ebook japan

ebjニュース&トピックス

日常を笑いに変える 愛すべきマンガ界の食客たち

古代中国では、権力者が才能のある人物を「食客(しょっかく)」として迎え入れ、その衣食住の面倒をみたといいます。

マンガの世界にも、宇宙や異世界などからやって来て、主人公の家に住みつくキャラクターがいます。彼らが持ち込む常識は、私たちにとっての“非常識”。そのギャップがハプニングを巻き起こして、読者の笑いを誘うのです。

 “マンガ界の食客”とも言うべきキャラクターですが、居ついた家に厄介をかける居候(いそうろう)者から、恩返しをしてくれる孝行者まで、その内容も様々です。私たちに笑顔をくれる、愛すべき作品を紹介します。

家の地下に住みついた侵略者たち

カエル型宇宙人のケロン星人は、地球侵略を目論んでいます。しかし、先遣隊として地球に降り立ったケロロ軍曹率いる小隊は、本隊の撤退によって取り残されてしまいました。

吉崎観音の『ケロロ軍曹』は、「月刊少年エース」(KADOKAWA)の人気作。1999(平成11)年から連載スタートし、2024年には連載25年目を迎えています。

奥東京市にある日向(ひなた)家の地下に、秘密基地を築いたケロロ小隊。“侵略”の大義名分(?)のもと地球に住みついて、デンジャラスな騒動を巻き起こします。日常と非日常が融合する作品世界の魅力と、価値観のギャップが生み出す笑いを楽しみましょう。

ケロロ軍曹 著者:吉崎観音

1999年7の月、空から恐怖の大王が降ってくる――。かつて世紀末を迎えた日本では、フランスの占星術師・ノストラダムスによる予言が世間を賑わしたことがありました。

その影響もあったのでしょうか。日向冬樹小学6年生は、連日ヘンテコな宇宙人が地球に攻めてくる夢に悩まされていました。

「どーせ 今に地球は滅びるんだし」と言って、学校へ行くのを拒む冬樹。姉の夏美は、彼を布団から引きずり出すために、「あんな所に宇宙人が!!!」と壁を指さします。オカルト好きの冬樹の気を引くための行動でしたが、あろうことか壁紙がはがれて、そこからカエルのような生き物が現れたのです。

その生き物の正体は、「ガマ星雲第58番惑星 宇宙侵攻軍特殊先行工作部隊隊長」を名乗るケロロ軍曹。オカルト大好き少年の日向冬樹は、宇宙人とのコンタクトが実現したことに大喜びです。

冬樹は、ケロロ軍曹から侵略兵器「ケロボール」を没収。その返還の条件として「僕らと友達になろう!!」と提案します。そんな折、ケロン軍の本隊が地球圏内からの撤退を表明。地球に取り残されたケロロ軍曹は、異郷の地で生き延びるため、冬樹と友達になることにしました。

侵略者でありながら、日向家に居候することになったケロロ軍曹。はぐれてしまったタママ二等兵、ギロロ伍長、クルル曹長、ドロロ兵長ら隊員たちが再集結したことで、日向家はますます混乱を極めます。地球侵略のため、見当違いな作戦を立てては失敗を繰り返すケロロ小隊。その“へっぽこな日々”は、これからも私たち読者を笑わせてくれることでしょう。

ドラゴンの押しかけ女房

次に紹介するのは、異世界から来たかわいい“押しかけ女房”のお話です。トールは、OLの小林さんの家に住みついたドラゴン。小林さんに惚れ込んだあまり、メイドとして奉公すると言いますが……。

『小林さんちのメイドラゴン』は、クール教信者によるファンタジー作品。2013年より、「月刊アクション」「漫画アクション」(以上、双葉社)で連載されています。

仕事漬けの毎日で、いつしか笑顔を失っていた小林さん。その日常が、トールの登場で明るさを取り戻していきます。さらに、ドラゴンの仲間がトールを追ってきたことで、マンガも賑やかさを増していくのです。“異世界”と“現実世界”のギャップが織りなすコメディを紹介します。

