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アクションや学園マンガ、コメディまで 拡大を続ける吸血鬼マンガ

アイルランド出身の作家ブラム・ストーカーは、1897年に小説『吸血鬼 ドラキュラ』を発表。この作品が映画化されて人気となり、主人公・ドラキュラ伯爵の名前は世界的に広く知られるようになりました。

小説『吸血鬼 ドラキュラ』のアイディアの源泉となったのは、古来ヨーロッパに伝わる吸血鬼伝説。そして“串刺し公”と呼ばれた15世紀のワラキア(現ルーマニア)君主だといわれています。

いまや、その血の伝承は日本のマンガにも広がって、多くの吸血鬼マンガを誕生させています。そのジャンルも、少女マンガから男性向けアクションまで、広く拡大を続けているのです。マンガ界に広がるブラッド・ファンタジーの世界へ、あなたも足を踏み入れてみませんか。

闇の世界に君臨する女王

15世紀のワラキア公国(現ルーマニア)君主・ブラド3世は、オスマン帝国軍に立ち向かい、祖国を守り抜いたことで知られています。他方、敵や捕虜を串刺しにした残虐な行為から、「ツェペッシュ(串刺し公)」「ドラキュラ(竜の息子、悪魔)」とも称されています。

血塗(まみ)れの悪魔――“ツェペッシュ”のイメージは約400年の時を経て、19世紀末イギリスで小説『吸血鬼 ドラキュラ』として花開きました。

さらに時を経て、日本のマンガ界では“ツェペッシュ”の血を引く孤高の女王が誕生しています。ヴァンパイアを統べる彼女の名は、ミナ・ツェペッシュ。東京湾沖に浮かぶ外灘(バンド)を舞台に、壮大なヴァンパイアの叙事詩が開幕します。

ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド 著者:環 望

鏑木アキラは、これまで普通の高校生として過ごしてきました。しかし17歳の誕生日を迎えこれからは、ある少女の従者となって側近くに仕えなければなりません。

ヴァンパイアを統べる孤高の女王、その名は、ミナ・ツェペッシュ。日本に現われた彼女の目的は、ヴァンパイア専用居住区=“ヴァンパイア バンド”を設立することにありました。

日本国の膨大な財政赤字を、肩代わりするというミナ・ツェペッシュ。その代償として、政府は東京湾沖に建設した外灘(バンド)を提供するというのです。ミナは、吸血鬼を集めて東京湾沖に楽園を築こうとしますが、日本人と共存することはできるのでしょうか。

ミナは、ヴァンパイアの真祖・ツェペッシュの血を引いています。外見は幼い少女ですが、数百年以上に渡って闇の眷属(けんぞく)どもを従える女王なのです。

一方のアキラも、ただの高校生ではありません。幼いころから特別な訓練を受けており、サーベルや銃火器、体術にも長けています。SAS(英国陸軍特殊部隊)で訓練を受けた経験から、10種類以上の爆薬を嗅ぎ分けることもできるといいます。

彼の本名は、アキラ・カブラギ・レーゲンドルフ。人狼(ワーウルフ)であるため、人間の少女・由紀からの愛の告白をされても、その想いを受け止めることはできません。闇の女王・ミナと手を携えて、孤独な修羅の道を二人で歩んでいくのです。

ヴァンパイア×学園恋愛マンガ

始まりは、淡い初恋でした――。千代は、人間の女子高生。幼い頃にヴァンパイアの雪(せつ)とある約束を交わしています。

ヴァンパイアと人間の血を、一部交換する“紅血の契約(アーティクルブラッド)”。この誓約により、雪は千代の血だけ飲むようになりました。また千代も、雪の求めに応じて血を与えなければならないのです。

それは、互いの人生を約束する血の契り。まるで結婚のようだと思って、大好きな雪に我が身を差し出した千代でしたが、高校生となった今では複雑な心境なのです……。

チョコレート・ヴァンパイア 著者:くまがい杏子

篝月学園では、ヴァンパイアと人間が共に机を並べて学んでいます。霞、雷火、霖、雪の篝月兄弟は、この学園を運営するヴァンパイアの一族。学園一の人気者で、女子生徒たちは兄弟に「あたしの血 吸って♡」と頼みます。しかし、末っ子の雪は「僕には もう決めた人がいるから」と断るのです。

