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【推しマンガ】毘沙門天の化身は「女」だった!? 東村アキコが描く、上杉謙信一代記

権謀術数渦巻く戦国乱世に、義の武将と呼ばれた上杉謙信。毘沙門天の化身とされる名将は、実は「女」だったと考える仮説があります。謙信が、生涯不犯(ふぼん)の誓いを立てて、妻を持たなかったこと。ほかにも多くの謎をもつ人物であったことから、提唱されたものです。

この上杉謙信女性説をもとに描かれたマンガが『雪花の虎』です。手掛けたのは、『海月(くらげ)姫』『東京タラレバ娘』などで人気の東村アキコ。ラブ・コメディの名手として知られる作者ですが、『雪花の虎』では本格歴史ロマンに果敢に挑んでいます。

享禄三(1530)年、越後国守護代・長尾為景の春日山城に、毘沙門天の化身と予言された赤子が生を受けます。元気に産声を上げたのは、玉のような姫君で……!? 信じるも、信じないも読者の自由、百花繚乱の戦国絵巻をご覧あれ!!

雪花の虎 著者:東村アキコ

東村アキコが語る上杉謙信女性説

東村アキコは、「よくある 歴史トンデモ説っぽいんだけど」という前置きで、上杉謙信女性説の正当性を語ります。これから始まる物語は一見奇想天外に思えますが、根拠にもとづいたものだというのです。

第一に、上杉謙信が生涯独身を貫いて妻を娶らなかったこと。第二に、松平忠明の『当代記』に記された謙信の死因が「大虫(婦人病の一種)」であったこと。第三に、江戸時代になってから「武家諸法度」への配慮で「女性城主」の存在が秘匿されたという説。第四に、山形県米沢市の上杉神社に残る謙信の遺品が女性的な意匠であること――などが語られます。

上杉謙信女性説の根拠は、枚挙にいとまがありません。越後白山神社のお堂には、「毘」の旗を差した女性像が祀られています。この時代、スペインのゴンザレスという人物が国王フェリペ2世に送った報告書には、謙信は「上杉景勝の叔母」として記録されています。

さらに、越後地方には「まんとら(謙信)さまは 男もおよばぬ大力無双」という歌詞の民謡が残っているのです。女武将の謙信が、男顔負けの活躍をした――そんな姿を想起させるエピソードです。

赤子は、軍神の生まれ変わり

越後の春日山城城主・長尾為景(ためかげ)の妻・お紺が、第三子を懐妊しました。お紺は、子を身ごもったときに不思議な夢を見ています。夢枕に毘沙門天が立ち、「腹を借りてよいか」といったというのです。

これまで為景のもとには、嫡男の晴景と綾姫が生まれていました。晴景は体が弱く、穏やかな気質の青年。戦場で兵を率いる大将の器ではないことに、春日山城の誰しもが気づいていました。

嫡男の晴景に失望していた為景は、妻が軍神の化身を身ごもったと知って大喜び。この時期、北陸地方には戦乱が相次いでいたこともあり、長尾家に新たに生まれる子どもは、戦場を勇敢に駆け回る「男」でなければなりませんでした。

享禄三(1530)年一月、雪で白く埋め尽くされた春日山城に、待望の赤ん坊が誕生します。ところが生まれてきたのは、望んでいた男子ではなく玉のような姫君です。

一度は失望した為景ですが、女子とは思えぬ頑丈な我が子の姿を見て、「姫武将として育てるぞ」と宣言します。この姫君を男同然に育てて、剣と馬と学問を教えるというのです。為景は、この子が寅年に生まれたことから、虎千代という男の名を与えました。

城攻めの遊びに夢中になった幼少期

春日山城は、けわしい山の地形を利用して自然の要塞として造られた山城です。規模も大きく、戦国最強の城でありました。

この城で育った虎千代こと、幼年時代の上杉謙信。手がつけられないほどの利かん坊で、刀と弓矢で遊ぶのが何より好きな子どもであったといいます。

東村アキコは、長尾虎千代七歳の姿を、姉の綾姫のため兎を狩る腕白な少女として描いています。

標高約180mの山に築かれた春日山城。その頂上からは、越後一帯が見下ろせます。晴れた日には、遠くに上越の霊峰・米山も視野に入れることができました。虎千代は、のちに長尾景虎として22歳で越後統一を果たしますが、その原点には山城から見下ろした越後全域の風景があったのかもしれません。

芸事を好む兄の晴景と対照的に、虎千代は姫でありながら男勝りな性格です。毎日のように春日山を駆け回り、そして山城の模型を作って城攻めの遊びに興じていました。

遊びが過ぎて、自らを隣国・甲斐の武田軍に見立てた虎千代。春日山城を落とす計略を練っています。そして、父の為景を前にしても臆することなく、「父上の首を獲ってみせまする!!」と言い放ちます。

いざ歴史の表舞台へ!

父・為景に見守られながら、のびやかに育った虎千代。しかし越後の情勢は悪化し、長尾家もたび重なる戦の渦に巻き込まれます。虎千代の成長を見届けぬまま、父の為景は不帰の人となります。覚悟を決めた虎千代は、いよいよ歴史の表舞台へと出陣するのです。

一方、甲斐の武田家では、当主・信虎の暴政に耐えかねた息子の晴信が蜂起。のちの上杉謙信と武田信玄、終生のライバルとなる二人の運命は、大きく動き始めます。

宿敵・信玄と雌雄を決する日まで、女武将は疾風怒濤の人生を駆け抜けます。勇将として名高い上杉謙信ですが、ここで描かれているのは友情に青春、そして恋に生きる一人の女性。歴史好きの人はもちろん、歴史が苦手という人にも共感できる作品です。女・上杉謙信が魅せる波乱万丈の歴史活劇をどうぞお楽しみください!

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美

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