第2回「CREA夜ふかしマンガ大賞」2023年のベスト10発表! 堂々の第1位に輝いた作品は――!?
夜な夜なマンガに夢中になる大人が急増する中、昨年、はじめて開催された「CREA夜ふかしマンガ大賞」。
眠りにつく前の自分だけのひととき、ページをめくるたびに癒され、息を吞み、ときめき、泣いて笑って――。
日中のあれこれを忘れさせ、新しい世界に連れ出してくれる、そんな力のある作品に今年も賞を贈ります。今年の注目のベスト10は!?
(CREA WEB 2023年「夜ふかしマンガ特集」はこちら)
▼CREA夜ふかしマンガ大賞とは…
マンガ好きの30名の推薦者とCREA編集部員、そして読者の投票により選ばれた「思わず夜ふかしして読みたくなる」そして、「いま、CREA読者に本当におすすめしたい」作品に贈る賞。2022年7月~23年6月に単行本の新刊が発売された(ただし、合計5巻以内)、もしくは、雑誌などに最新話が発表された作品から選出。
2023年のBEST10を発表!
1位『いやはや熱海くん』田沼朝
『いやはや熱海くん』田沼朝 KADOKAWA 既刊1巻
「今年、友人や仕事仲間におすすめしている作品No. 1」
honto電子書籍ストア コミック担当 荻野晶さん
「ハイテンションでもコテコテでもない関西弁のやりとりがなんとも心地いい」
ブログ「マンガ食堂」管理人 梅本ゆうこさん
「読んだ後の人生に、ポジティブで静かなガッツをくれる作品です」
コミック編集者 伊藤絢子さん
またひとり、マンガ界に新鮮な輝きを放つ〈スター〉が颯爽とデビューしました。高校1年生の熱海くんは〈非凡というわけではない〉のに目が離せないという意味で、大いに非凡なキャラクターです。際立った特徴といえば(派手ではないけれど)すっきり整った顔立ちで、非常にモテる。ですが、熱海くんは同性が好きな男の子。なんとなく昼休みを一緒に過ごす1学年上の足立くんが気になって、週1ペースで足立家で夕飯をごちそうになる仲に。足立くんの家族にも気に入られまくるのです。
しかし、本作は「BL」でも「ブロマンス」でもありません。主人公および作品自体が、安易なジャンル括りを「必要としない」と宣言しているようにも感じられます。
本作の特徴をひとことで言い表すなら〈超フラット〉。熱海くんは「男の人が好き」ということを隠してはいないけれど、だれかれ構わず言うべきではないと思っている。悩んではいないけれど、自分の〈本当〉はどこにあるのかをゆっくりと考え続けている。自分に正直で、自分にも他人にも尊敬と期待をほどよく持っている人です。そんな彼が〈自覚的に接近してみる〉人たちとの、滑らかな関西弁のやりとりにも心のマッサージ効果が。無駄な力がぬけていく――パワースポットのような作品です。
2位『胚培養士ミズイロ』おかざき真里
『胚培養士ミズイロ』おかざき真里 小学館 既刊2巻
「志を持った主人公の言葉がズシンと響く快作」
編集者・ライター・作家 粟生こずえさん
「未知のことだらけで、妊娠はして当たり前どころか奇跡に他ならないとあらためて目からウロコ」
ライター 井口啓子さん
人為的に精子と卵子を受精させる――経験に裏打ちされた技術と判断力で命を導く「胚培養士」の仕事を詳らかに描き、話題沸騰。「男性不妊」「高齢出産」「卵子凍結」など、多様なケース下で辣腕を振るう胚培養士・水沢歩の真摯な仕事ぶりに心打たれます。命を扱う重圧感のもと、超人的な集中力でプロフェッショナルの技を完遂する姿に背筋がのびるのです。一方で、ふんわりとした多幸感に満たされるのは、日頃私たちが実感することの少ない生命の深淵に触れるためかもしれません。現代人が手にした課題と先端医療について知る〈歓び〉と〈義務〉を存分に受け止めたい。いずれ開示されていくであろう歩の内面、同僚との関係性にも興味をそそられます。
3位『クジャクのダンス、誰が見た?』浅見理都
『クジャクのダンス、誰が見た?』浅見理都 講談社 既刊3巻
