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『釣りキチ三平』心ときめく釣りの魅力を知りたいなら!

釣りを通して自然を感じたいなら『釣りキチ三平』の右に出るマンガはありません。

釣りキチ三平 著者:矢口高雄

累計発行部数5000万部を超え、アニメ化のみならず、日本中に釣りブームを起こした伝説の釣りマンガ。

作者である矢口高雄先生の圧倒的画力で描かれた自然と魚は、連載開始から約50年経ってなお輝きを増しています。

少し私の思い出話になりますが、私が本作に触れたのは小学校の図書館。本作のあまりの面白さに休み時間ごとに図書館に行っては読んでいました。そして、今現在も読んではワクワクすると同時に、今の時代に必要な自然との共存やSDGsにも繋がるものが詰まっていると感じています。

連載開始から約50年を経た、今だからこそ読むべき伝説のマンガ。その魅力が少しでも伝わるようご紹介いたします。

自然豊かな山奥から、水平線しか見えない大海原まで釣り歩く

本作は、釣り好き少年の三平三平(みひらさんぺい)が主人公の物語。

三平は釣りをしない日はなく、三度の飯より釣りが好きな天真爛漫な少年。大の大人が大勢参加する釣り大会で常に優勝候補として名を上げるなど、その腕も超一級品。

その腕と常識にとらわれないアイデア、そして時には根性で全国の巨大魚や怪魚と格闘を繰り広げるというストーリーです。

また、圧倒的な画力で描かれた自然と躍動する魚は、どんな写真よりも活き活きとしていると言っても過言ではありません。

ブラウントラウトという魚がメインで描かれたページでありながら、岩、木、遠くに見える山などが緻密に描かれており、白黒でありながら活力に満ちた絵。こんな風景の場所に行ってみたいですよね。

さらに釣りを通した人との関わりや、2mを超える伝説の巨大魚との戦いなど冒険的な要素も多く、読めばとにかくワクワクが止まりません。

小さな釣りから伝説の巨大魚との格闘を繰り広げる三平や魚紳をはじめとする登場人物達。作品は全65巻と作品は長く、最初から読むには大変と思われるかもしれませんが、心配はご無用。ストーリーは一話完結型に近い形で描かれており、登場人物みんな釣り好きということがわかっていれば、どの巻から読んでも楽しめます。

ただ、たまに何巻かにまたがって描かれるストーリーもありますので、そこはご注意ください。例えば、カジキを釣るブルーマーリン編は37巻から42巻まで描かれています。とはいえ、設定を憶えていなくても三平がまた釣りしてる!と思って読めば、何巻でも楽しめますので、そちらもご安心ください。

とにもかくにもずっと釣りをしている作品でまさに「釣りキチ」という題名にふさわしい作品です。

ちなみに作中によると「釣りキチ」とは「釣り」と「きちがい(気ちがい)」が合わさった言葉。熱狂するほど好きというニュアンスで使われており、今の言葉で言うならば「釣りオタ」などになるようです。

言葉として現在では使用を避けるべき言葉ではありますが、こちらでは作品にしたがって使用させていただきます。

伝説の巨大魚たちとの格闘

本作といえば、伝説の巨大魚たちとの格闘は外せません。巨大イワナ、巨鯉、キングサーモン、2mを超すイトウ…中でも、作中最大とも言えるカジキとの戦いは名前とともに忘れることは出来ません。

そのカジキの名はデビル・ソード。体長5m以上、重さ2000ポンド(約900kg)を超え、悪魔の剣と呼ばれるその魚はその名に恥じない暴れっぷりでした。

船よりも全長が長いかもしれないほどの巨体。でかすぎる…!

