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【推しマンガ】令和のGEKIGAに刮目せよ! 国内外で注目を集める『龍子 RYUKO』の魅力

中東の王国・フルセーヤ。反乱軍がクーデターを起こしたことで、この国を血と硝煙の匂いが包みます。その戦火の中に、一人の日本人の姿がありました。漆黒の長い黒髪をなびかせ、その脚には龍の刺青が入れられていました――。

『龍子 RYUKO』は、女極道・龍子の活躍を描く、ハードボイルド・アクションです。単行本第1巻が発売されるやいなや、大きな反響を呼んで「このマンガを読め!」で第4位、「このマンガがすごい!2024」でオトコ編第13位にランクイン。

日本で刊行された以外にも、フランス語に翻訳されたのを皮切りに、イタリア、ドイツ、イギリスなど、世界各国で出版。新しい“GEKIGA”文化の代表作として、ファンの支持を得ています。怒涛の筆致で描かれる作品世界を紹介しましょう。

龍子 RYUKO 著者:エルド吉水

世界に誇る、新機軸のGEKIGA

『龍子 RYUKO』は、リイド社が運営するトーチwebに発表されています。著者は、自らを“劇画家”と称するエルド吉水。

劇画は、1950年代後半に生まれたマンガのスタイルの一つ。それまでのマンガは、あくまで子ども向けのものでしたが、貸本の出版社で活動する作家たちが、青年読者を対象とする作品を描くようになったのです。

洋画やハードボイルド小説の影響を受けて、陰影を多用したリアルなタッチで描く本格アクション――。1960年代、青年向けマンガ雑誌の創刊が相次いだことで、劇画は一大ジャンルへと成長していきました。

『龍子 RYUKO』は、エルド吉水による新機軸の劇画です。エルド吉水は、東京藝術大学彫刻専攻を修了後、現代アートの世界へ飛び込んだという経歴の持ち主。45歳にして突如、劇画を描き始めていますが、その描画手法は全てアナログにこだわっています。

粗削りでありながら繊細な描写は、世界に誇るGEKIGAとして、日本はもちろん世界各国で大きな支持を得ています。

物語は、中東のフルセーヤで幕を開けます。古来、黒海の沿岸地域は、東西交易の要衝として栄えてきました。この王国には人々の欲があふれ、血なまぐさい争いが絶えなかったのです。

龍の刺青がある女

反乱軍がクーデターを起こし、フルセーヤ国王のジブリールは、その勢いを抑えられなくなりました。反乱軍は、実権の掌握を確かなものとするため、国王と彼の血を引く者全てを処刑するはずです。

死を覚悟したジブリールは、ある女のもとに駆け込みます。その手には、生まれたばかりの赤ん坊が抱かれていました。

赤ん坊の名前はバレル。生まれたばかりの女の子です。ジブリール国王の嘆願を聞いて、女は赤ん坊の命を守ることを誓います。スレンダーな脚に龍の刺青を施した、その女の名前は龍子。日本の暴力団・黒龍会会長の娘ですが、赤ん坊を引き取った彼女は、「父には伝えるな 他言無用だぞ」と箝口令(かんこうれい)を敷いています。

中東の地に商機を見出した黒龍会は、はるばる海を越えて進出してきました。フルセーヤ王国と、信頼関係を築いてきた黒龍会。しかし、もとを正せば遠い異国の極道です。ジブリール国王は、大切な王女をどのような気持ちで託したのでしょうか。

「ヤクザの家で育つのだから 上品なお姫様にはならんと思うがな…」と言いつつ、バレルを引き取った龍子。命に変えても、彼女を守ると心に誓います。

それから、18年後――。美しく成長したバレルは、フルセーヤ中央駅の列車管理室を襲います。自らが王家の血を引く身であることを知らぬまま、すっかり極道に染まってしまったのです。

龍子とバレルの葛藤

バレルは、自分と同じく龍子に拾われた少女・刺狙里(サソリ)とともに、ある計画を試みていました。

乗務員に扮して、列車に乗った刺狙里。テロリストが、車内に爆弾を仕掛けたと偽って、乗客たちを前方の車両に移動させます。

乗客が移動したのを確認すると、刺狙里は後部車輛の連結を切り放します。その車輛には、クーリエ・トランクいっぱいの大金が隠されていたのです。

大金の強奪に成功した、バレルと刺狙里。しかし、そこに龍子率いる黒龍会が現れます。本来、この金は黒龍会が手にするはずのものでした。それを横取りした彼女たちは、龍子と激しい言い合いになります。

龍子は、“バレル=王女”という出自を伏せてきました。それも、一重に彼女の身を守るためのこと。しかし、バレルは龍子の想いに気づかず反抗します。エルド吉水は、生と死の狭間で揺れる龍子とバレルの葛藤を描き、ドラマに重厚感を出しています。

やがて、ラシード将軍率いる反乱軍の攻撃が開始。かつて龍子の父親・牙龍(がりゅう)は、バレルが王女であることを理由に、その処刑を命じました。その命令に納得できない龍子は、その場で牙龍を殺しています。ここでバレルは死なせては、父を殺した意味がなくなってしまう――龍子は自ら銃を握って反乱軍と戦い、バレルと刺狙里を日本に逃がします。

迫力の劇画を体感しよう

龍子は、反乱軍の制圧に成功。ラシード将軍は、龍子の母親・昇龍姫(ショウリュウヒ)が生きていることを伝えて命を引き取りました。龍子が幼い頃に死んだはずの母親――その生存が明かされた一方で、ミステリアスな謎が深まります。

暴力団の抗争は、男性中心のドラマになりがちですが、『龍子 RYUKO』を彩るのは主人公を始めとするヒロインたち。彼女たちの美しさを際立たせるのが、銃器、バイクなど、精緻に描かれたメカニックです。エルド吉水の力強い描線が、作品世界に命を吹き込んでいます。

修羅の舞台は、中東から横浜へと移ります。様々な国の文化が入り混じる港町で、物語の次章が幕を開けるのです。血と硝煙の匂いに満ちた迫力の劇画を、ぜひ体感してください。

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 *文中一部敬称略

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