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『ブランクスペース』少女たちが抱える空白をめぐる物語!

学校がなくなったらいいのに。思春期のころ誰しも一度はそんなことを考えたことがあるのではないでしょうか。『ブランクスペース』は、実際に学校を破壊できるような力を持ってしまった女の子と、その友人を描いた日常系SFサスペンスです!

既にさまざまなマンガ賞にランクインしてきており、まったく先がよめない、ひらすら不穏、などの目をそらせない感想が目白押しの今作の魅力を紹介していこうと思います!

ブランクスペース 著者:熊倉献

少女との出会いは危うい未来への序章

ある雨の日、主人公狛江ショーコは森のなかで不思議な光景を目撃します。そこに何もないはずなのに、カサを持っているかのように雨がはじかれており、そんな見えないカサの下に立っていたのが同級生の片桐スイでした。

なんとスイは頭のなかに思いうかべたものを現実のものとして作りだすことができる能力を持っていたのです。ただし作りだしたモノはすべて透明で、触ることはできますが、スイにも周りの人にも見ることはできません。そんな出会いをきっかけにふたりは会話をするようになり、友達になります。

昼休みや放課後を一緒に過ごすようになったふたりですが、実はスイはクラスでいじめられておりストレスを抱えこんでいました。そのストレスの反動でスイは能力をつかいナイフや銃を作りだすようになり、危険な妄想はどんどん拡大していきます。

友達としてショーコにはなにができるのか。どうするのが正しいのか。そんな葛藤とともに、物語はいっそう不穏な方向にすすんでいくのです。

先の読めなさ×敷きつめられた緊迫感

『ブランクスペース』の魅力はなんと言ってもただよう緊迫感と展開の読めなさでしょう。思い描いたものを作りだす能力は、スイがその構造を理解できればミサイルでも戦車でも、どんなものでも作りだすことができます。

そんな絶対的な能力を持つスイはイジメを受けている真っ最中であり、日を追うごとにストレスを積みあげているのです。いつそれが爆発し、いじめている相手や学校に向けられてもおかしくありません。実際、スイの日記にはどんどん危うい方向に傾いていく彼女の思いがつづられていました。

ひとりきりだったら遠からずそのストレスを思うがままに爆発させていたかもしれません。しかし、そこにショーコという存在がいることによって、その波をせき止め、別の方向に導いてゆきます。

ふたりの性格は対照的と言ってもよく、互いにいい影響を与える部分もあれば、反発する部分もあります。そんなふたりの関係がせめぎ合うことにより、いつ破裂するかわからない緊迫感と同時に思いもよらぬ展開を生みだしているのです。

タイトル『ブランクスペース』が意味するものとは

『ブランクスペース』を直訳すれば空白という意味になり、作中にも様々な空白が出てきます。スイが生み出すモノは透明で空白を感じさせますし、ドーナツの穴やテストの空欄。「わが空白」というタイトルの本も出てきます。

そんな中、最も描きたかった空白は思春期の子供たちが抱える満たされない心なのではないでしょうか。今の自分に満足できず、自信もなければ、彼氏や彼女のような特定の相手もできない。自らが抱える空白にどのように対処したらよいのかもわからず、ただ何かにあたることしかできないーー。

そんな行き場のない思いこそがこの作品の根底にある空白なのです。誰もが一度は自分のなかにある空白を意識したことがあるでしょう。だからこそスイやショーコが織りなす選択から目を離すことができないのです。

あなたの身近にも『ブランクスペース』は存在する

自分の友達が大変な状況におちいったら。そんなときにどうやって声を掛けたらいいんだろう。そんなことを考えながら読みすすめると、より『ブランクスペース』のことを身近に感じることができるのではないでしょうか。

ぜひ、この不穏で先の読めない緊迫感を感じてください!

執筆/たけのこ(https://twitter.com/TAKENO111

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