受賞作発表! CREA夜ふかしマンガ大賞2024
夜な夜なマンガに夢中になる大人が急増する中、一昨年に誕生した「CREA夜ふかしマンガ大賞」。
眠りにつく前の自分だけのひとときに、ページをめくりながら癒され、息を呑み、泣いて笑って――。
日常のあれこれを忘れさせ、新しい世界に連れ出してくれる、今年もそんな名作が揃いました!
▼「CREA夜ふかしマンガ大賞」とは…
マンガ好きの31名の選考委員とCREA編集部員、そして読者の投票により選ばれた「思わず夜ふかしして読みたくなる」そして、「いま、CREA読者に本当におすすめしたい」作品に贈る賞。2023年7月~24年6月に単行本の新刊が発売された(ただし、合計5巻以内)、もしくは、雑誌などに最新話が発表された作品から選出。
CREA WEBにて特設ページオープン!
選考委員の皆さまのプロフィールや推薦作品、部門賞、そして谷口菜津子先生のインタビューなどが順次公開予定です!
第1位『じゃあ、あんたが作ってみろよ』谷口菜津子ぶんか社 既刊2巻
ぶんか社 既刊2巻
「自分が食べたいものを自分で作るって究極のセルフケアのひとつなのかも」
フリーアナウンサー・俳優 宇垣美里さん
「この作品を読んで『人って気付けば変われるのかも!?』と思えてきました」
ブックライブ書店員 書店員すず木さん
「ジェンダーと言葉にしづらいあれこれがチャーミングに描かれていて最高」
ライター 井口啓子さん
「毎度のことながら谷口作品なのでごはんがめちゃくちゃおいしそうです」
イラストエッセイスト 犬山紙子さん
「『ざまぁ!』からの『このカップルどうなるの!?』という楽しみもあって良いです」
ジュンク堂書店池袋本店コミック担当 八木泉さん
「まさか男性側を応援することになるとは……」
お笑い芸人 江上敬子さん(ニッチェ)
「男らしさ」「女らしさ」という言葉さえとっくにアウトな現代でも、それにこだわる人は絶滅していないのが現状。本作の主人公・勝男も見た目とキャリアこそハイスペックでも中身はバリバリの「昭和男」です。
自分は台所に立たないくせに、交際6年目の恋人・鮎美の手料理に上から目線でアドバイスする始末。完璧人生まっしぐらのつもりでしたが、なんと鮎美にプロポーズをスパッと断られ――と、痛快なイントロでスタートするのですが、この作品はいい意味で予想を裏切ってくれます。
悲嘆にくれる勝男は料理に挑戦。その難しさを知り、恋人に見放された自分から「変わりたい」と涙をこぼすのです。もちろん身についた時代遅れのジェンダーロールはすぐには変わりません。ですが、その辺りを同僚にツッこまれつつ料理に勤しむ勝男の姿がかわいくて、気付けば応援目線に。
さて、一方の鮎美も「男に愛される女らしさ」を目指してきたため「自分の“好き”がわからない」女性。気付きを得た彼女もまた「変わる」にチャレンジしていきます。現代的なテーマの物語を明るく描いた意欲作に、読者と選考委員からの圧倒的な支持が集まりました。笑って共感して、気持ちが軽くなる読み心地です。
2位『どくだみの花咲くころ』城戸志保講談社 既刊1巻
講談社 既刊1巻
「小学生男子ふたりの関係性の真ん中に創作物があるという設定がエモすぎて……」
ライター・編集者 山脇麻生さん
「こんな魅力的なキャラクターを表現できる城戸先生は人生何周目なのでしょうか?」
honto コミック担当 荻野晶さん
「『生きづらさ』系に見せかけつつなんだかずっとトボけている心地よさ」
編集者・元「このマンガがすごい!」編集長 薗部真一さん
主人公は生粋の優等生で「触らぬ神に祟りなし」タイプの清水くん。かんしゃく持ちで度を越したマイペース変人である信楽くんとは距離を置いていたのですが――図工の時間に盗み見た彼の紙粘土作品に心を奪われ、隠れファンに。ひそかに信楽くんを観察し、その創作物に衝撃を受けて大まじめにどハマりしていく姿がおもしろすぎ!
