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あの作品もこの作品も? フランスの出版社「Ki-oon」から目を離すな!

日本のマンガが世界でも大人気なのはみなさんもご存じでしょう。『ONE PIECE』は世界で1億部以上発行されています。韓国で『SLAM DUNK』の映画「THE FIRST SLAM DUNK」が大人気など、話題にことかきません。

そんななか「日本人漫画家にフランスで先に作品を出版してもらい、それを日本に逆輸入する」という個性的な試みで頭角を現してきている会社があります。それこそが今回紹介させていただく「Ki-oon(キューン)」という出版社です。

「Ki-oon」 公式サイト(フランス語のサイトです)

「Ki-oon」の東京オフィス代表のTwitter

人気媒体での連載や映画化された作品も!

「Ki-oon」は、日本のマンガのフランス語版を出版することを中心に活動しているフランスのマンガ専門出版社です。『呪術廻戦』『僕のヒーローアカデミア』など、日本でも大人気の作品をフランス語に翻訳し、刊行しています。

そんな活動にくわえて精力的におこなっているのが「Ki-oon」オリジナル作品を生み出すこと。漫画家と直接契約をむすび、マンガを描いてもらい、まずはフランスで単行本を刊行します。その後、フランスから海外に売りこんでいくのです。

たとえば「少年ジャンプ+」にて連載されていた『リバイアサン』という作品。また『予告犯』という同名タイトルで実写映画化もされた作品。これらは日本の出版社から単行本が発行されていますが、どちらも「Ki-oon」が版権を持つ「Ki-oon」オリジナル作品なのです。

そんな日本人の漫画家による海外で出版された作品が、海をこえ、いくつも日本に逆輸入されているのです。方向性はさまざまですが、どの作品も圧巻の画力で描かれた迫力あふれるものばかり。

そんな注目の出版社「Ki-oon」のオリジナル作品を5つご紹介します!

高い画力に裏打ちされた幅広い作品たち

『リバイアサン』

まず最初に紹介する漫画は『リバイアサン』です。2022年1月にフランスで単行本が刊行。その後、日本の人気マンガ配信媒体「少年ジャンプ+」にて2022年8月から連載されました。少年少女の生き残りをかけたSFサバイバルマンガです!

リバイアサン 著者:黒井白

時は近未来。超大型宇宙船「リバイアサン」は、廃船となって何年も宇宙をただよっていました。そんなひとけのない船に、なにかしらの金品が残っていないものかと画策し、男たちが侵入します。そんな男たちがまず発見したのが、当時、修学旅行のために乗船していた中学生による日誌。そこには驚くべき内容が書かれていました。

修学旅行の1日目の夜。突然、原因不明の爆発が起こり、重力装置などに異常が発生。隔壁も下がっており、重大な事故であったことは間違いなさそうです。

そのうえ酸素タンクが破損し、残量が50時間分しか残っていないことが判明。助かる手段は船に搭載されていたコールドスリープ装置に入り、凍結され助けを待つことのみ。しかしその装置に入ることができるのはたった1人だけなのです。

その情報は徐々に全体に知れわたり、生徒たちによる生き残りをかけた血みどろのバトルロワイヤルがはじまっていくのでした。

重厚なSF設定に質感のある絵柄。そして航海日誌を読み進める盗賊たちの動向と、日誌の中の少年少女たちの動向が並行して進み、同時に物語の結末へと収束していく様にワクワク感がとまりません!

『予告犯』

次に紹介するマンガは筒井哲也先生の『予告犯』です。2015年に生田斗真さん主演で実写映画化もされました。

予告犯 著者:筒井哲也

ある日、動画サイトに新聞紙をかぶった男の動画がアップされます。彼は「明日の予告を教えてやる」と言い、具体的なターゲットをあげ、制裁をくだすと"予告"します。そして実際にその制裁が行われたことで、インターネットを中心に大きな話題になっていくのでした。

ターゲットとされるのは、ネットを中心に「悪者」のレッテルを張られた人ばかり。「予告犯」はいつしか義賊のような存在として認知され、世論すらも少しずつ味方につけていくのです。

警察もだまっているわけではありませんが、周到に準備された犯人の計画に翻弄されなかなか近づくことができません。「予告犯」の本当の目的はなんなのか。警察の捜査はいつ犯人までたどり着けるのか。そんな手に汗握るクライムサスペンスです。

社会の息苦しさがテーマであり、動画サイトやSNSをとおして犯行声明が拡散されていく様などは非常に現代的。写実的な絵柄もあいまって単にフィクションと切りすてられない説得力にあふれています。

『Lost Children』

三つ目に紹介するのは隅山巴文先生の『Lost Children』です。同人イベントをきっかけにして「Ki-oon」編集者と接点がうまれ、2018年にフランスで単行本が刊行。その後、日本では「別冊少年チャンピオン」にて2020年から連載。単行本全10巻が刊行されています。

