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【推しマンガ】世界が終わる時、運命を共にしたい人はいますか。『バジーノイズ』の俊英が挑む、壮大な愛の寓話

今からおよそ46億年前、地球が生まれました。その誕生から約10億年後、最初の生命が“原始の海”で生まれたと考えられています。

現在、私たち人類は“万物の霊長”といわれるほどの繁栄を迎えています。しかし経済活動と共に環境を破壊。生物の絶滅ペースは、加速化しているといいます。

もし、この瞬間に“大量絶滅”が進行しているとしたら、あなたはどうしますか――。『ホロウフィッシュ』は、『バジーノイズ』の実写映画化で話題の俊英・むつき潤による作品です。深海から忍び寄る破滅の気配と共に、恋に身を投じる少年を描いています。

ホロウフィッシュ 著者:むつき潤

第6の大量絶滅

地球に生命が誕生してから、これまでに5度の大量絶滅があったと考えられています。気候変動や、氷河期の到来、火山の噴火、そして6500万年前に恐竜などの生物を死に至らしめた巨大隕石など、様々な原因が考えられています。

そして現在、人類の活動は地球規模の影響を及ぼすようになりました。研究者の間には、新たな地質時代の区分として“人新世(じんしんせい)”を提唱する動きもあります。

むつき潤の『ホロウフィッシュ』は、スイスのジュネーヴで開かれたシンポジウムの場面から開幕。一人の研究者が、環境破壊が原因となって“第6の大量絶滅”が進行中であると持論を展開します。人類隆盛の時代に対する深刻な警鐘です。

2019年3月、富士山を一望する港町に一人の少年がいました。彼の名前は椎良洋紀(しいらひろき)、高校一年生。

母親は恋人に捨てられたため、椎良を一人で産んで育てました。生活の苦労もあってか、母親は幼い椎良をよく叩いたといいます。食事も満足に与えられませんでしたが、椎良にとってはたった一人の家族。

しかしある日、母親は海岸で入水自殺をしてしまいます。それから椎良は一人、母親が去っていった海を見つめながら生きてきたのです。

運命を共にしたいのは誰ですか

天涯孤独となった彼を、そばで支えたのが幼なじみの少女・広瀬杏子(ひろせあんこ)です。杏子は、椎良の食事など身辺の世話をします。ずっと、二人で生きていけると信じながら――。

しかし、椎良は出会ってしまいました。生きること、そして死ぬことさえも、共にしたいと思える相手が現れたのです。

椎良がまだ小さかった頃に、母親が乗せてくれた観光遊覧船。春休みを利用してクルーズに参加した椎良は、甲板で一人の女性を見かけます。

さびしげに海を見つめる女性の姿に、在りし日の母を重ねて見た椎良。初対面であるにもかかわらず、彼女に自らの心情をあらわにします。「俺は、かあさんの生きる理由にならなかった…」と。

すると女性は、旧約聖書の「ノアの方舟」の伝承は本当にあったことだと語ります。世界を洗い流した大洪水では、ノアが作った方舟(はこぶね)に、全ての生物が“つがい”で乗せられました。椎良が抱える孤独を見抜いた女性は、「君にも、一緒に乗りたいと思える誰かがいるはず」と諭すのです。

むつき潤は、音楽マンガ『バジーノイズ』で、孤独な主人公が殻を打ち破る様を描いて読者の共感を呼びました。『ホロウフィッシュ』では、人生を諦めかけていた椎良が、運命の出会いによって、生きる情熱を取り戻していきます。

忍び寄る破滅の気配

遊覧船で出会った女性は、「おかあさんより大切な人を見つけるのが人生よ」という言葉を残して、甲板から夜の暗い闇に飛び込みました。

それは、春の冷たい海――。自死した母親を思い出した椎良は、海に飛び込んで無我夢中で彼女を救出します。

やがて新学期となり、椎良と杏子は高校二年生になりました。椎良は、思わぬかたちで遊覧船の女性と再会します。彼女の名前は深澤睦美(ふかざわむつみ)。高校に教員として赴任してきた彼女は、椎良と杏子のクラスを受けもつことになったのです。

この頃、世界中でシーラカンスのような姿の“人面魚”の目撃が相次ぎます。さらに、日本列島に小規模の地震が頻発。スマートフォンからは、緊急地震速報のアラートが鳴り響いて人々の不安を誘います。

椎良が住む港町では、不可解な事件が起こります。あるマンションの一室で、異臭がするという通報に地元警察が急行。部屋の住人は、浦井航平という高校教師でしたが、その浴室と浴槽は血で真っ赤に染まっていました。浦井の行方は分からないままです。

刑事は、そこにあるはずのない奇妙なものを見つけます。それは、1枚の大きな魚の鱗(ウロコ)。現場の惨状から、警察は殺人事件の疑いで調べ始めます。それが、世界を揺るがす大事件の序章であるとも知らずに――。

海から陸に上がった“中空の魚”

浦井航平の失踪事件を担当する、刑事の名前は椎良和洋。かつて、椎良と母親を捨てた父親でした。さらに、椎良の担任となった深澤睦美が、前の学校で浦井と同僚だったことが判明。切っても切れない人とのしがらみが、ドラマに不穏な空気を増幅させていきます。

ドラマを印象的に演出するのが、古代魚のシーラカンス。ギリシャ語が起源のネーミングで、“中空の魚”を意味する魚類です。普通の魚とは異なり、脊柱が太い一本の“中空の管”からなっていることが特徴で、“魚の時代”と呼ばれる古生代デボン紀に、海から陸に上がっていった生物の祖先だと考えられています。

『ホロウフィッシュ』の“hollow”という単語には、英語で“中空の”という意味があります。むつき潤は、このタイトルにどんな思いを込めたのでしょうか。生物の進化というテーマを盛り込んだ、ミステリアスで壮大な愛の寓話。ぜひ一読をお薦めします。

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美

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