信楽くんと接するうちに、まっとうでソツがないキャラのはずの清水くんのマヌケな部分がむき出しになってくるのも楽しみどころです。
まだ“友情”と呼ぶには生煮えすぎるふたりの関係性はどのように熟していくのか。予測不能な行動が展開されるこの小学生ワールドは極上のリラックス空間です。
3位『環と周』よしながふみ集英社 全1巻
集英社 全1巻
「内容や表現が凄いのはもちろん、1巻で完結する連作として怖いぐらい完璧」
ライター 門倉紫麻さん
「人生のままならなさと、確かに存在した幸せな瞬間と。生きるということを噛みしめるような作品」
フリーアナウンサー・俳優 宇垣美里さん
「一話一話が舞台を観に行ったような充実感」
マンガ司書 みさき絵美さん
年齢も性別もさまざまな、人間同士の「好き」の感情をやさしく紡ぐ連作短編集。現代の夫婦、明治時代の女学生同士、独身女性と少年、復員兵の男たちに江戸時代の男女――これらの主人公の名前は全話「環」と「周」。本作はいろいろな時代に生きていた環と周の物語です。
常にそばにいるとは限らないし、激しくむさぼるような愛でもない。しかし、たったひとりの特別な相手に注がれるまなざしのかけがえのなさが深く心にしみ入ります。
この世に生まれ、大切にしたい人とめぐりあい……しかし、別れは必ず訪れる。その理を広い視野でながめ、他人と幸せな瞬間を共有するという奇跡に感謝したくなります。くり返し読むほどに味わいを増す一冊。
4位『ボールアンドチェイン』南Q太マガジンハウス 既刊2巻
マガジンハウス 既刊2巻
「古い性別役割や結婚観と、アイデンティティとの戦いを描く」
少女マンガ研究家 和久井香菜子さん
「正体不明な息苦しさから脱却するヒントを得られる作品」
ブックライブ書店員 書店員すず木さん
「重要課題を日常的な物語として読ませる巧みさに感服します」
編集者・ライター・作家 粟生こずえさん
高校生のひとり息子は愛おしく“そこそこ幸せな専業主婦”をやって来たと思いたい。けれど、夫とは家庭内別居状態の〈あや〉。
もうひとりの主人公は、性自認に揺らぐ会社員の〈けいと〉。恋人の独占欲、けいとを理解することなく自分の理想を押し通そうとする態度に辟易し、彼から離れていきます。
“ボールアンドチェイン”とは「鉄球と鎖」、すなわち足枷のこと。知らないうちに自分を縛りつけているのは社会なのか、それとも自分自身なのか。異なる世代のふたりを軸に、性別やそれに基づく古い常識にとらわれずに生きるための道程を丁寧に描く物語です。すべての人にとって間違いなく「我が事」である――己を顧みながらじっくり読みたい、今年一番の話題作。
5位『カメレオンはてのひらに恋をする。』厘てくスクウェア・エニックス 既刊2巻
スクウェア・エニックス 既刊2巻
「コミュニケーションの表現方法は唯一無二。漫画だからできる手法に鳥肌が立ちます!」
TikTokクリエイター 書店員はなさん
「伝えること、理解しあうことの重要さを教えられる、心震えまくりの作品です」
アニメイト書籍担当 牧野麻紀子さん
「真っ直ぐ向かい合うふたりの姿は美しく、あたたかい愛に満ちている」
コミック編集者 藤原めぐみさん
オーディションに落ち続けて自信喪失していた俳優の藤永と、先天性難聴のケイトが心を通わせていくBL作品。繊細になめらかに描かれる手話の動きの艶めいた美しさ、相手が何を伝えようとしているか見逃すまいとする熱い瞳に魅了されます。
当初、手話ができなかった藤永が芝居の応用で言葉を伝える姿には目から鱗。その“表現”の才能をケイトは〈伝えたい気持ち 伝えるしあわせ 知ってる〉と評します。
言葉を交わすこととはこんなにエモーショナルな行為だったのか。体の動き、目、表情、手話と発話と――すべてを存分に使って真摯にコミュニケーションするふたり。その愛にあふれたやりとりはまぶしく、崇高にさえ映るのです。
6位『君と宇宙を歩くために』泥ノ田犬彦講談社 既刊2巻
講談社 既刊2巻
「『かっこ悪い』と思われたくないことが無価値だと高校生で気付けた小林くんが羨ましい」
お笑い芸人 近藤くみこさん(ニッチェ)
「だれもが彼らのように自分のトリセツを共有しあえたら!」
ライター 井口啓子さん
多くの人にとって“普通”のことが苦手な宇野。それでも世界を恐れず、やりたいことに向かっていく彼に影響され、倦んでいたヤンキー高校生の小林も成長していきます。ふたりで入部した天文部での活動風景も微笑ましく、自分の力で明日を変える勇気がわいてきます。
