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名探偵に相棒、名悪役! ミステリを盛り上げるマンガのキャラたち!!

マンガを盛り上げてくれるのが、魅力あふれる登場人物たち。どんなジャンルであっても、様々な役割を持ったキャラクターが登場しますが、ミステリ作品で重要なのが謎を解く探偵役。さらに探偵の相棒的存在や、名探偵に比肩する頭脳を持った敵役も重要です。

アーサー・コナン・ドイルの名作「シャーロック・ホームズ」シリーズでは、軍医としての経験を持つワトソン博士が主人公シャーロック・ホームズを助けます。さらに元・大学教授という頭脳派で、ロンドンに暗躍する悪党一味を操るモリアーティ教授は、ホームズの好敵手として知られています。

ミステリ・マンガの人気作から、魅力あふれるキャラクターたちを紹介します。名探偵に相棒、刑事、悪党など、物語をスリリングに演出する名優たちに注目しましょう!

カレー大好き、解決解読青年!

冬のある日のこと。大学生の久能 整(くのう ととのう)がカレーを作っていると、二人の刑事がやって来ました。近所の公園で起きた殺人事件の参考人として、整に任意同行を求めると言うのです。事件の被害者が同級生であったこと、さらにアリバイを証明する人がいなかったことから、整は事件への関与を疑われてしまいました。

『BASARA』『7SEEDS』の人気マンガ家・田村由美が拓いた新境地はミステリ作品でした。その主人公は、カレーが大好きな天然パーマの青年。

整は探偵でも刑事でもありません。何者でもないただの大学生だけど、優れた観察力と洞察力で事件を読み解いて解決します。この物語をミステリと言う勿(なか)れ!? 新感覚の推理ストーリーを紹介します!

ミステリと言う勿れ 著者:田村由美

『ミステリと言う勿れ』は、天然パーマがトレードマークの大学生・久能 整が主人公。様々な事件に巻き込まれながら、それを解決に導く整の姿を描いて、多くのファンを獲得しています。

「月刊flowers」(小学館)2017(平成29)年1月号に読み切りが掲載されて好評となり、翌年から同誌で連載スタートしています。マンガ大賞2019の第2位と、第67回小学館漫画賞一般向け部門を受賞。テレビドラマ化と実写映画化によって、一大ブームを巻き起こしました。

物語は、冬空を飛ぶヘリコプターの羽音とパトカーのサイレン音とともに始まります。吐く息が白くなるほどの寒さにも関わらず、公園で起きた殺人事件で周囲は慌ただしさを増していました。絶好の“カレー日和”だと張り切っていた整ですが、その部屋に二人の刑事が来訪。大隣署の薮 鑑造(やぶ かんぞう)警部補と、その部下である池本優人巡査です。

公園で遺体となって発見されたのは、久能 整の同級生である寒河江 健(さがえ けん)でした。整は事件の参考人として任意同行を求められ、大隣警察署に向かいます。

整の犯行を裏付ける証拠が次々と見つかって、整は容疑者として執拗な取り調べを受けます。しかし整は、驚異の観察力と洞察力、分析力の持ち主。事情聴取の途中で、刑事たちが抱える悩みを次々と暴いていきます。

さらに捜査の矛盾を鋭く指摘。警察は、本件の凶器である果物ナイフの持ち主が整であったことから、彼を疑っていると言います。しかし何物かが整のナイフを盗んで、寒河江を殺した可能性も否定できません。整は「真実は一つじゃない」「2つや3つでもない」と答えます。真実は関わった人の数だけあると言うのです。それでも起こった事実は一つ。整は事件の裏に潜む真相を見事解明するのです。

ホームズの姪が難事件を解決!

19世紀末の霧深きロンドンに起きるいくつもの難事件。それを解決するのは、名探偵と名高きシャーロック・ホームズと助手のワトソン博士、さらにホームズの姪も推理に参加して――!?

アーサー・コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズは、世界で最も有名な推理冒険小説。新谷かおるは、ホームズの姪であるクリスティを主人公に仕立てて、ドイルへのオマージュ作品としています。

『エリア88』『砂の薔薇 デザート・ローズ』など、スリリングなアクション・マンガで人気の新谷かおる。『クリスティ・ハイテンション』には、レジェンドならではの巧みなストーリー運びとともに、迫力のアクションがあふれています。

クリスティ・ハイテンション 著者:新谷かおる

19世紀頃のイギリスは、産業革命によって大きく変化。地方から求職者が押し寄せて、ロンドンは人であふれ返りました。

彼らが望み、企み、そして絶望することで、街にはいくつもの難事件が起こります。しかし霧深き犯罪の都に、待望の名探偵が登場。シャーロック・ホームズと助手のワトソンの活躍は、犯罪都市の救世主としてロンドン市民に歓迎されました。

