心揺さぶるマンガの名言 Vol.2 敗北から立ち上がりたいときの名言
マンガは、至言・名言の宝庫です。マンガのキャラクターがくれる言葉は、読者の心を勇気づけて、日々を生きる活力を与えてくれます。
この特集では、悩みを抱えるすべての人にお勧めしたい、マンガの名言を紹介。最近、仕事や学業、スポーツなどで、不本意な結果を出してしまったことはありませんか。そんな時に、気持ちを前向きにリセットしてくれる言葉を集めてみました。
人間、生きていれば失敗は付き物です。特に勝負の世界では、勝ち負けが付いて回ります。次の勝利を信じて歩き続けるために、大好きなマンガを読んで気持ちをリセットしましょう。
青春ぜんぶ懸けたって強くなれない?
懸けてから言いなさい
末次由紀の『ちはやふる』は、“競技かるた”の世界を舞台にした少女マンガです。女流選手の最高位・クイーンを目指す綾瀬千早の成長物語は、幅広い読者の支持を得ました。
かるたは、日本に古来伝わる伝統文化。優雅なイメージがありますが、競技かるたは“畳の上の格闘技”と称されるほど激しい頭脳スポーツなのです。
瞬発力、記憶力、精神力、集中力、戦略的構築力、体力……。競技かるたには、天性の資質に加えて、たゆまぬ努力が求められます。しかし、どれだけ頑張っても、勝利の女神がほほ笑んでくれないこともあるのです……。
綾瀬千早は、東大里小学校に通う小学6年生の少女。ある日、彼女のクラスに綿谷 新が転入してきました。しかし福井県出身の新は、言葉のなまりや、実家が裕福でないことを理由にからかわれ、なかなかクラスに馴染めないでいたのです。
千早は、自分もいじめの対象になることを覚悟の上で、新と親しくなっていきます。そして新にかるたの魅力を教わって、競技かるたの世界に入ったのです。
小学校で開催されたかるた大会で、新はクラスの中心人物である真島太一と勝負します。しかし、新の才能を目の当たりにした太一は、彼の眼鏡を隠すという卑劣な手段に及んでしまいました。この時の行為が、太一にとって心の負い目となっていきます。
『ちはやふる』©末次由紀/講談社 2巻P068_069より
かるた大会を契機に、千早と新、太一の三人は急速に仲良くなりました。かるたの白波会に入って連日練習に励みますが、小学校の卒業とともに三人はバラバラの道を歩み始めます。
やがて月日が経って、千早と太一は同じ都立瑞沢高校に入学。白波会の恩師・原田先生と再会した太一ですが、中学時代に“自分のかるたの才能に見切りを付けた”と打ち明けます。「青春ぜんぶ懸けたって 新より強くはなれない」というのです。
原田先生は、太一にこう諭します。「“青春ぜんぶ懸けたって強くなれない?” まつげくん 懸けてから言いなさい」と――。勝手に敗北を認めた太一ですが、まだスタートラインにも立っていないというのです。彼にできるのは、地道に一勝を上げること。恩師の言葉に後押しされて、太一は再び立ち上がります。
負けを認めなきゃ
本当の悔しさなんて手に入んないのにさ
日本をW杯優勝に導くキーマンとして雇われた絵心甚八(えごじんぱち)。彼は、日本サッカーが世界一になるためには「革命的なストライカーの誕生」が必要だといいます。
絵心甚八が、独断と偏見に基づいて選考した18歳以下の300名の候補生。世界一のストライカーとなるため、特別な育成寮“青い監獄(ブルーロック)”でしのぎを削ります。
絵心甚八は、299名の屍(しかばね)の上に立つ一人のエゴイストこそが、日本サッカーの英雄になれるというのです。
希代のストライカー誕生を目指し、集められた300人の高校生。主人公の潔 世一(いさぎよいち)は、生存を懸けた厳しいゲームを勝ち抜いて、3rdステージまで上がりました。
ここからは、「三者融合(トライ・セッション)」の戦いが始まります。TEAM WHITEは潔 世一、凪 誠士郎(なぎせいしろう)、馬狼照英(ばろうしょうえい)。TEAM REDは千切豹馬(ちぎりひょうま)、國神錬介(くにがみれんすけ)、御影玲王(みかげれお)。――三人対三人の対戦です。