Lost Children 著者:隅山巴文

『Lost Children』は、厳しい身分制や、民族差別のはびこる架空の国を舞台にした本格レジスタンスファンタジーです。主人公はランとユリという二人の少年。親友だった二人ですが、国を揺るがすテロ事件に巻きこまれ離れ離れになってしまいます。

互いの行方もわからぬまま、ランは反乱軍の一員として、ユリは山奥の信仰の深い里で神職として、別々の道を歩むことになります。政府は民族浄化をもくろみ、弾圧のための侵攻を進めるなか、二人の運命が交差することはあるのでしょうか。

架空の国とは思えない骨太な設定に、民族差別や身分制といった重厚なテーマがからみあい、まるで現実世界の戦争や、レジスタンスに関するマンガを読んでいるかのようです。そんな理不尽な世界のルールに翻弄される少年たち。彼らの明るい未来を祈らずには読むことができません。

『Beyond the Clouds-空から落ちた少女-』

四つ目に紹介するのはNicke先生の『Beyond the Clouds-空から落ちた少女-』です。2018

年にフランスで第1巻が刊行。その後、2022年から日本でも「コミックDAYS」にて連載が開始されました。羽の生えた少女との出会いからはじまるボーイミーツガールファンタジーです。

Beyond the Clouds-空から落ちた少女- 著者:Nicke

工業都市「黄色い街」で修理工として働く少年テオは、ある日、ゴミ捨て場で羽の生えた少女ミアと出会います。ミアはケガをしており羽も片方が亡くなっていました。その上、ミアはそれまでのことをまったく覚えていませんでした。テオは自分の家に連れていき、ミアの面倒をみることにします。

この世界では動物の姿をした人などは普通に存在しますが、羽の生えた人間はとても珍しい存在です。そのせいか、ミアを預かってからどこかから視線を向けられていると感じることが増えます。それどころか、怪しげな男たちがミアを強奪しようと襲ってきたのでした。

繊細でやわらかい線で描かれるキャラクターや背景描写が、あたたかい雰囲気を作りだしているのがとにかく魅力的です。その絵からつむぎだされるのもまるでおとぎ話のような冒険譚。誰しも心に秘めている少年少女の心を刺激されること間違いなしです!

『虎鶫 とらつぐみ -TSUGUMI PROJECT-』

最後に紹介する作品は『虎鶫 とらつぐみ-TSUGUMI PROJECT-』。フランスでも大ヒットし、日本でも「このマンガがすごい!2022」オトコ編の20位にランクインするなど、大きな話題となっているディストピアアクションマンガです。

虎鶫 とらつぐみ -TSUGUMI PROJECT- 著者:ippatu

主人公レオーネを含む一団は、核戦争の引き金になったとされている秘密兵器「TORATSUGUMI」を回収することを目的とし「旧日本」に送りこまれます。そこは核戦争をへて、人間が住むことができなくなり、現在では魔境と呼ばれている場所となっていました。

「旧日本」に到着する間際、主人公たちの乗った飛行機は原因もわからないまま墜落。かろうじて一命をとりとめたレオーネでしたが、その後、人間にしては小さい「服を着た何か」の大群に襲われます。危機的状況にさっそうと現れ、レオーネを救ってくれたのが、鳥の足を持つ少女と、見上げるほど大きな獅子だったのでした。

「TORATSUGUMI」とはいったい何なのか。レオーネは生きてフランスに帰ることができるのか。さまざまな謎や困難を抱えたまま、主人公と少女の旅ははじまっていきます。

荒廃した日本や、さまざまな異形の生き物、そして迫力のアクションを描きだす圧倒的な画力こそが今作最大の魅力です。この絵を見るだけでその迫力に気圧されてため息が出てしまいます。

過去から未来へとつながるフランスと日本の絆

フランスにおいて日本の「マンガ」に相当するものは「バンド・デシネ」と呼ばれています。そんなバンド・デシネ界の巨匠とも呼ばれた故メビウスなどは、大友克洋先生や松本大洋先生、そしてマンガの神様こと手塚治虫先生など、数多くの日本の著名な漫画家に影響をあたえてきました。そして現在では日本のマンガの人気が高まり、「マンガ」という単語とともに受け入れられ、逆にフランスの漫画家に大きな影響をあたえています。

フランスと日本という遠く離れた両国ですが、時代にかかわらず互いに良い影響を与えあい共存してきたのです。そのためには互いの国の橋渡しとなる「Ki-oon」のような出版社の存在が不可欠です。

2023年3月現在、日本での単行本化はまだですが『魔女のエデン』などの「Ki-oon」オリジナル作品も日本の雑誌で連載されています。これからも「Ki-oon」という出版社と、そこが生み出す、力強く、多様な作品たちからはますます目が離せません!

執筆: ネゴト / たけのこ

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