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『ブルーピリオド』芸術、マンガ好きに留まらない熱い支持!何かをクリエイト・創作する人々に共通する本質と葛藤を描く

『月刊アフタヌーン』にて連載中の山口つばさ先生による『ブルーピリオド』。

数々のマンガ賞を受賞し、アニメ化もされた本作。この作品が大勢を虜にする何よりの理由は「生む苦しみ」を知る大勢のクリエイター、創作を生業とする人々の苦しみと喜び、そして情熱を何よりも鮮烈に生々しく描いている点にあるでしょう。

ブルーピリオド 著者:山口つばさ

世渡り上手で飄々と生きてきた高校生…心を強く揺さぶる出会いで彼の人生が変わる!

本作の主人公である矢口矢虎は高校2年生。何事も器用でテストの点も良く、分け隔てなくいろんな人間と接する愛嬌もある彼は、いわゆるインテリヤンキーや陽キャと呼ばれる部類の人間です。

然るべき努力をすれば、然るべき結果が返ってくる。勉強も人付き合いも全てそれは同じで、彼にとっては器用に生きることはただただそれの積み重ねでした。

けれどそんな生き方を、矢虎は常にどこかむなしく無意味に感じてもいたのです。

そんなある日彼は、たまたま訪れた美術室で大きなカンバスに描かれた天使の絵と出会います。

それまで美術などには一切興味のなかった矢虎。ですがその絵に強く惹かれ、あわせて偶然その絵を描いた美術部員・森先輩と会話を交わしたことで、美術の世界へと俄然興味が湧き始めます。

才能やセンスだけで成り立つと思っていた美術の世界。けれどその仲にも様々な知識、手法、努力などの積み重ねや技術が必要です。

ですが一方で、それだけの「上手い」絵は評価されません。その上で何よりも大事なのは心を強く揺さぶられるほどの、強烈な衝動や情熱だということを矢虎は知るのです。

これまで上手に器用に、一方で淡々と無味乾燥に毎日を生きていた矢虎。ですが彼は芸術に、一枚の絵に出会って初めて、自分の中に揺れ動く情動を強く自覚しました。

今まで知らなかった美術の世界、そのもっと深いところを覗いてみたい。その思いが芽生えたことで、彼の人生は大きく変わり始めるのです。

美術やマンガだけじゃない! 小説、音楽、演劇、お笑い…多彩な「創作」に対する印象が真逆に

作品のあらすじからも、いわゆる「美大受験マンガ」として知名度の高い本作。ですがこの作品の最たる見どころは、美術だけにとどまらない「なにかをクリエイトする・創造すること」に関しての本質や金言が、多数盛り込まれている点にあるでしょう。

絵を描く、立体物を作る、作曲する、歌を歌う、文章を書く、演技をする。いわゆるアートやカルチャー、クリエイティブと呼ばれるものは、往々にしてその作り手の「才能」が物差しにされがちな世界でもあります。

そもそもその世界に向いている人間は、才能がある人だけ。それらに携わったことのない人の多くがそう考えがちであることに、この作品は冒頭からNOを突きつけました。

芸術の世界にも、勉強やスポーツの世界と同じように努力や技術の積み重ねがある。

その言葉がきっと、まずそれらに携わらない人には大きな驚きでもあったはず。そして同時にそれらに携わる人々にとっては、「よくぞ言ってくれた!」と口を揃えて言いたくなるような言葉だったのではないかと思います。

またそれ以外にも本作では、上記のようなクリエイティブの世界にまつわる多くの誤解や従来のイメージを崩す描写が多数。

美術や芸術はある種道楽、お金や実益は関係ない。好きな事をしているから、きっと楽しいことばかりなんでしょ?

それらのいわゆるアート、エンタメに付きまとうこれまでの印象。それらをひっくり返すような本質を、本作は成長していく矢虎の葛藤や前進の中で、生々しい程の情景を交えながら鮮烈に描いています。

そのメッセージに対する共感が、本作の大きなムーブメントの根幹にあったのは間違いないでしょう。

マンガ好きの人々だけでなく、小説家や俳優、音楽家、そしてお笑い芸人など。多彩なアート、カルチャーに携わる人々からの熱い支持が、その最たる証拠です。

現在作中では美大に入学し、創作の、芸術の苦しみや葛藤と真正面からぶつかっている矢虎。彼はその先で、一体何を掴むのか。ストーリーはまだまだ、見逃せない展開が続いています。

執筆:ネゴト /曽我美なつめ

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