TEAM REDの三人は、それぞれの能力を引き出し合うことで、超高次元な連携を見せつけます。それに対しTEAM WHITEは、王様(キング)こと馬狼の強烈なエゴゆえに、ゴールへの道筋を開けずにいました。
『ブルーロック』©金城宗幸・ノ村優介/講談社 8巻P52より
これまでの激戦を通じて、潔は「適応能力」こそが自らの武器だと気づいてました。凪は、かつて自らの才能に無自覚でしたが、一次選考で敗北したことをきっかけに、“本気で戦って負ける悔しさ”を味わっています。
潔と凪は、互いの武器を高め合うことで、ゴールへの道筋を無数に描き出そうとします。しかし、フィールドの王様(キング)であるはずの馬狼は、そのプライドの高さゆえに、二人のゲーム運びについて行くことができません。凪は、孤立した馬狼の姿を見ていい放ちます。「負けを認めなきゃ 本当の悔しさなんて手に入んないのにさ」。
それは、かつて敗北を味わった凪だからこそ分かる境地。潔と凪は、馬狼を戦略に取り込むことを諦めて、二人だけでフィールドを駆け抜けます。二人に主役の座を奪われた馬狼は、自らの敗北を認識することで新たな境地へと踏み出すのです――。
負け犬のまま生きて将棋を指し続けろ
そしたらおまえは気づく 何も負けていない事に
『ハチワンダイバー』は、柴田ヨクサルの代表作。賭け将棋を生業とする“真剣師”の視点で、将棋の世界を描く異色作です。
菅田健太郎は、かつてプロ棋士を目指していましたが、その夢に破れています。将棋以外で生きる道を知らず、賭け将棋で日銭を得る毎日。ある日、健太郎は凄腕と評判の“アキバの受け師”の噂を聞いて勝負を挑みます。
“アキバの受け師”の正体は、真剣師・中静(なかしず)そよ。健太郎は、そよに惨敗したことをきっかけに、将棋への情熱を取り戻します。心機一転で自室をきれいにするため、家事代行サービスを頼んだ健太郎ですが、現れたのはメイド姿の中静そよでした……。
菅田健太郎は、将棋盤81マスの深いところを目指して潜る“ハチワンダイバー”。中静そよに紹介された、ホームレス真剣師・神野神太郎(じんのしんたろう)の弟子となっています。
神野の別名は「二こ神(にこがみ)」。名前に“神”の字が二つ付くことからの命名です。神野はかつて、“雁木囲い”の戦法で名前を馳せた猛者。アマチュア名人ながら、プロに勝利した将棋界の有名人です。
しかし名声を手にしたにも関わらず、神野は真剣師集団・鬼将会を手伝うようになります。ヤクザの代打ちを務めて、敗北したことをきっかけにホームレスとなったのです……。
『ハチワンダイバー』©柴田ヨクサル/集英社 9巻P042_043より
鬼将会は、プロと同等の実力を持ちながら、プロになれなかった亡者を集めた集団です。その強さから、ヤクザの代打ちを務めて連戦連勝。いまや、ヤクザも避けて通る巨大組織となっていました。
鬼将会を打倒するため、菅田は鬼将会の地下道場に潜入。真剣師・マムシとの勝負に挑みます。菅田は「小指」を、マムシは「命」を懸けての対局となりますが、最終的にマムシが勝負に敗れます。
菅田の師匠である神太郎は、「負け犬のまま生きて将棋を指し続けろ そしたらおまえは気づく 何も負けていない事に」とマムシに諭します。自らも敗北の味を知る神野は、生きて将棋を指し続けることで、真の勝者になれるとマムシを励ましたのです。
そういう小さな絶望の積み重ねが
人を大人にするのです
高校生の虎杖悠仁(いたどりゆうじ)が、特級呪物・両面宿儺(りょうめんすくな)の指を拾ったことで運命の歯車が回り始めました。
オカルト研究会の先輩が呪霊に襲われたため、虎杖は呪力を得て対抗しようと決意。宿儺の指を取り込んで、千年に一度の“宿儺の器”となったのです。
両面宿儺は、呪術全盛の時代に数多の呪術師を屠った、恐ろしい呪いの王……。宿儺が受肉した虎杖は死刑を命じられますが、五条悟の働きかけで刑が猶予されることになりました。そして、都立呪術高等専門学校で学びながら、呪術師を目指すことになったのです。
