテーマの作品。山で食す絶品グルメや、山小屋を舞台とする人間ドラマを描くことで、登山経験のない読者に親近感を持たせています。
作品を読むことで、自然を“疑似体験”できるのもアウトドア・マンガの魅力の一つ。キャンプや登山テーマのほかに、釣りや狩猟などをテーマにした作品も誕生しています。お気に入りのアウトドア・マンガを探してみてくださいね!
執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 文中一部敬称略