心揺さぶるマンガの名言 Vol.4 大切な人を褒めて育てる名言
マンガは、至言・名言の宝庫です。マンガのキャラクターが放つセリフには、人生の試練を乗り越えるためのヒントが秘められています。
この特集では、マンガ好きの全ての人に届けたい、名セリフを紹介します。今回は、人を褒めて育てる言葉がテーマです。
学校や職場などで、人の指導に困ることはありませんか。家庭では、子どもとのコミュニケーションに悩む親御さんも少なくないはず。マンガの名場面から、人を褒めて能力を引き出す、ポジティブな名言を紹介します!
だがそれがいい その傷がいい!! これこそ生涯をかけ 殿を守り通した忠義の甲冑ではござらんか!!
戦国時代を駆けた、武将・前田慶次の生き様を描く『花の慶次―雲のかなたに―』。「週刊少年ジャンプ」(集英社)で1990年から93年に連載され、大人気となりました。
隆 慶一郎の時代小説『一夢庵風流記』を原作に、少年マンガらしいアレンジが加えられた本作。『北斗の拳』(原作:武論尊)の作画で人気の原 哲夫が、圧倒的な画力をもって重厚な戦国絵巻に仕上げています。
男気あふれる戦国武将たちが織りなす人間ドラマは、今も多くのファンの心を掴んで離しません。その名場面から、前田慶次の名言を紹介します。
天正12(1584)年、羽柴秀吉は大坂城に入城しました。臣下の礼をとって、築城の祝いに駆けつけたのは前田利家。かつて“槍の又左(またざ)”と呼ばれた豪勇でしたが、今は秀吉に臣従しています。
秀吉は、「傾奇者(かぶきもの)」で有名な前田慶次と会ってみたいと、利家に申しつけます。慶次は滝川一族の出身ですが、前田利久の養子になっています。そのため、利家にとって慶次は甥に当たるのです。しかし利家は、加賀随一の傾奇者として人気を集めるこの男を、快く思っていませんでした。
この時代の「傾(かぶ)く」とは、異風の姿形を好み、異様な振る舞いや突飛な行動を愛することを意味します。秀吉のもとに慶次を送ることになれば、彼の傾きぶりが前田家取りつぶしの口実になってしまうのではないか――利家は、そう案じたのです。
『花の慶次―雲のかなたに―』©隆慶一郎・原哲夫・麻生未央/コアミックス 1990 1巻P124より
前田利家は、羽柴秀吉から拝領した甲冑の目付け役を、慶次に任せます。この甲冑は、かつて秀吉が織田信長より賜ったもの。利家は、あえて大切な甲冑を慶次に託し、子飼いの忍び・四井主馬(よついしゅめ)に襲わせることで、慶次を失脚させようと目論んでいたのです。
慶次とともに甲冑の番を任されたのは、前田家の老臣・村井若水(じゃくすい)です。信長のまとった鎧を前に、かつての栄光に触れてみたいと思った若水。こっそり甲冑を身につけますが、転倒したことで兜を傷つけてしまいます。
利家から切腹を言い渡された若水。そこへ慶次が現れて、「殿の大事な甲冑を壊した賊がいると聞いて成敗にまいった」というのです。そして、こともあろうに信長の甲冑を一刀両断。慶次は、若水の傷だらけの顔を指差して、こう言い放つのです。「だがそれがいい その傷がいい!!」「これこそ生涯をかけ 殿を守り通した忠義の甲冑ではござらんか!!」――と。戦場で勇猛果敢に戦った家臣を、大切にしてこそ主君の器。利家はしぶしぶ若水を赦します。
1位の絵じゃなくて 矢口の「最高の絵」を目指さなきゃね
東京藝術大学、通称・東京藝大は、日本で唯一の国立総合芸術大学。『ブルーピリオド』は、同大学出身のマンガ家・山口つばさによる“藝大受験マンガ”です。
主人公の矢口八虎(やぐちやとら)は、成績優秀な男子高校生。沢山の友人に囲まれて、充実した高校生活を送っていましたが、進学先の決定を控えて悩んでいました。
しかし高校の美術室で、先輩の絵に感動したことで、彼の人生が大きく変わり始めます。それまでロクに絵を描いたこともない八虎ですが、無謀にも東京藝術大学を受験することを決めたのです。
矢口八虎は高校2年生。定期テストでは、学年上位にランクインする優等生です。周囲の人間は、八虎が有名大学に進学することを信じて疑いませんでした。
そんな彼の人生観は、ある日を境に激変。絵を描く喜びを知った八虎は、東京藝術大学の絵画科を目指すことに決めたのです。しかし、それは日本一受験倍率が高い試験。さらに浪人するのが当たり前の世界で、現役高校生の合格倍率は「実質60倍」という超難関校でした。
母親の反対を受けても、八虎が藝大を目指す気持ちは変わりません。美術専門の予備校に通って、女性講師・大場の指導のもと、同じように藝大を目指す仲間たちと腕を競います。
