『空挺ドラゴンズ』捕り、作り、頂く。異世界で味わう”日常”の風景
桑原太矩先生の描く『空挺ドラゴンズ』は、good!アフタヌーンで連載中の作品です。2020年にはアニメ化も実現し、人気声優陣がキャストに名を連ねたことでも注目されています。この記事では、龍を食すグルメマンガ!? というちょっと変わった魅力のあるこの物語を深掘りしていきます。
龍現る異世界で描かれる日常
「捕龍船」クィン・ザザ号の乗組員たちは、龍を捕らえ、解体し、その肉や油を売り生計を立てながら、まだ見ぬ龍を求め旅を続けています。彼らの目的は、単なる冒険ではありません。龍肉の味と舌鼓を打つほどの美味な龍肉レシピに心を奪われた者たちの冒険なのです。
©桑原太矩/講談社
このクィン・ザザ号の新人として、他の乗組員の仕事の援助や雑用をしながら、一人前の”龍捕り(おろちとり)”を目指す少女のタキタ。彼女は、龍肉のことしか頭になく、クィン・ザザ号で最も腕のある龍捕りでもあるミカの傍で、たくさんの龍たちと出会い、ますます龍肉の虜になっていきます。
©桑原太矩/講談社
龍を討伐するのでもなく、召喚獣にするのでもなく、龍を捕り、味わうこと。龍肉のご馳走と共に過ごす彼らの空の生活は、空想の生き物が描かれた「異世界」というより、私たちと近しい「日常」を不思議と強く感じさせる物語なのです。
決して味わえない龍肉レシピで舌鼓を打つ
時折、異国の地へと降り立ちながら旅を重ねるクィン・ザザ号。彼らは赴く各地域で命がけで捕った龍を調理し、非常に興味をそそる饗膳へと変化させます。
©桑原太矩/講談社
龍の尾身ステーキサンド、龍のプレステリーヌ、龍のカツレツetc。龍肉という架空の食材であるというのに、私たち読者はあまりにも簡単に惹きつけられてしまうワケとは。
©桑原太矩/講談社
龍の赤肉200g、卵1つ、バター15g、塩少々...といった具合に、必要な食材やその分量まで詳細にレシピが紹介されているのです。ああこれは美味しいやつだ。と、自動的に胃袋が動き出してしまってもはや不可抗力。まあ確かに使ってはいるのは龍肉だけれど、あのお肉でも代用できるのではないか...と妄想が加速し食欲のスイッチがオン!
©桑原太矩/講談社
龍が存在する世界が舞台の『空挺ドラゴンズ』は、再現性の高い龍肉レシピによって、そして読者を確信させるその美味しさによって、異世界のお話として片付けることを許してくれないのです。
心の港となるクィン・ザザ号
美味しい食事を囲む彼らはまるで家族そのもののように見えます。ところが実際は、ゴミ溜めで日銭を稼いでいた者、他の船から移ってきた者など、彼らの出自はてんでばらばら。
©桑原太矩/講談社
また、物語が進むにつれて、クローズアップされていく乗組員一人ひとりの過去。そんなエピソードからは、年齢も出自も考えも違う彼らの乗るクィン・ザザ号が、単純に美味しい龍肉ありつける船ではなく、”居場所”のなかった彼らの心の拠り所になっていたことがわかるはずです。
©桑原太矩/講談社
際限なく繋がり続ける空のように、血の繋がりを越えた彼らの生活。それはまるで現代の私たちが築いているSNSなどのオンライン上の関係性と似ているのではないでしょうか。
家族じゃなくて、陸地で生活していなくて。こうやって説明してしまうと、龍肉の食卓を囲む彼らの飛行生活は、決して「普通」とは言えません。けれど、美味しい食事を仲間と分かち合う、ただその「普通の日常」に宿る大きな意味を、最大限に伝えてくれる物語でもあるのです。