「夜通し読んでいたい、続きが待ちきれない作品」
マンガ家 鶴谷香央理さん
「伏線は多いですが、今のところヒントがフェアに提示されている(ように見える)ので深夜の推理がはかどります」
編集者・元「このマンガがすごい!」編集長 薗部真一さん
主人公の心麦が、ふたり暮らししていた元警察官の父を放火により失う――衝撃的なエピソードで幕を開けるクライム・サスペンス。逮捕された容疑者は、父が関わった猟奇的殺人事件の犯人の息子。しかし、父が遺した手紙により、心麦は真犯人探しを余儀なくされることに。心麦に協力する弁護士、雑誌記者に警察関係者、亡き父の友人等々、さまざまな人物の思惑が交錯するヒューマンストーリーとしても読み応え十分。「ジャングルの中でクジャクが踊っているのを誰も見ていなければ、それは起こらなかったのと同じなのか?」と問うタイトルも意味深。一筋縄では行かなそうな謎の連続に、翻弄されつつ好奇心がくすぐられてなりません。
4位『大丈夫倶楽部』井上まい
『大丈夫倶楽部』井上まい レべルファイブ(電子)、トゥーヴァージンズ 既刊5巻(2~5巻は電子のみ)
「往年の白泉社系少女マンガを彷彿とさせる革新性と安心感」
マンガ家 雲田はるこさん
「ささやかな幸せでもって生きていくことを諦めない主人公の姿勢がじんわり沁みた」
フリーアナウンサー・女優 宇垣美里さん
人間とはちょっとしたことで動揺し、身の回りのことが手につかなくなってしまうもの。そんな危機からの脱出に必要なのは「大丈夫」と感じられること――というわけで、花田もねは謎生物のご近所さんとともに、日々「大丈夫」の研鑽に努めているのです。「大丈夫」は作れる! よい意味の曖昧さを含んだ「大丈夫」という言葉の懐の深さがじわじわ効いてくる。気持ちをラクにするお守りのような物語です。
5位『僕らが恋をしたのは』オノ・ナツメ
『僕らが恋をしたのは』オノ・ナツメ 講談社 全4巻
「『これこそが! 大人の物語です!』 と叫びたくなる」
ライター 門倉紫麻さん
定年後、山奥で田舎暮らしを楽しむ4人の男たち。面倒見のいい「大将」、プレイボーイ風の「キザ」、ワイルドな「ドク」、読書家で無口な「教授」。ここに突如、同世代らしき謎の美女「お嬢」が仲間入り。彼らは色めきたち、それぞれに距離を縮めていきますが、「お嬢」にはある目的があったのです。清々しい朝を迎えるために過去に結着をつける――歳を重ねたからこその勇気に胸が高鳴る、洒脱な人生ドラマ。
6位『クジマ歌えば家ほろろ』紺野アキラ
『クジマ歌えば家ほろろ』紺野アキラ 小学館 既刊3巻
「鳥なの? 人なの? クジマの設定に感心」
ebookjapan マンガコンシェルジュ 足立圭吾さん
「笑える部分とハートフルな部分が相まって、疲れた時に読むと最高に癒されます」
TikTokクリエイター 書店員はなさん
中学1年生の鴻田新が連れ帰った謎の生物・クジマは勉強好きで料理も上手。かと思えば動物らしい本能も備えていたり、鷹揚に見えて頑固だったり。浪人中で日々苛立っている新の兄とクジマとのやり取りも見どころ。噛み合わないようでいて不思議とチューニングが会ってくる様子がなんとも微笑ましいのです。ユルくもキレがあり、爆笑しながら癒される。「我が家に来てほしい!」のラブコールが続出しています。
7位『うみべのストーブ 大白小蟹短編集』大白小蟹
『うみべのストーブ 大白小蟹短編集』大白小蟹 リイド社 全1巻
「真夜中のしんとした気持ちにいつでもなれる気がします」
ミュージシャン 澤部渡さん
「一つひとつの味わいと読後感がすべて違うのがいい」
テレビプロデューサー 佐久間宣行さん
同棲していた彼女に出ていかれ、落ちこむ主人公を慰めたのはストーブ!? タイトル作はじめ奇想天外な設定の短編も、いたって自然に肌になじんでしまう。人間にもたらされた〈想像力〉の素晴らしさに感謝したくなる俊英の作品集。今日一日を、己を顧みる態度も柔軟になりそうです。