『ブルーピリオド』©山口つばさ/講談社 4巻P030_031より
絵画科の受験は、デッサンや油絵を描く“実技”が中心です。しかし、過去の合格作品と、八虎が描いた絵を比べると、八虎には表現力が足りないことが分かりました。どのようにすれば、他の受験生の作品よりアピールすることができるのでしょうか。
予備校の大場先生は、見る者の心を揺さぶる絵画は、構図が優れているのだと説明します。そして八虎に、「〇」と「△」の形だけを使って、カッコイイ構図をたくさん描くように指導。この練習をすることで、「構図の引き出しが増えるわよ」というのです。
さらに、他人の作品と比較しすぎるのは危険だと警告。「1位の絵じゃなくて 矢口の『最高の絵』を目指さなきゃね」と言います。他人と競争して1位を取ることより、自身が秘めたポテンシャルを、最大限引き出すことが大事だと教えたのです。
君の力が必要だ
怪獣の発生数において、世界屈指の記録を誇る日本。この国では、連日のように怪獣が街を破壊し、容赦なく人々の生活を蹂躙していました。
日比野カフカは、少年時代から憧れの日本防衛隊を目指していましたが、入隊試験に繰り返し落ちてしまいます。やむなく清掃会社・モンスタースイーパーに入社し、駆除した怪獣の残骸を後始末する毎日。
しかし防衛隊員となるため、カフカは再び立ち上がります。幼なじみの亜白ミナと約束した、あの日の約束を守るために――。
少年時代の日比野カフカは、幼なじみの少女・亜白ミナとともに怪獣を殲滅することを誓いました。しかし防衛隊の入隊試験を受けた結果、ミナだけが合格。彼女は入隊後すぐに頭角を現わして、第三部隊の隊長としてその名を轟かせています。
一人出遅れたカフカですが、モンスタースイーパー社の後輩・市川レノに励まされ、もう一度防衛隊の試験に挑戦することを決意。しかし小型の怪獣が体内に寄生したことで、カフカの肉体は怪獣に変質してしまったのです。
防衛隊によって“怪獣8号”と命名され、追われる身となった日比野カフカ。辛うじて人間の姿に戻ることができましたが、いつまで正体を隠し通すことができるでしょうか。
『怪獣8号』©松本直也/集英社 4巻P056_057より
怪獣8号である正体を隠しながら、日比野カフカは防衛隊を受験。不合格だったものの、他の隊員を支援したことが評価され、候補生となることができました。32歳という年齢もあって、体力で劣るカフカ。そんな彼を引き取ったのが、第三部隊副隊長の保科宗四郎です。
保科は、室町時代から続く怪獣討伐の家系。二振りの小太刀を使い、接近戦を得意とする高い実力の持ち主です。しかし近年、怪獣の大型化が進んでいることから、“刀だけでは通用しない”と、低い評価を受けてきたのです。
しかし、亜白ミナが「君の力が必要だ」と保科を第三部隊に誘いました。「私が敵を射抜く時 君がその道を切り開いてくれないか」と、刀の腕を評価してくれたのです。適材適所とは、まさにこのこと。部下の資質を評価すれば、能力を発揮して返してくれます。保科は第三部隊の先頭に立って、亜白隊長のため日々道を切り開くのです。
「無用の用」とでも言うのか 会社にはお前のようなヤツも必要なんだよ
新田たつおの『静かなるドン』は、第42回日本漫画家協会賞大賞を受賞したコメディ・マンガの名作です。2023年5月時点で、紙書籍の累計発行部数は4600万部を突破。さらに、電子書籍においても爆発的ヒットを記録しています。
「週刊漫画サンデー」(実業之日本社)を、1988(昭和63)年から2013(平成25)年まで飾った、超ロング連載作品。その人気の裏には、人間味あふれるキャラクターたちと、名セリフの数々がありました。
極道の家に生まれながら、下着メーカーに就職した近藤静也。サラリーマンとしての彼を見守ってきた、上司・川西の名言を紹介します。
東日本を治める、新鮮組総長の家に生まれた近藤静也。幼少期から人形の服を作るのが好きで、大人になってから中堅の下着メーカー・プリティに就職しています。しかし、父親である二代目・近藤勇足が急逝――。
跡目争いを避けるため、静也は三代目総長として組織を引き継ぐことを決めました。ただし、サラリーマン生活の継続が条件です。こうして、昼も夜も働く兼業生活が始まったのです。
西日本を牛耳る鬼州組は、新鮮組の長年の宿敵です。鬼州組との間で繰り返される抗争を切り抜け、新鮮組総長として見事な采配を見せる近藤静也。しかし昼間のサラリーマン業では、遅刻や居眠りを繰り返して、上司から怒られてばかりです。
