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81マスの盤上で繰り広げられる熱き将棋マンガの世界

これまで将棋界は、人気棋士が登場するたびに脚光を浴びてきました。1996年には、羽生善治が将棋界で初めて7大タイトルを獲得。2016年には、藤井聡太が史上最年少でプロ入りを果たし、公式戦最多連勝の新記録を樹立したことで、将棋人気が高まりました。

将棋の面白さは、「何が起こるか分からないところ」にあるといいます。そのスリリングな駆け引きは、マンガの題材となって多くの名作を生み出しています。

初期の将棋マンガは、スポ根の要素を取り込んだ勝負マンガとして発展。その後、時代の流れとともに拡大し、今では様々な将棋マンガが登場しています。いずれも将棋好きの人はもちろん、経験がない人でも楽しめる作品です。奥深い将棋マンガの世界へご案内します!

81マスの将棋盤に潜れ!

将棋棋士の養成機関・将励会で、プロを目指していた菅田健太郎。しかし、あと一歩のところで夢を断たれ、賭け将棋を生業とする“真剣師”になりました。

菅田はプロを目指していただけあって、真剣師としての腕前は勝率10割。しかし、アマチュア相手に金を巻き上げる、その日暮らしの生活に限界を感じていました。

将棋以外に能がないと悲観し、人生の目的を見失っていた菅田ですが、一人の少女と出会ったことで運命の歯車が回り始めます。『ハチワンダイバー』は、柴田ヨクサルによる将棋バトルマンガ。賭け将棋に命を張る、真剣師の戦いを描く異色作です。

ハチワンダイバー 著者:柴田ヨクサル

街の将棋センターで、荒稼ぎをした菅田健太郎。勝ち過ぎたことで、菅田に“真剣”を頼む客がいなくなってしまいました。

「カモは生かさず殺さず 焼いても食うのはシッポだけ」と、客の男が菅田に忠告します。しかし将励会で学んだ菅田は、「ワザと負けるなんて できない」といって、プライドを捨て去ることができません。

男は、菅田が「井の中の蛙(かわず)」なのだと畳み掛けます。さらに、秋葉原で評判の“アキバの受け師”を訪ねよ、というのです。“アキバの受け師”は、誰とでも“倍層”で指すと評判の真剣師。これは対戦者の実力差に応じて、掛け金にアドバンテージを設けるルールです。アキバの受け師は、対戦者の“倍”の掛け金を出す――つまり、他人より棋力が高い強豪だというのです。

秋葉原の将棋道場にやって来た菅田健太郎。“アキバの受け師”を指名すると、奥の特別室に通されます。そこに現われたのは、うら若き女性真剣師・中静そよ。

菅田が5万円の掛け金を提示すると、彼女は噂通り倍層で応じます。さらに菅田は「5分切れ負け」という条件を出します。わずか5分の持ち時間を使い切れば、その場で“負け”という過酷なルール。しかし彼女は「それだと すぐ終わりますね」と涼しい顔で答えるのです。

彼女の見立て通り、菅田は7分58秒後に投了。プライドを傷つけられた菅田は、心新たに将棋に取り組むため、まずは自室を掃除することに決めました。家事代行サービスを頼むと、現れたのはメイド姿の中静そよ。真剣師とメイドを行き来する、彼女の不思議な魅力に支えられながら、菅田は81マスの将棋盤に潜る“ハチワンダイバー”を目指すことになります。

命短し、戦え乙女!

高校2年生の早乙女香が目指すのは、将棋界のはるか高みです。彼女の頭にあるのは、いつも将棋のことばかり。フツーの女子高生が大好きな、放課後の寄り道も、スイーツも、全く興味がないのです。

これは、盤上で戦う乙女たちの物語。美しくも獰猛な、将棋の女神による、熱くて冷徹な戦いの伝説です。

女性編集者・支倉(はせくら)は、これまで将棋に興味がありませんでしたが、「マイナビ女子オープン」で戦う香の姿に驚かされています。見る者を魅了してやまない、女流棋士の世界をのぞいてみましょう。

永世乙女の戦い方 著者:くずしろ

支倉は、出版社に勤める27歳の女性編集者。生まれてこのかた、将棋に興味を持ったことがありません。しかし、この出版社の看板雑誌は「将棋時代」という将棋専門誌。さらに、女流公式棋戦「マイナビ女子オープン」の主催をしています。

しかし彼女は、自らをクロスワードパズルの担当と割り切っています。将棋については専門外と考えていて、そのルールはもちろんのこと、女流棋士の存在すら知らなかったのです。

女流棋士は、女性のための棋士特別枠のこと。女流棋士制度ができたのは1974年のことで、男性に比べると競技人口も歴史も及びませんが、女性が盤上で繰り広げる熱き戦いは多くのファンを魅了しています。

「マジモンの対局観たら、ルールなんて知らなくても、ズガーンとくる」 先輩編集者のアドバイスを聞いた支倉は、マイナビ女子オープンの予選会場にやって来ました。

ルールが分からず、その場に立ち尽くす支倉ですが、ある少女の姿が彼女の心を奪います。早乙女香17歳。彼女が放つ、高校生とは思えぬ気迫に圧倒されたのです。支倉は、対局後の香を捕まえて「打ち方が素敵」と、思いの丈を伝えました。

