心揺さぶるマンガの名言Vol.3 運を味方につけるポジティブな言葉
マンガは、至言・名言の宝庫です。時に、マンガのキャラクターが放つセリフは、読者が悩みを乗り越えるヒントを与えてくれます。
この特集では、マンガ好きのすべての人に届けたい、名言・名セリフを紹介します。今回は、夢の実現や勝負に欠かせない“運”がテーマ。
物事の成否を決めるのは、その人の“資質”と“努力”、さらに“運”といわれています。マンガの名場面から、“運”を引き寄せるポジティブな名言を紹介します!
もっとも『むずかしい事』は! 『自分を乗り越える事』さ! ぼくは自分の『運』をこれから乗り越える!
『ジョジョの奇妙な冒険』は、荒木飛呂彦の人気シリーズ。1987年、「週刊少年ジャンプ」(集英社)でスタートした第1部「ファントムブラッド」を皮切りに、ジョナサン・ジョースターと、その血を受け継ぐ者たちを描く壮大な叙事詩です。
今回紹介するのは、第4部「ダイヤモンドは砕けない」に登場した名言です。第4部は、ジョースターの血を継ぐ、東方仗助(ひがしかたじょうすけ)が主人公。彼と、その友人たちによる、スタンド能力を駆使したバトルが繰り広げられます。
シリーズの初代主人公であるジョナサン・ジョースターを殺し、その首を乗っ取ったディオ・ブランドー。彼の因縁が、第4部でも新たな争いの火種となるのです。
第4部「ダイヤモンドは砕けない」の舞台は、日本のM県S市にある杜王町(もりおうちょう)。のどかな郊外の街ですが、何者かが意図的にスタンド使いを増やしたことで、街は次第に静かな恐怖に浸されていきます。
“スタンド(幽波紋)”とは、超常的な力を擬人化したもの。持ち主の傍らに現われて、異能力バトルを展開します。
第3部「スターダストクルセイダース」に登場したエンヤ婆は、DIOことディオ・ブランドーの忠実な配下。彼女にゆかりのある「弓と矢」が杜王町に持ち込まれたことで、矢に射られた人々がスタンド使いと化していきます。その一人が、この街に住む人気漫画家・岸辺露伴(きしべろはん)だったのです。
『ジョジョの奇妙な冒険 第4部 ダイヤモンドは砕けない』©LUCKY LAND COMMUNICATIONS/集英社/ 8巻P161より
岸辺露伴は、天才的な描画テクニックを持つ漫画家。さらに、人にはいえない超人的な能力を持っています。それは相手の姿を“本”に変えて、その情報の閲覧や書き換えができるスタンド「ヘブンズ・ドアー(天国への扉)」――。
そんな露伴に、小学6年生の少年が戦いを挑みます。彼のあだ名は「ジャンケン小僧」。スタンド能力の持ち主で、“ジャンケン勝負”で露伴と心の強さを競おうというのです。露伴は少年に繰り返し敗れたことで、ヘブンズ・ドアーの能力を少しずつ奪われてしまいます。
追いつめられた露伴は、掛け声とともにジャンケンの手を振りだします。「もっとも『むずかしい事』は! 『自分を乗り越える事』さ! ぼくは自分の『運』をこれから乗り越える!」 露伴は、プライドを懸けたジャンケンの一手で、起死回生のチャンスを引き寄せます。
真に戦う人間にのみ “運”は平等に降り続ける
絵心甚八(えごじんぱち)は、日本をW杯優勝に導くための総指揮官。彼は、日本サッカーが世界一となるために「革命的なストライカーの誕生」が必要だといいます。
絵心甚八が選考した18歳以下の300名の候補生は、世界一のストライカー養成所“青い監獄(ブルーロック)”で、その頂点を目指して競い合います。
プロジェクトの立案者である絵心甚八は、エゴイストこそが日本サッカーの英雄になれると持論を展開します。一見毒舌なキャラクターですが、その言葉は選手たちを突き動かし、成長へと導くのです。
希代のストライカー誕生を目指し、集められた300人の高校生。主人公の潔 世一(いさぎよいち)は厳しい一次選考を勝ち抜いて、二次選考の“奪敵決戦(ライバルリー・バトル)”に挑みます。
この選考は、三人一組でチームを組んで対戦。試合に勝ったチームは、相手から一人を引き抜けるというルール。潔が組んだのは、蜂楽 廻(ばちらめぐる)と凪 誠士郎(なぎせいしろう)。しかし、糸師 凛(いとしりん)のチームに敗れて、蜂楽を奪われてしまいます。
4thステージに昇りつめた潔は、蜂楽を取り戻すべく凛のチームに再び挑みます。しかし接戦の末、凛のチームが勝利。潔は、辛くも引き抜かれる形で、凛のチームメイトとともに二次選考を突破したのです。
『ブルーロック』©金城宗幸・ノ村優介/講談社 11巻P038より
究極のライバル・糸師 凛との決戦で、肉薄しながらも敗れた潔 世一。彼との勝敗を分けたのは、実力の差でしょうか。それとも、一握りの“運”だったのでしょうか。
明確な敗北の理由を知りたいという潔に対し、絵心甚八は「運のカラクリ」を紐解きます。頭上から落ちてくるハトのフンを引き合いに出して、「“運”はどこにでも存在するものじゃなく『落ちる場所にいる者にしか舞い降りない』」というのです。
“運”の女神は、チャンスに対して嗅覚を持つ人間にだけ微笑んでくれます。「真に戦う人間にのみ “運”は平等に降り続ける」 “運”は決して偶然ではなく、死力を尽くした先に待っている、当然の結果だというのです。
努力は運の幅を広げてくれるじゃないの 先生たちが生徒の努力認めなくてどうすんですか!
