レベル1の村人が新魔王『すだちの魔王城』元魔王と目指せ道具屋再建 世界が変わっても支え合って生きていく
新たな魔王となってしまった主人公のムラビトは、元魔王のマオと共に道具屋の再建を目指す。はたして、平和になった世界で道具屋「すだち屋」の再建はできるのだろうか。
『すだちの魔王城』©森下真/講談社 1巻 / 第4話より
はじめましての人も、何かの縁でまたお目に掛かりましたね!の人もこんにちは! マンガライターのカリス魔王TKと申します。本日紹介するのは『すだちの魔王城』です。
タイトルに含まれている「すだち」とは何でしょうか。パッと思いつくので2つ考えられますね。
まず1つ目は、緑色の小さい柑橘類(かんきつるい)の「すだち」。ゆずの仲間で、大きさはだいたいゴルフボールと同じくらいです。
あまり関東では知られていませんが、徳島県が生産量1位で全体の9割以上。徳島県の県の花もすだちの花です。爽やかな香りのすだちは、スライスして添えたり、料理に絞って風味づけなどに使います。
漢字では酢橘(すだち)と書きます。かつて食酢として親しまれたことから、酢の橘(たちばな)で酢橘と呼ばれるようになりました。ちなみに橘とは日本固有の柑橘類のことです。
さて、では『すだちの魔王城』と言う事は、酢橘(すだち)が魔王になってしまう話なのでしょうか。みかんやレモンが出てきたり、かぼすと魔王の座を争ったりするのでしょうか。なんだか果汁が目に染みそうですね。
『すだちの魔王城』©森下真/講談社 1巻 / 第3話より
ご安心ください、どうやらそういう話ではないようです。
すだちにはもう1つ意味がありますね「巣立ち」。ひなが大きくなって巣を離れるという意味です。魔王城から巣立つ、魔物の教育機関だとすれば何となく意味が通じそうですね。
結局『すだちの魔王城』って一体どんな物語なんでしょうか?
実は、勇者によって魔王が倒された10年後の物語なんです。
平和になった世界で
主人公のムラビトが営む「すだち屋」は、勇者が旅の最初に訪れた道具屋。かつては「巣立ちたて」の冒険者で賑わっていました。しかし、世界が平和になった今では冒険者は減り閑古鳥、経営の危機に陥っていました。
ある日、店主のムラビトは元魔王の少女マオを助けたことで、新魔王として力を受け継ぎ半魔族になってしまいます。
ひょんなことから互いに協力関係になったふたり。ムラビトは人間に戻るため、マオは魔王の力を手放すために、道具屋「すだち屋」の再建を目指すことになります。
『すだちの魔王城』©森下真/講談社 3巻 / 第11話より
平和がもたらす不幸
魔王が倒された、それは世界から見れば喜ばしい変化。その変化は作中の人物達にも様々な影響を与えています。しかし、それは決して良い変化だけではなかったんです。
道具屋の客足が減り、ムラビトは父との思い出の場所「すだち屋」を失うまいと必死に努力しています。魔王であったマオは仲間の大半を失った絶望の中で彷徨っていました。
勇者だったアッシュは「勇者アーサー」としての作られたイメージと、本来の自分とのギャップに病んでしまっています。
『すだちの魔王城』©森下真/講談社 3巻 / 第11話より
魔王が倒されたその先の世界は決して彼らにやさしい世界ではなかったんです。
けれど、そんな3人は出会い、支え合って生きていくことになります。
孤独な道の先にある、素敵な今
私たちの人生にもこうした変化は訪れます。卒業、入学、就職、引越しや転勤など、ステージを進むごとにコミュニティに変化が起きる。
仲の良かった友や仲間との別れ、繋がりは希薄になる。友人と疎遠になることも、それほど珍しいことではありません。
そんな変化に孤独を感じたり、寂しくなることもある。けれど、変化はネガティブな事ばかりではないはずなんです。
『すだちの魔王城』でムラビト、マオ、アッシュが出会ったように。
『すだちの魔王城』©森下真/講談社 3巻 / 第12話より
新しいことから生まれるポジティブな変化もきっとあるはずなんです。時間は不可逆で、SFマンガのように過去に戻ることはできません。
そのくせ僕らの頭の中で過去はやたらと美化されてしまう。「昔は良かった」とつぶやくおじいさんやおばあさんの言葉が、いつの間にか自分の言葉になっていたりする。それでも、僕らは生きて進んでいく。いつまでも立ち止まってはいられないんです。
だから、新しい世界で、新しい何かを見つけて、新しい誰かと支え合って、これからも生きていくんです。
その先できっと新しい素敵なことに出会っていくんです。
これからも歩いていく勇気を
世界が変わっても支え合って生きていく。『すだちの魔王城』に出てくるキャラクターを見ていると、変化も悪くないかもなと思えてきます。
僕らとは違うけど似た痛みを持つ彼らの姿は、きっと読者である僕らにも勇気を与えてくれる。
『すだちの魔王城』©森下真/講談社 2巻 / 第6話より
笑って、泣いて…あ、泣いてと言っても果汁が染みるわけではありませんよ。
そして、勇気が欲しいあなた。
ぜひ『すだちの魔王城』を読んでみてくださいね。
ここまでありがとうございました。「飲み物はとりあえずオレンジジュース」なマンガライターのカリス魔王TKでした。ではまた。
『すだちの魔王城』情報
著者は森下真先生。可愛いとカッコイイが共存する絵柄と、笑えるコメディ、感動し泣けるストーリーが魅力的。他作品として『Im~イム~』や『悪魔さんとお歌』などがあります。
『すだちの魔王城』は、笑って・泣ける・熱いファンタジーコメディとして話題を呼び、次にくるマンガ大賞2022 コミックス部門では13,373ポイントで12位にランクイン。さらに、Apple Booksの2022年ベストマンガ【異世界部門】ノミネート、第3回ebookjapanマンガ大賞2023にノミネート、など注目が集まっています!(2023年3月時点)