『傀儡戦記』豪華作家陣が集結し紡ぐ、九つの国の戦いのアンソロジー
憧れの人が一同に集結し、一つのものを作り上げるというのは、ファンには堪らないものです。同じテーマで複数人の漫画家が物語を紡ぐ、それが『傀儡戦記』です。
第1巻では、高殿 円、蛇蔵、白浜鴎、春 壱、山本小松、おかざき真里、中田春彌(いずれも敬称略)という豪華な顔ぶれが肩を並べ、並び立つ二人の王の器とたった一つの王座をめぐる争いを描きだします。それぞれの筆致やストーリーの魅力で、一冊で様々なテイストの物語を読むことができる貴重な作品です。
九つに分かたれた世界に伝わる伝承
九つの火山や氾濫する川、山からの鉱毒、溶岩によって草木は枯れ、広がる荒野。そこに住む人々は困窮し、彼らの生活は「死」と共にありました。苦しむ人々は、日々国の安寧を神々に祈らずにはいられません。
そんな、火山によって分かたれた九つの国には、とある伝承がありました。
王の玉座 ひとつ 王の器 ふたつ みつめ よつあし いついつ 来やる
引用元:『傀儡戦記 1』承前より
むげん ななとせ やえなる 御代に 神の器 九つ 御国の くぐつ
「神器」によって選ばれた二人の「王の器」。二人のいずれかが王の座につくとき、国には安寧がもたらされると言います。ある者は友情を、ある者は利害を、ある者は恋心をその胸に抱き、玉座を目指すのです。
異なる切り口、しかし繋がる世界
シェアードワールドでありながら、二人の主人公というテーマの制約を受け、こんなにも様々な物語が生み出されるのかと感動します。
例えば、第1話では何者でもなかった青年と、国の英雄がそれぞれ王の器として選ばれ、共に国の平和のために成長していく姿が描かれます。二人の絆が確かなものへと変容していく中で、いずれかを王へと導く神器はどこか不穏な雰囲気を漂わせ、この物語が単なる「友情の物語」ではないことを予感させます。
第2話では、貧困や暴力にまみれた環境に生きた二人が王の器として選ばれます。人を殺し奪うことでしか生きて来れなかった男は、王の座を得ることで、これまで味わってきた苦痛を世界に対して晴らそうとします。
第1話と第2話では同じテーマながら、空気感がガラッと変わりました。しかし、神器の存在や、作中で差し込まれる伝承が、これらが同じ世界の上で成り立っているそれぞれの数奇な物語なんだということを印象付けます。
この一冊をきっかけに広がる体験
アンソロジー作品の魅力の一つに、参加した先生の元々のファンが楽しめるのはもちろん、新しい出会いも生まれるという点があげられます。同じテーマを扱っているからこそ、各々の考え方や作風がダイレクトに表現されます。「これは!」と思う作品があれば、是非その先生の他作品を読んでみるのが良いです。
「『傀儡戦記』を読んだ」という体験で完結せず、その先にまた異なる面白い物語が待ち受けています。そして、もう一度本作に戻ってきたときにはまた異なった印象を感じることもできるはず。
第2巻には吉川景都、蛇蔵、山本亜季、朝霧カフカ、おがきちかなどの参加が発表されています。紡がれてきた九つの国の戦いの記録は、なおも続きます。
自分にとって惹きつけられる一編と出会えます。ぜひ手に取ってみてください。