小林さんちのメイドラゴン 著者:クール教信者

小林さんは、地獄巡商事の北千住事務所でSE(システムエンジニア)として働く女性です。ここでの仕事は下請けのため、前工程のしわ寄せが集中する多忙な業務。いつしか小林さんの顔から、笑顔が失われてしまいました。

しかし、運命の出会いが訪れます。ある朝、会社に行くため玄関のドアを開けた小林さん。その前に、一頭の巨大なドラゴンが立っていたのです。

あまりにも唐突な非日常との出会い。小林さんはビックリしながらも、冷静を装ってドラゴンに挨拶を返してしまいます。さらに、「あ どぞ 中へ…」と言って、ドラゴンを部屋の中へ招き入れてしまうのです。こんな非常時にも“社会人的反応”が抜けない小林さん。仕事人間として生きてきた者の性(サガ)が、読者の共感と笑いを誘います。

ドラゴンの名前はトール。小林さんの部屋に招かれましたが、体が大き過ぎて中に入ることができません。そこで、メイド服を着た人間の少女に変身。トールは、メイドとして小林さんに奉仕したいと言い出します。

じつは、小林さんはメイドさんが大好き。こんなかわいいメイドが家に来るなんて、夢の中にでもいるのでしょうか。小林さんは、昨日見た夢の内容を思い出します。

夢の中の小林さんは、ベロンベロンに酔って山に行き、ドラゴンと出会って意気投合しています。さらに、行き場がないというドラゴンを家に誘っていたのです。とんでもない夢を見たと思っていた小林さんでしたが、それが夢ではなく現実だったことに気が付きます。ドラゴンとなったトールに会社まで運んでもらった小林さんは、その味をしめてトールを雇うことにしました。ドラゴンと人間による、笑いと優しさあふれる交流の物語が始まります。

一宿一飯の恩義を返す猫

28歳の福澤幸来(サク)と、仔猫の頃に拾われた黒猫の諭吉(ゆきち)。山田ヒツジの『デキる猫は今日も憂鬱』は、一人のOLと一匹の猫による幸せな生活を描いています。

諭吉はただの猫ではありません。熊のような巨大な体に成長した彼は、人間のように二足歩行で生活。驚異の家事スキルで、生活能力が乏しい幸来を助けるのです。

「鶴の恩返し」ならぬ「猫の恩返し」!? 家に置いてくれた御礼に主人を助ける、ありがたーい猫キャラクターを紹介します。

デキる猫は今日も憂鬱 著者:山田ヒツジ

山田ヒツジの『デキる猫は今日も憂鬱』は、「水曜日のシリウス」「月刊少年シリウス」(以上、講談社)で連載されてきた人気作。2023年にはテレビアニメ化されて、大きな話題となりました。

ある日、OLの福澤幸来は会社のパソコンで「世界最大の猫」について検索してみました。飼い猫の諭吉がどのくらい大きくなるものなのか、調べてみたかったのです。

職場の後輩・柴咲ゆりは「もし 飼いきれなくなったら 言ってください」と言ってくれましたが、彼女に話しても信じてもらえないでしょう。諭吉は「普通の猫」ではないのです。

熊のような体格で、人間のように二足歩行をする諭吉。話すことはできませんが、人の言葉を解するほどに高度な知能を持っています。さらに手を器用に使って、家事万端をこなすことができるのです。

一方、飼い主の福澤幸来は仕事以外はまるっきりズボラ。諭吉が来るまでは、ごみ屋敷同然の家に住んでいたダメ人間なのです。諭吉はそんな彼女の帰りを、毎日美味しいゴハンとともに迎えてくれます。さらに、幸来のお風呂上りにはビールの肴、朝には弁当を用意してくれるという働き者なのです。