そのデビル・ソードとの戦いはハワイにて。魚紳とともにハワイへ行き、スポーツフィッシングの王と言われるブルーマーリン(カジキ)を釣り、ポイントを競う大会に参加する三平。

そこで出会ったのが、まるで海賊のような出で立ちの男、キャプテン・エイハブ。かつてデビル・ソードに体を貫かれたという経験から、デビル・ソードを釣りあげることに並々ならぬ執念を燃やす男です。

左腕を失くし、そして腹をデビル・ソードのくちばしで貫かれてしまったキャプテン・エイハブ。痛々しい古傷がその執念を思わせます。

話は進み、ポイントを競う大会で劣勢になった三平。一発逆転のためデビル・ソードを狙い、見事に仕掛けにかけることに成功します。自らがデビル・ソードを釣りあげようとしていたキャプテン・エイハブですが、デビル・ソードをかけた三平に協力、共に釣りあげようと大激戦を繰り広げる、というのが作中最大の魚との格闘。

今にも海に引きずり込まれそうな竿、リールから出続ける糸。

自分よりも重い魚を釣りあげようと、大型魚との格闘だけに作られたファイティング・チェアーに座った三平が繰り広げるデビル・ソードとの長時間に渡る戦い。

手に汗握る展開で、釣りと言ってもまさに魚とのバトル。バトルマンガ以上とも言える命のやり取りを見ることができる、巨大魚との格闘でこれ以上ないエピソードです。

ちなみにカジキに刺されるという事故は現実でも起こることがあるようで、マンガの中の話で空想というだけではないようです。

なお、IGFAによるブルーマーリンの世界記録は約624kg(1376ポンド)。このデビル・ソードがいかに規格外の魚かわかりますね。

自然との共存、SDGsにも繋がる考え

温暖化や環境破壊などが進み、自然との共存やSDGsという言葉を耳にすることも増えてきました。しかし、具体的にどうすればいいのかわからないという思いを持つのも事実。

自然を大事に考えている本作から、考えるきっかけになる2つのエピソードをご紹介します。

一つ目はイワナ大移植作戦。

イワナが住めそうなのに住んでいない滝の上の川にイワナを放流して、釣りをしやすくしようというところからイワナの大移植作戦が始まります。

下流のイワナを釣り集め、後は放流するだけだという段階になって、賛同者たちにケガなどの不幸が降りかかります。ここで一平じいさんは、自然に対して手を加えようとしたためにバチが当たったのかもしれないから移植計画はやめようと考えます。

対して三平は、自然の偉大さをわかった上で、自然の中で暮らしている以上はそれを利用するのも人間だと言います。

一平じいさんと三平の考えはどちらも正しいもので、どう抗っても克服できない自然の中で人間はどう生きるのかということを考えさせてくれるものです。自然や環境について、人間が暮らす以上はどうしても手は入れざるを得ないと私は思いますが、あなたはどう思われるでしょうか。

二つ目は簗川流簗秘伝というエピソード。

釣りではありませんが、簗(やな)という漁法についてのお話です。これは川の流れを変えて竹のざるのような漁具で魚を獲る漁法のこと。

簗の伝統を受け継ぐ漁師である簗師を手伝う三平。簗をくみ上げ、ひっきりなしに獲れる魚を機嫌よく集めます。しかし、ここで三平は簗という漁法は恐ろしいと考えます。なぜならば、簗は川全体をせき止めて上流の魚を一網打尽にするから。

そのことを簗師に伝えると、その考えこそまさに簗という漁法の真髄であると話されます。

魚類の絶滅は自分の手で自分の首を絞めることと同じである。だから、簗という漁は試行錯誤して完成されたものであると。

資源というものは減るもので、いかに減らさないかということを考えさせられます。

こちらでは魚という資源の話ですが、資源という点で言えばどれも同じで減っていくもの。それをどうするかは、人間の心の持ちようでもあるということを教えてくれるエピソードです。

自然と釣りを楽しむ釣りマンガの金字塔

冒険にも似たワクワク、巨大魚との手に汗握るバトル、そして、自然との共存。釣りの魅力が全て詰まっている本作。

読めば近くの小川、海、池が全て釣り場に見えてしまうかもしれません。

さあ、読んだら釣りに出かけましょう。

執筆: ネゴト / マンガおにいさん

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