【推しマンガ】泥棒が盗んだのは子どもの身体!? ほのぼの人格入れ替わりコメディー!
佐野家は、幸せを絵に描いたような仲良し家族。一家三人、親子水入らずの楽しい休日を過ごすはずでした。しかし、その留守宅を狙う男がいたのです。
泥棒に盗まれたのは、子どもの身体でした。一人娘・みのりが、空き巣に入っていた泥棒と入れ替わって大騒ぎ! 互いの身体を取り戻すまで、父・母・娘・泥棒の四人で一緒に暮らすことになったのです。
平和な家族の日常に立ち込める暗雲――。果たしてこの“奇妙な同居生活”は、うまく行くのでしょうか。期待の新人作家・山吹による、前代未聞の不穏系ほのぼのコメディー開幕です!
“温かい目線”と“ギャグ”の絶妙なバランス
講談社が主催する「ちばてつや賞」は、マンガ界の巨匠・ちばてつやの名を冠した新人マンガ賞。青年マンガのジャンルで、プロを目指すマンガ家のための登竜門です。
令和5(2023)年、第83回ちばてつや賞一般部門では、『ネギのゆくえ』という読み切り作品が準大賞を受賞しています。誰かが道に落とした“ネギ”の行方と、それを登校中に拾った男子高生の一日を、温かい目線で描く“ほのぼのコメディー”です。
著者の山吹は、この受賞を契機に「モーニング・ツー」(講談社)で連載デビューを果たしています。それが、今回ご紹介する『こどもどろぼう』。著者の持ち味である“温かい目線”と“ギャグ”を、絶妙なバランスで配した作風で読者の注目を集めています。
『こどもどろぼう』©山吹/講談社 1巻P003より
佐野みのりは、小学生の女の子。郊外の一軒家に、父親・佐野 渉と母親・佐野里帆と共に暮らしています。ある晴れた休日、一家は渉の運転する車で出かけることになりました。
楽しそうに出かける佐野家の人たち。その様子を、こっそりうかがう男がいました。男は全身黒ずくめの服装で、顔には上着のフードを深くかぶっています。
何やら怪しいこの男――。その正体は、留守中の家を狙う“空き巣”でした。男の名前は、郷田 正。慣れた手つきで佐野家の2階ベランダに上がり、窓の鍵を壊します。住人が一家団欒を楽しんでいる間に、「こっちも 楽しませてもらうかね」と家に侵入するのです。
金目の物が分からない泥棒
休日を利用して、ドライブに出かけた佐野家の人々。行き先は、佐野みのりの祖母の家です。祖母は少し風変りな人。みのりにいろいろな物をくれますが、いずれもシブいセレクションばかり。
福島県名物の赤ベコや、北海道のニポポ人形など……。各地の民芸品や郷土玩具をくれるのです。みのりの母・里帆はおおらかな性格ですが、さすがにタヌキの剥製(はくせい)が家に届いた時には驚かされたと言います。
佐野家の人々は、和気あいあいと“祖母の武勇伝(?)”を語りながらドライブを楽しみます。しかし、みのりが宿題のドリルを家に忘れたことが判明。さらに、お土産のお菓子を車に積み忘れたことに気づきました。一家は、車をUターンさせて家に戻ります。
『こどもどろぼう』©山吹/講談社 1巻P009より
その頃、空き巣の郷田 正が佐野家を物色していました。この家には、あまり高価な物はなさそうなのに、なぜか彼は満足げな表情をしています。
“郷土資料館”とは言わないまでも、佐野家には祖母がくれた“レアなお宝”がいっぱいです。郷田はスキンヘッドに太い眉、ヒゲを生やした強面(こわもて)の男。いかにも泥棒といったふぜいですが、何が“金目の物”なのか分からないようです。
郷田は、レアものカプセルトイの千手観音ベコや、北海道名物・木彫りのクマを見つけて大喜び。「掘り出し物」だと勘違いしています。『こどもどろぼう』のタイトル通り、この泥棒は主人公の一人です。いかにも“泥棒”という外見と、“ややアホ”な性格のギャップが読者の笑いを誘います。
“子ども”と“泥棒”、運命の出会い
空き巣が家にいるとも知らず、佐野家の人々が帰宅。両親を車に残したまま、佐野みのりが一人で家の中に忘れ物を取りに行きます。
郷田 正は、家人の帰宅に気づいて大慌て。侵入経路として使った2階のベランダに戻り、逃亡を試みます。一方のみのりは、家の中がいつもと違うことに気が付きました。しかし、泥棒がちらかした衣服や民芸品のお面を身につけて遊び始めてしまいます。
大人であれば、泥棒が入ったことに気づくはずですが、みのりはまだ小さい女の子。悪意を持った人間が、家に侵入しているなんて想像もつかないのです。いたいけな少女が、泥棒と鉢合わせしたら危険です。読者はハラハラドキドキしながら、成り行きを見守るしかありません。
『こどもどろぼう』©山吹/講談社 1巻P017より
郷田 正は、2階のベランダから雨どいを伝い、階下に降りるのに成功しました。しかし隣家の飼い犬・五郎丸が吼えたため、逃げることが叶わずその場にうずくまります。
「おじさん だあれ?」。犬の鳴き声で、郷田の存在に気づいた佐野みのりが2階のベランダから顔をのぞかせます。
謎のお面と、ダブダブの衣服を身につけた少女の姿は異様です。郷田は、「お前こそ 誰なんだよ………!!」と言って狼狽。“子ども”と“泥棒”、二人の主人公の出会いがコメディー・タッチで描かれます。しかし、読者に笑っている余裕はありません。みのりは階下をのぞくため、ベランダに椅子を運んでその上に不安定な状態で立っていたのです。
“子ども”と“泥棒”の入れ替わりコメディー
バランスを崩した佐野みのりは、ベランダを越えて真っ逆さまに落下。郷田 正は無意識のうちに駆け出して、落下する少女を抱き止めました。しかし郷田とみのりの人格は、事故の衝撃により入れ替わってしまいます。
みのりの命は助かりましたが、両親にとっては可愛い娘の身体を“人質”に取られたようなもの。父親の佐野 渉は、郷田に怒りをぶつけるべく拳(こぶし)を握りしめますが、それを娘の身体に振り下ろすことはできません。さらに、みのりは母の隣に添い寝して「手つなぎたい」と言いますが、渉は嫉妬にかられてしまいます。他の男の身体が、愛妻に添い寝することが許せないのです。
こうして、佐野家の人々と泥棒の奇妙な同居生活が始まりました。元の身体を取り戻す方法が分からず、先行きは不透明なまま――。しかし四人一緒に暮らすうちに、本当の“家族のような絆”が生まれてきます。“子ども”と“泥棒”の入れ替わりが生むハプニングを、温かい目で見守ってください!
執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 *文中一部敬称略