7位『恋とか夢とかてんてんてん』世良田波波マガジンハウス 既刊2巻
マガジンハウス 既刊2巻
「カイちゃんの痛々しさ、寂しさをおしゃれでポップな絵柄が引き立てている」
マンガ家 つづ井さん
「この作品が持っている浮力は一体なんなんでしょうか」
ミュージシャン 澤部渡さん
夢を抱いて上京したけれど何もつかめないまま10年が過ぎ、気づけば29歳のフリーターに。そんなカイちゃんが片想いの相手を追って大阪へ! 空回りがちな彼女のやるせなさ、せつなさを感じながら……豪雨の中を爆走するような必死さと一抹の快感が、淀みを洗い流してくれる気がするのです。
8位『夏の終点』西尾拓也集英社 上下巻
集英社 上下巻
「静かで揺るぎない10年越しの恋に満たされます」
編集者・ライター・作家 粟生こずえさん
気付いたらその人を目で追っている――中学生の恋心を静謐な筆致で描く佳品。ふたりきりになった緊張感、心が通じあった瞬間などの感情がみごとに描出され、ときめきという滋味が体にしみこんでいくよう。相手に自分を押し付けることのない控えめな愛に心が瑞々しく潤います。
9位『かわいすぎる人よ!』綿野 マイコKADOKAWA 既刊2巻
KADOKAWA 既刊2巻
「嫌な事をも忘れるぐらい愛おしい主人公たちに癒される」
三省堂書店海老名店コミック担当 近西良昌さん
母親を亡くした地味な少女・メイが一緒に暮らす叔父は、だれもが羨む美貌の持ち主。きれいは素敵。だけど、人を輝かせるのはやっぱり優しさで――それを素直に表現できるふたりのかわいさに目尻が下がりっぱなし。こんなふうにかわいくあれたらと思ってしまう作品です。
10位『ふつうの軽音部』原作 クワハリ 漫画 出内テツオ集英社 既刊3巻
集英社 既刊3巻
「ふつうの努力、ふつうの人間関係。そこから浮かび上がる人生のドラマティックさが感動を生む」
テレビプロデューサー 佐久間宣行さん
高校入学を機にギターを購入、憧れの軽音部に入った鳩野ちひろ。実は天才だったわけでもないし、最初から運命的なメンバーと出会うわけでもありません。違和感に悩み、小さな挫折を重ねながら〈だからバンドやりたかったんだ〉という気持ちに達する姿に、人間の根源的な喜びを感じます。
11〜20位にも熱い推薦コメントが集まりました!
11位『佐々田は友達』スタニング沢村文藝春秋 既刊2巻
文藝春秋 既刊2巻
「透明で丁寧。こんな学校なら通いたい」
マンガ家 コナリミサトさん
学校で居場所がない高校生の佐々田絵美。同じクラスで陽キャラの高橋優希との出会いを機に少しずつ変わっていく。
「透明で丁寧。元気が出るし、学校は大嫌いだったけど、佐々田さんたちがいるクラスなら、もう一度通いたい。そんな気持ちにさせてくれる本作は本当に貴重です」
12位『司書正』丸山薫KADOKAWA 既刊2巻
KADOKAWA 既刊2巻
「丸山薫のフェティシズムとこだわりが炸裂している」
小説家 深緑野分さん
「ずっと丸山薫ファンです。架空の古代中国宮廷が舞台ですが、すべての書物を諳んじられる人間『司書正』は、ほとんどコンピュータで、つまりSF。著者のフェティシズムとこだわりが炸裂。豊かで緻密な世界観も『ゲーム・オブ・スローンズ』的なサスペンスフルな陰謀劇も読み応えあり」
13位『8月31日のロングサマー』伊藤一角講談社 既刊5巻
講談社 既刊5巻
「永遠に終わらない夏休みの行く末が気になる」
ebookjapan書店員 信太祐介さん
「連載がスタートしたとき、『ああ、素敵な物語が始まる』と感じずにはいられない鮮やかな見開きが印象的でした。高校生の男女ふたりが、夏休み最終日をタイムループ。毎回、爆笑でじれじれの掛け合いですが、徐々に距離は近付き……。永遠に終わらない夏休みの行く末はどうなるのか!?」
14位『ココロのプログラム』中村ひなた集英社 全4巻
集英社 全4巻
「あれこれ考えてはあとを引く不思議な物語」
小説家 新川帆立さん
少年と人間そっくりの少女型ロボット、そして少年の幼なじみの淡く切ない三角関係を描く。
「ボーイ・ミーツ・ロボットガールの青春マンガ。絵がきれいで、ものすごく読みやすい。4巻完結なのですぐに読める……が、読んだあとに、あれこれと考えては思い出し、あとを引く不思議な作品」
15位『ツーちゃんのネスト紀行』靴下ぬぎ子エクスナレッジ ※単行本未発売。『建築知識』、エクスナレッジ・オンラインで連載中
エクスナレッジ ※単行本未発売。『建築知識』、エクスナレッジ・オンラインで連載中