『静かなるドン』©新田たつお/実業之日本社 84巻P112より
鬼州組四代目・坂本健と、神戸を牛耳る獅子王一徹の娘・龍子。その間に生まれたのが、侠道界のサラブレッド・白藤龍馬(しらふじりゅうま)です。静也と龍馬は、ヤクザ撲滅の理想に共鳴しますが、敵対する家がそれを許しません。
すれ違いが重なったことで、新鮮組と鬼州組は一触即発の状態となってしまいました。大決戦を目前に控え、静也はサラリーマンとして長年勤めてきた、下着メーカー・プリティの退職を決意。しかしプリティの川西部長は、静也の辞表を受理しないというのです。
「あれほどダメ社員と罵倒して来たワシが言うのも何だが…」「『無用の用』とでも言うのか 会社にはお前のようなヤツも必要なんだよ」と、静也を慰留するのです。仲間たちの情けに触れた静也は、たとえ血みどろの争いの中に身を置いても、人間らしさを失わないことを決意するのです。
俺みたいな、口とハッタリで世渡りするみたいな奴と。ガク お前みたいな、ちゃんと腕のある奴が両輪になるんだよ。
世界一のワガママ男・天王寺 陽(てんのうじはる)と、真面目で気の弱い青年・平 学(たいらまなぶ)。正反対の二人がタッグを組んで、ゼロからスタートアップ。IT業界を舞台にミラクルを起こします。目指すは、一兆ドル(トリリオンダラー)の獲得です。
『トリリオンゲーム』は、「マンガ大賞2022」で第6位、第69回「小学館漫画賞」を受賞。さらに、2023年にテレビドラマ化された話題作です。
稲垣理一郎と池上遼一のコンビが放つ、超ド級のサクセス・ストーリー。その名場面から、パートナーを励ます名言を紹介します。
グーグル、アマゾン、マイクロソフト――世界最大の企業の時価総額は、約一兆ドルとされています。『トリリオンゲーム』は、世界を股にかけて活躍する日本版メガ・ベンチャーの伝説です。
世界長者番付で、21世紀初のトップ10入りを果たした二人の日本人が出現。ハルこと天王寺 陽と、ガクこと平 学。二人の出会いは、中学時代最後の春のことでした。不良に絡まれていたガクを、助けたのが中学校の同級生・ハルだったのです。
ハルは計算高い性格で、監視カメラがトラックで塞がれているのを確認し、不良を叩きのめしました。しかし、その車両が移動したことで、ハルの暴行はカメラに記録されてしまいます。ガクは気弱な性格ですが、勇気を振り絞ってハルを救出。監視カメラのWi-Fiから制御画面に侵入し、問題の動画を削除することに成功したのです。
『トリリオンゲーム』©稲垣理一郎・池上遼一/小学館 1巻P044_045より
その事件以来、ハルとガクは親友となりました。時は経ち、大学生となった二人は就職活動の時期を迎えます。就活全勝のハルに対して、ガクに届くのは“不採用(おいのり)メール”ばかり……。ガクは人前で喋るのが苦手で、いつも面接で落とされてしまうのです。
ついに、ガクが本命とするIT企業・ドラゴンバンクの面接日が訪れます。しかし、ガチガチに緊張した彼に対する面接官の評価は低いもの。一方、同じくドラゴンバンクを受けたハルは、持ち前の明るさとハッタリで面接をクリアーします。
不採用となったガクは、アルバイトでドラゴンバンク本社の窓を清掃します。そこにハルがやって来て、就職を辞退したことを告げるのです。「俺みたいな、口とハッタリで世渡りするみたいな奴と。」「ガク お前みたいな、ちゃんと腕のある奴が 両輪になるんだよ」とハルは言います。ガクに、パートナーとして絶大な信頼を示し、彼を励ますのです。
人の背中を後押しするマンガ
家族や友達、上司や同僚から、励ましの言葉をもらって、救われた経験はありませんか。もし、何かに悩んでいる人を見かけたら、自分も元気づける言葉を送りたいものです。
しかし、落ち込んでいる人に声を掛けるのは難しいもの。さらに、マンガのキャラクターのような、格好良い言葉はなかなか出てこないものです。また相手の立場を考えると、あえて立ち入らずに見守ることも、優しさの一つかもしれません。
しかし、言葉は人の背中を後押ししてくれます。直接進言するのが難しい場合は、大好きなマンガを読むことを勧めるのも一案です。マンガのキャラクターが放つ名言が、その人に元気を与えてくれるはずです。
執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 *文中一部敬称略