彼らが下宿兼事務所としたベイカー街221Bには、次々と依頼人の相談が舞い込みます。さらに、その事件の匂いを嗅ぎつけて、好奇心旺盛な一人の少女がやって来るのです。

クリスティ・クリスタル・マーガレット・ホープは、伯爵家の令嬢です。高名な私立探偵であるシャーロック・ホームズを伯父に持ち、10歳とは思えぬ明晰な頭脳と鋭い感性、さらに大人顔負けのユーモアを兼ね備えた小さなレディ。しかし持ち前の好奇心と、ホームズに認められたい気持ちもあって、隙あれば事件の調査に加わろうとするのです。

この日、ホームズの部屋を訪れたのはカントルミヤ卿。事件の解決を急ぐ彼の姿を見たクリスティは、この数日新聞を賑わせているホワイトホールの宝石盗難事件の相談だと見抜きます。さらに、盗まれたのは100カラットのイエローダイヤ、通称「マザランの王冠ダイヤ」だと指摘。ホームズ顔負けの名推理を見せて、ワトソンを驚かせています。

「パスティーシュ」とは、文学などの芸術分野で、先行する作品の要素を取り入れて新たな作品を生み出すこと。新谷かおるは、「シャーロック・ホームズ」の原典には登場しない“架空の姪”を主人公とすることで、読者に新たな読書体験をさせています。クリスティによる愛らしくスリル満点の冒険譚は、老若男女問わず様々な読者におススメしたい内容です。

探偵の敵役は美しい人妻

人が生きるために欠かせないもの一つが食事です。食べることは人生そのもの。楽しいことや悲しいこと、さらに愛情や憎しみなど、料理にはそれを食した時の様々な記憶が付いて回ります。

人生最後の日、あなたは何を味わいたいですか。東村アキコの『美食探偵 明智五郎』は、グルメとミステリを掛け合わせた新感覚コミック。「Cocohana」(集英社)の人気作で、2020(令和2)年にテレビドラマ化されて大きな話題となっています。

超美食家のイケメン探偵・明智五郎と、弁当屋・小林 苺の凸凹コンビが事件の解決に挑みます。明智のライバルとなるのは、怪人二十面相顔負けの狡猾な知能犯で――!? ユニークな登場人物たちと作品の魅力を紹介します。

美食探偵 明智五郎 著者:東村アキコ

江戸川乱歩が生んだ名探偵・明智小五郎――ではなく、明智五郎が本作の主人公。彼は表参道に「江戸川探偵事務所」を営む探偵で、「東京美食倶楽部」を主宰する美食家でもあります。

明智は整った顔立ちで、行きつけのレストランでは女性スタッフの人気者。しかし江戸川探偵事務所の向かいでワゴン販売をする弁当屋「イチゴ・デリ」の小林 苺は、彼が一風変わった人物であることを知っています。今時古風なスーツにループタイというスタイル。一等地に事務所を構える身でありながら、なぜか弁当を“ツケ”で買うのです。

さらに明智は、苺のことを「小林一号」という名前で呼びます。苺はちょっとお人よしの所があって、唯我独尊な性格の明智五郎にいつも振り回されてしまうのです。

探偵業を営んでいるにも関わらず、車も免許も持っていない明智五郎。小林 苺は、車を出せという彼の要望に応え、キッチンカーに彼を乗せます。向かうは葉山の高級レストラン。そこには、明智に浮気調査を頼んだ依頼人の女性が待っていました。

せっかく料理を作っても興味を持ってくれない夫に、依頼人の女性は積年の恨みを抱いていました。そんな夫が、他所の女性が作った料理を食べていたと知り、彼を殺してしまったのです。

「食事は どちらかが死ぬまで続く 大事な夫婦の営みだわ」と語る依頼人の女性。レストランで料理を頬張りながら、明智と会話を重ねます。彼女が最後の晩餐として選んだ料理――それは、血がしたたるほど真っ赤なレアのグリル肉。図らずも明智は、依頼人を恐ろしい犯罪者にしてしまいました。この美しきライバルとの因縁は、この後も続いていきます。

名探偵のライバルを描くパスティーシュ

19世紀末の大英帝国。そこでは古くから根付く完全階級制度により、上流階級の人間がすべてを支配していました。この世に生まれ落ちた瞬間から、一生涯の身分が決まる社会制度。人々は差別に苦しまされました。

そんな中、階級制度を打ち砕き、理想の国を作ろうとする青年が現れます。これは憂国の天才ウィリアム・ジェームズ・モリアーティの、或いはシャーロック・ホームズの敵(かたき)の話です。

本作は、名探偵ホームズのライバルとして有名なモリアーティ教授を主人公に据えた新機軸のパスティーシュ。腐敗した世の中を変えるため、犯罪による革命を試みたダーク・ヒーローの姿を描いています。その衝撃の登場シーンを紹介しましょう。

憂国のモリアーティ 原案:コナン・ドイル 構成:竹内良輔 漫画:三好輝

産業革命によって、イギリスは世界を支配する史上最大の帝国となりました。しかし国を支配するのは、人口の3%に満たない上流階級の人間だけ。

階級は人を区別する境界であり、学業や職業の選択、婚姻などは、階級ごとに制限の中で行われていました。たとえ才能を有する者であっても、生まれた境遇を変えることはできなかったのです。