諭吉が“デキる猫”になったのにはワケがありました。彼がまだ仔猫だった頃、大雪で弱っていたところを拾ったのが幸来だったのです。諭吉は一宿一飯の恩義を返すため、不器用な彼女のために立ちあがりました。幸来のズボラっぷりを腹立たしく思う日もありますが、諭吉の彼女への思いは愛情でいっぱいです。 すべてはネコ缶を買ってもらうためと言いつつ、今日も幸来が元気に働けるよう手助けするのです。

銭湯に住みついたバンパイア

逢魔が時に目覚め、そして子(ね)の刻に夜明けを見る――森 蘭丸は、夜の闇に生きる吸血鬼。創業60年の老舗銭湯「こいの湯」で、深夜の清掃アルバイトをしています。

銭湯に住み込んで、毎夜汗水たらして働く森 蘭丸。わずかでも給与を得て働く彼を、“食客”と呼ぶべきではないのかもしれません。しかし森 蘭丸は、金銭を目当てに銭湯に居ついたわけではないのです。彼の心には大きな下心がありました。

森 蘭丸は、18歳童貞男子の血が大好物。こいの湯の一人息子である高校生、立野李仁(りひと)の生き血を狙っていたのです。人知れず、こいの湯を浸食する吸血鬼の恐怖。果たして、李仁の運命やいかに!?

ババンババンバンバンパイア 著者:奥嶋ひろまさ

現代の世に、吸血鬼が存在するとしたら恐ろしいことです。さらに吸血鬼が居ついた先が銭湯だとしたら、その恐怖は“底なし”のものとなるでしょう。人間は、銭湯では無防備な姿をさらさざるを得ないのですから――。

立野李仁は、こいの湯の4代目。銭湯で汗を流す彼の姿を、熱い眼差しで見つめている男がいました。住み込みアルバイトの森 蘭丸です。しかしその正体は、戦国時代から生きる450歳の吸血鬼でした。

蘭丸の好物は、汚れなき18歳の少年の生き血。李仁の成長を見届けるため、蘭丸は10年間こいの湯に住みついてきたのです。李仁は今年15歳。あと3年で蘭丸の物となるはずでしたが、ここに来て大問題が発生したのです。

立野李仁は、高校入学と同時に恋をしてしまったのです。そのお相手は、同級生の少女・篠塚 葵。もし李仁の想いが叶って、彼が童貞を失ってしまったら大変です。10年間の辛抱が、すべて無駄になってしまいます。

李仁の恋路を邪魔しようと企んだ森 蘭丸。敵情視察のため、夜の闇に紛れて葵の家に押しかけます。しかし彼の思惑とは裏腹に、葵は蘭丸を「バンパイア様」と呼んで惚れ込んでしまいました。

蘭丸・李仁・葵による“奇妙な三角関係”が読者の笑いを誘います。さらに、バンパイアを上回る破天荒なキャラクターが続々登場し、ストーリーは混迷を極めていきます。現代の世に住みついたバンパイアによるBL(ブラッディ・ラブコメ)。この恋の行方は見逃せません。

異文化が出会う楽しさ

非日常の世界からやって来て、普通の家庭に住みつくキャラクターたち。かつては子ども向けのユーモア作品で人気のテーマでしたが、時代の変化とともに大人向けのコメディ作品にも多く取り上げられています。

異なる文化が出会う時には、とまどいやハプニングがつきものです。しかし、ともに乗り越えることで友情の絆も深まります。

読者に楽しいギャグを届けてくれるマンガ界の食客たち。その笑いの行き着く先には、感動の物語が待っていることもしばしばです。ここで紹介した以外にも、名キャラクターが沢山います。お気に入りの作品を探してみてくださいね!

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 文中一部敬称略

関連記事

インタビュー「漫画家のまんなか。」やまもり三香
漫画家のまんなか。vol.1 鳥飼茜
完結情報
漫画家のまんなか。vol.2 押見修造
インタビュー「編集者のまんなか。」林士平

TOP