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【推しマンガ】欲望のつぼみが花開いた薔薇戦争――中世ロマン『薔薇王の葬列』の時代を徹底解説!

『薔薇王の葬列』は、菅野 文による歴史大河ロマン。ウィリアム・シェイクスピアの史劇『ヘンリー六世』『リチャード三世』を原案としています。「月刊プリンセス」(秋田書店)で、2013~22年に連載された人気作品。2022年には、テレビアニメ化されて多くのファンを獲得しました。

舞台は15世紀のイングランド――。フランスとの長い百年戦争が、ようやく終焉を迎えようとしていました。しかし争いが収まることはなく、今度はイングランド領内でランカスターとヨークの2つの家系が、王位継承権を巡って火花を散らせます。

いま人気の中世ゴシックロマンですが、「歴史背景が難しい」と感じている人もいるかもしれません。舞台となった歴史背景と共に、『薔薇王の葬列』の魅力をご紹介したいと思います。

薔薇王の葬列 著者:菅野文

百年戦争に続いて起きた薔薇戦争

1337~1453年に、イングランドとフランスの間で起きた争いを「百年戦争」といいます。イングランドがフランスに領土を広げたことを契機に、血で血を洗う戦いが100年以上も繰り返されたのです。しかし、その戦況を変える一人の少女が登場します。

1429年、ジャンヌ・ダルクがフランス中部の都市・オルレアンを解放。シャルル7世にフランス国王として戴冠させたことで、フランス軍が勢いを取り戻して逆襲を始めたのです。

菅野 文の『薔薇王の葬列』は、百年戦争集結後にイングランドで起きた新たな争いを主題にしています。いわゆる薔薇戦争です。

舞台は15世紀、中世のイングランド。白薔薇を記章とするヨークと、赤薔薇を記章とするランカスターの両家が、王位争奪を争う時代が幕を開けました。

白薔薇と赤薔薇をめぐる戦争……と聞くだけでも、少女マンガのファンにとっては、興味をそそられるテーマかもしれません。著者の菅野 文は、主人公に過酷な運命を背負わせることで、物語をさらに大きく盛り上げています。

戦乱の世に生まれたヨーク家の三男・リチャードには、人にはいえない秘密がありました。ある宿命を背負って生まれたことで、母の愛を得ることができず苦しみます。

赤子は、血塗(まみ)れの悪魔か!?

幼年期のリチャードは、森の奥で迷子となったことがありました。母を求めてさまよい歩くも、その耳に聞こえてくるのは、風が木々を揺らす音と恐ろしい獣の声……。そして、自分を呪う何者かの声です。

恐ろしさのあまり、倒れ込むリチャード。哀れな幼な子を抱き上げたのは、リチャードの父親であるヨーク公リチャードでした。

リチャードが、生まれながらにして背負った秘密――。それは、彼が男性と女性の両方の性別を持っていることでした。難産の末に生まれた我が子の姿に、母親は「神の御意志に背いた 血塗(まみ)れの悪魔」といって、その誕生をのろっています。

しかし、父親のヨーク公リチャードは、愛する我が子に自らと同じ“リチャード”という名を与えたのです。幼きリチャードにとって、父親は心から愛してくれる唯一の存在でありました。

そんなヨーク公リチャードが、国王の座に就くことを宣言します。フランスの血を引くイングランド国王・ヘンリー6世に対して、反乱を起こしたのです。この日を境に、イングランドの歴史は大きく動き始めます。

ジャンヌ・ダルクの幻惑

百年戦争では、イングランドの兵士がフランスと果敢に戦いました。しかし、ランカスター朝イングランドの王・ヘンリー6世は、フランスとの和睦を進めたのです。ヨーク公リチャードは、「この戦いのために どれだけ多くの貴族や兵士が死んだと思っているのです!」と憤り、国王に反旗を翻します。

こうして白薔薇を掲げるヨークと、赤い薔薇を掲げるランカスターの戦いが、幕を開けました。ヨーク家の長男であるエドワードは、父公リチャードに付き従いますが、幼いリチャードは次男のジョージと共に他家に預けられます。

父の軍に参加できず、落胆するリチャード。そんな彼をあざ笑うかのように、魔女ジャンヌ・ダルクの亡霊が、彼の耳元でささやきます。「無理だよ リチャード その身体じゃあ」というのです。

今日私たちが知るジャンヌ・ダルク像は、ほとんどがフランス側から見た歴史観に基づいています。ジャンヌは、フランス救国の少女でありましたが、当時のイングランドの人々から見れば、自軍の敗因を作った「魔女」ということになるのです。

さらに中世ヨーロッパは、封建的なキリスト教社会。女性が男装することは、異端とみなされる行為でありました。男装の魔女・ジャンヌの幻惑は、同じく性に揺らぐリチャードの心を激しくかき乱します。

宿敵同士の叶わぬ恋

イングランド国王・ヘンリー6世は、ウィリアム・シェイクスピアによる戯曲の主人公として有名です。フランスとの政略結婚により生を受けた彼は、わずか9か月にしてイングランドの王位を、その2か月後にフランスの王位を継いだ経緯があります。

物心つく以前から、政治に翻弄されてきたヘンリー6世。彼が平和を望んだのは、当然のことだったのかもしれません。乱世で生きるには優しすぎたヘンリー6世。その人生は、同じく自らの生い立ちに苦悩するリチャードの生き方と交わっていきます。宿敵同士の叶わぬ想いは、やがて悲劇を巻き起こすことになるのです――。

中世ヨーロッパを舞台にした“歴史物”というと、難しいと感じる人もいるかもしれません。しかし、ここに描かれているのは、今も変わらぬ人間の愛憎の物語。壮大な歴史ロマンを、どうぞお楽しみください!

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美

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