ある日、映画館で変死体が発見されます。亡くなったのは地元高校生の集団で、何者かによって原型が分からぬほど姿を変えられていました。
呪術高専から派遣されたのは、虎杖悠仁と一級呪術師・七海建人(ななみけんと)の二人です。調査の結果、特級呪霊・真人(まひと)と、現場で事件の一部始終を見ていた高校生・吉野順平の存在が明らかとなります。
真人は、人間への恐れから生まれた特級呪霊。体中ツギハギだらけの青年の姿と、持ち前の明るさで、吉野順平に接近します。しかし真人は、生物の魂と肉体を自由に改造する術式「無為転変(むいてんぺん)」の使い手。映画館で起きた恐ろしい変死事件の犯人だったのです……。
『呪術廻戦』©芥見下々/集英社 3巻P064_065より
呪術高専教師の五条 悟は、自らの後輩である七海建人を虎杖のサポートに付けました。七海は非術師の家系の出身ですが、「十劃呪法(とおかくじゅほう)」の使い手で、一級呪術師として高い実力を持っています。
冷静沈着な人柄と、サラリーマンとして会社に勤めた経験の持ち主です。宿儺の器である虎杖悠仁にも臆することなく、先輩呪術師として彼を導きます。
七海は、「枕元の抜け毛が増えていたり お気に入りの惣菜パンがコンビニから姿を消したり」「そういう小さな絶望の積み重ねが 人を大人にするのです」と、虎杖に語ります。この後の虎杖は、真人との戦いの連続で多くの絶望を味わうことになります。しかし七海の言葉を胸に、何度でも立ち上がるのです。
明日のために今日も寝て
その今日のために明日も寝るのだ
『元祖大四畳半大物語』は、松本零士による作品。代表作の一つ『男おいどん』を始めとする、「大四畳半シリーズ」のルーツといわれています。
「別冊漫画アクション」(双葉社)で、1970~74年に連載。松本零士が、北九州から上京して、東京本郷に下宿していた若き日の記憶をモチーフとした作品です。
四畳半一間の下宿である「第三下宿荘」。その一室に住む主人公、足立 太(あだちふとし)による、貧しくも青春一杯の生活を描いています。
足立 太は、青雲の志を抱いて九州から上京してきましたが、初出勤の日に勤務先が倒産。以来、おんぼろアパートの第三下宿荘に住みついて、予備校に通いながら大学進学を目指しています。
しかし、日夜奮闘するも報われない毎日……。さらに数々の美女が太の前に現われますが、いずれも彼のもとを去っていく運命にありました。
「無芸大食人畜無害」を標榜する彼の周りには、下宿大家のオジさん、オバさん、愉快な下宿の仲間たちが集まって大騒ぎ。おまけに、押し入れにしまったサルマタ(下着)から、サルマタケというキノコが生える始末です。
『元祖大四畳半大物語』©松本零士/朝日新聞出版 6巻P139より
足立 太がバイト先で知り合った中川は、医者志望の美女です。彼に気がある気配ですが、足立はチャンスが訪れても彼女に手出しすることができません。
中川から電話が掛かってきたので、心配になった足立は彼女のアパートを訪れます。しかし足立が目撃したのは、中川が他の男と一緒にいる現場。おまけに近所の人から、部屋をのぞく「チカン」に間違えられてしまいます。
足立 太は、たび重なる敗北にもめげることはありません。「みちょれよ この!」の掛け声とともに、リベンジを誓うのです。「そうだ 明日のために今日も寝て その今日のために明日も寝るのだ」……。彼は大量のサルマタに包まれながら、明日のために今日も寝るのです。
マンガに勇気をもらって再スタートする
競技かるた、サッカー、将棋など……様々なジャンルのマンガから、読む者に勇気をくれる名言をご紹介しました。
人生には失敗や敗北が付き物ですが、発想を転換できれば好機に変えることができるかもしれません。ここで紹介した作品群は、失敗にめげず一歩ずつ歩むことの大切さを教えてくれます。
目標が不本意な形で終わって落ち込んだときには、お気に入りのマンガを読み返してみてください。きっと、新しい気持ちで次の一歩を踏み出せるはずです。
執筆:メモリーバンク / 柿原麻美