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『ブランチライン』家族は枝分かれして、ちょうどよくなっていく

池辺葵先生の最新作『ブランチライン』。人間の生きざまを静かな描写で雄弁に語る「池辺節」が今作でも惜しみなく散りばめられ、随所できらりと輝いている。

母と4姉妹、女5人で構成された家族に焦点をあて、それぞれの幸せや痛みを豊かに描きだした本作。各々の暮らしが独立してありながらも家族という根でつながったような物語の仕立てを、「ブランチライン」(=枝分かれした線)というタイトルがよく表した作品だ。

ブランチライン 著者:池辺葵

長女の息子への愛でつながる女家族

八条寺家の4姉妹は離れて暮らしている。離婚後に息子と実家へ戻り母と暮らす長女・イチ、市役所づとめの次女・太重、喫茶店を切り盛りする三女・茉子、アパレル通販会社で働く四女・仁衣。4人は一緒に暮らす頃から性格がばらばらだった。

4姉妹と母はそれぞれの生活を抱えながら、長女の息子・岳への大きな愛でつながっている。現在大学院生の岳は幼い頃にイチの離婚で父親を失ったが、女5人からこれでもかというほどの愛情を受けて育ったのだ。

人生はなかなか、どうしようもない

そんな4姉妹には、例えばイチの元夫に対するひりついた憎しみがあった。元夫はイチを苦しめ、岳を置いて他の女性のもとへ去ったのだ。しかし生活のなかでは、その“正しい”感情が思いがけず誰かを傷つけたり、不必要に責めたりしてしまうことがある。

自分にとって大切なものを守りたいという気持ちが、ものごととの適切な距離感を鈍らせる。他者も自分も傷つけずに生きていくなんて、どうしたって無理なのかもしれない。

誰かに嫌われる覚悟を持つことも、誰かを傷つけないためのあきらめも、それぞれが違う環境でどうにかやっていかねばと身に着けた処世術だ。そんな他者どうしが関わり合っていくしかないのだから、人生はなかなかうまくいかない。生きるうえでの「どうしようもなさ」と向き合う人間をありありと描くことこそ、池辺作品の真骨頂といえる。

家族は枝分かれするからこそ心地よい

大人になり各々が仕事を持つと家族は分かれていく。ひとつの大きな流れだったものがいつしか支流へと分岐し、たまに重なり合うような関係になる。かつては互いに近すぎた距離も、それぞれが違う景色を見て暮らすことでちょうどよくなってくる。

血がつながっていても家族は他人で、人間は自分の心しか覗けない個の存在。そう考えるのは寂しいことなんかじゃなく、人になるべくやさしくあるための術であるように思う。

『ブランチライン』が描くものを受け取れば、きっとあなたも誰かの幸せを静かに願いつつ、自分の暮らしに向き合いたいと思えるだろう。八条寺家の4姉妹、そして彼女らとかかわる人たちの生活を眺めながら、これからの人生に思いを巡らせたい。

執筆:ネゴト /サトーカンナ

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