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【推しマンガ】愛する洋館を守るため、立ち上がれ! マンガ家による保存プロジェクトの記録!!

2024年3月、東京世田谷区の住宅地にオープンした「旧尾崎テオドラ邸」をご存じでしょうか。明治時代の洋館を、ギャラリーやカフェを備えた、新しいマンガの拠点として再生した施設です。

この洋館の保護と修復までの道のりは、困難に満ちたものでした。マンガ家の山下和美は、水色の外壁がお洒落な洋館と出会い、その虜になっています。しかし、歴史に残る名建築であるにも関わらず、取り壊される瀬戸際だと判明して……。

洋館が、土地ごと売却されることが決定し、解体までのタイムリミットが刻一刻と迫ります。ドキドキ・ハラハラの実録エッセイ・コミックをご紹介します。

世田谷イチ古い洋館の家主になる 著者:山下和美

水色の洋館との出会い

『世田谷イチ古い洋館の家主になる』は、『天才 柳沢教授の生活』の山下和美が描く、実録エッセイ・コミックです。

日本の建築様式の一種で、茶室を取り入れた“数寄屋造り”。その魅力に取りつかれて、一戸建ての数寄屋を建築した山下和美は、自身の経験を『数寄です!』というエッセイ・コミックにまとめたことがありました。

その数寄屋を建てる時に、土地選定の決め手となったのが、世田谷区の一角に残る洋館・旧尾崎邸でした。「和の世界に入り込みながら洋館を眺めるなんて こんなステキなことが他にあるだろうか?」 同じ町内に住み、旧尾崎邸を見守ろうと考えていた山下和美……。しかし、彼女のもとに衝撃のニュースが舞い込みます。

それは、山下和美が数寄屋を建てた時に世話になった、建築家の蔵田徹也さんからの電話。洋館・旧尾崎邸が、土地ごと売却されるという情報だったのです。

旧尾崎邸があるのは、東京では珍しい約200坪の広大な敷地です。しかも人気の「世田谷区」で、「駅 徒歩6分」という好条件の立地……。

ここに7軒の戸建てを建てて、分譲する案が持ち上がっていることが分かりました。さらに、分譲宅地の水道・ガスなどの配管を通す、新しい道路も開発予定……。この開発道路は、洋館が建っている場所の真下を通る予定だというのです。

インターネットで広がる保存運動の輪

分譲宅地のメインストリートとなる予定の開発道路。そこに接続する私道の管理者が複数名いて、全ての同意が揃ったら、役所で工事の許可が下りるといいます。そうなったら、洋館は必然的に取り壊しとなってしまうのです……。

古い建造物は維持管理が大変ですが、歴史的に意義がある洋館が失われるのは、残念なこと。

建築家の蔵田徹也さんが、その思いをSNSに投稿したところ、「リツイート」や「いいね」という形で、賛同してくれる人たちが現れました。インターネットで、少しずつ保存運動の輪が広がっていきます。

インターネットを中心に寄せられた反響。その数は、想像以上にありました。旧尾崎邸の保存のために、土地の買い取り資金を出してもいい……という人も、現れ始めます。

しかし建て替えプロジェクトの窓口となっている不動産会社、工務店にも主張があります。「違約金や これまでかかった費用の請求」として、3億円が提示されます。

その時、山下和美は「モーニング」(講談社)で『ランド』の連載中……。さらに、家族と愛猫が体調を崩していました。そんな大変な最中に、土地をめぐる厳しい交渉が始まったのです。

明治の歴史香る洋館

保存活動を進める過程で、この洋館に秘められた物語が明らかになってきました。

東京世田谷区の豪徳寺のそばに佇む水色の洋館。それは“憲政の神様”と呼ばれ、かつて東京市長も務めた尾崎行雄の妻・尾崎テオドラ英子にゆかりのある家だったのです。

明治時代の官僚・尾崎三良(さぶろう)男爵が、ロンドン留学中に英語教師・モリソンの娘と結婚。もうけた三女のうちの一人が、テオドラでした。

尾崎三良は、イギリス人の妻と三人の娘を残して日本へ帰国。その後成長したテオドラは、父を頼って来日していたのです。

そんなテオドラが行雄と出会ったのは、郵便の誤配がきっかけでした。奇遇にも同じ“尾崎”姓であったことから起きたハプニング。誤配されたテオドラ宛の手紙を、行雄が返しにいったのをきっかけに、二人の交際が始まったのです。洋館には、二人の愛の記憶が秘められていました。なんとしても、解体を阻止せねば――山下和美の保存運動への熱意が高まります。

一人一人の思いが結実した、旧尾崎テオドラ邸

洋館は、テオドラの父・三良によって、港区に建てられたと考えられています。尾崎行雄・テオドラ夫妻の手から、知人である英文学者に譲渡。その後、洋館は一度解体されて、現在の世田谷の地に移築されたのです。

ここまで、山下和美による『世田谷イチ古い洋館の家主になる』のあらすじをご紹介しましたが、これはまだ洋館の保存運動のスタートにしか過ぎません。

山下和美をはじめとする多くの人の奮闘で、マンガの施設として生まれ変わった旧尾崎テオドラ邸。明治時代の洋館は、いま新しい歴史を歩み始めました。本書を読んで、ぜひ応援してください。

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美

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