雪は、幼なじみの美崎千代と“紅血の契約(アーティクルブラッド)”を交わしています。契約を建前に、千代を独占しようとする雪ですが、千代の心は他のところにありました。

親のいない千代を、我が子同然に育ててくれた義両親。彼らをヴァンパイアに殺されて以来、千代は変わってしまったのです。千代の心にあるのは、義両親を殺したヴァンパイアを見つけて復讐を遂げること。

拳銃を手にした千代は、我を失ってフラッシュ状態のヴァンパイアから学園を守るため、警備活動に勤しみます。今の千代にとって、“紅血の契約(アーティクルブラッド)”は煩わしい存在でしかないのです。

千代は、雪に契約を切るように頼みます。しかし彼女の人並み外れた身体能力は、雪からもらったヴァンパイアの血がなせるわざ。千代は、雪の力を失ってもヴァンパイアと戦うことができるのでしょうか。そして、千代と雪が誓い合った愛の行方はいかに……!? 血の契約よりも深い、恋の絆が試されます。

吸血鬼討伐のためのヘルシング機関

19世紀末のイギリスで誕生したゴシックホラーの名作が、ブラム・ストーカーによる小説『吸血鬼ドラキュラ』です。

そのストーリーは、ルーマニア・トランシルヴァニア地方の貴族で、吸血鬼であるドラキュラ伯爵が、イギリスに渡って災いをもたらすというもの。それに対抗するのが、大学教授のエイブラハム・ヴァン・ヘルシングです。このドラキュラ討伐物語は、その後の吸血鬼テーマの礎(いしずえ)となっています

平野耕太のマンガ『HELLSING』は、ヘルシング家の女性当主となったインテグラが率いる王立国教騎士団、通称・ヘルシング機関の活躍を描く、バトル・アクションの名作です。

HELLSING 著者:平野耕太

イギリス郊外のチェーダース村で、不可解な殺人事件が相次ぎます。ヘルシング家当主インテグラ率いる王立国教騎士団、通称・ヘルシング機関は、吸血鬼による事件として現場に出動。

村に着いたインテグラは、一人の男を放ちます。黒い長髪に、ロングコートとサングラスで身を覆った謎の男……その名はアーカード。大型拳銃を自在に操り、絶大な力で吸血鬼を討伐します。

しかし、ハンターのアーカード自身も吸血鬼だったのです。インテグラは年若い女性ですが、強大な力を持つ吸血鬼・アーカードを自在に操り、毒をもって毒を制します。

イギリスの小村・チェーダースの教会に、新しい牧師がやって来ました。この牧師は、いつも薄暗い礼拝堂にこもっていて、外出時にはフード付きの修道服を目深く着込んでいました。まるで、太陽を嫌っているかのように……。

村に連続不審死事件が起きて、助かった少年が「口から血をしたたらせた牧師様」を見たと証言。ヘルシング機関が出動し、吸血鬼のアーカードを放ちます。

村は、吸血鬼に襲われて喰屍鬼(グール)と化した人々であふれていました。吸血鬼や喰屍鬼のたぐいは、普通の銃では殺すことができません。しかしアーカードが手にするのは、銀色に輝く大型拳銃。.454口径カスール カスタムに、ランチェスター大聖堂の銀十字の錫(すず)を溶かして作った13mm爆裂徹甲弾が込められています。最強の吸血鬼ハンターと化け物牧師の対決、結末やいかに……!?

永遠の時をさすらう子どもたち

青い霧に閉ざされたバラ咲く村に、バンパネラ(吸血鬼)の家族が住んでいました。血とバラのエッセンスを口にして、愛する人間をひそかに仲間に加えながら永遠の時を生きる一族です。

西洋に古来伝わる吸血鬼伝説をもとに、少女マンガの巨匠・萩尾望都が紡いだバンパネラの美しき物語。少女マンガ史に燦然と輝く金字塔となって、時を超えて読み継がれています。

バンパネラの一族には、エドガーとメリーベルの兄妹がいました。彼らはその美しさの代償として、成長することができません。子どもの姿のまま、永遠の時を生きる運命を背負っていたのです……。

