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「世にも奇妙な物語」好きは必読せよ。『ユートピアズ ポリティカル・コレクトネス版』の「アウト」で奇妙な理想郷に人としてのココロが揺さぶられる!

「世にも奇妙な物語」が好きな人におすすめしたい作品を発見した。マンガ大賞2022を受賞した『ダーウィン事変』のうめざわしゅんさんが、10個の奇妙なユートピアを描いた短編集『ユートピアズ ポリティカル・コレクトネス版』だ。

ユートピアズ ポリティカル・コレクトネス版 著者:うめざわしゅん

2006年に刊行された『ユートピアズ』という単行本の新装版で、注目は「ポリティカル・コレクトネス版」というワードが追加されている点。略して「ポリコレ」と昨今ネットでよく聞くが「政治的な正しさ」という意味だ。

これがめちゃくちゃ皮肉。本作の世界では、政治的に正しい「理想郷」の奇妙さや不思議さが表現されている。偏見を無くそうと政治的な正しさを追い求めすぎて、生き物としての大事なものを忘れてないかい? というメッセージが込められている気がするのだ。

まず、盲導犬をSMの女王様に差し替えてみた設定の「ナオミ女王様に仕えた日々」。ナオミ女王様は”公認女王様”の候補なので、決められた人にしか”お仕置き”しない、普段はおとなしい女王様だ。ナオミ女王様が立派な公認女王様になれるよう、彼女をボランティアで預かる人は、奴隷を務め切らないといけないのだ。

「女性専用車両」の仕組みが行きすぎた世界を描く「チカン列車は危険がいっぱい」。女性専用車両に間違えて乗ってしまった男性が、息を切らしながら女性を見ていたというだけで痴漢と認定されてしまう。

お笑いコンビの結成って男女の結婚と似てないか? という視点で描かれた「どつきどつかれ生きるのさ」は、相方と別れて傷心のサラリーマンが夜のお店で、一人のボケ担当にハマってしまう。

10年以上前に描かれた作品群なので、確かに今だと「ポリコレ的にアウト」に近い際どい表現が多く、各章にはポリコレ的に内容をフォローする作者の解説がついている。

でも、過激ながらも、現実にある制度をちょっとひねったり、前提となる条件を変えただけで不思議な可笑しさが生まれることを伝えてくれる本作。可笑しさだけでなく、普段見ようとしてなかった問題にフォーカスしていて、気づきが起きるのもおもしろい。

たとえば、盲導犬もSMの女王様も、一部の人にはとてもありがたく救いになる存在なのに、社会ではまだまだ数が少ない点。

女性専用車両のシステムを徹底すると、一度入った男性は糾弾され二度と外には出られないのでは?という問題提起。

お笑いのコンビ結成と結婚って似ている。どちらも相手を「相方」と呼ぶし。それに、一般人もボケツッコミで笑いを取るのが当たり前になった今と、結婚が当たり前と言われてきたこれまでの社会は、似ていてどちらもちょっと異常なのでは? という違和感など。

「政治的に正しくない」のかもしれないが、人としてのココロを揺さぶってくる設定ばかりなのだ。偏見を無くそうとしている社会が、逆にそれこそが偏見だ、と言っているようなメッセージを感じる。

これも「アウト」な表現かもしれないのだが、本作の読後感はテレビなら「世にも奇妙な物語」、小説なら星新一のショートショートと似ている。まだ平成だった2000年代に描かれたにもかかわらず、コロナ禍の未来を予見したような作品もあり、その奇才ぶりと令和っぷりに驚く短編集だ。

執筆: ネゴト / 大槻由実子

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