8位『みちかとまり』田島列島
『みちかとまり』田島列島 講談社 既刊1巻
「絵柄と内容のギャップにいい意味で裏切られました」
ebookjapan マンガコンシェルジュ 足立圭吾さん
「民俗学的な空気が作品をどう支配していくのか気になる」
ライター・ブックカウンセラー 三浦天紗子さん
8歳の夏、まりは竹やぶでの不思議な少女・みちかとの出会いをきっかけに、日常のそばにある怪異の世界に足を踏み入れていきます。子どもならではの無謀さ、ヒリヒリする畏れと不安が草いきれの香りとともに立ち上り……。目眩のするような幻惑感と甘美な郷愁を味わえる作品です。
9位『私たちが恋する理由』 ma2
『私たちが恋する理由』 ma2 祥伝社 既刊4巻
「自立した大人たちが奏でる恋の協奏曲」
編集者・ライター・作家 粟生こずえさん
オフィスを舞台に描かれる恋愛群像劇。経験値が上がっても恋する純な気持ちは変わらないのが女性というもの。気になる人の一挙手一投足、心が「キュン!」と反応する瞬間をすくいあげる手腕に脱帽です。大人の恋なので、ときにはオトコの〈肉体〉にときめくリアルさにも大満足。
10位『秒速5000km』マヌエレ・フィオール/栗原俊秀、ディエゴ・マルティーナ訳
『秒速5000km』マヌエレ・フィオール/栗原俊秀、ディエゴ・マルティーナ 訳 マガジンハウス 全1巻
「140ページに20年の歳月を圧縮。まさに真夜中に読んでもらいたい作品」
ライター・編集者 山脇麻生さん
ヒロインとふたりの青年の出会いから約20年の歳月を語りおろすイタリア発のグラフィック・ノヴェル。読み急がず、登場人物たちの交錯する感情の流れをじっくり味わいたい。若き恋の日々は萌黄色、不安を抱える心情が描かれるパートは寒色系というように色調を使い分ける表現も見どころです。
Text=Kozue Aou
Photographs=Ichisei Hiramatsu
マンガ賢者30人プロフィール
「CREA夜ふかしマンガ大賞2023」に作品を推薦してくださった30名の皆さん。
CREA WEBでは、推薦作品へのコメントや人生に影響を与えた一冊なども公開しています!
※プロフィールの▶以下は、「夜ふかしマンガ大賞2023」に最も強く推薦する作品です。
粟生こずえさん 編集者・ライター・作家 |
足立圭吾さん ebookjapan マンガコンシェルジュ |
井口啓子さん ライター |
伊藤絢子さん コミック編集者 |
犬山紙子さん イラストエッセイスト |
宇垣美里さん フリーアナウンサー・女優 |
梅本ゆうこさん ブログ「マンガ食堂」管理人 |
荻野晶さん honto電子書籍ストア コミック担当 |
門倉紫麻さん ライター |
岸田奈美さん 作家 |
雲田はるこさん マンガ家 |
コナリミサトさん マンガ家 |
コミック担当Sさん 都内大型書店勤務 |
佐久間宣行さん テレビプロデューサー |
実松由夏さん SHIBUYA TSUTAYAコミック担当 |
澤部渡さん ミュージシャン |
SYOさん 物書き |
書店員 すず木さん ブックライブ書店員 |
書店員はなさん TikTokクリエイター |
薗部真一さん 編集者・元「このマンガがすごい!」編集長 |
近西良昌さん 三省堂書店海老名店コミック担当 |
つづ井さん マンガ家 |
鶴谷香央理さん マンガ家 |
牧野麻紀子さん アニメイト書籍担当 |
三崎絵美さん マンガナイト理事 |
三浦天紗子さん ライター・ブックカウンセラー |
南川祐一郎さん DMMブックス 営業マネージャー |
八木泉さん ジュンク堂書店池袋本店コミック担当 |
山脇麻生さん ライター・編集者 |
和久井香菜子さん 少女マンガ研究家 |
Text=Ritsuko Oshima(Giraffe)
(CREA WEB 2023年「夜ふかしマンガ大賞」より転載。)