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【推しマンガ】猫又、カラス天狗に化け狐!?愛すべき“おとなりさん”との交流

山合いの風がよく吹く町、縁ヶ森(ふちがもり)。ある夏の日、20歳の長寿猫・ぶちおは、突然“猫又(ねこまた)”になりました。

猫又は、尾が二股に分かれた化け猫です。ぶちおは“飼い猫”として一生を全うするつもりでしたが、思わぬかたちでセカンド・ライフが始まりました。しかし“妖怪になった理由”が分からないことで、彼は思い悩みます。

『となりの妖怪さん』は、人間と妖怪、神様がともに生きる世界を描くハートフルストーリー。2024年4月には、テレビアニメ化されて大きな話題となりました。猫又、カラス天狗に化け狐――人と違うところは多いけど、共感することもいっぱいある! ちょっと不思議で優しい仲間たちをご紹介します。

となりの妖怪さん
となりの妖怪さん noho

長寿猫ぶちおの第二の人生

2017年、カラス天狗の青年と人間の少女がバス停に立つイラストが、3ページのマンガとともにSNSに投稿されました。この投稿がきっかけで、Webコミック配信サイト「マトグロッソ」(イースト・プレス)で『となりの妖怪さん』の連載が始まります。

舞台となるのは、山合いにある縁ヶ森町。著者のnohoは静岡県の出身で、遠州(静岡県西部)をモデルにしているといいます。緑と水の豊かな田園風景の描写も、本作の見どころの一つ。

――その昔、この国では八百万(やおよろず)の神々と人が、ともに暮らしていました。やがて、その交わりの間に「妖(あやし)」が生まれました。不可思議な姿と能力を携えた妖怪ですが、人と気持ちを通わせて、ともに生きるようになったというのです。

神々が天に帰ったあとも、妖怪は人の隣に在り続けました。楽しい時も、つらい時も、人間とともに分かち合い、幾星霜を経て今に至ったのです。

むーちゃんこと杉本睦実は、縁ヶ森町の小学生。夏休みに学校のプールに行った彼女は、その帰り道で、木陰のバス停に佇む一人の男性を見つけます。

大きな買い物バッグを持った男性の背中には、大きく黒い翼が生えています。それはカラス天狗のジロー。むーちゃんがジローのTシャツを褒めると、彼は「ほめても何も出ないよ~?」と言いながら、スーパーのくじで当たったアイスをくれました。

カラス天狗のジロー

カラス天狗は優れた神通力をもち、カラスのような姿で自在に空を駆けることができます。だけどジローは、そんな勇ましさを微塵も感じさせません。いつもノンビリしている“脱力系”なのです。

町で買い物を済ませたジローですが、この日の気温は34度。あまりの暑さに根負けして、「おっちゃん」に車で迎えにきてもらうつもりだと言います。

「飛んで帰るのはダメなの?」と、むーちゃんは不思議そうに尋ねます。しかしジローは、たとえカラス天狗であっても「飛ぶのって けっこう疲れる」のだと言います。「人間でいうと走って帰るみたいな感じ?」という彼の答えに、むーちゃんは妙に納得。とにかくジローは、人間味あふれるカラス天狗なのです。

おっちゃんに電話を掛けて、迎えを頼んだジローですが、「暑さに負けるな」と叱られてしまいました。「おっちゃん」とは、縁火山太善坊(ふちびやまたぜんぼう)という名の鼻高天狗。縁ヶ森の管理者です。

ジローは太善坊の後継者。若々しい外見もあって、むーちゃんは友だち同然に接していますが、その年齢は500歳ぐらい。古くから土地を守る神々に仕え、人との仲を取りもってきたのです。

そんなジローと太善坊のもとに来客がありました。ぶちおという名前の猫又です。ぶちおは、大石家でペットとして飼われてきた20歳の長寿猫。ある日、尾が二股に分かれて猫又となってしまったのです。

ぶちおが猫又となった理由とは!?

子猫の頃に、母親とはぐれてしまったぶちお。トンビにつつかれていた彼を拾い上げ、助けてくれたのが、大石家の人々でした。それから長い時間をともに暮らしてきましたが、ある日ハッキリとした意志が芽生え、ぶちおは猫又となったのです。

ぶちおは、もはやペットではありません。一人(一匹?)前の妖怪として、役所に“新生届”を出す必要があります。“妖怪マイナンバー制度”に“妖怪健康保険”など、社会に出るための手続きが、彼をとまどわせてしまいます。

しかし大石家の人々は、そんなぶちおを家族として迎え入れ、サポートしてくれました。何不自由なく迎えた、新たな門出――。それなのに、ぶちおは素直に喜ぶことができません。妖怪として何ができるか分からないこと、さらに猫又になった理由が分からないことが、彼の心をモヤモヤさせるのです。

猫又といえば、姿かたちを変える“変化(へんげ)”が得意だといいます。大石家の子どもたちは、お山の主である二人の天狗にアドバイスを得るよう、ぶちおに勧めました。

ぶちおは菓子折りを手に、ジローと太善坊を訪ねます。ぶちおの悩みを聞いたジローは、ある女性のところへ彼を案内してくれました。女性の名前は立花百合。普段は人間の姿をしていますが、その正体は“変化”を得意とする化け狐。

ジローと太善坊の頼みで、百合はぶちおに“化け学”を教えることとなったのです。ぶちおは、「自分の手を人間の手に変化させる」練習をしますが、なかなかうまくできません。百合は、変化の基本は「想像力」「集中力」「自己認識力」だと言います。自分が何者なのか、その本質に気づかぬ限り、ぶちおが変化の技を身につけるのは難しそうです。

多様性を認める理想郷

ここに描かれる世界では、人と人外の者たちが共生しています。多様な価値観を認め合う、言わば“ユートピア”のような空間です。しかしながら著者は、キャラクターたちが抱える悩みや孤独を明らかにして、私たちに疑問を投げ掛けます。

猫又になったぶちおは、“自我”を手に入れた分、おのれの存在意義が分からずに悩みます。むーちゃんは明るい少女ですが、父親が行方不明となったことで、心に“埋められぬ穴”を抱えています。そんな彼女を父親代わりに見守るジローですが、いつか寿命を迎える人間と交流することに“トラウマ”を抱えていることが判明します。

理想的な社会が舞台である分、キャラクターが抱える悩みは際立ちます。どんな世界であっても、私たちが抱える悩みは消えないのでしょうか――。しかし、ちょっと不思議な“おとなりさん”は、どんな時もそばで支えてくれます。優しい友人たちに会いたくなったら、ぜひ本書をめくってみてください。

執筆:メモリーバンク / 柿原麻美 *文中一部敬称略

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