ebook japan

ebjニュース&トピックス

【推しマンガ】“普通”が苦手な男子高生による 笑いと感動の友情物語

勉強もアルバイトも続かない高校生の小林大和。社会からドロップアウト気味で、周囲から“やる気のないヤンキー”というレッテルを貼られています。しかしある日、彼の運命を変える出会いが訪れます。

小林のクラスである2年4組にやって来た、転校生・宇野啓介は“変わり者”でした。「全ての声がデカくて」「字がミッチリの汚えノート常に持ってて」「独り言 言ってて ずっと笑ってる」。そんな噂が学校中を駆け巡ります。

小林大和と宇野啓介。“普通”ができない二人が交流を深めることで、互いに大きく成長していきます。『君と宇宙を歩くために』は、全国の書店員やマンガ好きの有志の投票で決まる「マンガ大賞2024」大賞を受賞した話題作。今一番アツい友情物語を紹介します。

君と宇宙を歩くために 著者:泥ノ田犬彦

転校生はヤバいヤツ

小林大和は、勉強が大の苦手です。授業中の居眠りは当然で、いつしか教科書を学校に持っていくことさえ止めてしまいました。何事もうまく成し遂げたい気持ちはあるのですが、どうせ自分は“できない”のだと諦めてしまったのです。

そんな彼を驚かせる“破格の転校生”がやって来ました。「はじめまして!」「宇野啓介です! 6月20日生まれです!」「よろしくお願いします!」。自己紹介の声が大きすぎて、居眠りをしかけていた小林の眠気も吹き飛びます。

スッカリ目を覚ました小林は、「ヤバいヤツ…」が来たものだと心の中でつぶやきます。しかもこの転校生は、よりによって小林の一つ前の席に座ることになったのです。

「転校生ヤバいらしいじゃん!」。宇野啓介の噂は、クラスを越えて学校中に伝わりました。ゲームセンターにたむろするヤンキーたちも、彼の話題で持ち切りです。

宇野の声がデカいこと、何やら文字がミッチリ書かれたノートを持ち歩いていることが、“普通”じゃないと言うのです。さらに彼が独り言を言ったり、わけもなく笑っている姿も嘲笑の的となっていました。

だけど小林は、宇野の話題にあまり興味がありません。人はどうして“普通”じゃないことに、これほど興味を持つのでしょうか。小林は、噂話に興じる仲間たちをゲームセンターに残して、アルバイト先に向かいます。

仕事が覚えられなくて

「こば」こと小林大和は、最近新しいアルバイトを始めたばかり。しかし、彼はこれまでどのバイト先でも長く勤められず、すぐに辞めています。仲間たちは、どうせ新しい仕事も続かないだろうと噂します。

一人の仲間が、「こばのバイト 今回は何ヵ月続くか賭けようぜ」と言い出しました。小林の幼馴染みである朔(さく)は、「そういうの良くな(い)」とたしなめつつも、「1ヵ月!!」しか続かないだろうと賭けに便乗しています。

小林の新しいバイト先は、セカンドハウスというお店。DVDやCD、コミックなどの中古品の買い取りと販売を専門としています。小林は、新しい仕事を覚えようと必死でしたが……。

中古品のリユースショップで、アルバイトを始めた小林大和。しかし仕事が覚えられず、入店早々ミスを連発してしまいました。

他のバイトの人たちは、簡単そうに仕事をしているのに、どうして自分は間違えるのか――小林は自問自答します。これまでもずっと同じでした。本屋も、コンビニも、ファミレスも、自らが犯したミスにいたたまれなくなって辞めてきたのです。

仲間は、小林が「短気なんだ」「向いてなかった」と笑いますが、それでは自分は何に向いているのでしょうか。

“簡単”という誘惑

もっと簡単な仕事ならできるはず――そう考えていた小林に、先輩が声を掛けてきました。「オレの店でバイトしない?」と誘ってきたのです。

先輩の店で求めているのは、“簡単な仕事”ができる人だと言います。仕事中に携帯をいじっていても許されるし、誰でもできる仕事だと言うのです。

先輩の店は“危ない”という噂もありましたが、“簡単”という言葉を聞いて小林の心が揺れ動きます。

小林大和が先輩の誘いに乗ろうとしたその瞬間、大きな声が辺りに響きました。「小林大和くん!!」「こんばんは!!」。声の主は、転校生の宇野啓介でした。

小林は宇野と話したことがないのに、なぜ彼は名前を知っているのでしょうか。そんなことを考える間もなく、小林はその場から逃げ出します。宇野を連れて帰ることを口実に、先輩の誘いをかわしたのです。“簡単”な仕事だなんて、そんな都合の良い話があるわけありません。思いがけぬ宇野の登場によって、小林は悪い先輩の誘惑を断ち切ることができました。

小林が宇野を家まで送り届けると、彼の姉が説明してくれました。宇野は知らない人と話すのが苦手なので、学校に頼んで事前に写真名簿を見ていたと言うのです。小林は、宇野が自分の名前を知っていた理由が分かって納得します。宇野は“普通”の高校生とはちょっと違いますが、自らが苦手なことを補う努力をしていたのです。

宇宙を歩くためのテザー(命綱)

宇野啓介は、臨機応変な対応が苦手です。世の中を上手にまっすぐ歩けない時には、「一人で宇宙に浮いているみたい」な不安を覚えると言います。宇野が携帯するノートは、彼が一人で宇宙を歩くための「テザー(命綱)」。あらかじめ分かっていることでも、焦りを感じた時に読み返せば落ち着くことができます。

それを聞いた小林大和は、ノートを取る努力さえ諦めていた自分の愚かさに気づきます。仕事を覚えられなくても、ノートに手順を書き留めておく工夫ができるはず。小林は、バイト先の先輩に相談しながら、ノートにお手製のマニュアルを作成。“苦手の壁”を乗り越えていきます。

本作の著者・泥ノ田犬彦は、少年たちが感じている“生きづらさ”を具体的に言語化することはありません。その“生きづらさ”を解消する方法も、少年たちの手で見つけさせています。彼らはもう一人ではありません。二人の足取りはたどたどしくも、宇宙を一歩ずつ着実に歩んでいきます。その成長は、これからも読者に驚きと感動をくれることでしょう。

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 *文中一部敬称略

関連記事

インタビュー「漫画家のまんなか。」やまもり三香
漫画家のまんなか。vol.1 鳥飼茜
完結情報
漫画家のまんなか。vol.2 押見修造
インタビュー「編集者のまんなか。」林士平

TOP