花とゆめHistory 1990年代
白泉社の「花とゆめ」創刊50周年を記念し、懐かしの名作から話題の新作までを大特集!
少女マンガの革命児たる役割を担ってきた「花とゆめ」の道のりを振り返ります。
1990年代、貪欲に拡大する少女マンガ
「1989年、女性バンドのプリンセスプリンセスが「Diamonds」を発表。好きな服を着て輝きたい――という内容に、多くの女性が共感し夢中になりました。1990年代に突入し、女性の社会進出が拡大。少女マンガ読者の興味対象も、恋愛に学業に仕事などハングリーに広がりました。アニメやドラマなど、さまざまなメディアの受け入れが進んだことで、マンガを原作とするメディアミックスが貪欲に手掛けられるようになります。
高度なファンタジー世界
この時代の少女たちは、幼少期から多様なメディアに触れて育っています。少女マンガでも、高度で綿密な設定による物語世界が好まれるようになりました。日渡早紀の『ぼくの地球を守って』は、SFをベースに時空を超えたロマンスを展開。由貴香織里の『天使禁猟区』は、堕天使たちが織りなす激情と混沌のタペストリー的作品です。シリアスなトーンのダーク・ファンタジーが、10代の若者を中心に人気となりました。
亜梨子(ありす)は、植物と交信する能力をもつ高校生。ある日、隣家のイタズラ小学生・輪(りん)を、誤ってマンションのベランダから転落させてしまいます。輪は奇跡的に回復するも、別の人格が覚醒。亜梨子は前世の夢を共有する同級生に出会って、運命の歯車が回り始めます。現代の竹取物語ともいえる輪廻転生ファンタジー。
無道刹那(むどうせつな)は、実の妹・紗羅を愛する16歳の少年。ある日、自分が天地大戦で敗れた女天使アレクシエルの生まれ変わりだと告げられて困惑します。巷では、天使禁猟区というパソコンゲームに、関わった若者が次々と怪死を遂げていました。それは、アレクシエルの弟・ロシエルを復活させんがための計画でした。
多様化する主人公像
少女マンガの主人公は、少女から同世代の少年へと拡大していきました。その自由さを継承した作家たちは、少女マンガの主人公像をさらに大きく広げていきます。羅川真里茂の『赤ちゃんと僕』では、小学五年生の拓也と二歳の弟・実――二人の主人公の奮闘を通して、家族の強い絆を描きました。山田南平の『紅茶王子』では、お茶会同好会の部員を中心に、アッサムとアールグレイをはじめとする紅茶王子たちが物語を彩ります。
交通事故で母親を失い、まだ幼い弟の実(みのる)と父親と三人で暮らすことになった榎木拓也。まだ小学五年生ですが、良い兄として、母の代わりとして、持てる愛情のすべてを弟に注ぎます。泣き虫な弟の世話は大変で、時には苛立つこともありますが、赤ちゃんはやっぱりかわいい! ホーム・コメディマンガの金字塔!!
喫茶店のマスターだった父を、事故で失くした奈子(たいこ)。友人の美佳(はるか)、雪子とともに、風早橋学院にお茶会同好会を作りました。満月の晩、ティーカップをスプーンでひと混ぜすると、現れたのはアッサムとアールグレイの二人の紅茶王子たち。彼らは、呼び出した人間の願いを三つ叶えるまで帰らないというのです……。
進化する美少年マンガ
マンガのキャラクターは、時代を象徴する映し鏡。変わりゆく時代に合わせて、少女マンガを彩る美少年も、鮮やかな変身を遂げています。立野真琴の『D-WALK』では、華やかなファッション業界を舞台に、美の頂点を目指す兄弟を描いています。仲村佳樹の『東京クレイジーパラダイス』は、美少年ヤクザと男装の少女によるラブロマンス。犯罪急増都市・東京を舞台に、ハラハラ・ドキドキのドラマを展開しています。
カメラマンを目指して修行中の江端高巳(たかみ)は、しがない高校生。売れっ子モデルとして活躍するセイラこと、兄の正良(まさよし)の才能に憧れています。セイラを撮りたがるカメラマンは数知れませんが、彼がほほ笑むのは弟のカメラの前だけです。華やかなファッション業界で懸命に生きる兄弟の青春ドキュメント。
西暦2020年東京。ここは犯罪急増都市。紅月司は女の子ですが、危険回避のため男として育ちました。警官だった両親はヤクザの抗争に巻き込まれて殉職。兄弟もろとも路頭に迷って、司は極道の九龍組を率いる同級生・白神竜二のボディガードをすることになります。警官の子とヤクザの子の想いが交錯するラブ・アクション!
column1990年代の出来事
90年に東西ドイツ統一、翌91年にはソ連崩壊。日本はバブル景気が崩壊し、長い不況に突入します。少女マンガでは『ちびまる子ちゃん』(さくらももこ)、『美少女戦士セーラームーン』(武内直子)がヒット。対照的に、ボーイズラブのジャンルが誕生しています。低年齢層向け、ハイティーン向けなど、ジャンルの細分化が進みました。
執筆:メモリーバンク 文責:ebookjapan
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