東京藝術大学、通称・東京藝大は、日本で唯一の国立総合芸術大学。同大学の出身者・山口つばさは、マンガ『ブルーピリオド』の中に、藝大のリアルな受験事情を描いています。
本作の主人公は、成績優秀な男子高校生・矢口八虎(やぐちやとら)。沢山の友人に囲まれて、充実した高校生活を送っていた八虎ですが、どこか空虚な焦燥感を拭えずにいました。
しかし、一枚の絵に心を奪われたことで、彼の人生が鮮やかに色づき始めます。八虎が身を投じたのは、美しくも厳しい美術の世界。“美”の追求に青春を懸ける受験物語から、人生観を変える名言を紹介します。
矢口八虎は高校2年生。友人いわく「遊んでばっかの不良」ですが、中間テストでは学年4位にランクする成績優秀者でもあります。しかし八虎の生活は空虚に満ちていて、行きたい大学もなければ、行ってやりたいこともない――という悩みを抱えていました。
そんな彼の人生観は、美術部員の森が描いた油絵を見たことで、激変してしまいます。絵を描く喜びを知った八虎は、志望進学先を美術大学に変えたのです。
家庭の経済事情から、八虎は国立の東京藝術大学に狙いを絞ります。さらに、様々な専攻がある中で、油彩を学べる絵画科を目指すことにしました。しかし、それは日本一受験倍率が高い学科。浪人するのが当たり前で、現役高校生の合格倍率は「実質60倍」という超難関だったのです。
『ブルーピリオド』©山口つばさ/講談社 5巻P046より
美術大学受験のテクニックは、描いた枚数の多さに影響されます。つまり経験値が足りない現役生は、浪人生に比べて圧倒的に“不利”な世界なのです。
高校二年生になるまで、絵に興味がなかった八虎にとって、この受験は無謀といえるかもしれません。それでも彼は、他の生徒を上回る枚数を描いて、スタートの遅れを挽回しようと奮戦しました。そして、運命の受験日が到来します。
一次試験のデッサンは、八虎をはじめとする現役生が多数通過! 美術予備校では、講師たちが「運が良かった」のだと評します。そこで、現役生の担当講師・大場は切り返すのです。「努力は運の幅を広げてくれるじゃないの 先生たちが生徒の努力認めなくてどうすんですか!」……と。八虎たち現役生は、自らの努力で“運の幅”を切り拓いたというのです。
カケてるよ。オレは、でっかいのにカケてっから
宮本 大は、仙台市に住む高校生。バスケット・ボール部に所属していましたが、友人の影響でジャズに魅せられたのを契機に、テナー・サックスの練習に励むようになります。
大は幼い頃に母親を亡くしていますが、理解のある父親と優しい兄、かわいい妹に支えられながら、まっすぐに成長します。さらに音楽教室の講師・由井は、彼の非凡な音楽の才能を見出して、サックスを無償で教えてくれたのです。
宇宙に輝く、ブルージャイアントこと青色巨星。高温のため、青く光る巨星です。宮本 大は、ジャズ界に熱く輝くブルージャイアントになることができるのでしょうか。
一流のサックス・プレーヤーを目指して、川原で一人練習する高校生の宮本 大。大雨の日にも、自転車で山のトンネルまで駆け上がり、練習する熱心さを見せています。
サックス購入のため、アルバイトでお金を貯めようとしますが、なかなか目標の金額を貯めることができません。それも、そのはず。テナー・サックスは、安価なものでは10万円台のモデルもありますが、20万~30万円くらいが相場なのです。
そんな彼を助けてくれたのが、兄の雅之です。高校卒業後に就職した彼は、工場勤めで得た給料を手に楽器店に向かいます。そして、「この店で一番いいやつをください」と店主に注文。弟の大のため、セルマーのテナー・サックス、51万6千円をローンで買ったのです。母を亡くしてから、親代わりに支えてくれた兄の応援に、大は涙をこぼします。
『BLUE GIANT』©石塚真一/小学館 9巻P090より
高校を卒業した宮本 大は、一流のジャズ・プレーヤーとなる夢を胸に上京。進学のため上京していた同級生・玉田俊二の家に居候を始めます。ピアニスト・沢辺雪祈(さわべゆきのり)と出会った大は、彼のピアノの腕に惚れ込んで勧誘。さらに、初心者の玉田をドラムの世界に引き込んで、「JASS(ジャス)」というトリオを結成するのです。
生活は貧しくとも、大は仲間とのセッションに手応えを感じ始めます。しかし年末のある日、大は全財産10万円を入れた財布を落としてしまいました。
故郷での年越しを断念した大……。そのころ遠く仙台では、兄の昌之が職場の後輩からギャンブルの話題を振られていました。昌之は、「カケてるよ。オレは、でっかいのにカケてっから」と答えます。なかなか会えなくても、昌之は大の活躍を信じています。弟の成功に賭ける気持ちが、やがてビッグ・チャンスを引き寄せるのです。
“運”を引き寄せるのも、実力のうち!?
「運も実力のうち」という諺(ことわざ)がありますが、「実力があっても、運が良くなければ成功しない」という意味だといわれています。さらに、「自分で運を掴むことも、その人の実力のうちに含まれる」という意味も兼ねているそうです。
ここで紹介した作品は、いずれも“運”を掴むための努力が大切だと教えてくれます。しかしながら、いくら努力をしても報われないこともあるでしょう。
そんな時には、お気に入りのマンガを読んでみてください。勝負に繰り返し敗れても、諦めずに立ち上がるキャラクターの姿が、あなたを励ましてくれるはずです。
執筆:メモリーバンク / 柿原麻美