ウィリアム・ジェームズ・モリアーティは、19世紀末大英帝国に登場した革命児。犯罪相談役(クライムコンサルタント)として、階級制度に苦しむ人々の代わりに、はらせぬ恨みをはらします。非凡な頭脳から生まれる“完全犯罪”で革命を起こそうとしたのです。

1866年、イギリスのロンドン郊外。モリアーティ伯爵家には、二人の男児が誕生していました。長男のアルバートと次男のウィリアムです。アルバートは、貴族の身分でありながら、上流社会の裏に潜む虚飾に失望していました。彼が学校の慈善活動で訪れた孤児院で、二人の兄弟と出会ったことで、運命の歯車が回り始めます。

アルバートを引きつけたのは、孤児の兄弟のうち年長の少年。下層階級の出身でありながら高度な知識を持っていて、階級制度の矛盾を鋭く指摘します。さらに、大英帝国を根本から変える方法として正しく悪を説いていたのです。それは劇薬のような思想でしたが、アルバートは大いに共感。

アルバートと孤児の兄弟は共謀し、モリアーティ家のすべてを焼き尽くします。完全犯罪とも言えるシナリオは、年長の孤児が書き上げたもの。彼は亡くなったウィリアムに成り代わり、モリアーティの一員として新しい人生を歩み始めます。かくて希代の天才犯罪者が誕生。善と悪の在り方を問う、衝撃のクライム・サスペンスの幕開けです。

ワケ有り探偵とピュア刑事の名コンビ

かつて世界最高峰と言われる探偵養成学校BLUEで、開校以来の天才と謳われた鴨乃橋ロン。彼に解けない謎はないと言われ、自らも類稀なる才能を生涯探偵業に捧げることを心に決めていました。

しかし彼は、探偵として致命的な欠陥をかかえたことで、人生のどん底に落ちていたのです。ワケあり探偵・鴨乃橋ロンがコンビを組むことになったのは、ピュアでマヌケな捜査一課の刑事・一色都々丸。

探偵として余りある才能に恵まれながら、失意に暮れていた鴨乃橋ロンが再び立ち上がります。奇妙な凸凹コンビによる推理コメディの人気作を紹介します。

鴨乃橋ロンの禁断推理 著者:天野明

『家庭教師ヒットマンREBORN!』でギャグとバトルを展開した天野 明が、本格ミステリに挑戦! 『鴨乃橋ロンの禁断推理』は、著者ならではのユーモアが入り混じった推理劇です。

本作はマンガ配信サービス「少年ジャンプ+(プラス)」(集英社)の人気作品。これまで2回にわたってテレビアニメ化されて、大きな話題となっています。

唯一無二の天才でありながら問題を抱える探偵・鴨乃橋ロンと、警視庁捜査一課でお荷物扱いされている刑事・一色都々丸による“バディもの”。二人のボケと突っ込みや、互いを助け合う友情も見所の一つとなっています。

トトこと一色都々丸は、警視庁捜査一課の若手刑事。お人よしの性格で、これまで犯人に騙されて逃亡されたこと3回という経歴の持ち主です。連続殺人事件の捜査から外されそうになり、焦ったトトは総務課の先輩・キクさんの紹介で鴨乃橋ロンを訪ねます。

ロンはマンションの管理人をしていましたが、トトはそのボサボサ頭と生気のない顔に驚きます。死んだ魚よりも艶のない目は、とても天才探偵のものとは思えませんでした。ある事情で失意のどん底にあるというロンは、トトの協力要請を強く拒みます。しかし連続殺人事件の新たな被害者が出たと知って、探偵としての本能が覚醒。事件解決へと乗り出します。

風花公園で見つかった6人目の遺体。水のない場所であるにも関わらず、死因は“溺死”でした。遺体は男性のもので、抵抗の跡がないこと、金目の物が奪われているという点で、これまでの事件と共通していました。それ聞いたロンは、警察が9か月掛けて解けなかった謎をわずか3分で解明してしまいます。連続殺人の驚くべきトリックは、ぜひマンガでご覧ください!

ミステリを盛り上げるのは、探偵や刑事だけじゃない

『クリスティ・ハイテンション』では、探偵と呼ぶにはほど遠い、可憐な少女が名推理を展開。読者の意表を突いています。『鴨乃橋ロンの禁断推理』でも、頭脳明晰な名探偵と落ちこぼれ刑事のコンビという意外性で、読者の興味を引きつけています。

『美食探偵 明智五郎』は江戸川乱歩の名探偵シリーズ、『憂国のモリアーティ』はアーサー・コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズのパスティーシュとも言える作品。名探偵はマンガの中でも健在ですが、敵役のキャラクターにスポットライトを当てて美しく輝かせています。

『ミステリと言う勿れ』の主人公は探偵でも刑事でもなく、犯人ですらありません。図らずも難事件に巻き込まれて、“傍観者”の立場から事件の矛盾を言い当てます。探偵や相棒、容疑者、真犯人などのキャラクターも重要ですが、事件の被害者や依頼人、傍観者などの人物も見逃せません。ぜひ登場人物の役割に注目して、ミステリ・マンガを読んでみてください!

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 文中一部敬称略

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