香は、「将棋は、『指す』って、言うんですよ」と、支倉にほほ笑み返します。対局中の厳しい表情から一変、少女らしい柔和な顔に戻った香。こうした表情のギャップも、女流棋士の魅力の一つといえます。香は、女性らしいしなやかさと、鋼のように強い意志を武器に、次なる一戦に備えるのです。

盤上で繰り広げられる恋の駆け引き

『からかい上手の高木さん』で一世を風靡した、ラブコメの名手・山本崇一朗。彼が手掛ける将棋マンガが、『それでも歩は寄せてくる』です。

将棋の初心者・田中 歩(あゆむ)は、部長の八乙女うるしに勝って、彼女に告白したいと思っています。彼は、歩兵の駒のような性格で、一歩ずつ前進することしかできません。将棋の駒も、恋も、まっすぐスローペースで進めていきます。

一方のうるしは、棋力で歩を上回りますが、恋にはめっぽう弱くて……!? 歩のアタックにたじろぐ、キュートなうるしの表情とともにストーリーを紹介します!

それでも歩は寄せてくる 著:山本崇一朗 監:北尾まどか 監:ねこまど

八乙女うるしは、高校二年生。自称・将棋部の部長です。しかし、将棋部といっても名ばかりのもので、部員は一年生の田中 歩が一人だけ。規定の定員に達していないため、学校から部活動の認定をもらえないでいるのです。

うるしは、将棋の経験者として、確かな棋力を持っています。一方の歩は、将棋を始めたばかり。うるしの指導を受けるため、熱心に部室に通います。それもそのはず、歩はうるしに恋をしているのです。

将棋に熱中すると、歩の本心がつい口をついて出てしまいます。「すごいですね センパイは… こんなに将棋が強くて」「そのうえ そんなにかわいいだなんて」 ストレート過ぎる一言に、うるしは顔を赤らめます。

田中 歩の目標は、うるしに告白すること。しかし、まずは彼女を相手に一勝を挙げなければ、想いを打ち明ける資格がないと思っています。将棋を指す歩の顔が、自然と真剣になるわけです。

うるしは、歩が自分のことを「好き」ではないかと疑っています。彼女も、歩を憎からず思っていますが、部長としてのプライドが邪魔をして、自分の気持ちに素直になることができません。

二人の将棋の対局は、いつしか場外戦に持ち込まれ、相手に「好き」と認めさせるためのバトルに発展。歩のポーカーフェイスを引き剥がすため、うるしは奥の手を使います。「私のこと好きって認めたら 抱きしめてやるぞ」というのです。この恋の駆け引きやいかに!? 続きは、マンガでご覧ください!

のんびり将棋ノンフィクション

ここまで様々な将棋マンガを紹介してきましたが、実際の将棋棋士はどんな生活をしているのでしょうか? プロ棋士が何を好んで食べて、何時間眠っているのか――リアルな日常に、興味がある人も多いはず。

『将棋の渡辺くん』は、棋界の“魔王”の異名を持つ渡辺 明を描くノンフィクション。渡辺の妻で、マンガ家の伊奈めぐみが、赤裸々にその実態を暴きます!

勝負の世界を生きる男の裏側は、実はあんまり緊張感のない生活で……!? ぬいぐるみとマンゴープリンが大好きで、虫が大嫌い。特別だけど、特別じゃない、天才棋士の生活をのぞいてみましょう。

将棋の渡辺くん 著者:伊奈めぐみ

渡辺家は三人家族。マンガ家の妻と、小学生の息子、そして将棋棋士の旦那がいます。旦那こと渡辺 明は、五歳の時に将棋を覚え、15歳でプロデビューしています。そんな天才棋士の家は、親戚や家に遊びにくる人たちも、将棋関係者ばかりという将棋家族です。

棋士、それは将棋一筋で生きる人たち。脳内に無限に広がる創造性を発揮して、我々一般人を圧倒します。だけど、将棋のこと以外は意外と能天気のようなのです。

棋士は、過去の膨大な将棋のデータを記憶しています。そのため、人からは「記憶力いいでしょ? (トランプの)神経衰弱とか強いんじゃない?」と聞かれるといいます。

一局の将棋で数千の手を読むことから、「私生活でも読みが深そう」という人もいるそうです。だけど、妻は知っています。これらのイメージが、全くの誤解だということを――。

棋士とは、こんなに愛すべき人々なのでしょうか。『将棋の渡辺くん』では、“プロ棋士=気難しい”という、一般のイメージを覆すエピソードが続きます。さらに、現在の棋界に輝くスター棋士たちとの交流も、印象的に描かれています。最近ますます盛り上がる棋界の裏側を、のぞいてみてはいかがでしょうか。

拡大を続ける将棋マンガ

将棋の歴史は古く、紀元前2000年頃の古代インドのゲーム「チャトランガ」が、世界各地に伝わったといわれています。日本では、平安貴族の遊びとして始まりましたが、何手も先を読む戦略性が、織田信長や豊臣秀吉などの戦国武将に好まれたといいます。

数千年に渡る長い歴史は、無限に広がる将棋の可能性を示しています。最近は、将棋AIとの対局も話題になっていますが、81マスの戦いは人知を超えた領域まで広がりつつあるのです。

大きな可能性を秘めているのは、将棋マンガも同じです。バトルやラブコメ、グルメなど、様々な要素を取り入れて、新機軸の作品が誕生しています。無限に拡大を続ける将棋マンガの行く末に、これからも目が離せません!

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美

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