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【推しマンガ】「私が皇帝になって世界を平和にする!」野心に燃える皇女アンナ・コムネナの物語

今回ご紹介するのは、佐藤二葉が描く『アンナ・コムネナ』です。かつて、世界の富の3分の2を支配しているといわれた大帝国ビザンツ。その皇女の波乱に満ちた人生を題材に、フルカラーで描く豪華絢爛絵巻です。

「私が皇帝になって世界を平和にする!」 ビザンツ帝国の皇女アンナ・コムネナは、弱冠11歳の少女ですが、弟を廃して皇帝になるという野望を抱いていて……!?

権謀術数の渦巻く宮廷でも、アンナはたじろくことはありません! 大いなる野心と知性にあふれた、ヒロインの魅力に迫ります。

アンナ・コムネナ 著者:佐藤二葉

アンナの人生はどうなるの~!?

現在のトルコの大都市イスタンブール。かつて、東西交易の要衝として栄華を極め、「都市の女王」コンスタンティノープルと呼ばれていた時代があります。

この都市を擁し、ローマ帝国の継承者として、東地中海を治めたのがビザンツ帝国です。アンナ・コムネナは、11~12世紀に活躍したビザンツ帝国皇女。そして、中世の西洋で唯一の女性歴史家といわれています。

1083年、宮殿にある「緋の産室(ポルフュラ)」で、アレクシオス1世の第1子が誕生しました。それが、アンナ・コムネナです。緋色は、ビザンツ皇室の象徴。皇帝の正統な子どもとして誕生したことは、アンナにとって強い自尊心の源となりました。

アンナの婚約者は、コンスタンティノス・ドゥーカス。しかし1095年、アンナ・コムネナ11歳の時に、彼は謎の突然死を遂げます。

コンスタンティノスは、アンナの父であるアレクシオス1世とともに、共同皇帝の位についていました。アンナは、コンスタンティノスの婚約者――すなわち将来の皇后候補として、プライド高く育てられていたのです。しかし、彼の死によってアンナの帝位は遠のきます。

「アンナの人生はどうなるの~!?」 民衆の歓呼を受けて戴冠するはずだったのに、一瞬で夢が砕け散りました。佐藤二葉『アンナ・コムネナ』、冒頭から波乱の幕開けです。

皇帝キャラのアンナが放つ物騒なセリフ

アンナが育った、コムネノス王朝の“お家事情”について紹介しましょう。ビザンツ帝国とは、古代ローマ帝国の東方領土と文化を継いだ東ローマ帝国のこと。11世紀頃になると、旧来の中央集権制度が形骸化。さらに、ペチェネグ人やノルマン人、トルコ系勢力の侵略など……外敵の猛威に、おびやかされていました。

アンナの父であるアレクシオス1世は、軍事・内政の才能に優れた皇帝。果敢に周囲の敵をはねのけて、帝国の威光を取り戻そうとしていました。

そんなアレクシオス1世が、何より重視したのが“政権の安定”。そのため、先帝の息子であるコンスタンティノスと、愛娘アンナの婚姻を推し進めていたのです。

政略結婚とはいえ、婚約者コンスタンティノスを愛していたアンナ……。彼とともに戴冠し、皇后となることを夢見ていましたが、その死によって帝位継承権は無効となりました。

アレクシオス1世の後継者は、アンナの三歳違いの弟・ヨハネスとなります。アンナは、父帝とは違って好戦的な弟が、世継ぎとなることが許せません。「弟を消す方法が 書物のどこかにあるはず」「絶対に皇帝になってやる!」 彼女の口から衝撃の言葉が飛び出します。

一般に“世継ぎ争い”はシリアスなテーマ……。しかしアンナ・コムネナは、無邪気で豪快な“皇帝キャラ”です。「弟を消す」という物騒なセリフも、読者をくすっと笑わせてくれます。

最愛の夫との出会い

1096年、アンナは12歳にして結婚しました。お相手は、4歳年上のニケフォロス・ブリュエンニオス16歳。年若き夫婦の誕生です。

死んだ婚約者は皇帝の息子でしたが、実際にアンナの夫となったのは、名門とはいえ軍事貴族の息子……。帝位が遠ざかったことに、アンナは不満顔です。

しかも相手は、かつて帝位を狙って謀反を起こした老ブリュエンニオスの孫。皇帝アレクシオス1世は、謀反人の一族を取り込むことで、融和を図ろうとしたのです。

結婚後間もないアンナは、新しい夫に「あなた 帝位への野望はおあり?」と聞きます。彼から「ないです」と即答され、アンナは「野心のない意気地なしが 夫だなんて!」と怒りの色を隠せません。

皇帝の座を狙うアンナの野心は、メラメラと激しく燃え上がります。少し変わったお嫁さんですが、夫のブリュエンニオスは大きな包容力で彼女を迎えます。

 “世界平和”を目指すアンナに対して、ブリュエンニオスは“家庭の平和”を築くことを誓いました。皇帝が決めた政略結婚ではありましたが、ブリュエンニオスはアンナの才能を認めて、学問を愛する彼女の大きな後ろ盾となります。やがて、夫婦は深く愛し合うようになるのです。

女性歴史家アンナとともに、歴史を見届けよう

皇帝アレクシオス1世は、外敵から次々と領土を回復しました。しかしアナトリア半島の奪還に苦戦し、ローマ教皇に援軍を要請。ローマ教皇・ウルバヌス二世は、“聖地イェルサレム解放”を名目に、コンスタンティノープルに兵を送ります。歴史上の大事件、「第1回 十字軍」の派遣です。

「ビザンツ帝国」「十字軍」……というと、難しいテーマに思えるかもしれません。しかし、天真爛漫な主人公・アンナをはじめ、包容力のある美形の夫、好戦的な弟・ヨハネスなど、個性的なキャラクターたちが、読む者を歴史の世界へ引き込んでくれます。

アンナが愛する父帝・アレクシオス1世と、夫のブリュエンニオスは、やがて戦争の渦へと巻き込まれていきます。中世ヨーロッパでただ一人の女性歴史家となる、アンナ・コムネナ――。彼女の歩みとともに、波乱に満ちた西洋中世史を見届けてください。

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美

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