「突拍子もない設定と解像度の高い描写に歓喜」
マンガ家 鶴谷香央理さん
「現実への解像度と虚構の飛距離が、両方高いままに混ざり合った創作を読む喜びは格別。幸運の象徴であるツバメのツーちゃんが、物件の運気を上げるため世界中に派遣されるという設定と、世界各国のリアルな住宅事情、生活の匂いまでスケッチするような描写に、喜びを嚙みしめています」
16位『星屑の王子様』茅原クレセ小学館 既刊5巻
小学館 既刊5巻
「安易な救いは与えないのに、このうえなく面白い」
作家 彩瀬まるさん
刹那的で煌びやか。新宿歌舞伎町のホストたちの日常を描くサディスティックコメディ。
「人が人に何を求めているのか。その渇望が、どんな搾取の構造を作り上げていくのか。容赦のない厳しいテーマに決して安易な救いを与えず、それなのにこのうえなく面白く読ませる、とんでもない作品」
17位『みっしょん!!』入江喜和講談社 既刊2巻
講談社 既刊2巻
「自分の殻を破りたい人たち必見」
ブログ「マンガ食堂」管理人 梅本ゆうこさん
下町オバちゃんの冒険譚。
「50代の平凡な主婦が、ある日、ポルシェに乗った謎の女に出会い、自動車免許の教習所に通い出す。夫婦関係、子ども、介護……中年女性が直面する問題の描かれ方がリアル。人生に行き詰まって、殻を破りたいと考えている女性たちの背中を押してくれるはず」
18位 『佐々々奈々の究明』森泉岳土小学館 上下巻
小学館 上下巻
「予備知識なしで謎解きを楽しんでほしい」
ライター・ブックカウンセラー 三浦天紗子さん
作家の奈々とその妹で大学生の流々。叔父の急逝を機に、姉妹コンビが忘れられた失踪事件に挑む。
「著者自身も大のミステリーファンだそうで、山奥の別荘や密室など道具立ても本格系。推理展開と画力のハーモニーが織りなす完成度に惚れ惚れします。予備知識なしで謎解きを楽んでほしい」
19位『ようこそ!FACT(東京S区第二支部)へ』魚豊小学館 既刊3巻
小学館 既刊3巻
「陰謀論者の解像度が高すぎて1話からドハマり」
物書き SYOさん
「魚豊先生の新作は、まさかの陰謀論。なかなか生活水準を浮上させられない純朴な青年が恋に落ち、思い人を助けようと陰謀論者に立ち向かう。コロナ禍以降の不信の時代や貧困社会、格差や生きづらさを鋭利に切り取った傑作。陰謀論者の解像度が高すぎて1話からドハマりしちゃいました」
20位『この世は戦う価値がある』こだまはつみ小学館 既刊2巻
小学館 既刊2巻
「戦うことを選んだ主人公の今後が気になる」
大型書店勤務 コミック担当Sさん
社会人3年目の伊東紀理は、職場のパワハラや彼氏のモラハラに自己を消耗し続ける日々。そんなある日、一通の封書が届いたことで、彼女はすべてをリセットし人生最大最後のリベンジを始める。
「自分が生きていくためにできることとは。戦うことを選んだ紀理の今後から目が離せません」
文=粟生こずえ(1-10位)、大嶋律子(ジラフ)(11-20位)、写真=平松市聖
「CREA夜ふかしマンガ大賞2024」選考委員の皆さん
- 編集者・ライター・作家 粟生こずえさん
- 作家 彩瀬まるさん
- ライター 井口啓子さん
- イラストエッセイスト 犬山紙子さん
- フリーアナウンサー・俳優 宇垣美里さん
- ブログ「マンガ食堂」管理人 梅本ゆうこさん
- お笑い芸人 江上敬子さん(ニッチェ)
- honto コミック担当 荻野晶さん
- ライター 門倉紫麻さん
- マンガ家 コナリミサトさん
- 大型書店勤務 コミック担当Sさん
- お笑い芸人 近藤くみこさん(ニッチェ)
- テレビプロデューサー 佐久間宣行さん
- ミュージシャン 澤部渡さん
- ebookjapan書店員 信太祐介さん
- 物書き SYOさん
- ブックライブ書店員 書店員すず木さん
- TikTokクリエイター 書店員はなさん
- 小説家 新川帆立さん
- 編集者・元「このマンガがすごい!」編集長 薗部真一さん
- 三省堂書店海老名店コミック担当 近西良昌さん
- マンガ家 つづ井さん
- マンガ家 鶴谷香央理さん
- 小説家 深緑野分さん
- コミック編集者 藤原めぐみさん
- アニメイト書籍担当 牧野麻紀子さん
- マンガ司書 みさき絵美さん
- ライター・ブックカウンセラー 三浦天紗子
- ジュンク堂書店池袋本店コミック担当 八木泉さん
- ライター・編集者 山脇麻生さん
- 少女マンガ研究家 和久井香菜子さん