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【推しマンガ】大人のための千夜一夜物語! 諸星大二郎が贈る、極上の怪奇譚!!

諸星大二郎が描く、異形の者たち。その姿は、私たちが当たり前としている“日常”を、恐怖と不安で満たして“非日常”へと変えてしまいます。

『諸星大二郎劇場』は、あなたを未知の世界へ誘う、奇々怪々なオムニバス・ドラマ。第47回日本漫画家協会賞 コミック部門大賞を受賞した名作です。

今回ご紹介するのは、女性の怪奇探偵のお話です。優れた霊感の持ち主アリス・ミランダと、剣術の達人ミス・ホブソン。二人のもとには、今日も怪しげな依頼が舞い込みます。果たして二人は、一筋縄では行かない怪奇現象や、巧妙に仕掛けられた罠を、暴くことができるのでしょうか!?

諸星大二郎劇場 第4集 アリスとシェエラザード
諸星大二郎劇場 第4集 アリスとシェエラザード 諸星大二郎

諸星大二郎が生んだニューヒロイン

2013年から、「ビッグコミック」増刊号(小学館)などに掲載されている『諸星大二郎劇場』。いずれも1話読み切りの短編で、ホラー描写の中にも、著者ならではのユーモアが光る名作群です。

諸星大二郎が得意とするのはSF作品や、神話・歴史を取材した伝奇ロマン、さらに怪異現象を取材したホラー作品など、多岐にわたっています。

果てしない広がりをもつ作品群を、『諸星大二郎劇場』ではテーマごとに単行本にまとめています。その中でも、女性の怪奇探偵コンビを主役にした「アリスとシェエラザード」は、読者に大人気のシリーズとなっています。

「アリスとシェエラザード」シリーズは、19世紀末のイギリス・ロンドンを舞台にしたミステリ作品です。コナン・ドイルの「シャーロック・ホームズ」シリーズを彷彿とさせる“名探偵もの”。しかし、本作の主人公二人が引き受けるのは、“普通の事件”ではありません。

アリス・ミランダは強い霊感をもつ女性で、ちょっと風変わりな方法で「人捜し」をするのが仕事です。その助手を務めるのがミス・ホブソン。眼鏡がよく似あう理知的な女性ですが、なぜか人前では“ファーストネーム”で呼ばれることを嫌います。

一癖も二癖もある探偵コンビ――。その噂をどこで聞いたのか、ある依頼人が彼女たちのもとを訪ねます。彼の相談はちょっと変わっていて、結婚相手として「手の美しい女性」を探してほしいというのです。

美しい腕に恋する依頼人

その依頼人、マロー博士(ドクター・マロー)と名乗る人物は、結婚相手として「手の美しい女性」を探してほしいと言いました。そのこだわりは手首から先だけではなく、肩から先も含めた腕全体に及ぶものでした。

ミス・ホブソンはドクター・マローの結婚条件に懐疑的ですが、アリスは「シンデレラの美しい足に恋をした王子様のよう」だと言って、その仕事を引き受けることにしました。

依頼人のため、美しい腕を持つ女性を探したアリス。その捜索はロンドンとその近郊にまで及びました。アリスがリストを渡すと、ドクター・マローは大喜び。この依頼は、無事終わったかのように見えました。

それからひと月ほど経って、一人の来客がありました。ジェーン・ポウマンと称する女性による相談です。

アリスには「ポウマン」という名前に憶えがありました。それは、ドクター・マローに渡したリストの中にあった女性の名前でした。依頼人ジェーン・ポウマンは、行方不明となった姉を探してほしいというのです。

ポウマン姉妹は、ある慈善パーティで“ドクター・ジョンソン”と名乗る人物と知り合いました。数日後、彼と会うため出かけた姉は、そのまま行方不明になったと言います。ドクター・ジョンソンの正体は、ドクター・マローではないか――直感したアリスとミス・ホブソンは、ドクター・マローの住所を訪ねますが、そこにはそれらしい住人はいませんでした。

死者の声なき声を聞く「人捜し」

アリスとミス・ホブソンは、リストに載せた女性たち全員を訪ねてみることにしました。すると、特に手の美しい女性五人が、行方不明となっていることが分かったのです。

やがて、恐ろしい事件が新聞を賑わすようになります。女性の惨殺死体が相次いで発見されたのですが、どの死体も両腕が付け根から切断されて、失われていたのです。そのうちの一人は、ドクター・マローに渡したリストにあった女性で、アリスを大きく落胆させました。

アリスは、「人捜し」のための“とっておきの手段”を使うことを決意します。それは「降霊会」と呼ばれる儀式。霊媒者を介して、死者とのコミュニケーションをはかるものです。19世紀頃の欧米では、友人とテーブルを囲んで死者との交信を楽しむ会合が大流行。作家コナン・ドイルも、数多くの降霊会に参加して、心霊現象の研究をしたことで知られています。

アリスとミス・ホブソンは、依頼人のジェーン・ポウマンを呼んで、三人で降霊会を行いました。霊媒人となったアリスの指示で、テーブルを中心に手をつなぐ参加者たち。卓上に置かれたロウソクの灯りが怪しく揺れます――。

すると暗闇の中から無数の“腕”が現れて、参加者たちと手をつないだのです。アリスが質問をすると、“腕”たちはテーブルを叩いて応じます。そして「あなたたちの手はどこに?」という問いに対し、“腕”は本棚から地図を取り出して、ある住所を指し示したのです。

地図を見て、ある屋敷にたどり着いたアリスとミス・ホブソン。中で待ち受けていたのは、ドクター・マローでした。思わずカバンから拳銃を取り出したアリス。絶体絶命のピンチに、相棒の名前を声高に叫びます。「シェエラザード!」と。

アリスとシェエラザードの活躍は続く

ここまで『諸星大二郎劇場』第4集より、「第1話 ファーストネームで呼ばないで」のあらすじをご紹介しました。果たしてアリスとミス・ホブソンは、失踪した女性たちを救うことができたのでしょうか。結末は、ぜひマンガでご覧になってください。

第4集の「あとがき」では、もともと「悪趣味な話」を描こうとしたものの、うまくまとまらなかったと、著者の苦心が語られています。その処方箋として「視点を変える」「全然違うキャラを出す」ことをしたところ、二人の主人公が誕生したというのです。悪趣味なアイディアから生まれた、好趣味なキャラクターの活躍は、この後も続いていきます。

イスラム世界の説話集『千夜一夜物語(アラビアン・ナイト)』では、“シェエラザード”という名の娘が、一千夜にわたって王に寝物語をしたといいます。本作の主人公の一人ミス・ホブソンは、奇遇にも彼女と同じファーストネーム。『諸星大二郎劇場』は、大人のための『千夜一夜物語』とも言える珠玉の短編集です。アリスとシェエラザードの冒険は、これからも読者の眠れない夜を満たしてくれることでしょう。

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 *文中一部敬称略

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