ポーの一族 著者:萩尾望都

19世紀のある日、エドガーとメリーベルの兄妹は、養父母のポーツネル伯爵夫妻とともに、長年住み慣れた村を離れました。バンパネラである彼らは、老いることを知りません。その秘密が明かされることを避けるため、ひと所に定住することはできないのです。

新たな街に住みついたポーの一族。エドガーはアラン・トワイライトという名前の少年に出会って、落馬した彼を助けます。そして体の弱い妹・メリーベルのため、アランの血を得ようと考えたのです。

アランが通うセント・ウィザー校に転入したエドガー。最初こそ、アランに相手にされませんでしたが、次第に親友として心を通わせるようになります。そして、エドガーが妹のメリーベルを紹介すると、アランは亡き婚約者のロゼッティに彼女を重ねて、恋心を抱くようになるのです。

一方ポーツネル夫人は、若く野心あふれる医師のジャン・クリフォードにねらいを定めます。しかし、鏡に夫人の姿が写らなかったことで、クリフォードの疑惑を招くのです……。

『ポーの一族』は、エドガーたち一族が立ち寄った様々な時代、場所を舞台にオムニバス形式でストーリーが展開します。愛に飢えて、時空をさすらう姿が、今も多くの読者の心を魅了しています。

BL(ブラッディ・ラブコメ)で笑おう

森 蘭丸は、戦国武将・織田信長が愛した小姓です。彼がバンパイアと化して、現代にまで生きていたら……!? 奥嶋ひろまさの『ババンババンバンバンパイア』は、現代日本に息づく抱腹絶倒の吸血鬼伝説です。

森 蘭丸は、18歳童貞男子の血が大好物。老舗銭湯・こいの湯で清掃のバイトをしながら、一人息子である立野李仁(りひと)の生き血を狙っています。しかし、そんな李仁が高校に進学してから、純潔の危機(?)が到来します。

血煙ならぬ湯煙ただよう、銭湯BL(ブラッディ・ラブコメ)の世界へご案内しましょう。

ババンババンバンバンパイア 著者:奥嶋ひろまさ

逢魔が時に目覚め、そして子(ね)の刻に夜明けを見る――森 蘭丸は、450歳の吸血鬼です。戦国時代に生まれた彼は、西洋から渡来した吸血鬼に襲われて永遠の生命を得ました。

小姓として織田信長の最期に立ち会い、またある時は坂本竜馬暗殺の現場にいました。日本の歴史とともに歩んできた彼ですが、いまは創業60年の老舗銭湯・こいの湯で10年近く住み込みバイトをしています。

深夜0時に閉店、銭湯の掃除と仕込みをするという夜型の生活が、吸血鬼にとって都合が良いのです。さらに跡継ぎの立野李仁に一目ぼれした蘭丸は、彼が18歳になる日まで、銭湯で仕事をしながら見守るつもりだったのです。

森 蘭丸は、18歳の童貞男子の血が最もおいしいといいます。李仁は今年15歳。あと3年で蘭丸の物となるはずでしたが、李仁は高校入学時にハンカチを貸してくれた少女・篠塚 葵に恋をしてしまいます。

森 蘭丸は李仁の貞操を守るため、彼の恋路を邪魔しようとします。深夜に葵の家に押しかけて、彼女を脅す蘭丸……。しかし彼の思惑とは裏腹に、葵は「バンパイア様」こと蘭丸に一目ぼれをしてしまうのです。

蘭丸は、フランケンと呼ばれる不良の篠塚 健を引き込んで、李仁と葵の仲を裂こうとしますが、ストーリーは更なる混迷を極めます……。吸血鬼物はダークファンタジーが定番と思っている人に読んで欲しい、新機軸のバンパイア・コメディマンガです。

読者を虜にする吸血鬼マンガ

人の生き血を吸い取って、この世を浸食する吸血鬼たち……。バンパイアは恐るべき存在ですが、同時に癒えることのない渇きと、悲しい宿命を背負っています。

吸血鬼物といえば、ホラー作品や、ダークファンタジーが定番です。しかしマンガ家は自由な発想のもと、吸血鬼を様々な側面から描いて、彼らの新たな魅力を引き出しています。

ここで紹介した以外にも、ラブ・ロマンスからSF、歴史物、そしてコメディと、様々な吸血鬼テーマが生まれています。これからも新たな吸血鬼像が誕生して、私たちマンガ読者を喜ばせてくれることでしょう。

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美

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